表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/72

ひとときの春よ!

 ヴィロフォルティの刀が仕上がってから、グラディーと彼は鍛錬を始めた。


 グラディーは土魔法で人の背丈ほどの高台を造り、その上に胡座をかき、ヴィロフォルティに歩法を教えていた。

それは彼に刀を持たせたまま、土槍を躱させるという物だった。しかもその土槍というのが曲者で、グラディーの言う正確な足位置で無ければ、土槍が足裏を貫くというものだ。

この鍛錬法にグラディーは一言「魔法の()()()が分かりゃ簡単に避けられる。」そう(のたま)った。

確かに今のヴィロフォルティにはそれが分かる。しかし、間合いの一歩を踏み損なえば槍が生え出て、避ければ安定を失い無様に転ぶ。

さらに運足と刀の連携という名目で拳大の火球が放たれる。

刀の一振りで掻き消える程度の物だが、正確な足位置というのが枷になり、刀を振るうことさえ覚束ない。

土草にまみれ、体中焼かれてボロボロになるヴィロフォルティ。


「龍人の体なんだから、その程度すぐに治る。」


一日中それを繰り返し、フィニスとニーナが文句を言えば、そう切り返す。


「それとも何かい?お上品に手取り足取りしろってか?それじゃあ坊主の為にならんよ。」


こうも言われれば二人とて黙るしか無く、当の本人と言えば寝食を忘れ、愚直に刀を振るっている。


 そんなある日の晩、昼間覚えた運足と剣筋を何度も繰り返すヴィロフォルティの元に、グラディーがやって来た。


「調子はどうだ?坊主。あ、刀は止めなくて良いぞ。」


「調子は悪くない。けどっ、歩法一つでこうも変わるっ、なんて、思わなかった。」


「坊主の剣筋に関しちゃ、教えることがあまり無ーんだわ。つーか、坊主の剣筋は死線の剣筋だしな。お前さん、何回死んだよ?」


「今まで。会ってきた人をみんな数えろといわっ、れて。覚えてるっ?」


「だろうなぁ。坊主の剣はあれだ。死ぬの覚悟で命を拾う剣筋じゃないモンなぁ。坊主の剣筋は命を餌に相手を切る剣だよな。」


「弱いぼくがっ、みんなとやくそくっ、を守るためには。これしかなかっ、たんだ。」


そこまで言って、彼は刀を振ることを止めた。正眼から呼吸を落ち着け、静かに納刀する。


「邪魔したかい?」


ふるふると首を振り、相対する様に座り込むヴィロフォルティ。


「とかく坊主の剣は危なっかしい。こう、自分をなんとも思ってない立ち回りが、どうにも刀とちぐはぐに見える。」


「どういうこと?」


「その刀は斬り刻むことが目的だ。それをする為にはどうすれば良い?」


「僕の技術をもっと上げることかな?」


「それは別の答えだ。そもそも刀が人の生き死にを考えるか?」


「ん?ん?」


「その刀は魂を持つだろ。坊主も言ったよな?ただ斬ることに特化している。素振りでさえ嫌がるって。そんな刀の持ち主が、刀を振れなくなったら、()()()はどう思う?」


「がっかりするだろうね。」


「だろ?俺ら龍人はめったな事じゃ死なない。坊主は特にだ。殺す方が難しい。だからって足を斬られれば動きは鈍るし、腕を斬られれば剣を振るのもままならん。落とされちまったら、さらに鈍る。

その刀はそれを良しとするか?」


「つまりこうかな?……この刀は、自分が相手を斬り刻む為に、使い手に万全を求めるってことかな?」


「万全というか、ほら、坊主だって死合っている最中に、得物に傷が入ればぎょっとするだろ?あれと同じだ。おかげで剣先がブレる、重心が狂う、後は隙だらけでやられ放題だ。その刀はそれを嫌がってるんじゃないか?」


「おじさんにも剣の声が聞こえるの?」


「俺ゃあ龍人だからな。剣の声は聞こえん。ただ坊主より永く死地に居るからな。見てるとなんとなく分かる。」


「持ち手の手傷を嫌がる剣かぁ……。」「刀だけどな。」


グラディーは今一度きちんとヴィロフォルティに向き合い、神妙な顔で彼に言った。


「お前さんの生き様がどんなもんか、俺には興味が無い。ただ、その腕前と、その刀の意志は今の様に身を捨てるやり方じゃあ、勿体ないと俺は思う。」


「じゃあ、怪我しても変わらず刀を振れる様になれば良いんだね。」


「そっちに行くか?今の話聞いてた?」


「斬られた時は斬られた時なりの動かし方があるよ?骨を折られた時は筋肉で締め上げれば良いしね。痛いけど。」


「良し分かった。坊主、明日から怪我は禁止な。怪我一回ごとに姐さん達にごめんなさいしろ。10回で恥ずかしい踊り四半時やって貰う。」


 開けて次の日、ヴィロフォルティはフィニス達に謝り倒すことになり、娼婦でも着ない衣装を着させられ、淫魔を召喚しその真似を、優に2時間以上踊らされることになった。

お仕置きの効果は劇的で、目の色を変えて鍛錬に励むその姿は、まるで鬼神の如きだったとは、メイド達の談だ。


 ちなみにその時のフィニス達と言えば、それはそれは幸せな顔をして、気絶と覚醒を繰り返していたそうな。

当然、記録されており、それは秘匿記録となり、ヴィロフォルティがその存在に気づく時まで、何回も繰り返し上映されたという。





 それから一月(ひとつき)が経ちヴィロフォルティの剣術もかなり向上した。

斬る、払う、突く、流す。

グラディーの教えはこの4種類のみだった。

グラディーの日に三回の食事時以外は、ずっと刀を振るっているので上達しない訳が無い。さらに振るっているのは魂の入って居る刀。グラディーが笑うしか無いと言うほど、その成長は早かった。勿論、不眠不休を成し遂げられる、彼の体質によるところが大きい。

もっとも、仕置きを極端に嫌がった彼の努力が実を結んだとも言える。


 ちなみに、仕置きは取り止めとなった。

話を聞きつけたフィニスがグラディーとヴィロフォルティの稽古に割って入り、彼をたたきのめすと言うことがあったからだ。

問い質せばヴィロフォルティのあられも無い姿を、もう一度見たいとのことだったので、グラディーが止めさせた。


「早いは早いんだがなぁ……。」


 さて、グラディーはそう独りごちる。

要訣は4種類。これに技の精度と緩急、真偽が加われば、実力が同程度以上の相手でない限り、2合も切り結べば決着がつく。

地が良いのか、今までの積み重ねからか、グラディーとの対面稽古では、グラディー相手に3合以上持ちこたえることが出来ている。

さらに進んでも良いのだが、グラディーはいまいちその気になれなかった。

彼から見て足りない物。

ヴィロフォルティには命を奪うという、貪欲さが足りなかった。何かを意図的に押さえている感が、どうしても拭えない。手加減されていると言うことでは無い様だ。そんなことをされたら、細切れにしてしまう確信がある。


「どうにもこう、(たぎ)らないんだよなぁ……。」


今もそうだ。

彼は真摯にこちらに向かってくる。刀を振り、グラディーの間合いに入れば、演舞の様な綺麗な太刀筋と体捌きで迫ってくる。

それをいなし、捌き、流しながら、必殺の間合いをとれば、即座に彼へと反撃する。こちらは剣筋の濁流と化し、彼の体と刀に損傷を与えていく。

返す刀で、少しでもヴィロフォルティの間合いとなれば、逆に彼がその猛攻を再現する。

グラディーの刀は都度、傷を負い、刃毀れや歪みをおこし、駄目になってゆく。逆に言えば、ただの粗製濫造の刀で、ヴィロフォルティの業物と互角に打ち合っているのだ。

グラディーの想定であれば、もう、業物を出して()()()()をしてもいい頃合いだった。なのに、これだ。


「数打ちが何本痛んでも良いが、今のまま業物使ってもなぁ……、何だかなぁ……。」


 対面稽古を始めて20日あまりが過ぎた頃、グラディーはヴィロフォルティに言った。


「坊主。まさかと思うが、手ェ抜いてないよな?今のお前のそれが、全力か?」


とうとう焦れて我慢の出来なくなったグラディーがヴィロフォルティに言った。


「今の僕が師匠に対抗できる全てをつぎ込んでいるよ。」


肩で息をしながら、ヴィロフォルティは言う。


(うっそ)だろお前。舐めてんのか?なら、なんで俺を殺しに来ないんだ?」


「いつも師匠は俺の殺気を綺麗に避けていく。本気で斬り殺すつもりでやってる。」


「いや、それが殺す気ってんなら、やっぱりお前は俺を舐めてるわ。」


「そんなこと無い。僕は師匠のその殺気まで受け流す技が知りたい。」


「吹かすな間抜けが。いい加減、()()()()()()()と一緒に掛かってこい。」


()()()を従えるのは、すごく難しい。」


「知った事か。()()()程度なら叩きのめして釣りが来る。」


「師匠なら、()()()()()()?」


「それだよ。お前、本気だ本気だって言ってるが、全然余裕じゃねぇか。楽しいお遊戯はもう止めだ。」


お互い、必殺の間合いの中、始まった問答はグラディーの殺気で一気に塗りつぶされた。

彼は数打ちの刀が壊れるのも平気で、ヴィロフォルティの刀を打ち落とし、次の数打ちを虚空より取り出す。


「お前程度じゃ、業モンは勿体ない。これから()()()()やるからさっさと呼び出せ。」


寒風を思わせる雰囲気で、正眼に構えるグラディー。


「本気で来るなら、龍人化してやっても良かったが、そんな褒美をくれてやる気は無くなった。お前は龍人化でも何でも好きにしろ。美味い飯が心残りだが、もう我慢できねぇ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ