奇跡を起こすのよ!
「糞神ごときが何の用です?邪魔をしないで頂きたい。」
普段のアローズィらしからぬ物言い。
巨体の龍人が怒気を露わにするが、子供はそれを手で制して、ニコニコと答えた。
「口の悪さは相変わらずだね、アローズィちゃん。フィニスちゃんも相変わらずお転婆さんだねぇ。君はニーナだね。体も魂もしっかりしてるし、モルスレジナちゃんも良い仕事してるねぇ?」
「で?大神が何しに下界くんだりに用があったの?あたし達は何も用は無いわ。あんたに説教される謂れも無いわ。」
「うん?フィニスちゃん達には、まあ、言いたいことはあるけど、特に用は無いかな?問題は別にあってね?あ、ニーナちゃん?お茶入れてくれる?アローズィちゃんはいぢわるして煎れてくれないんだ。」
「あの……、あなたは神様なんですか?」
「んー。そう言われればそうだし、そうじゃないとも言えるし。好きに呼んだらいいよ?僕も知らない名前がいっぱいあるからね。」
「じぁあ、お兄ちゃんをあんな目に遭わせたのも、神様なんですね?」
「あれはねぇ…。まあ、僕だけど。あr「あたしは神様を赦さない!」」
あろうことかニーナから龍気が溢れ出す。
瞳は金の龍眼へと変わり、牙と爪が存在感をあらわにする。
「落ち着いてニーナちゃん。」
そう動いた訳でも無い。ただの一瞬でニーナの前に立って、指先でおでこをほんの軽く突いた。
それだけでニーナの龍化は解け、何が起こったか判らないまま、ニーナは狼狽えた。
「少しだけ、龍化を抑えたよ。暫くしたら解けるから、安心して?」
そう言ってまた席に戻る。
「お茶入れてくれる人いなく無っちゃったかなぁ。フィニスちゃんとこの茶葉は良いものが揃ってるから、楽しみだったんだけどな。」
「……あたしが煎れます。」
そう言うとニーナは、慣れた手つきで茶器を子供の前に置き、茶を煎じ始める。
作法としてはなっていないが、それを承知でやったのだ。
「良いティーカップだねぇ。色も薄さも堅さも、最高だね!それに、ニーナちゃんもお茶を入れる様子が様になってるよ。いっぱい練習したんだね。」
『茶器のことなんかどうでも良いのよ。何故あんたがここにいるの?』
「んー。良い香りがしてきた。あ、ここに来たのは、後ろにいる誰かさんの面倒を見る為だよ。まあ、フィニスちゃんの顔も見たかったし。人化しないの?あ、僕は猫舌だから少し温めにしてね?ニーナちゃん。」
『あんたに見せるものなんて、何も無いわ。用事を済ませて、さっさと天界に還れば?』
「いやいや、せっかく来たんだ。お話くらいしようよ。用事ならすぐ終わるしさ。」
『こっちは取り込んでるのよ!』
「それは大丈夫。あれの空間位相を少しずらしたから、時間は好きなだけあるよ。僕が時間操作すると面倒くさいんだよね。それにしてもみんな好き勝手に時間魔法使いすぎだよ。調整する身にもなって欲しいね。ま、僕がする訳じゃ無いけど。」
『ふざけるのもいい加減にして!!』
「ふざけてなんか無いよ?少しばかり世間話がしたいだけさ。ね、龍王。」
『御心のままに。』
「それにフィニスちゃん、モルスレジナちゃんに禁忌を強要しようとしたでしょ?こんな良い子にそういうことさせちゃ駄目じゃない。今回のはギリギリセーフにしておいてあげるけどさ。」
『あの龍人はあたしの獲物よ。』
「アレは禁忌に手を出した。僕らが裁かなきゃいけない。龍人への罰もある。」
『あのガラクタを持って、さっさと帰りなさいよ!龍人は置いて行きなさい。』
「それじゃ示しがつかないよ。あ、有り難う。ん~良い香り。ってあっつ!…ねこしたたっていったしゃない。」
「あたしは、神様が嫌いです。」
「ニーナひゃんもひといなぁ……。あー熱かった。うん。美味しいや。さて、幾つか質問と要望を貰ったけど、一つずつ答えようか。
まずは混沌の封印と番人の排除が目的かな。これはすぐに済むよ。耀く小箱を取り上げれば、事足りるからね。
次はニーナちゃんの質問だね。
お兄さんはしちゃいけないことをした。君の為だとしてもね。だから罰を与えた。やり過ぎとは思ってないよ。必要だったからね。詳しくは言えないけど。
最後にフィニスちゃんの要望だけど、こればかりは聞けないな。あの龍人は罰を与えないといけない。
勿論、他の龍人達にもだ。何の為に役目を与えていると思うの?」
その言葉に、龍王は震えた。
そこにモルスレジナが割り込んだ。
「大神様?ヴィーの呪いは何のためですか?」
「あー、モルスレジナちゃんにはあれが酷く映ったんだね。それはここでは言えないな。秘密だよ。」
「秘密だろうがなんだろうが、あんな仕打ちをするなんて、あんまりです!」
「ん~。困ったなぁ。モルスレジナちゃんには悪いけど、本当に話せないんだ。ただ、したくてあんな事したんじゃないとだけいっておくよ。」
『戯れ言はこれで終わりよね。さっさと還って頂戴。』
「んも~。昔っからフィニスちゃんはつれないなぁ。判りましたよ~だ。」
そう言って席を立つと、腕の一振りで椅子とテーブルが消え、子供は前に進み出た。その後ろには龍王が慄きながら付き従い、フィニス達より前へと出でる。
「龍王よ。この始末、お前がつけよ。」
只の子供の声であるのに、威圧も怒気も何も無いのに、龍王は震えながら頭を垂れ、結界に向かっていく。
「位相を戻す。疾く終わらせよ。」
子供が腕を振るえば、黒い半球は色を取り戻し、アローズィの結界が未だ保たれていた。
しかして、その結界の中には、有り得ない、あってはならない光景が生まれ出でようとしていた。
四肢をもがれ、バラバラの体で彼は空を浮いていた。そこは虹色の、知性あるものが見れば即座に発狂してしまう、異界の神の為の空間。
そこでその肉塊は触手どもの糧となり、酸で徐々に溶かされていく。
大剣は未だ持ちこたえているが、刃先は丸く溶かされ、ひどい有様になっている。
そのただ中で、ヴィロフォルティは己の中の呪いと初めて対面した。
それは長大な胴と尾に、無数の頭がうごめく怪物だった。
怪物はとにかく餓えていた。そしてそれを上回る破壊衝動。生物や無機物、それどころか空間までも砕いて消しさって、初めて安息が得られる。
この世にある、ありとあらゆる物質と事象の破壊が、それの存在価値だった。
それは言う。
すべからくの終焉をの望む。一切の終焉を。
その思いがあたりをたゆたう触手に向けられれば、それは灰となって崩れ光の粒と化し、やがて消える。
これが破壊。これが滅び。一切の滅びを。
「俺は守らなければならない。果たさないといけない約束がある。」
守られるべきは破滅。果たすべきは破壊。
「それはいつでも、いくらでも出来る。滅びないものはない。」
それは真の滅びではない。虚空に消え去ってなお、保たれる物がある。滅ぼせ、滅ぼせ。
「おまえはそれをいつまで待つんだ?」
おまえの滅びが、我が誕生。我が誕生が、世界の滅び。
「俺は不死者だ。俺は滅びない。」
おまえは滅ぶ。我とともに生まれ、我とともに滅ぶのだ。
「おまえは俺の中にいる。俺を滅ぼせば、おまえも何も成せぬまま、滅ぶぞ。」
それは戯れ言。我は滅ぶ。一切の終焉を最後に、我は滅ぶ。
「それは俺が赦さない。滅ぶときは道連れだ。」
……おまえは何を望む。
「おまえの力を貸せ。世が滅ぶときは、俺が力を貸す。」
今の我には我を封じる精霊がいる。今の我に抵抗が出来ぬ。
「それなら俺が守る。おまえも守れ。そうして時が来れば、力を貸す。」
それはいつだ
「この世の終わりってやつが来れば、おまえにもわかるだろ?」
無意味な仮定だ。我は滅ぼし滅びるために、ここにいる。ここに存在している。さあ、滅ぼしてやろう。
「こんな場所で時間を潰すのか?たいそう気の長いやつだな。」
意味がわからぬ。狂ったか。
「ここに俺達が滅ぼす相手は居ない。無駄に力を振り回すのはお前の本分か?」
面白い問答だ。これが興味というやつか?
「そんなもんはそのうち考えればいい。今は俺に力を貸すかどうかだ。」
良かろう。おまえの内に我を宿せ。我の内におまえを迎え入れよう。
地階では、主のいなくなった魔方陣群が高速で円を描き、その模様を書き換えてゆく。
16対の精霊はその中に異物を検知。
約定に従い、それを押しつぶそうと脈動し、光を放ったその時。
魔方陣の中心が発光し、燦めく模様の球体が現れる。それは術式が極限にまで圧縮された球体。
その周りに新しく陣が生成され、精霊達は光を鎮める。
新しい陣は光の脈動を始め、精霊達もそれにならう。それはお互いが呼応しているかのようだ。
そうして精霊の力はその陣を受け入れた。そうして圧縮は保たれたまま、また新たな陣を作り出していく。
出来上がった新たな魔方陣は、中心に黒点を抱き、その周りにゆらりとたゆたう複数の魔方陣が球形のように広がっていた。
精霊たちは約定が果たされたとその力を解き、新たに生成された魔方陣からの要請により、新しく約定を結ぶのだった。
それらは地階の魔道機械に克明に記録され、世で初めてにして、最後の奇跡の記録となった。
読者の皆様神様仏様。
私です。
ツーリング行きたい…
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