告白よ!
「ねえ、ヴィー。あなたはあたし達をどう思う?」
意地悪な質問だとフィニスは思う。
流れを読まなければ、どうとでもとれるからだ。
しかし、まっすぐなヴィロフォルティのことだから、きっと答えるだろう。
望まぬ答えかもしれない、でもその時はその時だ、そう思った。
胸の中のヴィロフォルティはいつもなら顔を真っ赤にして慌てるが、今日は顔を埋めて考えている。
彼女は優しく彼の髪を梳きながら、答えを待った。
「フィニス・・・。僕は妹を生き返らせる事、死ぬ事が全部だった・・・・・・。僕はフィニスと約束した・・・妹を生き返らせる為に旦那様になるって・・・・・・。フィニスは自分より強い人が好きなんだよね・・・?・・・・・・僕はフィニスに相応しいのかな?こんな弱い僕じゃ、フィニスをお嫁さんにするなんて出来ない。」
弱々しくそういうヴィロフォルティ。
フィニスはヴィロフォルティの顔を両手で優しく包み、その顔を上げさせた。
涙で濡れているその顔、真一文字に結ばれているその唇に、彼女はキスをした。
強張るその唇を舌で優しくほぐし、彼の舌と絡めていく。
暫くはそうしてキスを楽しみ、唇を離すとアローズィに言った。
「許すわ。」
彼女は場所をアローズィに譲り、アローズィは彼の体を抱きしめた。
そうしてキスをする。
それはフィニスと違い、とても情熱的で激しいものだった。
幾度も彼の唇を吸い、舌を絡めては離し、またキスを繰り返す。
そのうち彼の手を自分の股間に導き、あてがうとすぐに身を震わせ、膝から崩れ落ちた。
ヴィロフォルティは慌ててその体を抱き留め、静かに座らせる。
彼がその手を離すまで、彼女の痙攣は続き、ぐったりと手を突いた。
「・・・アローズィがそこまで乱れるなんて相当よ?ヴィー。」
わずかに苦笑しながらフィニスは言う。
「些か・・・!!!お、お見苦しいところを、ご覧に入れました。・・・!!ふぅ・・・ヴィー様、とても素敵でした。私もこんなに滾ったのは御館様以来で御座います。」
ヴィロフォルティは訳が判らず、アローズィとフィニスの顔を交互に見る。
心配なのか、アローズィに彼が触れようとすれば、彼女はそれを手で制止する。
フィニスは彼の後ろに回り、抱きしめた。
「アローズィはね、凄く気持ち良くなっただけなの。心配ないわ。」
何の事なのか判らず、フィニスの顔を見上げるヴィロフォルティだったが、その意味を悟ると途端に顔が赤くなる。
前かがみになろうとする体をフィニスは抱きしめ、そうはさせまいとする。
「フィニス!離して・・・!!」
「駄目よ。」
結局、ヴィロフォルティは膝を折り曲げ、前を隠す格好でフィニスに抱えられた。
「随分重くなったわ。それに力も強くなってる。」
「はい。ヴィー様は随分と成長されました。本気を出せば、今の御館様の半分はいけるはずなのです。」
先ほどの痴態から立ち直ったのか、背筋を伸ばしいつもの調子で答えるアローズィ。
フィニスはヴィロフォルティの体を、所謂お姫様抱っこの形で抱え直すと、彼に頬ずりしながら言った。
「そうね。確かにあたしは言ったわ、強い者が好きと。それは今でも変わらない。でもね?ヴィー。只あたしを打ち負かすだけの男なんて、いらないわ。」
フィニスは続ける。
「あたしを打ち負かせば、それ以上の者が必ず現れるわ。あたしを倒して終わりなんてことはないの。あなたとあたしの選んだ道は、それほどに険しいのよ。」
先ほどとは違うフィニスの雰囲気に、彼は気持ちを改めた。
フィニスは彼を下ろすと、しゃがみ、彼の目線に沿うように言う。
「今まで会った男達は、あたしを倒して終わり。そんな者達ばっかりだった。皆、強さに誇りを持つだけ。次が有ると思わないな男ばかり。あなたは自分の弱さを知っているわ。気付いていないけど、それを乗り越える事も出来る。あたしはね?そんなヴィーだから好きなの。ねえ、アローズィ?」
「はい。ヴィー様。あなた様は自分をしっかりと持っていらっしゃいます。弱いという自分をしっかりと。だからこそ妹様を救えたのです。」
「あたしもこんな気分は初めてで、上手くは言えないんだけど、ヴィー。あたしはあなたが良いの。」
頬を染め、真っ直ぐにヴィロフォルティの目を見るフィニス。
恋愛やそう言った情に疎いヴィロフォルティでも、その真摯さは判った。
「・・・・・・判ったよ、フィニス。僕はフィニスの為に強くなるよ。時間はかかるけど、必ずフィニスに届くよ。フィニス?僕のお嫁さんになってくれますか?」
その言葉に、フィニスは声が出せなかった。
代わりに一筋の涙が、その頬をつたう。
彼は彼女の顔を優しく抱く。
「フィニス。僕のお嫁さん。僕は君よりずっと弱いけど、君は僕よりずっと強いけど、僕のお嫁さんだよ?」
「・・・・・・ヴィー、あなたにあたしの本当の名を教えるわ。フィニスなんて呼ばないで・・・。」
彼の胸に顔を埋め、彼女はつぶやいた。
「あたしの名はアビウスカエデス。フィニスなんて呼ばないで。お願い、アビーって呼んで・・・・・・。」
「判ったよ?アビー。特別な名前を教えてくれてありがとう。頼りないけど、宜しくね?アビー。それからアビー?僕の事も、シャミって呼んでくれないかな?」
「あたしの付けた名前は嫌い?」
「違くて・・・、アビーの本当の名前が有るなら、僕の本当の名前も呼んで欲しいんだ、君に。」
「判ったわ、あなた。シャミ。この名前は二人だけの時にとっておいてね。」
彼女は頷くと、そう言い立ち上がる。
「御館様、ヴィー様。そろそろ屋敷にお戻り下さい。お食事のご用意が仕上がっております。勿論、寝所のご用意も万全です。」
最後の方は冗談めかして言ったアローズィだったが、二人はその手を絡めてつなぎ、お互い顔をそらしてしまう。
アローズィは微笑むと、二人をエスコートする。
「寝所は冗談で御座いませば、まずはお食事をお楽しみ下さい。」
次の日からのアローズィの鍛錬は、より過酷な物へとなった。
彼女は幻惑魔法を使い、自身のその姿でヴィロフォルティに稽古を付け、上手くいかなければ容赦なく、手足を切り飛ばした。
いつもならすぐに再生、癒着するそれはアローズィの剣で切られると癒着せず、また、再生も遅かった。
加えて傷口から絶えず、痛みが襲ってくる。
幻惑と対戦した時など、負ければ必ず心臓を貫いてきた。
彼女はそれでも彼に立ち上がる事を命じ、剣を振るう事を強要した。
ヴィロフォルティはそれに抗う事はせず、愚直に彼女の師事を聞いた。
日中は稽古を付け、夜は一人日が昇るまで、稽古を思い出しながら、剣と体の流れを丹念になぞっていく。
そうしてそのまま、次の日の稽古に入っていくのだ。
相変わらず、龍は大空を占有し何かを探している。
アローズィはいかななる手管か、その中でも横暴に振る舞い、質の悪い龍だけを館に誘い込み、幾度となくヴィロフォルティの相手をさせた。
異常ともとれる鍛錬の成果か、または龍人の動きに慣れてきたのか、一方的に攻められる事は無くなったが互角とはいかず、その攻撃に対処しきれず、深手を負う。
その度に叱咤が飛び、満身創痍で倒したと思えば、そのまま幻影魔法で再戦し、より苛烈な死合いを要求した。
また、龍の体組織の動きを阻害する術式も伝授され、これにはアローズィも手を焼いた。
元々、魔術の行使に疎いヴィロフォルティに術式は難解で、アローズィは叱咤する事無く、辛抱強く彼に教えた。
そんなある日、日が中天を過ぎ、食事と小休止をとっている時、アローズィは剣について、ヴィロフォルティに言った。
「この剣に斬られるのは苦痛でしょう?」
彼は素直に頷いた。
「その昔、龍舌華という花の効能を術式化出来ないかどうか研究したのです。その花は龍にとって毒となります。その結果が、この剣。”龍咬丸”です。」
片刃に反りの入ったその剣を見せる。
長さは片腕と胸の長さくらい。厚みは人の親指程だった。
「東方で言う、”刀”に似せて作りました。斬る事と突く事に特化した剣です。」
彼女はそう言うと剣をヴィロフォルティに渡す。
「右手で持ってみなさい。」
そう言われ持ってみれば、握った瞬間に剣を取り落としそうになる。左手を添えればその剣は耐えがたいほど重くなった。
否、腕に力が入らないのだ。何か力を吸われているわけでは無く、只、力を入れられないのだ。
その様子を見たアローズィは満足げに言った。
「ほぼ龍化は完了したようですね。その剣は龍のいかなる代謝をも阻害します。ヴィロフォルティ、あなたは人間を脱しました。」
彼女は剣を拾い上げ、ヴィロフォルティを抱きしめた。
「おめでとうヴィロフォルティ。あなたはアビウスカエデス様と同じ存在に至ったのです。」
しかし、そう言われても彼には実感が湧かない。
アローズィには一矢報いる事も出来ず、龍人相手には倒しこそすれ、不死の体が無ければ、それも叶わない事だったからだ。
「まだ二人には全然敵わない。そんな僕が喜んで良いの?」
アローズィはヴィロフォルティの髪を梳きながら言った。
「ヴィロフォルティ。まだ気づきませんか?私とあなたの太刀筋が違う事に。」
そう言われても、どうにも納得がいかない。確かに教えられた剣筋はまだ拙い。しかしそれほどの違いがあったろうか?
「納得がいかない顔をしていますね?では、私の剣筋とあなたのそれを比較してみましょうか。」
そう言うと、幻惑魔法で二人の姿を作り上げる。
そうして同じ型をさせてみた。
二人の動きは全く同時というわけでは無いが、ほぼ同じ動きをしている。
若干、ヴィロフォルティの動きが鈍いのが判る。
いくつかの型を再現させてみて、彼女はヴィロフォルティに問うた。
「気づきませんか?あなたの太刀筋の遅れが何であるか。」
読者の皆様神様仏様。
私です。
少し仕上がりました。
これが中だるみというやつでしょうか。
ぼちぼちと、やっていきます。
皆様も、ぼちぼちとお付き合い頂けましたら、幸いです。




