告げるわよ!
この世界には、人魔と一線を引く種族が居る。
人魔双方の総戦力を遥かに超え、それゆえに干渉する事を辞めた種があった。
その種族は自身のテリトリーと利益が犯されることさえなければ、不干渉を貫いた。
それは自然と不可侵の掟となり、その種族は畏怖と尊敬と恐怖を手に入れた。
世界は安定に向かい、種族の安定は揺ぎ無いものだった。
そのはずだった。
ある日、その種族全体の脳裏に、布告が聞こえた。
そんな事は、その種族の王にしか出来ないことだった。なのに、王はそれを発しておらず、また、王自身もその布告を聞いた。
「”アビウスカエデス”の名の元に、布告する。今これより龍族の安寧は潰えたと知れ。」
龍族は騒然とし、幼龍は怯え、年若い龍は猛り、古を知る龍達は慄いた。その名は古々しく、古代を生きた龍達には忌み名とされていた。
王と龍を取りまとめる者達は騒然とし、王と3者の代表が集まり、協議が行われた。
それぞれが我の強い龍達である為、協議という名の罵倒の嵐だったが、王の一言で、場は静まり返ることとなった。
そしてそれは、王の名の元に、全ての龍に通達された。
「伝説であろうが、我らに仇成すなら、滅ぼすまで。」
人と魔と龍。一度は安定を得たこの世界だが、この言葉により、再びの動乱を迎えた。最強の種が、それを始める事になった。
「御館様、お始めになるのですか?」
「そうよ?旦那様の仕上に入らないと。」
「ヴィー様に成しえるので御座いましょうか?ドラゴン種とは次元が違います。」
「そこはあたしが調整するわ。久しぶりにあの馬鹿共にも面通しをしておかないと、増長するからね。」
「古の動乱が始まってしまいます。御館様。」
「あたしも少しは落ち着いたわよ。昔みたいに粋がって喧嘩売ったりはしないわ。そんなことしたらヴィーの分がなくなっちゃうじゃない。」
「御館様のそれは、いまひとつ信用が出来ません。」
「会うのは龍王だけよ。あいつが付け上がっていたら、みんなの前で昔話でもして、鼻をへし折ってくるわ。」
「昔話で鼻をへし折れるとは、さすが御館様です。」
「まあね。アローズィ?これからのヴィーとの死合いは、貴方の全力でやりなさい。”龍殺し”とは何なのかをヴィーに叩き込みなさい。」
「宜しいのですか?恐らくヴィー様を壊してしまいますが。」
「”龍殺し”のアローズィ。彼を消滅させなければいいわ。壊しても、貴方が何とかするでしょ?」
「その通りでございますが・・・、アローズィは気が乗りません・・・。」
「どうしたの?」
「情が移ったので御座いましょうか。私自身も、あの頃と変わってしましました。」
「何もあの頃みたいにすることは無いわ。草木を育てるように、ヴィーを育てなさい。余計な枝葉を断ち切るようにヴィーに接しなさい。」
「時間がかかってしましますが、宜しいのですか?」
「ヴィーは成し遂げる。時間が必要なのは、貴方の方よ。荒んだ気持ちになったら、ニーナに癒してもらいなさいな。」
「あの真っ直ぐな快活さは、確かに癒されます。・・・・・・承知いたしました。”龍殺し”のアローズィ。アビウスカエデス様のご期待に沿えるよう、微力を尽くします。」
「ところでヴィーの龍化はどの程度?」
「九割といったところに御座います。お体的には安定して御座います。精神面は、モルスレジナ様のお墨付きに御座います。」
「・・・・・・。やっぱり跳ねっ返りに合わせてみようかしら?」
「死合わせるのはまだ早いかと・・・。”龍ごろし”とはどういうものか、見て頂くことになりましょうか。」
「じゃあ、遠からず手配するから、そのときにはお願い。」
「承知いたしました。」
「じゃあ、少し行ってくるわ。そうね、ここは手狭だから、どこか広めの場所に屋敷を設けようかしら?」
「では、ドラコテレラに近い場所に致しますか?」
「・・・・・・逆に遠くしましょ。嫌がらせするわ。」
「それですと・・・以前、ヴィー様が滞在なされた魔領の村に奥深い森が御座います。そちらなどは?」
「任せる。使い勝手がヴィーの良い様にして頂戴。」
「承知いたしました。」
「と、言う訳に御座います。」
老ドワーフを前に、アローズィは屋敷を作る旨を説明に来ていた。
隣にはレウィが座り、対価の提示をしていた。
外には荷馬車が列を作り、そのうちの2台などは、食料と火酒が山と積まれている。
「あれか?嬢ちゃん。龍共が暴れる場所を貸せと。で、村には被害が出ないようにする、と。」
「左様にございます。」
「そんな芸当出来るんかのう?」
「私めなら出来ます。以前龍と都市防衛をやった経験も御座います。」
胸を張り答えるアローズィに、渋い顔で老ドワーフは言う。
「ここはいわゆる”はぐれ者”の村じゃ。群れに馴染めず、種の生き様からはぐれた者がここに来寄る。目立つ真似はしとうないのが本音じゃ。」
「対龍用の結界と、隠蔽結界の準備も出来ますよ?」
不思議そうな顔をして、こともなげに言うアローズィ。そこにレウィがダメ押しする。
「商会と致しましても、この村を守る手管は整えてございます。なにより、御館様からの援助があれば、手を出すものはいないでしょう。」
「間抜けはどこにもいるもんじゃ。そいつらは?」
そう訊ねれば、アローズィとレウィは即答した。
「ここを女王直轄領としましょうか。そのくらいの無茶は利きます。」
「子飼のドラゴンを2頭、この村に就けましょう。人化させれば、目立つ事も無いかと。」
老ドワーフは嘆息する。
「とんでもない事をさらりと言いよる。・・・・・・これだけは約束せい。我らはぐれの民の安寧を犯さんと。」
「御館様の名の元に。」
「女王レウェルティの名の元に。」
「今言うた条件で、話を呑んでやる。近いうちにあの小僧を寄越せ。装備の点検をせんとのう。」
フィニスは今、龍王の居城を歩いていた。その姿は自然体。ハイネックに背中が臀部付近まで大胆に開いたロングドレス。ハイヒールをかつかつと鳴らし、廊下の中央を女帝然として歩く。
今の彼女は、日頃抑えている何もかもをさらけ出していた。
覇気、龍気、魔気、闘気、邪気。
その全てが城にいる龍達を圧倒し、道を塞ぐ事ができない。
蛮勇を奮う者もいるにはいたが、全てその圧倒的な気配に、何もできず膝を突いた。
それも分からぬ愚鈍な者は、すべて、人の姿のフィニスに、命乞いをするまで叩きのめされ、無様に地に這った。
彼女は以前にも来た様な気安さで闊歩し、とうとう龍王の居室前までやってきた。
そこには人の大人の頭二つ分は背の高いフィニスより、2倍は超える姿は人だが、その頭部は龍の、龍人とも呼ぶべき者達が立ち並び、フィニスを警戒していた。
「止まれ!狼藉者!ここは龍王の居室である!速やかに縛に就き報いを受けよ!!」
声は抑えてあるが、威圧感と龍気を前面に出した声がフィニスを襲う。
当のフィニスはそよ風でも受けたかのように、何事も無くそれを受け流し、答えた。
「その龍王に話があるのよ。それにあたしは係る火の粉を振り払っただけ。先に手を出したのはそちらの方よ?」
「戯言を!?」
「あのね?こちらは穏便に話がしたいの。幾ら気の長いあたしでも、しまいには怒るわよ?」
「お前のような狼藉者に、あまつさえ人に、王はお会いにならぬ!」
フィニスは盛大な溜め息をつく。
「近衛も質が落ちたわ。相手の見極めも出来ないなんて、なんて無様なの。」
そう言うと、闘気と怒気を全開で放ち、王の名を呼ばわる。
「デラコレクス!!何とかなさい!!いつまで出てこない気なの!!」
その声は音だけではない、物理的な何かを伴って、城を揺らす。
声をまともに浴びた龍人たちの半数は 戦意を失い残る者もうろたえている。
そこに扉が開き、一人の龍人が現れた。
「王がお会いになるそうでございます。」
「まったく、どれだけ手間を掛けさせるのかしら。先触れは出したはずよ?」
その龍人は答えず、ただ腕でフィニスを招き入れた。
彼女が進めば、龍人達は道を開け、ただ見送った。
そこに居たのは、今までにいた龍人より、さらに大きな者が立っていた。
「久しいわね。」
フィニスは執務机というには余りに巨大なそれに近づき、そう言う。
「そこのあなた。椅子は?」
そう言えば、先ほどの龍人が、彼女の背丈に合った椅子を用意する。
「気が利くわ。貴方のような者達が多ければ、あたしも苦労しなくて済むのに。」
そう言うと出された椅子に妖艶に座り、龍人を見上げる。
そこには気負いも、恐怖も、何も無く自室に居るかの様な雰囲気で相手の言葉を待つ。
「どうしたの?黙っていちゃ、話にならないわよ?」
「・・・・・・あの布告は何のつもりだ?」
「龍に手が届くものが現れた。それだけよ?」
涼しい顔で言い放つフィニス。
「また始めるつもりか?あの惨劇を。」
「失礼にも程があるわ。あんた達龍人が不甲斐ないからでしょうに。」
肩を竦め、腕を組み大柄な龍人を見上げる。
「あたしは、あたしより強い旦那様を見つけたかっただけ。雌一頭に半死半生にさせられる貴方たちが悪いわ。」
「番を見つけられずに引きこもっていたと聞いたが?」
「そうなのよ!あんまりあんた達が不甲斐ないから、不貞寝してたら、見つけちゃったのよ!素敵な人!」
「ヒト?」
「そうよ?龍人に匹敵する最高の旦那様。今から仕上げに入るわ。」
そこで初めて王は雰囲気を変えた。
そこには侮蔑の感情が浮かんでいる。
「それでそんな醜い姿で現れたということなのだな?」
「あら?価値観の違いよ?どんな種族にもそれぞれの価値観があるわ?今更龍人が特別だなんて思わないことね。」
「我らはすべての種の頂点にいる。それを乱しているのはお前だけだ。アビウスカエデス。」
「視野狭窄もそこまで行くと立派ね。恐れ入るわ。あなた過去に何頭、人に敗れたか解ってるの?」
「我らは負けてなどおらぬ。すべてはこざかしい人間の策とやらのせいだ。」
「だからお前は、あたしに相手すらされないのよ。愚か者。」
底冷えのする声で言い放つフィニス。侮蔑だけではない、軽蔑と呆れがそこにあった。
「お前の言う小賢しい策でのし上がってきたのは誰?腕っ節は一流程度。光るものもない凡庸の、自称天才とやらがしてきたことは何?」
フィニスの容赦のない本気の威圧感に、部屋中の龍人達が凍り付く。
「お前の言う、醜い人の姿ですら、これだけの事が出来る。あたしが暫くいない間に、また俯抜けたのね?まあいいわ。
あたしが来たのは、お前達に伝えるためよ?お前達の言う醜い小賢しい人間が、お前達を殺しに来るわ。3匹ほど使える奴を用意なさい。・・・そうそう、跳ね返りを寄越してもいいわよ?」
王は絞り出した声で言う。
「お前に付き合う義理はない。」
「あら?拳一つで戦意を挫かれた凡才が何か言ってるわ?そこの気の利くあなた?こいつはね、あたしに鼻であしらわれて戦えなくなった能なしよ?ずいぶんと苦労してるんでしょ?こんな無能が上司だと、苦労するからね。」
その言葉に激高したのか、龍の王は拳を机に叩きつけようとする。
その刹那、フィニスから膨大な殺気が溢れた。
その殺気に呑まれ、王の手が止まる。場に居る者は身動きどころか、息すら出来ない。
「無様、無様!無様!!それでも一国の王か?この痴れ者が!!」
当のフィニスは椅子から身じろぎもしない。
「無能に告げる。これから、身をわきまえぬ者、その身分に燻っている者、強者たらんと欲している者、3匹を寄越しなさい。仕上げはお前よ!場所はあたしの残り香を追いなさい。来なければ再度布告することになるわ。そして龍を殺す者がお前達の国に現れることになる。」
そう言うと殺気を消し、砕けた調子で最後に言った。
「あたしは高みの見物といくわ。あたしが見初めた旦那様は、幼龍だろうが容赦はしないわ。」
立ち上がると、椅子を用意した者に労いの言葉をかけ、その扉を打ち砕く。
「あたしの知る限りで、一番無力な王よ。期限は特に設けないけど、あたしはそんなに気が長くないわ。心しなさい。」
読者の皆様神様仏様。
私です。
情けない限りですが、連日投稿は無理っぽい勢いです。
書けそうだけど、微妙です。
エタりはしませんが、暫く間が開きそうな気配です。
ブクマ付けて下さる方々。追っかけて下さる方々。
誠に申し訳ありません。




