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次の得物よ!

「いや、坊主に教えるっつても、肉付きを見ないと何も出来んからな。様子を見に来たんだが、お前ら何してんだ?」


 後ろにニーナやメイド達を引きずって、男が工房に入ってきた。


「お姉様!この男が!」


「ああ、俺ゃあグラディーってんだ。お嬢ちゃん。」


「名前なんてどうでも良い!勝手な事しないで!!」


ニーナが怒鳴り、後ろでメイド達が一斉に頷く。


 グラディーは辺りを見回し、ヴィロフォルティを見つけるや、()に近づく。

その眼前に、刀の柄に手をやったアローズィが立ち塞がる。


「お客様。何度言えばお判りになられますか?当屋敷では、勝手な真似はご遠慮下さいと。」


「そうは言うがな?あれだけ大層な持て成しをされて、もう何日も何もしてないんじゃあ、申し訳なくてよ。せめて体術だけでも教えときたかったんだよ。」


「その時が来ればお教えすると、再三申し伝えたはず。ご自身の鍛錬に集中されては如何ですか?」


怒気を溢れ出させるアローズィの言葉に、後ろのニーナとメイド達がそうだそうだの大合唱。


 それに毒気を抜かれたのか、グラディーが破顔する。

そこにヴィロフォルティから懸命な目線での合図が送られた。始めこそ訳が分からない風だったが、意図に気づけばさらに笑顔になり、アローズィの肩越しから声をかけた。


「愛されてんなぁ!坊主!そろそろ、そこから出たくないか?」


勿論ヴィロフォルティに否は無い。小刻みに顔を振ればその反作用で、体がくるくる回り出す。


「なあ姐さん?俺にもそろそろ仕事させちゃあくれねぇか?」


フィニスに水を向ければ、それはそれは大層渋い顔で、グラディーを睨み返す。


「あんた。言ってる事はもっともだけど、もっとこう、気を遣おうとか思わない訳?どれだけ大事な時間を潰されたと思ってんの!?」


「姐さんが坊主を大事にしてるってのは、よく分かった。だけど大事にしすぎじゃねぇか?ほら、もうちっとあるだろ?獅子は我が子を食い殺すとか。」


「それは崖から突き落とすよ!正論ばっかり言って気に食わないわ!!」


「自覚あんのかよ!?」


「フィニス?崖に落とすよ?突き落としたら死んじゃう。」


「あ~もう!!分かったわよ!!ヴィー?辛かったらちゃんと言うのよ?守ってあげるからね!?約束だからね!?」


繭に縋り付き、必死に声をかけるフィニス。ヴィロフォルティはくるくる回りながらも頷き返し、モルスレジナも名残惜しそうに、制御卓まで下がった。


「じゃあ坊主!後でな~!」


グラディーはニーナ達に引きずられながら、工房を後にした。


 後に正気に戻った3人によって、あらゆる検査を受けたヴィロフォルティだったが、何が異常か解らない、という事だけが分かった。

彼の変容は、奇跡の記録の解析と、彼の魂を模した魔方陣の精査待ちと言う事で、落ち着いた。




 翌日の事。

フィニスとヴィロフォルティ、グラディーはダニス達の工房にやって来た。

工房の一番見える位置に、酷く痛んだ大剣が掛けられており、それを見たヴィロフォルティの心が軋む。


「親方。触っても良い?」


 ダニスとフェロに問えば、二人は頷き、ヴィロフォルティは大剣へと歩みゆく。

大剣にそっと触れるが、剣からの声はない。そのまま古傷を擦るかのように触るヴィロフォルティ。二人の鍛冶士は黙ってそれを見ていた。


「剣は今は眠っとる。考えるに、真の龍人化を果たしたお主に耐えられんかったようじゃ。」


「その剣は死んどらん。だが元に戻す事はもうできん。出来ても打ち直して別の剣になる。」


フェロとダニスはそう断言した。


「もう今のお前では、その剣は力不足だ。共にいられる事は、もう無い。」


ダニスの言葉は、ヴィロフォルティの心を抉った。思えばフィニスから受け取って、幾度も死線を踏み越えてきた剣だ。

よくぞ今まで答えてくれたと言うべきだと、彼は思う。故に掛ける言葉は。


「今まで側にいてくれて有り難う。もうゆっくり休んで。親方達に綺麗にして貰うと良い。」


そう言って、ヴィロフォルティは大剣より離れた。


「これからどうする?」


「あの剣の事か?あれならこれ以上痛まん様に手入れして、置いておく。鍛え直すのはいつでも出来る。次にあの剣を振れる奴が現れれば、そんとき考える。」


「そうか……。」


「で、だ。お前、これを見ろ。」


 連れてこられたのは、工房の別の鍛冶場だった。そこに1本の金属の塊が置いてあった。


「ほお。鯨包丁じゃねぇか。」


グラディーが物珍しげにそれを眺めた。


「くじらぼうちょうとやらが何か、わしらには分からんが、似たようなもんがあるのか?」


「おう。海でとれる屋敷みたいなでかい魚でな。皮が厚くて脂肪が多いんで普通の刀や馬鹿でかい専用のナタでないと腑分けできないんだわ。東の外れにある国が、その漁をしていて、そこで見た事がある。

何でも熟練した職人で無いと、振れないとか聞いたぞ。」


グラディーが説明をし、納得したかは不明だが、皆はそれをきちんと聞いていた。

次にダニスが、この剣説明をした。


「アダマンタイトの合金を折返鍛錬して3千の積層を造った。それを皮金にしてオリハルコンを元にした合金が刃になっている。これも折返鍛錬で積層化してある。

とにかく斬ることだけを目的に鍛えた。

あの剣より小さいが、重さは倍だ。厚みも2倍ある。それに柄を長めに造ったから、刃の血抜き溝を掴んでの振り方も出来るようにした。ヴィーでないと持ち上げる事も、振る事も出来ない剣だ。」


 長さは今のヴィロフォルティの背丈と同じくらい。鍔は少し大きく競り合う時には便利そうだ。

柄には幾重にも獣皮と目の粗い魚の皮の様な物が巻いてあり、持ちやすそうだ。


「で、だ。俺ら二人が鍛えたこの剣だが、問題がある。」


「この世で一番斬れる物を。とは言わんが、斬れぬ物などないように鍛えた。結果、宿った魂がな……。」


 そこで二人は同時にため息をつく。


「何よもったいぶって。はっきり言いなさいよ。」


「わしらでは言うこと聞かんのじゃよ。恐ろしいほど()が強いぞ。」


「このままだとよく切れるだけの鉄塊だ。剣とか刀とすら呼べん。これを武器にするには使い手がこいつを手懐ける必要がある。」


「それは良いけど、もう少し広いところに行かない?」


 そうして工房の庭に持ってこられた刀であったが、日の光を浴びると、刀身がまるで銀の様に燦めいている。


 そこでヴィロフォルティはまず、柄を掴んだ。

一瞬かなりの抵抗を感じたが、持ち上げることは出来た。正眼に構えてみるが、全くしっくりこない。

次いでその姿勢で、剣の声を聞く。自分を流し込む様に、剣に意識を集中させる。

しばらくそうしていたが、おもむろに刀を振る。

それは大剣を使っていた時より、明らかに遅かった。風を切ることも無く、ただ無為に振り下ろされただけだった。

だが、その後に訪れたのは、威圧的な拒否感。手にする価値さえないとする、圧倒的な拒否感。

言葉すら無い。嫌悪の情だけが剣から伝わってくる。


「親方。何か試す物は無い?」


ヴィロフォルティがそう問えば、ダニスは隅にある数体の木人を指さした。


 彼は嫌がる刀を肩に、瞬時に木人に対し斬り掛かった。

風切り音と共に、正中線より両断される木人。次の木人は手足頭をあっという間に切り落とされた。


まだ足りない。


ここで初めて刀よりはっきりとした意志を感じる。その次の木人に対し、彼はありったけの速度で刀を振るう。

それは切り落とされた側から破片となり、刻みとられていった。

1分と立たぬうちに、木人は木くずと化した。


「本番だ。」


そうヴィロフォルティが言えば、龍人化を始める。黒い帯が彼を包み、あの漆黒の龍人が現れる。

途端、刀は震え始める。


『オ前がソウ求めタ。』


そのまま刀を振り回す。切っ先からは白い糸を引き、猛烈な風切り音が辺りに響く。

前後左右、全周に渡り刀を振るう。その剣筋はもう、はっきりと捉えられない。数分もそうしていただろうか、最後に、上段から大地に向かい、一振り。

地面すれすれで止められた刀は、破裂音とその痕跡を一筋の線として、大地に残した。


 その姿のまま、ダニスに近づき刀を差し出す。

ヴィロフォルティの異様にひるみはしたが、ダニスはそれを受け取ると驚愕した。

恐ろしく軽い。不気味なほど素直だ。


 ヴィロフォルティは龍人化を解くと、手近にあったぼろ布を腰に纏い、ダニスに言った。


「その剣…刀は、斬ることだけが目的なんだ。ただ振られることすら嫌がるくらいに。だから()()でお願いしたんだよ。そうしたら、やっと素直になってくれた。」


そこにフィニスが割り込んだ。


「ヴィー。()()って、何?」


「もう知ってるでしょ?フィニス。」


意地悪そうに言う彼を、フィニスはさらう様に抱き上げた。


「そういう生意気を言う様になるだなんて、ヴィーも偉くなったわね。」


「フィニス!見えちゃう!」


「何というか、腹いっぱいだな。ご馳走さん。ま、これで仕上げに入れる。4~5日したら屋敷に持って行く。」


 この後、細かな点を詰めながら、時にグラディーに助言を請いながら、話は進み、3人は工房を後にした。


 帰り道、ヴィロフォルティはフィニスから人形の様に抱えられ、当のフィニスはそれは機嫌良さそうに歩いている。


「坊主。刀が届いたら修練に入ろうか。さっきので大体当たりがついた。」


グラディーがそう言う。


「ようやくなの?この穀潰し。」


「姐さん、そりゃ無いぜ。まあ、自覚はある。きっちり仕事させて貰うよ。」





「モルスレジナ。どう?」


「やっぱりアナンタが(おき)ている。でも、ヴィーと綺麗に混ざり合ってるわ。」


「そう……。もう引き剥がせないのね。」


「精霊達があたし達の時とは違う契約で動いてる。多分、ヴィーがやったのね。それに大神が手を加えた痕跡がある。もう、手が出せない。」


「この陣も不要かしら?」


「駄目よ!これが無いと彼に何が起きてるか、分からなくなる!」


「全く、業腹だわ。」


「少しの調整くらいは出来るから、無駄では無いのよ?それに何が起きているか分かるから、対策には成るわ。」


「分かったわ。モルスレジナ、もう休みなさい。暫くは何も無い日が続くと良いわね。」

読者の皆様神様仏様。

私です。


3週は更新すると言ったな?

あれは嘘だ。


ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

本作は通常に戻りまする。

次回は10日後予定です。


後、ページ下にある星かいいねをクリックしてもらえると

私が泣いて喜ぶか、落ち込むかします。

お好きな時に、お好きな個数をクリックしてくださいませ。

ブクマなんてしてもらえたら、挙動不審になります。事案です。


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