出迎えるわよ!
『時間切れよ。あたしの勝ち。』
そう宣言すると、ヴィロフォルティの体から力が抜け、フィニスは大剣を脇に落とし、その尾を使い、ヴィロフォルティを手元に引き寄せる。
そうして抱き止める優しい手つきとは対照的に、尾は無残に引き抜かれ、大量の血が流れ落ちる。
フィニスはヴィロフォルティを降ろすと、龍化を解いた。
濃密な龍気を消し去り、再び白い帯がその体を覆い、全裸のヒトの姿となる。
ヴィロフォルティは慌てて顔を背け、フェロとダニスはニーイに殴り飛ばされていた。
その様子を見た、フィニスは小首をかしげる。
「お姉様!お服を!」
ニーナが慌てて言えば、やっと気がついたのか魔法でドレスを作り上げる。
「本当にヒトってば、この体の裸が気になるのね。よく解らないわぁ・・・。」
たわわ過ぎる双丘を揉みしだき、臀部を突き出してはそれを見る。
「まあ、ヴィー以外はどうでも良いけどね。そんなに良い物なの?」
「お姉様!それ以上はいけません!」
ニーナが慌ててフィニスに縋る。
フィニスはニーナを抱き止めると、彼女を抱きかかえ、ヴィロフォルティに言った。
「さて、今回の出来は30点ね。動きは良かったけど、型の所作がいちいち甘いわ。後、零式の練り方が遅い。アローズィの4倍も掛かってるじゃ無い。ま、集中力を切らさなかった事だけは褒めてあげる。良くやったわ。」
ヴィロフォルティの出血は止まり、その傷口には薄皮が出来ている。
「試練の相手に、僕は通用するかな?」
「そうね。なんとかなるだろうし、なんとかしなさい。」
うなだれつつも彼は大剣を拾い、点検する。
そうして3人は、騒々しく騒ぐフェロ達の元に歩いて行った。
「老い先短いジジィを殴り飛ばすとは何事じゃい!この馬鹿娘!」
「うるさいよ!糞ジジィ!他人の女に色目使ってんじゃ無いよ!ダニスもだよ!!」
座り込み、頬を撫でるフェロに大の字になって伸びているダニス。
ニーナはフィニスの腕から飛び降り、フェロに駆け寄るとその手のひらを彼の頬に向けた。
「精霊の加護により、癒やしの光を。」
フェロにも見える、淡い光が腫れたその頬を癒やしていく。
ニーイは哀れなダニスを蹴り起こす。
一通り腫れが引いた頃、ニーナはダニスに駆け寄り、同じように彼を癒やす。
「精霊術が使えるようになったのね。」
フィニスの言いに振り返り、満面の笑みで彼女は言う。
「はい!何故だか精霊術にすごい適性があるって、アローズィさんが驚いていました!」
二人が起き上がると、ニーナは再びフィニスの元に駆け寄る。
「これでお姉様やお兄ちゃんの役に立てそうです。」
フィニスは微笑み、その頭を撫でた。
「期待してるわよ?ニーナ。で、どうだったかしら?参考になった?」
そう二人に問いかけると、騒がしく文句を言っている二人は途端に押し黙った。
「小僧、剣を見せい。」
フェロが言い、ヴィロフォルティは大剣を彼に預ける。
それを見た瞬間、フェロはあきれ果てた声を上げた。
「派手にやらかしおって!これで全力の半分かい!?どうなっておるんじゃ!?あんたの体は!?おまけに小僧もじゃ!よくぞこの剣であんなもんを凌いだのう!」
横から剣を見たダニスはあんぐりと口を開けた。
「馬鹿馬鹿しいにも程がある!たった1分程度で、こうも痛むのか!?」
傍目からは剣に異常は無いように見える。
しかしながら、二人の目には、ヘコみ、歪み、刃こぼれ、傷が大剣の至る所に見て取れた。
触っては確かめ、叩いては音を聞き、大剣を確認していく二人に、ヴィロフォルティはおずおずと声をかけた。
「・・・・・・どうしてもいなせなかったんだ。まともに打ち合う事になっちゃって、その・・・。」
「馬鹿言うなぃ!あれほどの攻防で、これだけで済んでるんじゃ、小僧は良くやったわい。」
フェロは大剣を置き、嬉しそうにヴィロフォルティの背を叩く。
若干の痛みを覚えながらも、ヴィロフォルティは微笑んだ。得物の痛みは自分の技量の証。
それを肯定され、ヴィロフォルティの気持ちは少し軽くなった。
対して、ダニスの顔は険しく、口元は真一文字に結ばれたまま、大剣を見ている。
「師匠。どう鍛える?」
彼の中で、先の死合いの様子が思い出される。
正直に言って、あのフィニスに通じる剣のイメージが、何も思い浮かばない。
その問いの答えは、簡潔にしてダニスを驚かせる物だった。
「儂ぁ、剣を鍛えんと誓っとる。お前の妹を殺したのは儂も同然じゃからの。それを曲げる気は、さらさら無いわい。小僧の剣を鍛えるのは、お前の仕事じゃ。ま、材料の選定や、手法に関しては教えてやるから、安心して作れ。」
「ちっとも安心出来ねぇよ!一体どうすればこの剣を超える物が作れるか、想像も出来ねぇ!!」
「こんの馬鹿弟子が!もっと自信を持てぃ。小僧もじゃ。ダニス。お前に足りんのは知識と自信じゃ。もっと堂々とせい。」
途方に暮れるダニスに、飄々としているフェロ。
「ちょっと。今更作れないなんて言わないでよね?ちゃんと仕事はして貰うわよ?それにもうすぐ次の相手が来るんだから、早く直して頂戴。」
苛立たしげにフィニスは言う。
「大丈夫じゃ。おぬしに届く剣は作れる。目処はついとる。剣も大急ぎで手直しさせるわい。それでじゃが、悪いが今から言う材料を用意して貰えんかの?」
「それをあたしに言う?」
「おぬしにしか用意できんし、どうせなら、ヒトが自分を脅かす物を作るのを、見てみたいと思わんか?」
にいと口角を上げる老人。
フィニスも少し笑みを浮かべて言った。
「ヒトの技がどの程度か、見せて貰おうかしらね。で、さっきのあたし程度の相手に、その剣はどれくらい持つ?それにあたしは気が長い方だけど、だらだら待つのは性分じゃ無いわ。」
ゆったりと歩き、ヴィロフォルティの側に来ると、その肩に手を添える。
お互いに顔を見れば、二人とも微笑む。
「おうよ。明日の昼までには直させてみせるわい。それにあの剣なら、今の龍王まで相手出来るわいな。」
「それなら良いのよ。期待してるわよ?」
「任せとけい。」
座り込んでいるダニスは、一人ぼやいた。
「任されるのは俺だけどな。」
「で、新しい剣は何時出来そう?」
「材料とダニス次第じゃ。そんときにはきちんと教えるわい。」
「えらく敷居が高くなった!?」
「あたしの得物の事も忘れるんじゃ無いよ?」
ダニスは立ち上がり、両頬をぱしりと叩く。
「みんな好き勝手言いやがって。このダニス。一世一代の大仕事だ!やってやろうじゃねぇか!!フィニス、師匠、材料は何時揃う?ヴィー。お前も付き合え、どんな得物が良いか、聞かなきゃならねぇ。」
フェロは相貌を崩し、弟子の肩を叩く。ニーイは嬉しげにダニスを見る。
「やっとその気になったわね。セルベは居る?」
フィニスが言えば、彼女の影からセルベが浮かび上がる。
「御側に。」
「屋敷に戻るわ。あの子達に必要な物を用意して頂戴?素材管理のメイドがいるから、その子に任すと良いわ。」
「畏まりました、御館様。アローズィ様より、万事申し使っております。」
恭しく礼をする。
「なら良いわ。それから食事の用意を。皆のやる気を出せるよう、用意なさい。あたしも久しぶりに龍人化したから小腹が空いたわ。」
ヴィロフォルティを促し、屋敷へと歩く。皆は騒がしくもその後を付いていった。
次の日の昼には、約束通り、ヴィロフォルティの大剣は仕上がった。
ヴィロフォルティの傷んだ装備も手直しされ、準備は整った。
屋敷の結界は解かれ、最初の試練が舞い降りてきた。




