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命懸けよ!

 いきなり始まった殺し合いに、ヴィロフォルティの覚悟は定まった。

これまではアナンタを押さえ込みながら、刀を振るっていたが、やはり見透かされた。そして激怒させた。

彼とて狙っていた訳では無い。アナンタを解放した時、自分でもどうなるか分からなかったから。

あの破滅の力が、純粋に剣術として振るわれるのか、分からなかったから。


 グラディーとの鍛錬は楽しかった。いつも死線と隣り合わせなのは良い。それはいつものことで、そうすることでしか、自分を昇華できなかったから。

それ以上に、この男とのやり取りは純粋に楽しかった。

たえず粗暴な言い回しをし、美食に目がなく、何かと自分に構い、抜き身の剣の様な危うさもある。

その姿は、あの傭兵団の団長を思い出させた。

だからこそだろうか。

ある意味、彼はグラディーに甘えていたのかもしれない。


「師匠。あいつを(おこ)すよ。」


内なるもう一つの自分に、意識を向ける。

滾る破壊欲と歓喜が溢れ出してくる。

刀はそれに怯え、その能力をさらに研ぎ澄ませる。


 それはぬるりとした一歩だった。ただの一歩。踏み込みでも無く、間合いを詰めるでも無い、ただの一歩。

その一歩で、ヴィロフォルティの首の甘皮が斬られた。その後、ぼたりとした音と共に、グラディーの腕が落ちる。それを成したのは龍の左腕。

とても残念だ。とてもとても残念だ。

自分は剣で、刀で、技術で師匠と呼ぶこの男とやり合いたかった。死合いたかった。

だが、アナンタが()きた。そうなれば、ヴィロフォルティの甘い感傷はもう関係が無い。


「シシょう。シれんのジカんだ。」


「首を落とすつもりが、俺の腕が落ちるとはな。この糞野郎、やっぱり手ぇ抜いてやがったな。」


「これハ、けんじュツじゃナイ。こんなコトになッて、ざんネんでシカタない。」


「知るか呆け。これでいいんだよ。これが良いんだよ。

死合いってのは命のやり取りだ。体裁なんて関係ねぇ、斬り刻んでやるよ馬鹿弟子。」


グラディーがそう言えば、その手は徐々に再生し無事な腕で、三度刀を虚空より取り出す。


「まだ業モンは出さねぇ。数打ちに手間取ってるうちはなぁ!!」


言葉と共に、自身の間合いに入り肩に担いだ刀を片手で振り下ろす。ヴィロフォルティが選んだ回避は前に進むこと。

教えられた運足でグラディーの懐に入れば、再生された腕にもう一本の刀。

体を地に落とし足を払えば、読まれていたかの如く宙を舞い、二本の刃がヴィロフォルティに迫る。それを左手で防げば、刃は塵となり光へと変わる。


「まったく反則だな!良いぞ!命を賭けろ!もっと賭けろ!!」


 グラディーは歓喜の声を上げた。

繰り出した刀を消されれば、次々に虚空より取り出し、四方より斬撃を浴びせる。

四方全てが必殺であり、ヴィロフォルティの命を狙う。


 故に無念で仕方ないのだ。

自分に()()()()は無い。只の剣技では、自分に、アナンタに届かない。

師の業は、彼に幾筋もの傷をつける。皮膚が裂かれ、血が吹き出る。

師の剣もまた、彼に消され続ける。


「どうした。その大層な包丁は人斬りじゃないのか。」


「ししョウのけんすジは、ゆだンできなイ。」


「得物を庇ってる場合か!間抜けェ!体術と運足だけで逃げられると思うなよ!!」


そう叫べば、家一軒ほどの間合いを取り、深く腰を沈める。

ヴィロフォルティはそうはさせまいと間合いを詰めようとするが、足が止まる。

刀が、アナンタが言う。危険だと。


「我流、流れ一閃。」


止まった足に合わせるかの様な、小さな声。

ヴィロフォルティが刀を構えるその刹那には、刃が彼の胸に迫っている。

龍の左手でそれを流せば。


「我流、鳥墜とし。」


小声と共に、彼の背に刃が走る。

その小さな背中に、一筋の線が走る。


 ここで初めて、ヴィロフォルティは刀を振るった。その先は正面。上段から、真一文字に一振り。

破裂音と、地面が抉られる音。

その横にグラディーが立っている。


「我流、千指穿ち。」


迫るは無尽の切っ先。

ヒトには出来ない、龍人故の神速の猛攻。

対するヴィロフォルティもヒトでは無い。瞬時に半身をとり、刀を盾にしその陰に入る。

鳴り響く打撃音。鳴り続ける金属音。

音が鳴り止むかと思えば、今度はヴィロフォルティがぬるりとした一歩。そのすぐ側をグラディーの足が走る。

足を折りに来たのだ。


 ヴィロフォルティは刀を短く持てば、まるで棒術の様にグラディーを襲う。その間合いはわずか腕一本分。

グラディーもヴィロフォルティも、刀を振るうだけで無い。足も手も、体全てを使って相手の隙を誘う。隙を作る。

どちらかが足を折ろうとすれば、刀が襲いかかり、手刀が目を狙えば身を躱した先に刃が迫る。

めまぐるしく位置を入れ替えながら、攻防は数分続いた。


 先に引いたのはグラディーだった。

ボロボロになった数打ちを正眼に構え、ヴィロフォルティの間合いより僅かに引く。


「上出来だ、糞弟子。数打ちが品切れだ。さて。何回死んだか?」


「ジゅうヨんかい。」


「全く、斬り甲斐のある弟子だぜ。きちんと動きを止めない、止めさせないところなんざ、師匠冥利に尽きるぞ。」


「そうイッてもらえテ、うれしイ。」


「可愛いなぁ!コノヤロウ!で、だ。本番と行くぞ。今度は業モンだ。死ねないと高を括ってると痛い目見るぞ。」


 手を突き出し虚空より取り出したのは、漆黒の大太刀(おおたち)

長さはヴィロフォルティの背を超え、厚みも数打ちの倍はある。

その姿形(すがたかたち)に、ヴィロフォルティは身構えた。必殺の間合いが格段に広がったことを意味していたからだ。


「良し好し。よく学んだな。そうだ、今までの間合いが通用すると思うな。」


大太刀を肩に置き、半身に構えるグラディー。

刀を肩に置き、同じように構えを取るヴィロフォルティ。


「さぁて、まずは一太刀(ひとたち)。死ぬ怖さを思い出せ。」


声を置き去りに、大太刀がヴィロフォルティのすぐ側まで来る。

彼が採ったのは引く事。刀で剣筋を逸らして尚、大太刀は彼の胴を切り裂いた。

辛うじて心臓は反らしたが、鎖骨から斜めに太刀傷が入り、骨と肺と、内臓の一部がやられた。


「我流、一文字(ひともじ)


残心から再度、大太刀を肩に置き、必殺の間合いを維持する。


「んー。斬り損ねたか。まだまだ修行が足りんな、俺も。」


ぼたぼたと血を噴き出させるヴィロフォルティを油断なく見ながら、そう独りごちる。


 ヴィロフォルティはその痛さに戸惑っていた。

膝を突き、それでも刀は肩に置いたままだ。だが、動かせない、動けない。


「いたイ……。」


「そりゃそうだろ。只の業物と思うなよ?俺の鱗と()()の骨で出来た刃だ。そいつに龍気を纏わせれば、このくらい出来る。」


傷はなかなか再生しない。血は流れ続ける。

立とうにも、半身が切り裂かれている。力を入れられない。


「良いこと教えてやるよ。俺の師匠がな?只の数打ちでリッチを斬り殺したことがある。もう死んでるリッチが綺麗さっぱり消えちまった。斬られるってのは、そういう事だよ。只ひたすらに斬ることを極めれば、不死だの何だの関係無ェ。本当は龍気を纏わせる必要すら無ぇ。」


師匠は待ってくれている。痛い。傷が塞がらない。力が入らない。

いたいのいやだ……いたくないほうほうを……。

立たないと。


「さて馬鹿弟子よ。死ぬ準備は良いか?もっと命を賭けないと、本当に死ぬぞ?不死の呪いだかなんだか知らんが、その程度で俺の太刀筋から逃げられると思うなよ。」


ちからがはいらないのはなんで?いたいから?

からだがささえられない……。ささえるほうほうは……。


「楽しかったぞ。ヴィロフォルティ。お前を弟子にして()かった。次に会う時は、あの世でな。」


じかんがない……。

りゅうじんかもまにあわない……。

きずがふさがらない……ふさぐほうほう……。

あなんた……。


 グラディーの殺気が膨れ上がる。周りの気温はそれに呼応するかの如く冷え切ってくる。

そしてその大太刀がわずかに、極々わずかに動いた時。

ヴィロフォルティの傷の周りから無数の蛇が湧き出て、傷口を塞ぐ。

それぞれが出鱈目に上下に分かれた傷に噛み付き、それを塞ぐ。


グラディーの大太刀が破裂音と共に振り下ろされる。


轟音(ごおん)


空気を震わせ、大地に二つの刃が刺さる。


「師匠……待タセテゴメン……。怖カッタンダ……。自分デ無クナルノガ。コレカラ命ヲ賭ケルヨ。僕ガ僕デ無クナル様、僕ヲ賭ケルヨ。」


餓韻(がいん)


今まで地にあった大太刀と刀は、今は空で切り結ばれている。

偉丈夫のグラディー。対するはほんの少し少年に近づいた背丈のヴィロフォルティ。

切り結ばれているは、お互いの真ん中。


「これがお前の本気か?ヴィロフォルティ。」


「ソウダヨ師匠。命ト自分ヲ全部賭ケル。」


祇鈴(ぎりん)


音と一緒に、二人は離れる。間合いは家一軒以上。

お互いの間合いが、そうなのだ。その距離を、二人は一瞬で詰められる。


「僕ハ人ノママデ、師匠ニムカウ。僕ハ剣デ、師匠ト闘ウ。」


「刀だって言ってんだろうが!!」


風を巻き、二人はそれぞれの刀の間合いに入る。

暫し動きの読み合い。楚々と動けばぬるりと体を入れ替える。ゆるりと切っ先が舞えば、呼応するもう一つの切っ先。

まるで予定調和。円舞を見ているかの様なその動き。

どちらかが読み合いに詰まれば、刹那にはぎりんぎりんと鉄塊の応酬。

右に左に、上に下に。体を入れ替え切っ先は火花を散らし幾度目かの読み合い。

静と動、動と静。動と動。繰り返される攻防に、二人の間合いは徐々に近づく。押して切っ先を交え、動きが止まる。


「嗚呼、楽しいなぁヴィロフォルティ。」


「ソウナンダ。マダマダ僕モ、甘インダネ……。」


「ああ。もう少しで龍化しても良い気分になってきた。まだ()はあるんだろ?出し惜しみは無しだ。」


「ジャア、次ヲ解禁スルヨ。」

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