もっと早く!もっと早く!
裏手に廻ると、老ドワーフは人払いをした。その時の罵声で、弟子の幾人かが気絶した。
そうして炉の鍵爪に剣を架けさせると、じっくりと大剣を検分する。
行っては戻り、叩き、耳を澄まし、顔を近づけ、触り、確かめる。
半時以上はそうしていた。
「おい糞野郎。彼女は何を相手したんだ?」
大剣を撫でながら、顔だけをヴィロフォルティに向け問う。
「知らない」
彼は答える気は無い。フィニスの事を言うつもりなど、さらさら無い。
「並みの龍ならこうはならない。アダマンタイトと龍鉄の合金だ。こいつなら龍王とだって渡り合える。そう鍛えた。」
「それがこの有様だ!歪み捩れ刃毀れ変質!絶対にこうはならない!一体彼女は何を相手したんだ!?」
血塗れの手を剣に叩き付け、ドワーフは叫んだ。
「俺が知る訳ない。」
ドワーフは彼に詰め寄ると、両肩を掴み懇願した。
「後生だ!教えてくれ!教えてくれるなら、命だってくれてやる!」
「・・・・・・。俺は強くなりたい。その為に剣がいる。」
「勿論、鍛えなおしてやる!何でもしてやる!頼むから教えてくれ!あいつは何を相手したんだ!?」
「・・・・・・。この後冒険者ギルドに行くんだ。」
「この剣を使う以上、どこのギルドにも入れねぇ!この剣が誰のものか、皆知ってる!」
「あんたが何とかしてくれ。何でもするんだろ?」
すげないヴィロフォルティの言葉に、老ドワーフの膝が崩れる。
両膝を地に着け、土場に涙の染みをつけながら、なお懇願する。
「後生だぁ・・・。頼むよぉ・・・・・・。教えてくれぃ・・・・・・。」
ヴィロフォルティを見上げ、涙でぐしゃぐしゃになりながらも、老ドワーフは言う。威厳も尊厳も、何もない。ただの老人がそこに居た。
「・・・なんでそんなに拘るんだ?」
「・・・・・・この剣を使ったのは妹なんだよぉ!最後くらい知りてぇじゃねぇか!!」
その言葉にヴィロフォルティの心は激しく揺らぐ。自分の妹の最後がフラッシュバックする。
痩せこけたニーナ。可哀想なニーナ。
「・・・・・・あんたは約束を守れる男か?」
別にフィニスのことは、秘密でもなんでもない。約束は『最強』になることだけ。
しかし、何かが彼を躊躇わせた。
「何にだって誓ってやる!何だって呑んでやる!」
「家族に誓えるか?破れば家族を皆殺すぞ?」
「俺にはもう家族なんて居ねぇ!!皆死んじまった!!妹も死んじまった!!」
「じゃあ、あんたの手足を貰う。もう鍛冶は出来なくなる。普通の生き方も。」
「こんなもん好きなだけ持っていけ!!剣が直せりゃ未練はねぇ!!」
「取引にならない。・・・・・・俺は剣が要る。しばらく待てるか?」
「どうすりゃ信じてくれるんだ!!?」
「その剣があんたのとこにある以上、必ず俺は来る。暫らく待ってろ。」
老ドワーフを振り払い、ヴィロフォルティは背を向けた。そして迷い無く歩き出す。
その背中に老人の怨差の声が響く。
「待ってろじゃねぇよ糞野郎!!逃げんなよ!!逃げても必ず見つけ出して吐かせてやるからな!!」
困り果てたヴィロフォルティが、フィニスと話が出来るまで、3昼夜かかった。
ああ言ったはいいものの、再びフィニスと会話できる保証など無い。方法は夢を見ることだけ。
適当に見繕った安宿の1室で、彼は毎日、眠っては起きを繰り返した。
「そう言う訳で、フィニスの事、話してもいいかな?」
[意味分からないわ。二人ともどうしてそこに拘るのかしら?]
「あのドワーフの気持ちも分かるんだ。だけどフィニスの事を言いふらしても言いのかなとも思ったんだ。」
[弱い妹が死んだ。それだけでしょ?解らないわぁ・・・。]
「・・・・・・フィニスは時たますごい意地悪だよね。」
[まあ別に、あたしのことを言うのは構わないわ。あたしを知る奴は、限られてるからね。]
「じゃあ、そうするよ。でも今までどおり、フィニスの事は秘密にする。」
[まあ、そうして頂戴。しかし、冒険者ギルドに入れないのは痛いわね。]
「そうなんだ。」
[もうその剣なんて捨てなさいな。まだいっぱい剣ならあるわよ?]
「・・・・・・フィニスがくれた初めての物なんだもん。嫌だよ・・・。」
[尊・・・・・・・、いや、まあ、そう言ってくれたら嬉しいかな。]
「でもダンジョンにも入れないんじゃ、修行にならないね。」
[思い出した!あの小娘ね!ちくちくうざったくて仕方なかったわ。]
「そうなの?痛かった?」
[少し血が出たくらいで、何てこと無かったわ。]
「フィニス怪我したの!?」
[そうね。・・・例えたら、とげが刺さったくらいかな?]
「そうなんだ・・・。やっぱりフィニスはすごいね!」
[尊い・・・尊すぎる・・・・・・。]
「何が尊いの?」
[なんでもないのよぉ。そうだわ!あの小娘にも師匠がいるはず。そいつを紹介してもらいなさいな。]
「それならいいかな。うん。そうするよ。」
[バンバン鍛えて、早く帰ってきてね。S級なんて瞬殺しないと許さないから。]
「下の上でしょ?何とかなんないかな?」
[慢心は身を滅ぼすの。常に格下の気持ちを忘れないで。]
「うん。解った。油断しない。」
5日目の朝、ヴィロフォルティは工房の前にいた。
弟子の何人かが、こちらを怪訝そうに見つめる。
彼はずかずかと工房に入り、弟子を叱咤する老ドワーフの後ろに立つ。
「来たぞ。」
振り返りもせず、毒つく老ドワーフ。
「遅せえんだよ糞野郎・・・。」
「ヴィロフォルティだ。」
「あん?」
「名前だよ。」
「知ってるわい。糞野郎。」
「なら、名前で呼べよ。」
それには答えず、工房を揺らす勢いの声で怒鳴り散らす。
「・・・・・・。お前ら!出て行け!!」
いつかの事が思い出されたのか、弟子達は道具を放り投げるように置き、駆け出した。
誰もいないことを確認し、老ドワーフはヴィロフォルティを見た。
「剣はどうした?」
「まだだ。理由が解らなきゃ、手直しし様がねぇ。」
「そうだな。・・・・・・あんたの妹が挑んだのはフィニスだ。」
言うなり、老ドワーフは呆然とし、その膝が崩れ落ちる。
天を仰ぎ、呟く。彼は知っていた。それが何なのかを。
「邪龍フィニス・・・・・・。無理だ・・・。鍛えようがねぇ・・・・・・。ミスリル・・・オリハルコン・・・ヒヒイロカネ・・・・・・ダメだ・・・なんてもんに手を出したんだ・・・・・・。」
地に手を着き、ふるふると震える。そんな姿に、ヴィロフォルティはしゃがみこみ、声をかけた。
「あんたの妹は、フィニスに血を流させた。誇れ。あんたの妹は偉大な龍に傷をつけた。」
「・・・俺らの剣が通じたのか・・・?」
現実味の無い言葉だけが紡がれる
「それは知らん。だが、あんたらの剣は、フィニスに届いた。」
その言葉で、老人は立ち上がった。その顔は、何かを吹っ切っていながら、何かに燃えていた。
「・・・・・・。ありがとよ、糞野郎。ヴィロフォルティ。これであの剣を鍛える事が出来る。鍛えて見せてやる。」
「代金と対価を。」
背を向け、大剣と向かいあう老ドワーフ。
「金は要らん。妹の最後が代金代わりだ。対価なら、何でも言え。出来る事すべて答えてやる。」
「じゃあ、あんたの妹の師匠を紹介してくれ。」
横目にヴィロフォルティを見、呟いた。
「・・・・・・。殺されるぞ。」
「あいにく死に慣れてるんだ。どこにいる?」
再び背を向けると、これが最後と言い放つ。
「四月後にここに来い。剣を渡す。その時一緒に会わせてやる。」
「それならダンジョンに入る手配をしてくれ。」
「応。手配したら、宿に人を送る。お前の宿は知ってる。」
彼は工房から出て行った。
こんな稚作にブックマークして頂いて、感謝の言葉もありませぬ。
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