駄目女でも良いのよ!
ニーナ達をなだめ、先に家族専用の居間に向かわせた後、宙に浮かぶ魔方陣群とヴィロフォルティを見ながら、3人はそれぞれに体と心を休めていた。
アローズィは精も根も尽き果て、あられもない姿で椅子に沈んでいる。
モルスレジナは青い顔をしつつも、魔方陣群とヴィロフォルティから目をそらさない。
フィニスは目を閉じ、只々椅子に身を沈めている。
「ひとまず収まったかしら?」
フィニスが独り言のように言った。
だが2人は答えない。
1人は答えようにも、気絶しているかの如く動かない。
1人は視線を固定しているかのように、只、凝視している。
彼女は肩をすくめ、再び目を閉じると小さく溜息をついた。
そのままウトウトとするのかと思えば、同じ姿勢で、モルスレジナに問う。
「納得いかない顔ね。」
モルスレジナは顔も動かさず、更に表情を険しくする。
「確かにこれは只の魔方陣と精霊魔法の組み合わせ。でも何故、こんなに魂の匂いがするの?」
「貴方がその式を組んだのよ?」
「確かにそうよ。神の御業を真似て、呪いを単純化して、簡単な意識構造を付け加えた。彼に似せてね。でもこれは禁忌に近い…。いや、神ならぬこの手で、魂を作るに等しい。」
「でもそれは魂じゃない。只の魔術式。己で考える事はなく、己で想う事もない。与えられた条件と反射で動く、只の術式表記。何がそんなに気に入らないの?」
「只の表記術式が、何故、ヴィーに影響があるの?何故ヴィーの変化に式は対応して変化するの?」
「それが魂の匂いって訳?」
モルスレジナは黙って顔を、フィニスに向ける。
「人型には魂が宿るって、知ってる?似ていればいるほど、人型は魂を宿すのよ?」
「ゴーストが取り憑く訳じゃないのよね?」
「そんな軽い話じゃないわ。2つの個はその有り様が近ければ近いほど、魂が絡みつくのよ。歪んだ合わせ鏡のようにね。」
モルスレジナはその言葉を咀嚼するかのように、黙り込んだ。
フィニスは続ける。
「こんな呪法があるわ。呪いたい相手の体を、一部だけ人型に取り込むの。そうして術を展開すれば呪いが発現する。最も簡単なのは、相手に人型の人形を送りつけるだけで発現する事もあるのよ?」
「……そんな呪術式、知らない…。どこでそんな事を?」
フィニスはほんの少し、ほんの少し笑った。
「以前、異界に行った時、少しだけ学んだの。異界の呪法を。あたしはね?お師さんの話で思いついたの。人型が魂を宿すなら、魂を模った物を作ったらどうなるのかなって。そしてそれを二つ用意出来たら、どうなるだろうって。」
「……絡みつく魂同士…受け皿……。」
モルスレジナの瞳は宙を見た。
見ているようではあるが、その実、思考に没頭して何も映していない。
それを楽しげに見るフィニス。
やっと気づいたのかアローズィが頭を持ち上げ2人を見た。
「フィニス?約束は覚えてる?」
宙を見上げている姿はそのままに、明確な意思でもって言葉を紡ぐ。
その声は少し固い。
「魂を弄ばない。あたしにもそんな趣味はないわ。」
「…………これ以上は協力出来ない。」
「どうして?」
「これは魂の複製。貴女、ヴィーの予備を作る気ね?明確な禁忌だわ。そんなおぞましい事に、あたしは手を貸さない。」
「そお?この式は予備なんかじゃないわよ?限りなくヴィーに似せているけどね。」
「じゃあ何だというの!」
疲れ故か、はたまた自身の矜持を犯された故か、モルスレジナは立ち上がりフィニスを睨みつけた。
力の入りすぎたその拳が震えているのは、怒りか、悔しさからか。
フィニスは姿勢を正し、彼女を見据えた。
先ほどの不遜な態度はなりを潜め、只、真摯にモルスレジナに向かう。
「これは、ヴィーを救う為の制御卓よ。もし、式に何かしらの実存が宿れば、16対の精霊がそれを押しつぶすわ。モルスレジナ聞いて。これは保険なの。ヴィーを守る為の保険。彼が彼である為に、今出来るのはこの方法だけなの。」
「それが不遜だと 言っている!」
彼女の目尻に悔しさがにじんだ。
言って判る相手ではない事は承知している。しかし、言わずにはおられない。
熱い涙が一筋、頬に流れた。
フィニスはそんなモルスレジナを静かに見返していた。
彼女の矜持、彼女の不文律、それを踏みにじろうとしているのかもしれない事が判っているから。
「だからといって、流れに任せるままなのは、わたしは赦さない。抗えるのなら、何だってする。それが私の性。そうして生きて、そう在ってきた。」
その姿にモルスレジナは狼狽えた。
そうだった。彼女はそう言う存在だった。いつもそう在った。だからこそ、彼女を、彼女に降りかかるであろう事態から、救いたかった。
「フィニス。このままでは、貴女だけじゃない。ヴィーにも怒りが降り注ぐ。それを止められる者はない。考え直して。別の道を探しましょう?」
すがりつくようにフィニスに訴えるが、彼女はそれを良しとしない
「アローズィ。」
モルスレジナの眼を真っ直ぐに見つめながら、声をかける。
アローズィは姿勢を正し、モルスレジナに言った。
「これまで御館様と一緒に取り得る方法を模索して参りました。現実的な方法から夢物語まで、500種6千通り以上の方法を模索して参りましたが、この方法が一番可能性が高いのです。一見すると禁忌に見えますが、精霊を介する事で一応回避出来ています。」
「詭弁だわ!」
肩を怒らせ声を荒げ、アローズィを見やる事無く、フィニスだけを見据えるモルスレジナ。
その様子にフィニスは動じる事無く、只静かにモルスレジナを見つめ、アローズィは淡々と言葉を紡いだ。
「ですが有効です。現にここまでやって、神罰は降りてこない。」
ぎりりと鳴るのは、モルスレジナの口元。
両の拳固くむすばれ、ぽたりと滴が落ち、影をささぬ床に赤い点が出来る。
「どうしてそこまでこだわるの!?今までそんな事しなかったじゃない!どんなにこだわっても、所詮ただのヒトなのよ!?出自こそ変わってはいるけど、有象無象の一人じゃない!絶対の龍に釣り合わない!!もうこんな事止めて!」
「モルスレジナ。確かに彼は有象無象のヒトよ。龍とヒト。比べるべくもない。でもね、モルスレジナ。あたしは決めたの。彼を側に置く。彼の側に居たい。理屈じゃないのよ。」
「…どうしても考えは変わらないのね……。」
「ええ。シャミはあたしの大切な旦那様。誰にも、神にも、渡さない。」
そう言い放ち、ただ、微笑むフィニス。
モルスレジナの肩から力が抜ける。拳は解かれアローズィがそっと近づき傷を癒やした。
癒やしの光に傷が塞がれば、アローズィのその手にそっと我が手を重ね、礼を言う。
そうしてそのままに、フィニスを見る。
泣きそうな、それでいて何か振り払った様な笑顔で、親友を見た。
嘆息を一つ。
「全く……判ったわよ。最後まで付き合うわ。…でもこれだけは言わせて。今の貴女、駄目な男に貢いでる女そのものよ。」
最大限譲歩しての苦言であろうか、モルスレジナの言葉にフィニスは苦笑う。
ヴィロフォルティに視線を移し、静かに、はっきりと言った。
「……自覚はあるわ。でも、あたしの駄目亭主は世界最高の駄目亭主よ。」
胸を反らし、戯けた風に見せる。
つられてモルスレジナも苦笑いを返すと、フィニスは笑みを浮かべ言った。
「さあ、二人とも。先に休んでいて頂戴。あたしはヴィーが起きてから一緒に行くわ。」
「本当にもう……。あなたも消耗してるんだから、変な事するんじゃないわよ。」
一言告げるモルスレジナに、フィニスは手をひらひらとさせて、ヴィロフォルティを見つめる。
モルスレジナは再び嘆息を一つ。アローズィをつれて、部屋を出て行った。
二人だけとなった部屋。
魔方陣は明滅し、その式は時折ゆらりと、その形を変える。
「ねえシャミ?もう少し一緒にいても良いよね?怖いよね不安よね。大丈夫だから。あたしがずっと居るから。」
衣擦れの音がして、フィニスの肢体が露わになる。
何一つ隠さぬその姿のまま、ヴィロフォルティを包む魔方陣の繭に近づけば、彼をそれから取り出し、両の手に抱えて先ほどまで座っていた椅子に連れて行き、座った。
そうして彼の衣服を丁寧に脱がすと、背から抱きしめるように抱えた。
フィニスの体と比べ、小さなその体を抱きしめ、髪に顔を埋める。
深く呼吸をする間、その手はヴィロフォルティを優しく撫でる。
「シャミの左手…あたしの絆……。シャミの体…あたしの物……。」
白磁の指先はヴィロフォルティの体の秘部まで丹念になぞり、満足したのか、向かい合わせに変えて抱きしめた。
「佳く眠りなさい、シャミ……。いつまでもあたしが側に居るからね……。」
読者の皆様神様仏様。
((┗(^o^ )┓三はっぴーはろいーんめりくりー┗(^o^)┛三┏( ^o^)┛))
今年もお世話になりましたー。
私です。
2021年の初めから始めたこの作品。
年を越してしまいます。
エタりはしないと誓いました私ですが、投稿は不定期になると思います。
来年も何卒、この子達を宜しくお願い致します
(人❛ᴗ❛)♪тнайк чоц♪(❛ᴗ❛*人)




