異界よりの使者よ!
最近、よく睡眠を欲しているヴィロフォルティは、悪夢より目覚めた。
死なず、飢えず、眠りも必要ないはずなのに、これだけは彼を『人らしく』みせている。
一人は辺りを徹底的に喰らい、壊し、自分も辺りを喰らいながらも何かを守っている。
もう一人の自分と、人であれ無機物であれ、辺りを食い合いながら、最後には互いを相食む。
それを自分の視点で、同時に見せられるのだ。
何とも奇妙で、後味の悪い話だった。それが眠りを欲するようになって、毎回だ。
それに今日は何か胸騒ぎがする。
思考の隅に何かが引っかかり、それを無視するのは危険な気がする。
『繭』から出て、装備を調え、地階より屋敷の外に出てみれば、まだ日の昇らぬ空は朱色と焼けている。今日は雨になるだろう。
日の出の向かい側を見れば、雲が厚くかかり、未だ夜の様相を呈している。
遠目に見える山は、朝焼けを受けてこれもまた、朱色に燃えている。
引っかかる何かを抱えたまま、庭に出てみれば、何も無い広い芝生と遠目に生け垣がある。
朱色の空と緑の芝生。
他には何も無いはずなのに、ヴィロフォルティの左腕は、知らずに剣に伸びている。
芝生の上を歩けば、朝露がその足を濡らし、緑の香りが鼻に香る。
そこに僅かにある、焼ける匂い。
ヴィロフォルティは即座に龍化した。
龍眼と化したその瞳にも、変化は無い。故に、怪しい。何もなさ過ぎる。
羽虫は?鳥は?地虫の気配は?
龍の知覚は更に研ぎ澄まされ、草木の匂いに、酸に焼かれた何かの匂いが明確になる。
そして後ろに、三つの気配。
感じ慣れたそれに動揺する事は無いが、胸騒ぎは危機感へと変わってゆく。
「フィニス、いますぐm「お兄ちゃん、今回の試練だよ。」」
その声に振り返れば、いつもは居ることの無い、妹の姿がある。
そこで彼の焦燥感は最大化する。フィニスとアローズィの二人がいれば、この異常に対応するだろう。
しかし、妹は?
「ヴィー。今度の試練はあたし達も危ないわ。それ以外はいつも通り。我が身は何とでもするけど、妹は違うわよ。」
引き継ぐように、アローズィは言う。
「この度の敵は貴方様の想像を超えてくるでしょう。今のままで勝てるかどうか。死力を尽くし、自分の限界を知って尚、それを超えて戦う必要があります。」
「さあ、ヴィー、ヴィロフォルティ。あたし達を守って。」
その言葉と共に、空気が変わる。朱色の空は暗く陰り、重い黒雲がその光を遮り始める。
魔方陣が6つ。現れるは6体の龍人。
が、様子がおかしい。ふらふらと姿勢が安定しない5体。そして小箱を掲げる1体。
更に、5体には龍人形態にあるべき翼が、歪な非対称の翼となっている。
それはコウモリのような皮膜にして、至る所が焼け爛れている。
一際目を引くのは、その体だった。腕や足には突起が生え、それがかすかに動いているのが解る。
顔にある目には炎が宿り、文字通り、瞳を焼いている。で、あるはずなのにはっきりと視線を感じる。
その中にあって異質なのは、小箱を掲げる1体、否、小箱だ。
あれはあってはならない物だと、ヴィロフォルティは感じた。
小箱から溢れ出るは瘴気の類いとはまた異なる、なにやら蠱惑的なモノを感じる。目をそらせない何か。
しかし、体は、本能は、剣は、それを忌み嫌った。
故に。
「龍滅術零式 虚。」
剣を抜かず、龍を滅する言葉を放つ。ゆるりと剣を抜き中段に構えれば、腰を落とし、再度。
「身体強化 極。」
赤い光の線を描き、ヴィロフォルティの体が奔る。彼我との間合いを一瞬で詰め、小箱を持つ龍の腕へ、剣を中段より振り上げる。
が。
剣は小箱に届くこと無く、異形の龍人達に阻まれた。
正確には離れた場所にいる龍人達の腕から伸びる、異形の触手絡め取られていた。
そして龍をも切り裂くその剣からは幾筋もの煙が立ち上る。
剣が言う。
酸だ。
太刀筋をそのままに、一分の狂い無く触手から剣を抜き去り、追撃する触手をいなしながら突きの連撃。
触手は切っ先を絡め取り、連撃を捉え、往なし、決め手を与えない。
異形達はその場から動かず、背後の小箱を捧げた龍人も、何もしてこない。
間合いをとれば、何故か追撃か来ない。
龍気を纏い、また、龍をも滅する術のかけられた剣は無事だ。しかし、幾筋かの鼻をつく異臭のする煙は尚残っていた。
うねる触手と異形の龍人達は動かない。
剣を一振りすると正眼に構え、小箱を捧げる龍人に気を向ける。
そこで初めて、小箱の龍人が動いた。
土魔法らしきもので玉座を作る。鷹揚にそこに腰掛け、落ち着くと同時に異形の龍人が、同時に襲いかかってきた。
即座にヴィロフォルティを囲むように散会し、何やら魔方陣を展開する。
無論、ヴィロフォルティは悠長にそれを待つことも無く、龍人の前に陣取る異形2体に、赤い光線を残し、切り掛かる。
一刀で袈裟斬りに両断、返す刀で横薙ぎに異形を二つに切り分けた。
が。
恐るるべきは異形では無く、触手の方だった。
切り分けられた異形の体を、触手はつなぎ合わせ、元の体に引き戻す。勿論、龍殺しの術は効いている。現に、その体が真に復元されることは無い。
しかして触手は、絶命と、動きを止めることを赦さない。
それが証拠に切り捨てられた龍人達は、末期の悲鳴を上げ、死を懇願している。
残りの龍人達も許しを請い、死を望む言葉を発している。そして魔方陣は完成し、術は実行された。
術の射線上には座る龍人、とは行かなかった。
実行の直前に、ヴィロフォルティは後退し三体の内一番強壮な一体に術ごと斬りかかる。身に迫る雲霞のごとき黒い粒子に突き進み、異形の体を四分五裂に斬り裂く。
如何に魔法を切れるとしても、龍の鱗をもってしても、身は爛れ、酸に焼かれる異臭がする。
切り裂かれた異形はしかして、再び触手につなぎ止められ、無情にも生きながらえた。
間合いを取るにも雲霞は彼を追いかけ、他者の術も相まって人の手じみた何かが彼を掴もうとする。
それを利用して、巧みに異形達の間を駆け抜け、斬り裂く。
異形達は己が術に焼かれ、断末魔の悲鳴を上げるも、その身は死を赦さず、斬り裂かれた体は触手につなぎ止められる。
酸で焼かれた血肉の匂いが辺りに漂う中、縦横無尽に駆け抜けるヴィロフォルティだが、術は、触手は彼を追い詰める。
絶叫を上げながらも追撃の手を休めない異形。
そうして、時は満ちた。
異形達がヴィロフォルティの動きに誘われ、座する龍人と塊になったその時。
渾身の”一閃”が放たれる。
それは異形達をして大半を消滅させ、その余波かはたまた閃光にか、雲霞は怯んだようにその周囲に散らばり、消え去った。
射線の先にいる龍人に、一閃が刺さろうとしたその瞬間、龍人は小箱を捧げる。瞬間、一閃は四方へ散らばり、その後ろは龍人の影を残して焼け野原となった。
閃光がまだ消えやらぬ内に、ヴィロフォルティは龍人に肉薄し、切っ先を小箱に向け、突きを放つ。
が、虚空より出でた幾多の触手に阻まれ、切っ先が届くことは無い。
大きめに数歩、間合いを取り、動きを見せぬ龍人と相対する。
「紛い物とは言え、なかなかやる。」
「お前なんかどうでもいい。小箱は不快だ。」
初めて言葉を発した龍人に、被せるように、同じく言葉を放つヴィロフォルティ。
「そんなにこれが大事か?」
「その小箱は、在っちゃならない。」
「これは偉大な聖遺物だ。紛い物ごときが語るのもおこがましい。」
「……大将首が欲しければ、馬の首を取れ…。その通りだな。」
ここで初めてヴィロフォルティが龍人をまともに見た。大剣を正眼に構え、切先をその顔に向ける。
上段に上げゆらりと前に出るや、大剣は雲を引き、まるで転移でもしたかのように龍人の目の前に迫る。
「お前の相手は俺じゃ無い。」
龍人が言うや、大剣は地から這い出た異形達に絡め取られた。
大剣の質量、雲を引くその速度。それらを無視して、触手達はそれを止めた。止めた上に大剣を握るその手まで触手に塞がれてしまっていた。
「紛い物の相手は、成れ果てた者どもで十分だ。」
そう言い放てば地より無数の異形が湧き出でた。残る龍人の異形は苦悶の悲鳴を上げながら、龍人の横に立つ。
大剣を絡め取られたヴィロフォルティは、先にも増して強く絡め取る触手に苦戦していた。
そして選択したのは龍の咆哮。大剣が無事かは解らない。しかし状況を打破する為には仕方ない。それに異形達はヴィロフォルティの足下すら絡め取ってきている。
ブレスは辺り一面を焼いた。
地から這い出た異形達は消し炭となり、大剣を縛る触手は焼け爛れ、拘束が緩む。しかして龍人は異形の龍人達が盾となりまた、虚空より出でた触手がブレスの盾となった。
素早く一間の間を取り、辺りに向かってブレスを放つ。地から這い出る異形達を焼き尽くすも、その活は無尽蔵とも思えるほど、次から湧き出でる。
そして一閃。
綺麗に整えられた庭は、見るも無残の焼け野原へと変わるが,状況は変わらない。這い出る異形は倒せるが虚空より出でる触手は、散らせることは出来る物の、消し去るまでに至らない。
数多の攻勢を躱しながら、ヴィロフォルティは機を伺う。
一閃、ブレス、そして剣を振るいながら、彼は縦横無尽に駆け回る。
だが、ブレスや一閃とて際限なく使える訳では無い。やがて時が来た。
数本の触手が彼の死角から足を絡め取る。龍の鱗をも酸で焼き、彼の動きを止めるに至った。無論、即座に切り飛ばすが、それでも攻勢は止まらない。
使える手管を封じられながら、ヴィロフォルティはあがき続ける。
読者の皆様神様仏様。
桜の花が綺麗ですね。
私です。
異世界であの連中と戦ったらどうなるかなと思いました。(コナミ感
やっぱり物理じゃしんどいですね。
次回は10日後を予定しております。




