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整ってきたわ!

 その龍は、自分に絶対の自信があった。

幼龍の時代、集められ、集団で面倒見られる幼龍達は、餌を取り合う。その中で彼は餌を全て独占した。

彼には当時から、その力があった。


 飢えて死ぬ幼龍もいた。彼は何も感じなかった。

飢えて死に物狂いで襲ってくる者は、死ぬ寸前までいたぶり、その前で餌をむさぼってやった。

殺さなかったのは、只単に、立場を気にしての事だ。

飢えて死ぬのは良い。戦って、死に至るのは良い。意図的に殺す事は、御法度だった。

彼はその群れの中で、一番に成長した。他の幼龍は適性無しとして、どこかに連れやられた。


 次に彼は、別の群れに移された。

そこにはこれより小柄な者、大柄な者がいたが、目立つのは彼と同じか、それ以上の強者達だった。

与えられる餌は少なく、彼はそこで初めて、飢えを経験した。敗北と、侮辱を経験した。

ある日、彼の飢えは限界に達し、その群れで一番の強者に挑んだ。

それが一番餌を獲得出来る手段だったからだ。己の死は関係なかった。

ただ、飢えていた。

満身創痍になり、眼も腕も引きちぎられ、ボロボロになりながらも、かれはその強者に勝利した。

そして初めて殺意をもって、相手の口を引き裂き、喉笛を噛み千切り、咀嚼した。

その事に罰は与えられなかった。

彼はその群れの餌を独占する事が出来た。

他の龍達は、餌を得る事が出来ず、お互いを食い合う地獄が生まれた。


 次に彼は若い成龍達の群れに移された。そこでは餌は望むだけ与えられた。

餌で争う事は無くなったが、彼の中には、満たされぬ物が芽生えた。

何かを引き裂きたい。

その衝動が、一頭の肥え太った成龍に向かった。

肥え太っているとはいえ、彼と同じか、それ以上の強者だった。

彼はやはり、満身創痍になりながらも、その成龍を屠った。完全な自発意思だった。

彼はその龍を放置し、腐らせるままにした。


殺したい。


それだけが、彼の中で膨らんだ。


 以降、彼には餌が与えられなくなった。

彼は同族を屠り、食す事で飢えを凌ぐ事になった。

それは同時に、彼の欲求を全て満たす事になった。殺す事と飢えを満たす事。

不思議と、彼にはその事で罰は与えれなかった。

他の龍も、同じ事をしている者はいたが、それらも罰が与えられる事は無かった。


 そして彼は所属していた群れから、放り出された。

群れに近づけば、古い成龍が彼を打ちのめし、あらゆる侮辱を行った。

彼は一度も、その成龍達に勝てなかった。

結果、彼は群れを離れ、一人当てもなく飢えを抱え、放浪する事になった。

一つの決意を抱えて。


 龍達が何百年周期の発情期を迎えた頃、彼は群れに帰ってきた。

群れには雌が無数におり、群れを守る成龍達もまた、発情していた。


 彼はその群れを襲った。

放浪の旅は彼の心を更に荒ませ、また、その闘争心は無限に膨らんでいた。

旅で敗北し、勝利し、飢え、満たされ、また飢える。

その生活は、群れを守る成龍達を酷く醜い豚に思わせた。

帰ればその成龍達を皆殺しにし、雌達を蹂躙した。幼龍達は、気まぐれに彼の餌になった。

そして彼は、その群れの頂点に立った。


 古龍は生かして、その知恵を活用した。使えなくなった古龍は、幼龍の餌にした。

使える若い成龍は雌を当てがい、利用した。

その群れは、修羅の群れと化した。

修羅の群れは、他の群れを吸収し、肥大化していった。


 それでも彼は満たされない。

自分が強者である事に変わりない。雌は全て、自分の管理下にある。


 そして伝説を聞いた。伝説の声を聞いた。

たった1頭で、全ての龍に勝利した雌。

生ける伝説。その居場所は竜王も知らず、その動向も、誰も知らない。

自分に相応しい雌は、それしか無いと思った。

彼は慄く古龍から話を引き出し、伝説を追い求めた。


そうしてシルフィード達の噂が、彼の耳に届いた。



 館の結界は解かれた。

館の広場にはテーブルが置かれ、ティーセットがしつらえられ、フィニスやフェロ達がそこにいた。

ヴィロフォルティは離れたところに立ち、肩の力を抜き空の一点を見上げている。

セルベが茶をフィニスのティーカップに注ぎ、スイーツや、他の皆には酒と肉料理が饗される。

その光景は、趣味の悪い貴族さながらであったが、不思議と嫌みな感じは無かった。

それは皆が、これから起こる事を知っているから。

それが証拠に、フィニス以外、誰も酒と料理に手を付ける者はいない。

そうして沈黙だけが、その場を包んでいる。


 黒点が空に浮かんでいる。

否、黒点はこちらへと近づいてきている。だんだんと影は形となり、龍の群れだと解った。

その先頭には一頭の巨大な龍がいる。

十数頭の群れは館の周りを取り囲むように旋回し続けている。

それは縄張りを主張しているかの如く、飛び回る。

そうして皆の前に、巨大な龍は舞い降りた。

舞う砂塵はヴィロフォルティを襲い、皆を襲った。

しかし、彼は微動だにしない。皆はセルベが結界を張り、その砂塵を寄せ付けない。


 その巨躯はヴィロフォルティの十数倍。腕やその尾は大樹のごとき太さ。

広げられた翼は日を遮り、羽ばたけば、若木などしなり折れてしまうだろう大きさ。

(あぎと)は並の馬車など一砕き出来る大きさと幅。双眸は、ただ一点を見ている。

その(まなこ)は、フィニス以外見ていない。

目の前にいるヴィロフォルティを一瞥も、いや、存在している事を知らないのだ。


 巨龍はその首をもたげると、フィニスに向かい、吼えた。

その轟音は大地を揺らし、館を揺らし、窓ガラスは全て砕け飛んだ。

皆も無事では済まぬかに見えたが、テーブルの周りはそよ風一つ、立っていない。

「上出来よ、セルベ。」

フィニスが声をかける先には、結界を維持するセルベの姿があった。

「恐悦至極に存じます。御館様。」

フィニスに向かい、深々と礼をする。二人はその巨龍を、龍の群れを脅威と感じていなかった。

セルベは皆の後ろに下がり、フィニスのティーカップに追加の茶を注ぐ。


 その姿は巨龍のプライドをいたく刺激したのか、空に向かい再度、咆哮を上げるとその巨大な尾を皆に向け、振り抜こうと動いた。

そして、その尾の速度が十分な速さになった時、巨体はバランスを崩し無様にもんどり打った。

倒れ込んだ巨龍の軸足には、赤い血だまりが出来ており、そのすぐ側にヴィロフォルティが佇んでいる。

軸足に十分な力が乗った時、その足の腱を切り裂いたのだ。

しかし、勢いの止まらぬその尾は、ヴィロフォルティと他の皆に向け迫る。

「龍滅術二式、障。」

その声と共に轟音が鳴り響き、尾の動きは止まる。巨龍はバランスを崩した上に勢いを止める事も出来ず腹を空に向け、ひっくり返る。

轟音のしたその元には、ヴィロフォルティが大地をひび割れさせ、その両手で尾を止めていた。

只止めるのでは無く、身体強化で加速したその掌底は、当てた手のひらで衝撃波を生み出し、その反対側の血肉が弾け飛んでいる。

そこで初めて、巨龍は障害物であるヴィロフォルティの存在に気がついた。

巨龍の傷は即座に癒え、巨体を起こすとヴィロフォルティを見やる。

一歩下がると、尾を一振り。

途端に、今まで館を旋回していた龍達が、ヴィロフォルティめがけて襲いかかった。

「龍滅術一式、空、三の型”鷹落とし”」

そう呟けば、大剣は膨大な龍気をはらみ、連続した破裂音と共に空を切る。

「身体強化、極」

尚も呟くと大剣の切っ先を巨龍の前に向ける。

他の龍達は減速も方向転換も姿勢の制御も出来ず、只その勢いのまま、大地に叩き付けられた。

頭から地面に落ち、絶命した者は幸せだったろう。

腹から墜ち、その中身をぶちまける者。転がり、翼がもげた者。中には後ろ足を犠牲に降りられた者もいたが、龍の回復力を持っても時間が掛かる。


 その光景を、フィニスはさほど面白くもなさげに見ていた。

「今代の龍どもは、不甲斐ないにも程があるわね。」

そう言うと、茶を一口。

そして唱える。

「龍滅魔法、断絶牢獄。」

ティーカップはそのままに、空いた手の人差し指を上げ、円を描く。

すれば、広大な広場には不可視の障壁が張られ、距離をとろうとした者、運悪く近くにいた者が両断される。

「あら?やっちゃったかしら?ヴィーの分が少なくなっちゃった。」

悪びれる事無く、不可侵不可避の結界を張ったフィニスは期待するように見る。

その中で、ヴィロフォルティは動き出した。


 巨龍は動かない。他の龍達は傷を負いながらもヴィロフォルティ目がけて襲いかかってきた。

彼は龍化を行い、それを縫うように動き回り、急所を的確に切り裂き、抉り、龍達に恐怖を植え付けていく。

巨龍を除く、全ての龍の動きが鈍ったところで、彼は言った。

「龍滅術九式、惨。」

龍形態で動かない者は、その頭蓋をかち割り、動く者は首を落とした。

龍人形態をとろうとする者は、四肢を切り落とし、胴を両断する。

龍人形態を完成させ、残った者達が、彼を襲う。

「龍滅術八式、剔。」

突きと払いの応酬が、龍人を襲う。

足を、首を、抉り切られその胴に、大きな穴が開く。

その光景に、逃げる者達も出てくるが、それらは結界に阻まれ、引く事も逃げる事も出来ない。

ヴィロフォルティは巨龍を無視し、一頭一頭、丹念に潰して回る。殺すでは無く、潰す。

只の肉塊を量産していく。


 残り数匹となった時、巨龍は側にいた龍人を掴み、二つに引きちぎった。

そしてとうとう、ヴィロフォルティを標的としたか、ブレスを放とうとする。

「龍滅術四式 隔。」

瞬間、巨龍の足下まで移動し、手持ちのニードル全てに龍気を乗せた白銀は、寸部過たず(あやまたず)その口の中に吸い込まれた。

アローズィがやったブレス封じだ。

そうしてここに来て初めて、巨龍は本気になった。

読者の皆様神様仏様。

アローズィに御座います。


無様で不甲斐ない作者は、今、仕事と創作のモチベーション

の低下に四苦八苦して御座います。

キーボードと寝床を行き来して、悶える様は実に滑稽で、このアローズィ笑いが止まりません。

 ともあれ、ようやくヴィー様の活躍が始まります。

師事した私と致しましても、ここは、濡れるほど、魅せて頂きたいものです。

ですので、作者?週末は雨の様子なので、趣味に

かまけずヴィー様を素敵に描くのですよ?

宜しくて?


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