強化するわよ!
ヴィロフォルティが止めを刺したその瞬間、形のない何かが、ヴィロフォルティの中で歓喜のとぐろを巻く。
思考が二つに割れ、何故かその様をみている自分がいる。
歓喜と恐怖を感じる自分。その様を感じて混乱している自分。
混乱を無限と感じる自分に、冷静に感情を立て直し、時を計る自分。
その時だ。
「ヴィー、いつまでそうしているの?」
フィニスから声が掛かり、彼女の香りが鼻腔をくすぐる。
彼の思考と感情は収束し、元の彼を形為す。
気づけば、彼はフィニスに優しく抱き止められていた。
一呼吸の後、彼はその柔らかな肢体から離れ、更に深く呼吸を整える。そうして大剣を背負うと、改めてフィニスに向き合った。
「ごめんフィニス、終わったよ。」
「よくやったわ、ヴィー。じゃあ、後始末しないとね。」
フィニスはヴィロフォルティの肩を抱き、生き残りの龍達に言った。
『告げる。矮小な龍共よ。伏して聞け。疾く首を持ち帰り、喧伝せよ。ヒトが不埒者を誅したと。龍人がヒトに挑み、無様に死んだと。』
その声に生き残った数体の龍が膝をつき、伏せる。
『肉塊は今すぐ食すがいい。欠片も残す事を許さぬ。』
その言に戸惑う龍達。
しかし、フィニスが龍気を放てば我先にと、遺骸に群がる。
二人はそれを見やると、皆の方に向け歩き出す。
「ヴィー。よくやったわ。龍化を解いて殺したのも、なかなかの趣向ね。」
歩きながらヴィロフォルティを褒めるフィニス。
当の彼はその言葉にはにかんで答えた。
「あいつがフィニスを侮辱したから・・・。龍化したら、面白くないでしょ?」
「全くもう!ヴィーってば!!」
そう言うなりヴィロフォルティを抱え上げるフィニス。
大剣やその他の装備の重さを感じさせず、その細い腕で彼を抱きすくめた。
「あたしの為にそんな無茶したの?」
「無茶じゃないよ?でも、最初の雄叫びでフィニスに無礼な事したのは判ったんだ。それならって、むぅ!?」
唐突にフィニスはヴィロフォルティの唇を奪った。
優しく彼の唇を舌でなぞる。やがて力が抜け、二人の舌が絡み合う。
そうしているうち、ヴィロフォルティの体から力が抜け、だらりと手が下がった。
1分ほどもそうしていただろうか、互いの唇が糸を引きながら離れた。
「これは頑張ったヴィーへのご褒美よ。」
少し上気した顔で、フィニスは言う。ヴィロフォルティは力が抜けきって、フィニスのなすがままだ。
彼女はヴィロフォルティを抱え、テーブルに戻った。
そこでは呆れた顔のニーイと、眉間にしわを寄せ、考え込んでいるダニス。笑いながらグラスを傾けるフェロ。いつの間にか、身の丈ほどもある龍人の足を回収したセルベの姿があった。
ヴィロフォルティを抱えたまま、自分の席に座り彼に頬ずりする。
「どお?彼の戦いぶりは堪能出来て?」
ニーイは溜息と共に言った。
「冗談じゃないよ。見てごらん?馬鹿旦那なんかぐうの音も出ない顔してら。どんだけ鍛えれば、ああなるのかねぇ?あたしにも教えちゃくれないか?」
「良ければアローズィに話を通すわよ?」
「・・・よしとくれ。あたしにゃキグルイの真似は無理だよ。」
「判ってるじゃない。」
「判ってても言いたくなるのさ。はぁ、もうあたしじゃ手に負えないね。なんだか寂しい気がするよ。」
その物言いに、ぼうとしていたヴィロフォルティが正気付いた。
自分の状況を見て慌てるが、フィニスは彼を離そうとしない。暫く力比べをしていたが、結局はヴィロフォルティが根負けした。
「そんない事無い。ニーイ師匠にはまだまだ教わりたい事が山ほどある。それにニーナにも、身の守り方を教えて欲しい。」
「まあ、今のあたしに出来る事と言えば、その位かねぇ・・・。あんた達はほんと規格外だよ。ま、妹の事は任せときな。あの子ならすぐにB級位に成長するだろうさ。」
「そんなにすごいの?」
「あんたもうかうかしてると、妹に追い抜かれちまうよ?精進するこった。ほら馬鹿旦那!いつまで考え込んでるんだい。」
そう言うとダニスの頭を小突く。それでも難しい顔は変わらない。
「こら馬鹿弟子、そんなんだから儂に並べんのじゃい。もう少し気を楽に持て。」
フェロはそう言うと、グラスの底でダニスの頭を小突く。
「難しい顔しおって、もう粗方、構想は出来あがっとるだろうが。坊主に話を詰めると言っておいて、今更何を怖じけづいとる?」
「だがな?師匠・・・。」
「ええぃまどろっこしい!それじゃから、いつまで経っても皆伝を渡せんのじゃ!坊主、この阿呆にはっきり伝えてやってくれ。」
ヴィロフォルティは言った。
「アローズィが持ってるような形の剣が良い。でも大きさは今くらいで、もっと重めの片刃の剣が欲しい。僕は突きと斬るが主体の剣筋だと思うから。それに剣に宿らせる魂は、もっと苛烈な方が良い。」
そう言えば、大剣は実に不満げな感情を伝える。
「この剣が悪いわけじゃないんだ。ただ、僕の使い方が、この剣に合ってない気がする。剣に無理をさせている気がする。」
大剣の柄を撫でながら、彼は言った。剣はそれに納得したのか、静かになった。
考え込んでいたダニスは腕を組み、意を決して彼に言った。
「”龍殺し”の剣は東方の刀とか言う形らしいな?俺は見た事がないんだが、どんなもんか見せて貰えないか?」
フィニスはダニスの顔を見、軽く頷くとアローズィを呼んだ。
「アローズィ?こっちに来て頂戴。」
すれば、フィニスの横に虚空から、アローズィが現れる。
しっかりとした執事服を着てはいるが、ポニーテイルにまとめた髪は枝毛が目立ち、その目にはクマが出来ていた。
それでも背筋を伸ばし、一礼する姿はなんとか自分の仕事への矜持を示す物だった。
示す物だったのだが・・・・・・。
アローズィはフィニスとその膝に乗っているヴィロフォルティを見ると、眼を見開き、人差し指を噛む。
「モルスレジナ様と私めが、苦労しているというのに、御館様はそんなうらやまけしからん事を・・・・・・。」
フィニスはコロコロと笑い、ヴィロフォルティは顔を真っ赤にさせ、うつむいた。
アローズィはそんな二人を指を噛みながら、器用にほんわりとした顔で言った。
「後ほど御館様成分と、ヴィー様成分を補給させて頂きますからね。そして御館様。ご用の件は?」
「ゆっくり堪能すれば良いわ。それよりあなたの剣を見せて頂戴。ヴィーの新しい剣の参考にしたいの。」
「承知致しました。」
そう言うと片手を振れば、一振りの剣が現れる。
ダニスは腰を浮かせ、その剣を凝視する。
「察するに、ダニス様が私めの剣をご覧なりたい様に見受けられますが、宜しければ手に取って頂いても構いませんよ。」
椅子を蹴飛ばし、バタバタとアローズィに駆け寄るダニス。
腕を震わせながら、両手でその剣を受け取ると、剣に一礼して刀を抜く。
「そこまで大事にするもんかね?」
「”龍殺し”の得物じゃ。それにあれは剣であって剣じゃない、剣の形をした・・・そうさの。精霊に見えるのう。」
震えは収まってはいるものの、目はらんらんと輝き、顔は紅潮し、抜いた刀を遠目にし、また、目の前に持ってきて、刀に頬ずりしそうな感じでもってつぶさに見るダニス。
「そこまで大事にされると悪い気はしませんね。」
アローズィも機嫌良さそうに言う。
剣先から柄頭まで、丹念に調べ、ダニスは静かに刀身を鞘に収める。
そして再び両手で以て、アローズィに刀を返した。
深く深く溜息をつくと、それは嬉しそうに、彼女に礼を言った。
「ありがとう、アローズィさん。とても素晴らしい物が見られた。師匠、やっと目指す物が固まったよ。俺が鍛えたい得物は、こういうのだ。」
そういうダニスの顔は、晴れやかだ。
アローズィは笑顔で刀を受け取ると、霞が消えるように、刀を消した。
「やっと吹っ切れおったか。ではダニスよ。これから鍛える剣を以て、皆伝の儀とする。全霊で剣に向かえ。」
静かにグラスを置き、フェロがダニスの眼を見て宣言する。
ダニスは力強く頷くと、ヴィロフォルティに言った。
「行くぞヴィー。お前の希望とやらをもっとつぶさに聞かんとならん。邪龍フィニス、暫くヴィーを借りるぞ。」
「すぐに返してよね。待ちきれない誰かさんもいるんだから。」
「私めとて、多少なりと弁えて御座います。この機会にヴィー様と親睦をf・・・何でも御座いません。ダニス様。一般的な刀の製法について、お教えできることが出来るかと存じます。御館様、私めも同席させて頂いて宜しいでしょうか?」
アローズィの請願に、フィニスは暫し考える。
ヴィロフォルティの、呪いの解析も急がせたい気持ちはある。
しかしながら、彼女を参加させる事でヴィロフォルティの強化に繋がり、ゆくゆくは自分に届く物が出来上がるとするなら、多少の遅延は許せると判断した。
「あなたも気分転換が必要かもね。許すわ。モルスレジナにも休養するよう言っておいて。それから生きの良い龍人の足が手に入ったから、生ハムにして頂戴。」
「承知致しました。セルベ様。足をお預かり致します。それから、モルスレジナ様も大分、お疲れのご様子でしたから、お世話をお願い致します。」
両足を受け渡し、彼女が収納した事を確認すると、セルベは慌てて言った。
「それでは今暫く、失礼してご主人様の下に参らせて頂きます。あの方の事ですから、今頃すごい事に・・・・・・それでは失礼致します。」
そう言うとその姿をかき消し、セルベは去って行った。
フィニスはヴィロフォルティを降ろすと、皆に言った。
「あなた達は先に館に戻って頂戴。案内はメイドがするわ。アローズィ、あなたは残って頂戴。」
頬を膨らまし、文句を言うアローズィに、フィニスはぴしゃりと言った。
「そんな顔しないの!台無しじゃない。」
メイドに先導され、皆は館へと入っていく。フィニスはそれを見届けると、遺骸を貪り尽くし平伏する龍達に言った。
『疾く失せよ。命を果たせ。』
そう言うと結界を解いた。龍達は我先に空に羽ばたき、首を手にその姿を消した。
「それでアローズィ?ヴィーはどんな感じかしら?」
頬を膨らました姿から一変し、綺麗な礼をする。
「早速、変化が現れました。取り込んだ魂に呑まれる事無く、自我を保っておいでです。」
「魂の有り様は?」
「やはり歪になりつつあります。ですが、こちらから僅かながら、安定して干渉出来るようになりました。モルスレジナ様が魂を整える手筈で御座います。」
「上出来だわ。次の相手までどのくらい日があるかしら?」
「30日程度かと。モルスレジナ様の手腕でしたら、3日もあればヴィー様の魂を安定させられます。」
「解ったわ。ヴィーの魂を整えたら、二人とも暫く休みなさい。」
「有り難うございます。御館様。後、お耳に入れたいことが御座います。」
「・・・・・・。嫌な感じね。聞くわ。」
「ヴィー様の呪いの術式化は、神に仕組まれて御座います。意図は解りかねます。」
「そうなの・・・。ま、考えても無駄ね。下がりなさい。暫くしたらあたしも行くわ。」
読者の皆様神様仏様。
私です。
両刃の大剣ってロマンですよね。
実は私、片刃の大剣ってのも、大好物なんです。
斬馬刀、すごいですよね。
あと薙刀って、格好いいです。日本刀の柄に、鞘を差して長物にする
技法もあるようです。
すごいロマンだと思います。
でも青竜刀とかは、微妙なんですよね。好み的に。
はて、何の話でしたかしら?




