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なんでできるの!?できるの!?

 そこを広場と呼ぶには、些か狭い感じがした。

しかし、辺りには鎧や剣、いわゆる装備品が転がっている。


「かなりやられてるわね・・・。」


カジュが険しい眼で、辺りを見回す。ヴィロフォルティは気にも留めず、その先を見つめている。


「そういえば、『もんはう』の意味を教えてもらってない。」


 ヴィロフォルティは思い出したようにそう言う。気になることは、早めに解消しておかないと、後で後悔する。傭兵時代に叩き込まれた教えだ。

カジュは呆れ半分、侮蔑半分の顔で答えてやる。


「どこまで物知らずなのよ・・・。モンスターハウス略してモンハウ。馬鹿が処理しきれない数の魔物を引き付けた時に起こるわ。」


「で、この有様か。」


「そう言うこと。あった・・・。あの間抜け逃げ損ねたのね。ざまあないわ!」


そう言うとある鎧を踏みつけ、蹴飛ばし、尚も踏みつける。


「くそが!くそが!」


そう言うカジュの顔は歪み、牙を剥き出しにして執拗に鎧を蹴り続ける。変形し、もう使い物にならない。


「気は済んだか?」


 ヴィロフォルティが問いかけるが、カジュのその目は、次の獲物を探す眼をして、あたりを見回している。

彼としてはさっさと先に行きたい。しかし、彼女の行動も、判る。戦場でよく見かけた。

いわゆる文字通り『死体蹴り』だ。

そう言う奴は無理に引き離すより、暫らくそうさせておいた方がいい。とばっちりを喰らう事もあるからだ。


「くそっ!一番の下種共はまんまと逃げ延びたのね。必ず見つけ出して、殺してやる。」


尻尾を逆立て、牙を剥き、呪詛の言葉を吐き出すカジュ。


「仲間殺しは縛り首だろ?」


「やりようなんていくらでもあるわ。誰か雇ってもいいしね。」


「絶対俺にふるなよな。」


「その気があるなら、金を出すわよ。」


「巻き込まれるのはごめんだ。」


彼はそう言い捨て、先に歩き出す。カジュのほうを見向きもしない。


「取引はこれで終わりだ。帰るなり何なり、好きにしろ。」


 これ以上付き合っては、本当に巻き込まれかねない。これ以上の面倒事はごめんだ。

その言葉にカジュは戸惑った。一緒に行くものと思っていたからだ。


「ホントにいいのね?」


「ああ。取引は終わった。邪魔はするな。」


ヴィロフォルティはにべも無くそう言い捨て、先に行った。

カジュは何故か置いてきぼりを食らった気がして、困惑する。


「待ちなさいよ!最後まで付き合うわよ!」

なんとも言えぬ気持ちのまま、カジュはヴィロフォルティの後を追った。



 その道すがらは圧倒的だった。出てくる魔物達は、ヴィロフォルティが全て倒した。否、叩き潰され引き裂かれた。

コボルトもオークもトロルも、彼の前では雑魚だった。


 竜の左手は魔物を突き殺し、掴んではその部分を引き千切った。

右手はナイフを持ち、相手を牽制し、的確に急所を突いた。

時には相手に噛み付き、食いちぎった。そうして隙を作り、また、その傷口から引き千切った。

人と獣が入り混じった戦い方をする彼に、カジュは怖気をふるう。


「あんたの戦い方は、異常だわ・・・・・・。」


小休止の為に、少し入り組んだ小道で、座り込んだカジュは言った。


「痛くない戦い方を考えてたら、こうなった。皆、使えるものを使おうとしない。痛くない戦い方をしない。それが不思議でしょうがない。」


彼は立ったまま、そう告げる。


「だからといって、あんな獣じみた戦い方、する?」


「俺の得物は今、修理に出してる。他の得物を使ってへんな癖をつけたくないんだ。」


「何の為にそんな事してんのよ。」


「強くなる為。」


 そっけない返事に、彼女は二の句が告げなくなる。

この少年は、本心からそう思っていることが、見て取れたからだ。


「中ボスはこの先か?」


「・・・・・・そうよ。やばそうなら、手伝うわ。」「いらん。」


即答だった。


「あたしだってB級の端くれよ!得体の知れないあんたより、うまくやれるわ!」


「俺の獲物だ。邪魔すれば、お前も殺す。」


 それは嘲りでも、威嚇でも、恫喝でもなかった。

それは一方的な宣言だった。カジュの産毛が総毛立つ。

本気でそう言っている。本能で判る。こいつはやばい。


「ここから先は来なくていい。ついてくれば殺す。」


「・・・判ったわよ・・・・・・。」


「・・・そうだ。一つ頼みがある。」


「・・・・・・頼み?取引じゃなく?」


「そうだ。嫌ならやらなくていい。簡単な事だ。」


半身をずらし、カジュを見やる。


「6日経ったら、探しに来てくれ。()()じゃ時間がわからない。」


「・・・・・・それは報酬次第ね。」


彼は暫し考える。金か?物か?


「ここのボス達は魔石を落とすわ。それを頂戴。」


「そんな物があるのか・・・。判った。それでいい。」


彼はそう言うと、先を目指す。


「そうだ!あんた!名前は!?」


「ヴィロフォルティだ。」


そう言い残し、その姿は闇に消えた。


「ヴィロフォルティ・・・ヴィー・・・・・・キグルイのヴィー・・・。なるほどね。」


カジュはそう呟くと、きびすを返し、駆け出した。



 オーガは少年の五倍の身の丈があった。

腕には鉄の棒。上下に鋭い牙。今まで闘った事の無い敵。


 ヴィロフォルティとオーガは今、睨み合っていた。

彼は攻めあぐね、オーガは無手の人の子に戸惑っていた。


 どう攻めるか。ヴィロフォルティは考える。相手が動かない今が、最後の好機だ。

ともかく、あの鉄棒にだけは気をつけねば。

見る限りナイフは牽制にも使えそうに無い。眼か口。膝、脇、股間、肘の皮膚が薄い部分。

狙うにはどこも難易度が高い。

オークの首を貫く左手。コボルトなど蹴り殺せる足。

なんとも貧弱で、脆弱だった。

あの大剣さえあれば、勝負は互角以上にやれる自身はある。だが、今は無手を課している。

師匠は何と言っていたか。


『薄らデカイ奴とやりあうなら、足を狙え。足を潰せ。急所狙いは死ぬだけだぞ。』


 オーガが動いた。

鉄棒を上段に振りかぶると見せて、突きを放つ。

一瞬虚を突かれたヴィロフォルティは、軽く体を浮かせて、左手でいなす。

火花が散る。鉄棒は地面にめり込む。好機かと思われたが、すぐさま引かれ、今度は上段から振り下ろされる。


『デカ物とやりあうなら、間合いは取るな。常に内に入っておけ。』


彼は前にダッシュした。狙いはくるぶし。ナイフでいくか、拳を使うか。


 オーガの蹴りが飛んでくる。再び体を浮かせ、その足に取り付く。狙うのは足首の腱。

相手が対応してくるのは一瞬。取り付き、すぐさま体をくるぶしの裏に動かし、刃を立てる。

しかしてその皮膚は、ドワーフのナイフを持っても、かすり傷しか入れられない。

致命的な隙。オーガはかかと落としの要領でヴィロフォルティを地面にたたきつける。

思わず手を離したその後、鉄棒が、彼を押しつぶした。


 まずは彼の一敗。足狙い、間合いは取らない。そして基本の常に動く事。

潰れた体が再生するまでの間、彼は反省する。今度取り付けたら、何があっても離れない様にしよう。相手がこちらを侮っている今しか、好機はない。


 オーガは、彼を圧殺したことを確認すると背を向ける。最大のチャンスだが、体の再生がまだだ。


『デカ物とは長期戦を挑め。必ず隙ができる。その間は死ななければいい。ま、お前向きだ。』


自分は死ない。再生までもう少し。こちらを侮ってくれよ?オーガ。


 手足に力を入れる。下手に動かして気づかれたら面倒だ。

大体8,9割回復。目は見える。


 彼は跳ね起き、その背中に取り付く。そのまま左手の爪をつきたて、よじ登り、顔を目指す。

教えから反するが、彼は試してみたかった。『眼』と『耳』だ。

生き物である以上、そこは鍛えようが無い。

振り払われまいともがき、何とか頭まで辿り着く。竜の爪はオーガの皮膚に傷をつけられた。

武器は左手のみ。しかし脆いであろう耳の中は?


 オーガの手が、まるで蚊を潰すかのように彼の体を打ち据える。再生中の体が再び血反吐を吐く。

しかし、その右手は、耳の穴を捉えた。そして思い切りかき回す。

オーガの絶叫。彼を引っつかみ、引き離そうとするが、左手は耳の柔らかい部分にねじ込ませてある。やはり左手は使える。

激しく暴れるオーガに体が崩れ、彼は地面に叩き付けられる。ストンプの追い討ちが来るが、何とかかわす。

金棒が振り下ろされる。

彼は起き上がり、痛みで隙だらけの足に取り付き、股間に左手を突き立てる。

絶叫が響き、オーガはついに膝を折る。彼は頭に取り付き、体全体を使って首を捻じ折った。


 無手でのオーガ撃破。

しかしヴィロフォルティは溜め息をつく。死亡一回。内臓破裂。とてもフィニスに顔向けできない。

これが複数いたらと思うと、なんともやるせない思いに駆られる。

ダンジョンボスはまだ手ごわいだろう。苛烈だろう。

彼はここに居座る事に決めた。




 冒険者ギルドでは、二つの騒ぎが起きていた。

一つはモンスターハウスが人為的に起こされ、多数の冒険者が犠牲になったことだ。

容疑者はすでに手配され、各支部にも通達がいっていた。

生存者は保護され、他の冒険者が警護にあたっている。


 カジュはさらに手を打った。

奴らのクラン(共同体)に接触し、裁きを受けさせる約束を取り付けた。

さらに同族の裏家業の者と接触すらし、身柄の確保、もしくは死を依頼した。

2年分の貯えが飛んだが、彼らはうまくやるだろう。

捕まえられなくても、殺されなくても、裏家業の面子が、奴らを追いかけるだろう。

他に2手ほど手を打ち、ようやくカジュは安心できた。


 もう一つの騒ぎは、ダンジョン中ボスが、何者かに独占されているという話だった。

何組かのパーティーが、4層に行き、それを確認している。

オーガ相手に一人で挑み、撃破している。

たまに冒険者達が相手できる時は、そいつは決まってボス部屋の隅でうずくまっているときだった。

血の気の多い冒険者が喧嘩を売ったが、そいつは相手せず、そう言うときはダンジョン奥に消えていった。

これにギルドは、何故か無反応だった。

狩場の独占はご法度。これは不文律であり、ギルドもそう公言していたはずだ。

冒険者達の不満は溜まっていく。


 そんな話を他所に、カジュは食料とありったけのポーションを用意して、ダンジョンに向かった。

約束の日時を4日も超過してしまっていた。


 今回はミィーノも一緒だ。彼女はどうしてもといって聞かず、最後にはカジュが折れた。

いつあの下種共が報復に来るか判らない。それでもついていくといって聞かなかったのだ。


 4層目までは、戦闘こそあったものの、他の冒険者とも連携が取れ、無事、5層に降りてきた。

そうして見たものは、オーガに飛び掛っているヴィロフォルティの姿だった。

他に二組のパーティーがそれを見つめている。


 彼はオーガの鉄棒やストンプを難なくかわし、膝裏、股間などに確実にダメージを与えている。

そして止まる事がない。絶えず動き、翻弄し、手傷を負わせている。

闘いなれた冒険者でも、こうも鮮やかに動ける者は見たことが無い。

パーティーの面子はその動きを観察し、参考にしているようだ。

二人は離れた場所に留まり、不測の事態に備える。

しかしそれは杞憂だった。

最後にはオーガの首を捻じ折り、決着した。

他のパーティーはそれを見届けた後、奥に進んでゆく。

ダンジョンに溶けてゆくオーガの死体から、魔石を取り上げ、ヴィロフォルティは端っこに寄る。

そこには背丈ほどに積まれた魔石があった。

まずはカジュだけ近づいていき声をかける。


「狩場の独占はご法度よ・・・って、臭っ!!」

ありがたいことに評価を頂きました!

あといつも見てくださる皆様神様仏様にも

ありがとうございます。


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