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滅びを齎す者よ!

 結界の中は、這い寄る触手が荒れ狂っていた。

そのただ中にあって、中心にはあの龍人がいる。彼は身を守るため燦めく小箱に力を注いでいた。それは功を奏しており、彼の周りだけは嵐の目の中のように、凪いでいる。


 が、その外側では、這い寄る触手が獲物を求め、勝手に召喚陣を作り異形どもを引きずり出していた。

触手は異形を押しつぶし、溶かし、吸収していく。

異形の饗宴。

それこそがまさに地獄だった。


 フィニスに向かうまでは、すべて順調だった。

そのまま女帝を蹂躙するはずが、なぜか龍王と子供が現れ、空間が揺れたと同時に、番人の制御がうまくいかなくなった。

燦めく小箱に変化はなく、魔力も制御陣も正常に機能している。

それなのに、何かが狂っていた。

そう、狂っている。触手共は餌を漁っているのではなく、何かを排除しようとしているかのようだ。


 彼もこの事態は想定していた。いずれ制御が効かなくなるだろうことを。

ただしそれは、フィニスとあのハイエルフを屠った後のことだと計算していた。必要以上に力を引き出さざるを得ない事態を想定していた。


 こうなった以上、自身にも手を伸ばす触手に手を尽くさねば、己が死ぬ。否。番人に取り込まれ死ぬこともなく永劫の食料として魂から苦痛と悲嘆をすすられるだけの存在となるだ。

彼は虚空から五芒星の刻まれた石を取り出した。

すると触手共は、それから逃れようとするかのごとく、引き下がる。龍人はさらにそこから結界を幾重にも張り、現状に対応しうる最大の術を行使しようと詠唱を始めた。


 魔方陣が地に巡り、おぼろげに光り出したその時、再び空間が揺れた。龍人の頭上からは触手共が掻き消え、虹色の光が降り注ぐ。

龍人の結界は砕かれ、周りの触手共は、何かに押し広げられていく。

その虹色の光の中から、何かが落ちてきて、光は消え失せた。

消え失せたその後には、今まで触手に阻まれ見えることのなかった曇天(どんてん)が広がり、それもまた、何かに押し広げられるように消え失せ、青空と光が周りに降り注いだ。


 そして落ちてきた物。

それは人の胴体と大剣だった。

あの胴体の装備と大剣には見覚えがあった。あの()()()だ。

そして何故かと訝しむ間もなく、その胴体より腕が突き出してきた。


 その腕は漆黒にして龍人の手のようでそれに非ず。

大型のナイフを思わせる、五本の爪。腕には龍人にあるはずのうろこは見当たらず、硬質で艶のある、まるで昆虫の外皮のような質感。

二の腕まで出てきたところで、その肩が露わになる。肩を覆うように被さる丸い硬質な鎧の様な何か。

そこまで出てきたところで、体が爆ぜた。肉片は飛び散り血は大地に染みこむ。

そこでその全体が、顔を出す。

地から這い出るそれは、正しく龍人だった。全体の威容はフィニスのそれだが、その半分が丸くのっぺりとした頭部は口に当たる部分が一本の線しかない。

その体は精強に見えるが、腹部は抉れて丸い球体があり、その中に何やらうごめく物がある。

両の足は太く力強く、つま先は猛禽類を思わせるかぎ爪が四本。踵に一本。

さらに特徴的なのはその尾だ。恐ろしいまでに太いその尾の先には、大剣を思わせる刃が生えていた。

その姿は、フィニスを一回り大きく、龍人の二倍はあるか。その龍気は凄まじく、辺りさえ歪んで見える。


 その間にも龍人は術の詠唱を続け、漆黒の龍人、その全身が姿を現したとき、それは完了した。

禁呪、生ける黒炎。

異界の這い寄る触手共に対する切り札であった。もし、制御できなくとも、少なくともこれで焼き払い、フィニス達も道連れに出来るはず。

が。

炎は現れず、這い寄る触手共は猛り狂うが、降り注ぐ光を嫌ってか、徐々にその姿を減らしてゆく。


「何故消える!!何故顕現せぬ!!」


 この事態に龍人は狼狽えた。このままでは、上位存在の介入を招く。輝く小箱の力は失われていないが、状況が悪すぎる。

光を嫌うその性質は知ってはいたが、これほど顕著だと考えていなかった。そしてこの環境でも使える手駒の異形達は、触手共によって殆ど喰らい尽くされていた。


 混乱する思考と策謀。それを許さぬがごとく、目の前の龍人が声を上げる。


「nんンN……。亜アあ阿吾娃蛙……。葉派は波羽破……。」


その容姿故、前を見ているのか俯いているかは分からない。こちらに意識を向けていないのだけは確かだった。

その言葉は意思を持っているのか、反射だけで呟いているのか分からない。龍人であって龍人でない。

その雰囲気は異質の一言だ。

 

「尾お御緒オをヲ……。……まホうはツブしタ。おマえヲほろボス。」


初めて有意な言葉を発すると、それとともに一歩踏み出す。それは静かで、一切の足音が聞こえない。

その巨体なら足首まで埋まりそうな赤黒い汚泥には、足跡一つ爪痕一つついていない。

途中、そばに落ちている大剣を拾い上げれば、小箱を持つ龍人にも感じられる悲鳴が上がる。

もはや鈍器と化した大剣を、まるで棒きれのように振り回す龍人。


 小箱を掲げる龍人は、幾度めかの異形の召喚を試みるも、その数は百にも満たない。

何を以て黒炎を阻んだのかは不明だが、召喚で時間を稼がなければならない。


 彼はあまたの術の中で、最速の魔法を選択し、詠唱に入った。

漆黒の龍人の、その歩みは遅く異形どもは一斉に襲いかかる。四肢に取り付き、締め上げ、酸で溶かす。

それでもその龍人は振り払うことなく、小箱の龍人の前に進む。

その歩みに迷いはない。その歩みに遅滞はない。


 そして小箱の龍人より攻勢魔法が放たれる。炎と雷。さらに封印術の詠唱に入るが、そこで異変が起きる。

放たれた魔法は、漆黒の龍人の前で霧散し、取り付いた異形どもは、灰となりそれも光に粒となって消え失せてゆく。小箱の龍人は一層集中し、封印術の完成を急ぐ。漆黒の龍人の間合いまであと十数歩。

相手に目立った動きはなし。


 術が完成し、その足下に陣が描かれたその時、それは光の粒となり同じように消え失せた。

小箱の龍人は即座に二の矢である一閃を放つ。

同時に飛び退(しさ)りさらに間合いを作り、最速で術の完成を急ぎ、放つ。それで隙を作り、小箱を掲げ反撃のはずだった。

放った一閃は漆黒の龍人の胸を貫かず、その体にあって四散し、術もまた先程のように霧散した。


打つ手無し


 消しようのない汚名と無様な敗北。まざまざと思い知らされると同時に、次の手を考えた。

ここで果てることも有り得るが、まだ策はある。

手駒の異形はどこかヒトのの都市でもあれば、必要十分の数は揃う。龍人の中にも、自分の同調者もまた数多い。

これは個であると考えてはいけない。一体で数百数千の軍だと思え。なれば自分の軍略が使える。戦える幅も広がる。

で、あれば自分の採るべきは一つ。


 小箱に力を注ぎ、転移を試みる。業腹だが、ここまでとなれば足掻き続けるしかない。

だがそれも、目の前に現れた漆黒の龍人によって、潰えた。


 有り得ない。十分に間合いは取っていた。先程まで数十歩先に居たのだ。

 

 そう思うが、目の前に漆黒の龍人が現れたと同時に、何か重量物が落下した音と突風が、小箱の龍人を襲った。

とっさに避けようとするが、体は動かない。動かせない。次いで腹部から激痛が襲う。さらに小箱を持った腕からの激痛。

二つの痛みに混乱する。転移も出来ない。


「コバコはもラう。」


幾何学模様の淡く光る小箱は、(たなごころ)ごと漆黒の龍人が持っている。それを認識したのは、自分の腕を見た時だった。

痛む腹部に目を向ければ、そこには尾に生えている剣らしき物がその根元まで突き刺さっている。

龍人は絶叫をあげた。痛みと激情と無念と焦り。そのすべてが、その声にあった。


 その一切を無視し、漆黒の龍人はその手にある小箱に顔を向けた。それだけで小箱の幾何学模様は光の粒となり消え失せ、小箱が開く。

中には黒光りし赤い線が走る宝石があった。金属製の帯と不可思議な7つの支柱によって、箱の中に浮かんでいた。その途端、周囲に蠢いていた這い寄る触手はその姿を消し、周りにはアローズィが張った結界だけが残った。

読者の皆様神様仏様。

私です。


そろそろゴールデンウィークですね。

私の仕事には関係ないんですがw

そういう訳で、暫く3日置更新にします。

3週くらいは何とかなりそうです。


後、ページ下にある星かいいねをクリックしてもらえると

私が泣いて喜ぶか、落ち込むかします。

お好きな時に、お好きな個数をクリックしてくださいませ。

ブクマなんてしてもらえたら、挙動不審になります。事案です。

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