半分本気よ!
四人の背にかけられた声の主は、フィニスだった。
傍らにはニーナも一緒にいる。
「そこの三人は初めましてね。あたしがフィニスよ。」
傲岸不遜な笑顔で、皆を見下ろす。覇気と龍気を漂わせてはいるが、龍王の居城で見せていたそれとは全く異なっていた。
そのままでは、只の龍人としか見えない。いや、ヒトの姿をしている分、余計にそうは見えない。
困惑している三人を横目にヴィロフォルティの隣に立つ。
「この姿じゃ変かしら?」
自分の出で立ちを気にするフィニスにヴィロフォルティは言った。
「多分、雰囲気を押さえすぎてるんだよ。」
「いやいやちょっと待っておくれよ。どう見てもヒトが龍気を纏ってるだけにしか見えないんだけど、本当にあのフィニスなのかい?」
堪らずニーイが口を出す。
「別嬪さんなのは解るが、ピンとこんのう。悪いが龍人化して貰えんか?」
フィニスは暫し考えた後、皆に外に出るよう促した。
「ここじゃ狭すぎるわ。それに一人うずうずしてるのがいるしね。」
そう言うと彼女は、ヴィロフォルティ達を連れて作業場を出た。
外に出るとフィニスは、幾重にも結界を張り、最後に一言唱えた。
「龍滅魔法、断絶牢獄。」
辺りを見回し、出来を確かめるフィニス。多少は納得がいったのか、腕を組み皆を見る。
「これで少しはましかしら?今から龍人化するけど、半分だけ本気になってあげる。ヴィロフォルティとニーナは大丈夫だと思うけど、気をしっかり持ちなさい。」
ヴィロフォルティはニーナの肩を抱き、引き寄せる。三人は身構えた。
「始めるわよ。」
言うなり龍気が辺りに溢れかえる。
衣装を破り捨て、全裸になったフィニスの体に変化が現れる。
まるで龍気が可視化したかのように白い帯となって、フィニスの体を包む。
纏わり付くように白い帯が体に触れる度、そこに龍の鱗が現れる。それらは彼女の四肢を包み、異形の鎧の様な形状を作り出す。
帯は体全体を包み込み、やがて四散するとそこに、龍人とも異形ともつかぬ姿が現れた。
体のフォルムはそのままに、ヒトの姿から2倍近くに膨れ上がった姿。
指先は五指全てにナイフ状の爪があり、出し入れをして感触を確かめている。
足の鉤爪は大きく深く、大地を穿ち、特に顕著な変化はその尾に有った。
優に身長を超える長い尾の先には、幾つものナイフと槍を組み合わせたような形状をしている。
それはゆらゆらと動き、まるでそれ単体で獲物を探しているかのようだ。
異形を思わせるその頭部は、龍人の特徴の一つである角がなく、突起のない鎧兜を思わせる、ぬめりとした形状。その口元には牙がずらりと並んでいる。
漆黒に陽光を反射させるその巨体が動く度、質量を持ったかのような龍気が、辺りを震わせる。
ヴィロフォルティとニーナはその姿に見惚れ、フィロは目を剥き固まり、ダニスは腰を抜かしたように座り込んでいる。
ニーイは知らず知らず、斧を構え身体強化を行い、臨戦態勢だ。
龍人と化したフィニスはニーイの方に顔を向け、軽く指先で誘う。
瞬間、ニーイはフィニスに肉薄しており、振りかぶった戦斧をその頭部に叩き付ける。
しかして戦斧はその尾に弾かれ、ニーイは衝撃をそのままに、体を入れ替える。
地に足を付ければ、弾かれたように再度近づき、戦斧を振るう。
その度に尾はそれを弾き、いなし、切っ先を近づけさせない。
「身体強化!極!」
ニーイがそう叫べばその姿は揺らぎ、打撃音だけが辺りに満ちる。
フィニスは尾だけではなく、腕も使い、見えない影をやり過ごす。
そこから一歩も動く事なく、ニーイの猛攻を受ける。轟音が辺りを満たす。
「獲った!!」
ニーイの言葉とともに、フィニスのその首に戦斧が切り込まれた。
しかして、その切っ先はフィニスの鱗に阻まれ、傷一つ付ける事が出来ないでいた。
身体強化が切れたからか、ニーイの体から力が抜け、フィニスの巨体から墜ちそうになる彼女を、フィニスは優しく受け止め、地に降ろす。
早く、浅く、激しい呼吸を繰り返すニーイにフィニスは膝をつき、声を掛けた。
『今のはすごく良かったわ。得物が違えば、違った結果になっていたかもね。』
「馬鹿弟子の、仇をと、思ったんだ、けどね。得物も、そうだけど、格が、違うね。」
そう言うと、呼吸を整える。数回も繰り返せば、呼吸は落ち着き、ニーイは目の前の龍人に言う。
「事ある毎に、あんたは優しいとヴィーは言っていたが、ありがとうよ。最後の一太刀は、わざとだろ?」
『ヴィーを育ててくれた事と、練り上げきった技への褒美よ。ヒトの身では最上の結果ね。』
「全く・・・・・。馬鹿弟子も大それた事を考えたもんだ。」
『龍の形態なら、あなたでもあたしに傷を負わせる事は出来るわ。』
「本気を出させない時点で、あたしらの負けだよ。龍人とは何度かやり合ったけど、手も足も出ないなんて、あんただけだ。」
『技だけでは、得物だけではあたしの命に届かないわ。一番あたしの命に近づいたのはアローズィだけよ。』
ニーイは肩をすくめ、立ち上がるとダニスの方に向かった。そうして彼に手を貸し、立ち上げるとダニスとフェロに言った。
「あの大剣では、フィニスに届かない。新造しな。それから馬鹿旦那。あたしの斧も同じように作くっとくれ?負けっぱなしは性に合わない。」
二人は先の戦いに当てられたのか、声が出せない。口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返す。
ヴィロフォルティとニーイはフィニスに近づき、ニーイはフィニスに飛びついた。
それを片手で抱き上げるとニーイは堰を切ったようにまくし立てた。
「お姉様!すごいです!格好良いです!強いです!」
フィニスははしゃぐニーイの髪を撫でつけた。
『あなたもそのうち、龍人化出来るようになるかもね。』
ニーナを降ろすとヴィロフォルティの方に顔を向け、手招きする。
『そろそろ時間がないわ。結界がもたない。最後にヴィー。殺す気でかかってきなさい。一分よ。』
そう言われ、即座に身体強化を使う。瞬時にフェロの側に行き大剣を手に取る。
そして龍化。
大剣を正眼に構えると、ニーイがフェロをひったくる様に連れて行く。
大剣を振りかぶり、破裂音をさせるのと、彼がフィニスの前に立つのは同時だった。
振り下ろした剣の重さの慣性を、移動に使ったのだ。勿論、身体強化のおかげもある。
ただ、その刃はフィニスの尾で、剣の腹を叩かれ彼女に届く事は無い。
それでもヴィロフォルティは剣筋を崩す事無く、大剣を横に構え腕を添え、刃をその尾に立て、撫で切る。
火花が激しく飛び、フィニスの尾は押される。
そこに彼女の膝がヴィロフォルティの腹を襲う。
「身体強化極!」
彼の体がぶれるのと、フィニスの回し蹴りが轟音を立てるのは、同時だった。
見れば彼は彼女の横に居り、彼女の鉤爪が大剣の刃に食い込もうとしている。
更に彼の体がぶれ、彼女はその反対側に手刀を見舞う。そして尾の追撃も彼を襲う。
姿を現した彼は手刀を逆手に持った剣の腹で止め、尾を片手で掴んでいた。
「龍滅術!三式!刻!」
逆手に持った剣を肘で支えると、その形で突きの連続。
端から見れば、力の入れようのないその構えだが、剣の重さとその技量で無数の大剣が生まれた。
フィニスはそれを爪でいなし、彼の掴んでいる尾を一層強く振る。
彼は尾や、型に固執する事無く、尾を手放し、半歩下がり瞬時に大剣を正手に持ち替える。
「龍滅術八式!剔!」
更に突き。
今度は、体重が乗っている為か、彼女は爪では無く、手でそれをいなした。
いなすだけで無く、尾や足も使ってヴィロフォルティを襲う。
彼は突きの点を、急所では無く関節に絞って放っている。しかも突いたその先で、剣を抉るように回している。
フィニスの体から火花が飛び、良く見れば鱗に深い傷が出来ている。
対するヴィロフォルティも体中から血を流していた。しかし彼には、それは織り込み済みの事だった。
関節や、急所さえやられなければそれでいい。
ヴィロフォルティの剣の猛攻に、少し焦れたのか、フィニスの体がブレる。
瞬間、ヴィロフォルティは前に飛び出し、後ろを向き正眼に構えた。
彼のいた場所にはフィニスの尾と、手刀が繰り出されており、数瞬でも遅れれば、それらは彼の体を貫いていただろう。
「龍滅術零式!虚!」
鍔の辺りに魔方陣が描かれる。
更にフィニスの体がぶれる。そして、その姿が消えた。
ヴィロフォルティはその場に立ち、大剣を盾にするかのように振る。
徐々にその剣筋は見えなくなり、甲高い金属音がし始める。併せて赤い霧が、彼の周りに生まれる。
魔方陣はフィニスの猛攻に集中が出来ないのか、それとも彼の術が拙いのか、なかなか完成しない。
そして一際響く轟音。
彼の体は、数百歩ほど吹き飛ばされ、地面を転がっていく。
転がりながらも、轟音は続き、フィニスの姿は見えない。
転がり、止まった先で彼は飛び上がり、破裂音と共に大剣を振る。
魔方陣は完成されており、大剣の刃は赤く輝いていた。
『まあまあ、ね。』
大剣が宙に止まると、フィニスの姿が現れる。
剣は片手で、しかも指でその刃を掴まれ、ヴィロフォルティごと宙に縫い止めている。
そして彼の腹にはフィニスの尾が突き刺さっていた。
読者の皆様神様仏様。
私です。
ようやっと更新出来ました。
フィニスの戦闘はとてもスムーズに書けました。
多分、フィニスが焦れてるんだと思います。
でももう少し説明回が続くんじゃよ・・・。ごめんよ邪龍様。
さてもブクマして下さる皆様。
評価していただいた皆様。
ちらとでも見て下さる皆様。
本当に、本当に、ありがとうございます。
皆様のアクセスが、本作の支えでございます。




