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まだ足りないわ!足りないの!

 戦場に飛ばされ、我を忘れたあの時から1年。

ヴィロフォルティはとある傭兵団に居た。彼と遭遇したのはその団長だった。

彼は団長を師と仰ぎ、団長は、ヴィロフォルティの能力を買った。

その兵団には多種多様な人種が居た。人族。亜人。獣人。ドワーフ。エルフも少ないが所属していた。

ヴィロフォルティは亜人として紹介され、死ねない体は、切込隊の一番槍として重要な位置にあった。

その体の特性もそうだが、彼の身体能力は亜人のそれを、遥かに凌駕していた。

獣同然の動きから、師匠の悪魔的スパルタ訓練によって、より制御され、より洗練された体術へと昇華されていた。


「何しても死なねぇから、思いつく限りの事やってみたけど、まあ、面白いほど飲み込みが早え。」


酒の席で酔っ払う師匠は、事あるごとにそういっては管を巻いた。

最初は身の上を全て話そうとしたが、師匠は「そんな面倒くせえ重い話なんて知らんし聞きたくもねぇ。」

そう言って、詮索はしなかった。

それは彼にとっても有り難い事だったが、いつどこで、誰が死に居なくなるか分からない傭兵家業では当然のことだった。

身の上に感情移入したり、重たい話に縛られたりしたくない。そんな奴から死んでゆくのだ。そしてその死を、自分も引きずるのだ。

 そんな傭兵団の中で、今の彼は浮いていた。

竜人の腕と足を持ち、その鱗はどんな剣をも通さない。

入団当初、師匠が酒の席でふざけて指を切り落としたが、見る見る再生される様子は、皆が静まり返るほど不気味だった。

何より、強さにこだわる彼の行動は、団員の命を危険にさらした。

単身敵陣に突っ込み、道を開くとは聞こえがいいが、付いて来る仲間は敵に囲まれた中を行くのだ。その強さと蛮勇に慕う者もあるが、今は批判悪評の類が膨らんできた。


「師匠。なんかみんなが冷たい気がする。」


「そりゃあんなバカやってりゃ、皆引くわな。もっと回りに気を使えって言ってるだろ?」


転戦を終え、しばらく休暇とのことで、小さな町の酒場に2人は来ていた。最近はヴィロフォルティが誘っても、誰もついてくることは無くなった。


「痛い目に会わない方法を皆考えてない。」


「ばぁか!お前の痛い目じゃ、皆死んじまうわ!・・・・・・はぁ、そろそろ潮時だな。」


「え?」


エールをあおり、師匠は片肘をついてヴィロフォルティを見る。片手はジョッキの催促だ。


「お前は首だ。」

ただ一言、そう言った。


「なんで!?」


「傭兵はな?切った張ったして生き残って、金貰うのが仕事だ。お前は傭兵に向いてねぇ。お前のしてることは武者修行だ。俺らとは合わねぇ。そんな野郎と一緒じゃ、命なんて幾つあっても足りねぇ。」


替えのエールを受け取ると、一気に半分ほど飲み干す。


「俺は強くならないといけないんだよ。」


懇願するように師匠の眼を見て、彼は言う。

そんな彼を面倒くさそうに眺め、溜め息を一つ。


「それだよ。それが俺らとは違うんだ。何で強さにこだわるかなんて、知りたくも無ぇが、俺もお前に教えることはもう何も無ぇ」


残りのエールを飲み干して、再度、催促。


「だから潮時なんだよ。」


「でも俺、師匠に勝てないよ?」


「剣を持って一年そこらのガキに、3本に1本持っていかれりゃ十分強いわ!おかげで俺の面子丸潰れじゃねぇか!」


「そうなの?」


心底驚いた風に言う彼に、師匠は顔をしかめた。


「軽く言うな!むかつく。はぁ、お前、冒険者ギルドいけ。対人戦は俺の全部を叩き込んだ。足りねぇのは経験だけだ。ここで経験を積ませる訳にはいかねぇ。」


「冒険者ギルドなら、魔物相手に腕を磨けるだろう。それにお前の得物は魔物向けだわ。」


一度に3~4人を切り殺すその大剣は、確かにそうだった。


「・・・・・・。分かった・・・。師匠がそう言うなら、そうする・・・・・・。」


まだ最初の一杯めのエールをちびちび啜りながら、とうとう彼はそう告げた。


「辛気臭い顔すんな、間抜け。酒が不味くなる。そうさな、西に大きな街があるだろ?そこはダンジョンがあるから、冒険者も多い。腕試しに冒険者の2、3人切り殺してこい。」


「うん。そうする。」


軽く即答する彼に、師匠はエールを噴出す。


「ばっか!冗談に決まってんだろうが!!」


「知ってる。仲間殺しは縛り首だ。」


「はぁ・・・これからは、お前自身と魔物たちがお前の師匠だ。どうせ死なねえんだから、何でもやって強くなれ。」


「師匠。死なないでよね。」


「この糞野郎!縁起でもない事言うな!!」


エールのジョッキを投げつけるが、軽く躱される。


「師匠。俺を拾ってくれて有難う。色々教えてくれて、有難う。」


「なんだ?えらく愁傷じゃねぇか。」


「母さんの口癖だよ。何かされたら、日の言葉で返せって。」


「・・・・・・いい、母親だな・・・。」


「・・・・・・。今晩、団を出るよ。こないだの戦の取り分は、みんなの酒代にしてくれ。」


「・・・・・・。ヴィロフォルティ。強くなれ。俺の分まで。どこまでも強くなれ。そして俺に自慢させろ。お前の最初の師匠は俺だったって。」


ヴィロフォルティは強く頷き、エールを飲み干した。

そうして、師匠と、傭兵団を後にした。



 西の街へは歩いて3日かかる。

ヴィロフォルティはその道のりを駆けていた。この分だとあと1日で町に着くだろう。

途中、狼の群れとオーク、ゴブリンの群れと遭遇したが、今の彼は事も無く『処理』する事が出来た。

団に居た時に少なからず、冒険者の流儀は聞いてはいたが、討伐部位なんて分かるはずも無く、食える部位は取り、その他は土に埋めた。

その晩の事。

彼はもう少しで街というところで、野営することにした。

ただ火を焚き、塩を振った肉を齧るだけの簡素な物だ。

餞別に貰ったマチェットを手に、彼は浅い眠りについた。


[はぁい!元気してる?]


「フィニス!?」


[これは夢の中デース。ヴィー。少しは強くなった?]


「傭兵団に拾って貰った。切込隊長してたよ。」


[んもう!まだその程度なの?まあ、対人戦の経験は大事よね。で、今度は冒険者?ダンジョン?]


「何で分かるの?」


[ヴィーとあたしは()()()()()からねー。]


「そうなんだ」


[微妙に分かってないわね。まあ、どうでもいいわ。冒険者になるなら、西の街のダンジョンで鍛えなさい。]


「うん。師匠にもそう言われた。」


[あの人間め・・・。最初の師匠はあたしになる筈だったのに・・・。]


「フィニス怖いよ。」


[ダンジョンに潜ったら、必ず1週間は出てきちゃダメよ!あそこの中ボスラスボスはちょうどいい強さだからもってこいだわ。]


「何匹も居るの?」


[何度でも出てくるのよ。その辺りはギルドで説明を聞きなさい。]


「よく解らないけど、ギルドで聞くよ。」


[体の使い方もこなれてきたし、魔法戦もしっかり経験しておきなさい。]


「解った。」


[それから、魔法は『切ろうと思えば切れるから』覚えておきなさい。]


「そうなの?」


[そうなの。そろそろ時間だわ。早く強くなりなさい。S級冒険者になったら帰ってきていいわよ。]


「それってすごいの?」


[下の上よ。1年で帰ってきて。じゃあねー。]


眼を開けたとき、そこには野犬の口があった。



 西の街へはすんなりと入れた。

曲がりなりにも傭兵家業をしていたのだ。登録証は持っている。

それに何故か門兵は彼の二つ名を知っていた。

 3階建ての家屋くらいはあるかという門をくぐり、ヴィロフォルティは街へと入った。

目指すは冒険者ギルド、の前に、鍛冶屋に寄りたかった。

傭兵団の専属鍛冶屋では、彼の大剣は研ぎ以外、扱いきれなかったからだ。

場所は門兵に聞いてはいたが、当然土地勘は無いので、誰彼構わず訪ね歩き、ようやく目的の鍛冶屋に着いた。

 店構えは小さく、裏には工房らしき煙突のある建屋が見える。

彼は剣を地面に突き刺すと、店の中に入っていった。


「こんちは」


カウンターにはたっぷりのひげを蓄えた、老ドワーフが居た。

ちらりと見るや、言い放つ。


「・・・・・・ガキの来るところじゃねぇ。帰れ。」


傭兵団で散々もまれた経験上、この手の罵倒には無視がちょうどいい。


「師匠の紹介できた。黒の鉄錆団だ。これ。」


スクロールを放り投げる。それは老ドワーフの前に落ちた。

面白くなさそうに頬杖をついたまま、片手でぞんざいにスクロールを扱う。

そして眼をむいた。


「・・・・・・まじかよ・・・あいつ気でも狂ったか。」


「分かったなら剣を見て欲しい。」


「腰の鈍らなら、見る気はねえ。」


「店に入らないから、外にある。」


「馬鹿か。持ってこい。」


「しらねぇぞ。」


彼は店を出て、大剣を持ち込んだ。途端、店の床が悲鳴を上げる。

めきめきと音を立てながら、老ドワーフの前行き、大剣を床に突く。

床が捲れ、破壊音が響く。

 それを見た老ドワーフは、底冷えのするドスの効いた声で、彼に問うた。


「お前どこでこれを手に入れた?」


「家族から貰った。」


「これは俺と俺の師匠が鍛えた大剣だ。龍を殺す大剣だ。そして英雄に渡した。お前の物じゃねぇ。」


「その英雄ってのは、死んだぞ。」


途端、斧が顔めがけて飛んできた。

大剣を少し動かし、それを受け止める。つんざく様な金属音が鳴り響き、斧が弾かれ、その手から飛ぶ。

さりとて老ドワーフは怯まなかった。怒りが、それに勝っていたのだ。


「この糞盗人野郎!ふざけた事ぬかすんじゃねぇ!!」


それは部屋を揺るがす怒声。

だが、ヴィロフォルティには通用しなかった。戦場の怒声に比べれば、羽虫の囁きにしか聞こえない。


「確かに死んだ。半身を焼き消されて、凍り付いて死んでた。剣はずっと握ってた。」


怯みもせず、怒りもせず、ただ淡々と()()()()を告げるその様に、老ドワーフは呑まれた。


「・・・・・・お前何者だよ・・・・・・。」


「詮索はご法度だろ?それよりあんたが鍛えたなら、ちょうどいい。不具合がないか、見てくれ。」


その言葉に老ドワーフは再び激昂し、カウンターを殴りつけ、椅子をけり壊し、壁を幾度も殴った。

両の拳が裂け、血を流してもそれは止まらなかった。壁にはひびが入り、血の跡が幾つも出来た頃、ようやく彼は落ち着いた。


「一つだけ聞かせろ。()()の遺骸はどうした?」


暫し迷う。フィニスのことを匂わせても良いものか。

だが、老ドワーフの眼と態度に、彼は決めた。


「・・・・・・龍に喰われた。」


それを聞いた老ドワーフは、血塗れの拳で何度もカウンターを殴った。


「龍に食われるのは、名誉だ。そいつは龍の血肉になる。あんたの英雄は龍になった。」


その言葉に拳が止まる。


「・・・・・・お前、名は?」


「ヴィロフォルティ。」


「裏に廻れ、糞野郎。剣を見てやる。」

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