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緊急事態よ!

 ヴィロフォルティは今までに無いやりにくさに、実のところ苦戦していた。

これが人ならば、魔物の群れならば、いくらでもやりようがあった。だが、相手は物思わぬ触手。

あの小箱が鍵であろうが、本体がどこにいるのか、どこにあるのか、全く見当が付かない。

唯一の救いは、未だ相手が自分だけを目標にしているところか。お陰で、さほど背後の三人に気を遣わずに済んでいる。

地から湧き出る異形達には、違和感を感じない。

あれは人の成れ果てだ。姿形がどう変わろうが、その雰囲気と流れ落ちる血は、それを感じさせた。いくら次から次へと湧き出ようとも、屠れる。血さえ流れれば。

問題は虚空より這い出る触手の群れだ。彼を焼き殺さんとする雲霞(うんか)のごとき黒雲だ。


 無論、狙うべきはあの小箱。


あれが元凶なのは判りきってはいるが、あの龍人を攻めあぐねている。

全身を酸に(おか)され、攻める機が見当たらない。防戦一方の状態。

徐々にヴィロフォルティの中にある、何かが脈動を強くしていった。




 屋敷の地階では、モルスレジナが戦慄していた。

目の前にある球形の魔方陣は、激しく陣を変え16対の精霊は不規則に明滅している。

彼女が如何に手を尽くそうと、安定させるべく努力しようと、変化は止まらない。最悪の事態はまだ来ないだろうが、その兆候は、すでに見えている。

最後の蛇アナンタ。

それは確実に成長しているし、ヴィロフォルティの意識にも干渉しようとしている。

モルスレジナは色白の肌を更に蒼白にし、全力で魔力を注ぎ、ヴィロフォルティを支えるべく奮闘した。




 フィニスもまた、ヴィロフォルティの様子に変化を感じていた。何かがヴィロフォルティに(おこ)っている。

龍化のその先。真の龍人化。

その兆候が、今、ここにあるはず。なのに胸騒ぎがするのは何故か。

防戦一方のヴィロフォルティ。決め手に欠ける攻撃。もどかしさに苛々する。

それにもう一つ懸念もある。彼の戦っている相手は龍人では無く、混沌、その番人。

あの龍人は混沌を(ぎょ)してしているつもりであろうが、そもそも()()()()である番人をどうにか出来る訳がない。

今は意思のある動きをしているように見えるが、何時牙を剥くか解ったものでは無い。

如何に魔法や魔道が進んだとしても、世の理をねじ曲げることは出来ないのだから。

それに、混沌の番人が動くと言うことは、二つの存在が動くと言うこと。

当然龍族は動く。そうなれば、龍族の手綱を持っている者にも、それが知られることとなる。

そうなればヴィロフォルティに勝ち目は無い。それどころか、自身も立ち向かって尚、勝算が薄い。


 それでも彼女は彼を信じていた。

如何に状況が困難でも、必ずそれを乗り越えてくれると…。




 龍人には余裕があった。あったはずだった。

()()()は不死とも呼べる戦いをしている。だが召喚している異形共は、まだ数に余裕があるし、()()()()()も制御出来ている。

なのに、思惑通りに事が進んでいない。

手駒と番人と術。

この三つで()()()は圧倒出来るはずだった。

番人はフィニスに、異形共はその従者にあてがうつもりが、()()()の剣が鋭く、ここで手を使う羽目になった。

無論それも想定はしているが、()()()が以外にも善戦している。

手傷も厭わず戦う様は情報通りだったが、不死とも思えるその戦い様は、龍人の想定を些か超えていた。

自らも動くべきか。否。

フィニスを相手取るには、手数が足りない。

まだ温存しておくべきだ。それに()()()はもう詰んでいる。手駒は失ったが、十二分に相手出来ている()()


 龍人は最後の一手を繰り出す為に、小箱に力を注いだ。




 最初に切り結んでから一刻以上が経った。

地は成れ果てた者どもの残骸が散らばり、その血潮で泥濘(ぬかる)み、足下を覚束なくさせる。

赤黒い大地を踏みしめ、時に(たい)を滑らせ、ヴィロフォルティは今、無心で剣を振るっている。

大剣を幾度も振るえど、龍人に届かず、近寄れば虚空より出でる触手に阻まれる。

黒雲は執拗に彼を追い立て、その体は酸で満身創痍だった。不死の体で無ければ、例え一合たりとて切り結べない。

そんな有様だった。


 そんな中でのその心持ち。それは諦観か?はたまた疲労か?

否、それは彼の中にある荒れ狂う脈動に抗う為だった。

地より這い出る幾百幾千の異形を切り伏せ、叩き潰すその大剣は軋みをあげている。

その口元から流れる血は、被弾の痕では無く、噛み締める歯から。

絶体絶命のこの直中(ただなか)で、少しの技の狂いも致命傷になり得る。それでも気持ちは猛り狂い、心はその制御で手一杯。

状況は詰みだ。

不死の体故に未だ相手出来てはいるが、一つ手元が、足下が狂うだけで敗北を喫する。

そんな中で自分を制御するというふざけた有様。

詰んでいる。

だが彼は諦めては居ない。如何に詰んでいようと、何も出来ないあの時とは違う。

今の自分には牙があり、力がある。知恵がある。

何より守らなければならない約束が二つもある。それを放り出すなど、自分の否定に他ならない。

フィニスと妹への約束。

ヴィロフォルティの心は、魂は、軋みを上げ始めた。

二つに分裂している心。猛り狂う感情と、勝利を掴む為の冷静な感情。それが今、一つの思いに収束しようとしていた。




 事が動き始めたのは、龍人がここに来てはじめて、ヴィロフォルティを見定めたことにあった。

彼はその土の玉座より立ち上がり、小箱を一際高く掲げ、小箱はその文様を脈動させ始めた。

異形達はさらに幾百と召喚され、ヴィロフォルティに襲い来る。


 ヴィロフォルティはそれを一閃で迎え撃った。

幾度となく繰り返されたそれは、大分威力を衰えさせてはいたが、瞬時にその大部分をなぎ払う。

それが最大の隙となった。

虚空より出でる触手は大剣を持つ左手を絡め取り、それを突き裂かんとする龍の右手をまた別の触手が絡め取った。

それぞれの触手にそれぞれの方法で迎え撃とうとするが空しく、四肢を絡め取られることになった。

一三本の触手で、地に縫い付けられるヴィロフォルティ。

その彼に近づくは、小箱を抱えた龍人。

傲慢に彼を見下し、しかし、必要以上に近づかない。例え囚われているとは言え、その行動は未知数だからだ。それにこう言う時にこそ、死神は訪れる。


「これで良い。()()()に相応しい姿だ。これが正しいあり方だ。」


 そして短く呪文を紡ぐ。

すればヴィロフォルティの心の臓と頭から、土の楔が湧き出でる。それは彼の血と脳漿にまみれ、てらてらと艶めく。


「褒美を取らすぞ、()()()。お前は混沌への供物として、番人に捧げてやろう。愚かに抗い、龍の鬚を蟻が狙うその様、良い見世物であった。」


そう言い捨て腕を振るえば、ヴィロフォルティの体は、頭部は引き千切られ、触手の群れは虚空へと彼だった残骸を飲み込んでゆく。

暫くすれば、そこには血塗られた汚泥と、彼を貫いていたであろう土の楔が残された。


「さあ!傲慢の女王!!我が糧となれ!!」





 ヴィロフォルティが引き裂かれた。

その瞬間、フィニスは例えようのない憤怒に身を焼かれた。意識せず数瞬で龍化を行い、抑える気のない龍気が、その場の空気を、景色を、歪める。


「龍滅魔法、断絶牢獄、二十重(はたえ)!!」


アローズィは龍人の周りに最大級の結界を張る。アローズィの人生にして、命の危機を、否、主人の危機を覚えるほどの脅威たり得たからだ。


[モルスレジナ!聞こえる!?]


フィニスが念話で問いかける。


[話しかけないで!!ヴィーの術式が暴走してるの!!精霊封印も稼働を始めてるしどうなってるの!?]

 

[ヴィーが混沌に呑まれた!()が降りてくるわ!早く逃げて!!]


[貴方が居るのに何してるの!!それに今離れたら、ヴィーが自分を保てなくなる!!]


[ヴィーならあたしが助ける!!()が来たらあなたも無事じゃ無い!!早く逃げて!!]


[フィニスの馬鹿!!]


フィニスの訴えに答えたのか、モルスレジナの気配が消え、念話が途絶える。


 龍人はアローズィの結界に囲われ、阻まれ、閉じ込められている。

だが、それも長くは持たないかもしれない。虚空より這い出る触手は煌めく結界を破らんとして藻掻いていた。

何重にも折り重なる結界だが、所詮は常世(とこよ)の者に対する術。異界よりの存在にも通じるとは限らない。


 アローズィは膝を折り、肩で息をしている。しかし尚も結界を張り続けている。


『アローズィ!悪いけど持ちこたえて!ニーナ!今すぐ屋敷に……いえ、アローズィの側から離れないで!!』


「御館様!保ってあと50枚です!」


 アローズィの悲鳴にも似た叫びに、龍気が膨れ上がる。


()()()()()()()()()まで、あたしが抑える!ニーナ!解放するから戦う準備を!』


そう叫び、構えようとしたその時、別の気配が3人に襲いかかってきた。


『その必要は無い。愚かな女、フィニスよ。精算の時だ』


 その声は、三人の後ろから轟いた。また、封印されている龍人は結界ごと色を変え、動きが散漫になっていった。そして結界は黒の半球へと替わる。


 その声と気配に、フィニスから龍気が霧散し、力が抜ける。アローズィは憤怒の形相となり、愛剣を呼び寄せると、抜刀した。

ニーナは声のした方を振り向き、驚きに目を見張った。


 そこにはフィニスの身の丈おも超える龍人と、モルスレジナ。それから中性的な顔立ちの小柄な子供が立っていた。

子供はニコニコとしており、どこか悪戯な風に指を振るうと、フィニス達が使い慣れた椅子とテーブルが現れ、その一つの席についた。ご丁寧に茶道具が一式用意されている。

龍人は膝をつき、頭を垂れて子供に付き従っている。

モルスレジナは青ざめ、震えていた。


 フィニスは振り返ると、龍化を解かぬまま、アローズィを手で制し、腕を組んで子供を見下ろした。

アローズィが口火を切った。


()()()()()が何のようです?邪魔をしないで頂きたい。」


読者の皆様神様仏様。

最近、欲が出てきました。

私です。


ツーリングに最適な日和になりました!

お泊まりツーリング最高!

まあ、金が無くていけないんですがね。

次の投稿は十日後です。


後、ページ下にある星かいいねをクリックしてもらえると

私が泣いて喜ぶか、落ち込むかします。

お好きな時に、お好きな個数をクリックしてくださいませ。

ブクマなんてしてもらえたら、挙動不審になります。事案です。

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