助けるのよ!
屋敷の庭先に、ヴィロフォルティは居た。
剣を正眼に構えては居るが、ただ座り、追いかけっこに興じている子供三人を見るとはなしに眺めている。
切っ先は円を二つ描くようにふらつき、定まる事がない。表情は虚ろで、目の焦点も合っていない。
その姿は腑抜けがただ剣を構え遊んでいるだけのように見えた。
ただ、ゆらゆらと揺れる切っ先は、走り回る三人を追っている。
「獲物を狙ってる山猫かい?」
背後から声が掛かれば、そこにはニーイが居た。
ヴィロフォルティは後ろも見ずに、返事もせず、只うつろに庭先の光景を見ている。
「なんだか今にも弾けそうだねぇ。何を我慢してるんだ?」
ヴィロフォルティは身じろぎもせず、顔も合わせず、呟いた。
「……わからない…。なにかが からだを つきやぶろうと してるきがする…」
「で?」
「すこしでも ちからをいれたら はじける…。こわい…。」
「こりゃ重傷だね。相談はしたのかい?」
「……まだ…。ずっとじゃ ないんだ。ときどき こうなるように なった。」
「そんな様で剣を握られちゃ不安でしょうがないよ。剣を納めな。」
ヴィロフォルティは剣を納めようとはせず、代わりに切っ先を地につけた。
ニーイはそれに肩をすくめ、溜息をつくと言った。
「経験を積んで行く内に、自分が考えているより激しい力が出る事が希にあるけど、お前さんのはそう言うのとは違う気がするねぇ。
それにいつもと雰囲気も違うよ。おっかないねぇ。」
そうは言うが、表情はいつも通りのニーイだ。
しかし頬には一筋、汗が流れる。
いつもなら気安く肩でも叩いているところだが、今はそれすら憚られた。
「もうしばらく したら もとにもどる きがする…。ふぃにすに そうだん してみる…。」
そう言う二人の元に、子供らが駆けてくる。
ニーナと人化した二頭のドラゴン、アーとウームだ。
ニーナは二人に近づき、兄の顔を不思議そうに眺める。
アーとウームは少し離れた場所で、まるで何かを警戒しているかのように、ヴィロフォルティを見ていた。
そのニーナは、腰をかがめ兄の顔をのぞき込むと、懐かしむように言った。
「お兄ちゃん?なにを悩んでるの?」
それにニーイは驚いた。とても悩んでいる風には見えない。
今の彼は殺気をはらんでいないだけで、今にも飛びかかって来そうだ。少しでも気を抜いたら、重鉄の刃が襲ってくる。
そんな気配が拭えない。ニーイの混乱をよそに、ニーナは彼の前にしゃがみ、その顔を見上げる。
「お兄ちゃんが考え事してる時、いつもそんな顔だよね。懐かしい。」
自分のその手を、剣を握る兄の手に添える。
「おっきくなったよね。お兄ちゃんの手。それにゴツゴツしてる。お父さんもこうだったよね。
お兄ちゃん、お姉様のところに行こう?みんな話しちゃおうよ。」
ヴィロフォルティは答えない。
ただその雰囲気は、張り詰めた気配は霧散し、視線を愛おしい妹に合わせる。
「ニーナ。お兄ちゃんは変わってしまうかもしれない。壊れるかもしれない。もしかしたら、みんなを殺すかも…。」
そんな告白にニーナは顔色一つ、表情一つ変えずに答えた。
「お兄ちゃんがそうしても、そうなっても、あたしは変わらないよ?全部赦すよ。あたしはお兄ちゃんが悩んでいるままの方が嫌だよ。」
添えた手に力が入る。
その圧はヴィロフォルティを暖かくさせた。
先ほどまでの衝動は小さくなり、今では少し疼くくらいだ。
何もかも壊し尽くしたいと言う感覚は、自身の生存欲さえ凌駕した。
この身が裂けても、砕けても、消え去っても、何もかも壊しし尽くしたい。
欠片すら赦さぬ、微塵になっても尚足りない、虚無と化して初めて安堵する。
そうして最後には、己さえも消し去る、そうしなければならない。
そう言う欲求に支配されていた。
我が身の内は荒れ狂い、呼吸すら意識して力を抜かないと、猛り、豪雨のように狂う衝動が己に牙をむく。
それが彼女の一言、ぬくもりで抑えられていく。
否、他にも感じる。
何かが自分を想う意思を感じる。何かが自分を引き留めようとする意思を感じる。
それは命令でも懇願でもなく、強く、彼だけを想う意思。
彼であれかしと思う、只それだけの思い。
それが解った瞬間、彼の感覚は、意思は、強固にまとまった。
「行こう。ニーナ。みんなの所に。師匠、驚かせてごめん。もう大丈夫。」
「落ち着いたなら、もう良いさね。ふう…どうなる事かと思ったが、まあ、良かったよ。それからあ
あなっちまう前に剣は置いときな。危ないったらありゃしない。」
ニーイの小言に苦笑いを浮かべながら頷くと、遠巻きにしている双子を呼び寄せ、皆で屋敷に入っていった。
フィニス達は館の地下に居た。
そうしてフィニスの元を訪れた5人は、彼女のその姿に驚愕した。
自信の表れから来るいつもの不遜さ、何事にも動じない、その態度。
それが今、なりを潜めている。かなり消耗しているといって良い。
モルスレジナとアローズィは真っ青な顔で、体を包み込むようにに設計された椅子にぐったりと座っている。
部屋の中央には巨大な球形の魔方陣が構築され、その周りに幾つも、円柱状の魔方陣が展開されている。
「やっと来たわね、ヴィー。装備を解いてそこにある『式』に立って頂戴。」
巨大な魔方陣群の横には、両腕をいっぱいに拡げた位の魔法陣が床にあった。
彼は剣を置き、装備を外していくと、魔方陣に足をかける。
するとその体は、ふわりと浮かび上がり、彼は急な眠気に襲われた。
「ヴィー。力を抜いて、身を任せて。」
フィニスがそう言えば、ヴィロフォルティは全身を弛緩させ、その感覚に身を任せた。
そうすると自然と彼の体は、胎児の姿勢をとり、宙でまどろみ始めた。
呼応するように、魔方陣群が明滅し、暫くすると、ほのかな光を放ち落ち着いた。
「これでいいわ。ひとまずこれで安定させる事にしましょ。」
そう言うと部屋に居る皆を見て、大きく息をついた。
ニーイは目を白黒させ、二頭のドラゴンたちはうっとりとした顔で、部屋を見回している。
ニーナは只々、兄を見つめていた。
「この部屋がそんなに不思議?」
フィニスが問えば、双子が答えた。
「凄い。魔法の塊みたいな所!」「魔道具…あんなの見た事無い…凄い興味深い。」
フィニスは軽く微笑むと、浮かぶヴィロフォルティを見ながら、椅子に深く身を沈めた。
「この部屋は今、ヴィーそのものなのよ。ヴィーの魂を出来る限り再現した部屋よ。」
「そんな事が出来るの?」「魂の術式…禁忌…」
「そうね。契約した精霊と、その眷属となら、禁忌にならないわ。」
双子の姉は首をひねり、弟は先ほどと変わり、フィニスに怯える。
「生者、死者問わず、意思を持つ者の魂なら、そうだわ。だから魂を持つ以前の意思と、精霊とに”契約”を交わした。それぞれに別の命を出して、それぞれを連携させて、ヴィーの呪いを制御させたのよ。」
「だから魔法の塊なんだ!」「それは詭弁…それに別々の事をしている精霊達をまとめるなんて、そんな術式はない…」
「あったのよ。ヴィーの中に。ウーム、貴方も参加してみない?神の御業を目の当たりに出来るわよ?」
「あたしは?」「嫌だ…僕には出来ない……」
「二人とも、こっちに来なさい。」
フィニスがそういうと、アーは喜び勇んで駆け寄り、ウームは恐る恐る部屋を見回しながら寄っていった。
二人がフィニスの側まで来ると、その手をそっと、その頭に乗せた。
優しく撫でれば、姉は嬉しそうに微笑み、弟からは怯えが消え、頬が緩んだ。
「あたしは必要なら何でもするわ。でも、そのツケを誰かに押しつける気は無いの。貴方達にはここでなにが始まっているのか、何をしてどうなるのか、覚えておいて頂戴。」
双子は頷くとフィニスに抱きついた。
彼女は微笑みを浮かべ、双子を抱きしめる。
「ニーイ?いつまで呆けてるつもり?」
我に返ったニーイはフィニスに詰め寄ろうとするが、魔方陣のあまりの多さに二の足を踏む。
「あたしゃ魔法はからきしだが、これだけは解るよ。こんなもの、何千人魔術師や精霊使いが居たって出来やしない。」
「人ならね。あたし達は何?それに魔力はあたし達だけが負担するわけじゃないわ。」
「どういうこったい?」
「ニーイも魔術を極める気になった?」
ニーイは肩をすくめた。
「余計なお世話だったね。で、ヴィーはどうなのさ?あの時のヴィーは普通じゃなかった。」
「”怪物”、でしょ?神敵と呼ばれる怪物。彼は今、”それ”と向き合ってる。あたしは彼をそんな者にさせない。ねえ、ニーナ?」
力強く宣言するその声に、モルスレジナとアローズィが目を開けた。
ニーナはフィニスに振り返り、何も心配いらないかのように、微笑んだ。
「お姉様の言う通りです。それにお姉様もアローズィさんもあたしも、兄を見捨てません。」
「ねぇニーナ?あたしは?」
疲れ切った、それでいて拗ねた声で、モルスレジナが問うた。
「モルスレジナ様には、セルベさんが居ます。あの人が泣いちゃいます。」
そう言って微笑む。
モルスレジナは苦笑いしながら、それでいて少し嬉しそうに、ニーナに言う。
「この術式を構築出来るのは、この三人だからよ。あたしも仲間に入れてよね。」
その言葉に、フィニスの顔はほころび、ニーナは満面の笑顔で「はい!」と、答えた。
読者の皆様神様仏様。
私です。
お久しゅうございます。
ひとまず、書き上がった分の投稿です。
私はヴィーをいぢめていますが、その分、フィニス達が彼を甘やかします。
ハーレムです。
今の話が一息つけば、コテコテのハーレムを書いてあげたいです。




