閑話その二よ!
ヒトと魔の領域では、勇者と魔王が相打ちになったと、公表された。
そして、次代の魔王が誕生した事も、明らかになった。そして魔領が三分割され、それぞれに宰相を置き、合議制での魔国が誕生した。
その報に、ヒトは恐怖したが、魔王側は一つの提案を持ち込んだ。
相互不可侵。
現在の国境の一部を見直し、国境に面する地ではそれぞれに交易都市を造ることとなった。
その交易都市は、ダンジョンを有する都市で、人魔双方が利用する事が出来るとされた。
これには人魔双方の商会が暗躍し、調整をおこなった。
魔のタカ派、穏健派は三竦み状態となり、一部跳ね返りは、新しい魔王の裁きを受けることとなった。
魔王はその玉座に留まることなく、両派閥は、いつ現れるか分からない魔王の姿に怯えた。
人の国は大いに戸惑い、また、宝剣も失われたこともあって、目立って魔国に対敵できなくなった。
そこで人の国は各ギルドの拡充を図り、交易都市や、双方が共有する土地での強者育成に力を入れる事となった。
資源は交易都市の存在が大きくなり、交易都市を持たない領地との格差が懸念されたが、そこは人の商会が日に影に活動し、調整を行っている。
また、人の側にも不満を持つものや、貴族達が暗躍したが、それらの言葉に耳を貸すものは少なく、そうした者達は、人知れず消え、貴族達もその活動を維持できず、没落していった。
一番の懸念である、魔国の”食料”事情は、表向きは人の国の食糧生産と魔国の資源での交易で賄われ、裏では双方に一定数の”行方不明”者が現れることで、決着をつけた。
人と魔の共存はこうして始まりを迎えた。
わだかまりや、衝突は幾多もあろうが、相互に利益が芽生えはじめた今、表立った事態にはならなくなった。
そうして人と魔は、初めて共存という道を歩み始めた。
レウェルティは商会の者として、屋敷にあわられた。
彼女が玉座に就いてより1年と少し、ようやく余暇が取れたのだ。
魔国の情勢が一段落し、今の彼女は、商会の頭取として、活動をしていた。今回は礼も兼ねてご機嫌伺いというところだった。
商会の馬車より降り立ち、正門で見た景色に、彼女は唖然とした。
屋敷にいる二頭のドラゴンが、追いかけっこをしており、そのうちの一頭の頭の上に少女が乗ってそのドラゴンを使役しているように見えた。
楽しげに笑う少女はレウェルティの姿を見ると、ドラゴン達を定位置に就かせ、とたとたと駆け寄る。
「初めまして!どちら様ですか?」
屈託の無い笑顔で彼女を見上るその姿に、レウェルティは一つ思い当たる事があった。
「初めまして。あたしはゴートシープ商会の者です。もしかしてあなた、ヴィロフォルティの妹さん?」
「お兄ちゃんをご存知ですか?あ、すこしお待ちください。」
少女はこめかみに人差し指を当て、なにやら考え込む。
少し経つと玄関からアローズィが現れ、正門がひとりでに開いた。
「レウェルティ様ですか?どうぞお入りください。」
少女はそう言うと、レウィが敷地に入るのを見届け、一緒にアローズィの元へと歩いていく。
「お兄ちゃんがご迷惑をお掛けしませんでしたか?」
「いいえ?迷惑をかけたのはあたしの方よ。彼には返しきれない恩があるわ。」
「お兄ちゃんがお役にたって、良かったです!」
「あなた念話も出来るのね。凄いわ。」
「えへへ・・・。まだ上手に出来ないんです。」
道すがら他愛も無い会話をしながら、玄関先まで辿り着くと、少女はとたとたとアローズィにの元に向かう。
「アローズィさん!お客様です!」
「そのようですね。ニーナ様?アーとウームはちゃんと言う事を聞く様になりましたか?」
「はい!アーちゃんは最初から仲良くしてくれてます。ウーム君は気難しいけど仲良くなると凄くいい子です!」
「それは良う御座います。レウェルティ様、御久しゅう御座います。」
アローズィが礼をすれば、釣られてニーナも頭を下げる。
「ニーナ様と呼ばれるのですね。ゴートシープ商会頭取、レウェルティにございます。お見知りおきを。」
「はい!有難うございます。あっちの少し白いのがアーちゃんで少し黒いのがウーム君です!」
遠めにはとぢらがどちらか、分からない2頭を自慢する、
「二頭の紹介はまた後日。レウェルティ様、お入りください。ニーナ様もご一緒に。」
応接室に通されると、そこにはフィニスが居た。
なにやら小難しい顔をして、テーブルの上におかれている羊皮紙を眺めていた。
「御館様。レウェルティ様とニーナ様をお連れいたしましてて御座います。」
「・・・・・・掛けて頂戴。」
まったく気の無い声で、着席を促すフィニス。
レウェルティはいぶかしみながらも、ソファーに座り、ニーナは少々格好をつけて、楚しとやかに座る。
「・・・フィニス様?如何されたのですか?」
「ちょっとねぇ・・・ヴィーの具合がねぇ・・・」
羊皮紙を手に取っては、難しい顔で眺め、別の羊皮紙を取る。
「何かあったのですか?」
「モルスレジナ。」
目もそらさず、そう言えば、となりの部屋から、もそもそとモルスレジナが出て来た。
「・・・・・・うるさいわnだれ!?」
目の下に薄いクマが出来、元のずんばら髪にもどっている。眠たげに出て来て、レウィを見るやフィニスの陰に隠れた。
「ゴートシープ商会頭取、レウェルティにございます。」
「・・・・・・な、なんで、そん、そんなやつが、こ、こ、ここに、いる、いるの?」
レウィは立ち上がり、礼をするが、モルスレジナはいつものドモリ癖が出てしまっている。
「モルスレジナ。その人見知りを何とかしなさい。」
「モルスレジナ様?ニーナが手を繋いで差し上げます。」
「・・・ありがとう。・・・・・・で、な、何で居るの?」
てとてととニーナが近付き、その手に触れる。少し落ち着いたのか、普通に戻る。
「知らない。それより説明。」
「わ、分かったわよ・・・。ヴィーの龍化が思った以上に早いのよ。今まではニーナの事で気力で抑制してた様だけど、生き返ったでしょ?気が緩んだのか、精神に影響がでてね。今、休ませているところよ。」
「そう言う訳よ。今対策を考えてるの。」
「あたしや商会で、お役に立てることはございますか?」
「とりあえず、食料を何とかして頂戴。大型の獣10頭単位で。ドラゴンがあるなら、それに越した事は無いわ。」
「ドラゴンはなんともいえませんが、食料は直ちに用意させます。他にお役に立てることはございませんか?」
「モルスレジナ?」
頤に手を当て、考える。実は一つだけ、試せない事があった。
「そうね・・・・・、錬金素材の龍舌華という花は無いかしら?できれば一株欲しいけど。」
「・・・・・・商会の錬金専門の者に聞かないと何とも言えません・・・・・・。」
「まあ、知るわけ無いわよねぇ・・・。」
「あれがあればいいのね?」
「知ってるの?」
「昔使われた事がある。当てはあるから、だれか行ってきて。」
誰かといいながらも、モルスレジナを見上げいかにも含みがありそうな顔でフィニスは言う。
「あ、あた、あたしは嫌よ!しら、知らないば、場所になんか、い、いかな、行かないんだからね!」
当然、彼女は拒否するが、フィニスの視線は動じない。
騒がしくやり取りする二人を見ながら、ニーナはふんすと何かを決心した様に言った。
「お姉様。モルスレジナ様。あたしが行きます!」
しっかりとフィニスの眼を見て言う。
「ほら、あなたが駄々をこねるから。」
「あたしのせい!?」
「お兄ちゃんはあたしを生き返らせてくれました!今度はあたしがお兄ちゃんを助けるんです!」
「無理。とは言いませんが、無茶で御座いますね。」
アローズィが冷静に判断を下す。が、その顔には笑みが浮かんでいた。
「かわいい子には旅をとやらよ?ニーナ。無茶をする覚悟は出来て?」
「はい!お兄ちゃんは無理ばかりしてます。あたしも無茶しないと、お兄ちゃんを助けられません!」
「こんな小さな子がこういってるのに、あなたときたら・・・。」
「飛び火した!?」
フィニスは少し意地悪な顔をして、モルスレジナにそう言うと、ニーナに微笑んだ。
「とにかく。こちらへいらっしゃいな。」
ニーナはしっかりとした足取りでフィニスの前に立つと、彼女はニーナを抱きしめた。
そしてニーナの額に指を当てると、指先が光り、暫らくするとそれは収まった。
「・・・・・・。制限を解除したわ。体の動かし方は憶えていて?」
そう言われ、手のひらを開いたり閉じたりしながら、確かめるニーナ。
「いつも力を抜く事。本気になったときは、相手を殺すとき。」
「良く出来ました。忘れちゃ駄目よ?」
ニーナが微笑むと、フィニスはアローズィに指示を出す。
「旅装の準備をして頂戴。それからレゥエルティ?人と魔の双方に触れを出しておいて。ドラゴンが通ると。」
「旅装の準備はあたしがやるわ!」
妙に意気込んでいるモルスレジナが口を出す。アローズィは黙って頷く。
「承知いたしました。フィニス様。宜しければ、ドライアドをお借りしても?」
レウィが訊ねれば、フィニスも黙って頷いた。
旅装の支度を終え外に出ると、陽光を浴びるニーナは、なんとも派手な装いになっていた。
黒のロングブーツに、赤のフード付きロングマント。体の割合に対して大きめのサイドバック。
中の服装も赤のチュニックドレスをこども用に仕立てた感じで、太目のベルトにサイドポーチとマチェット。襟元などには刺繍が入ったフリルがほどこされている。
このコーデを誰が行ったのか。やり切った感を出しているモルスレジナだった。
彼女は得意げに胸を張り、ニーナの周りをるくる廻っている。
「どう?ニーナの可愛さを存分に引き出したこの衣装!あたし凄くない!?」
とうのニーナはロングマントをめくって確かめてみたり、ブーツをこつこつと鳴らして、上機嫌だ。
「あたしも大概派手目なのは好きだけど、これはちょっと・・・。」
フィニスは何故か一歩引いて、二人を見ている。
「御館様、あの服凄いですよ?対候、対魔、対刃と防御全振りの仕様です。中のチュニックは即死耐性まで。」
アローズィは興味深げにそれらを分析している。
「モルスレジナ様!ありがとうございます!あたしこんな綺麗なお服着るのは初めてです!」
「でしょう?でしょう?あたしもこんな妹が欲しいわぁ!そうだ!セルベとメイド達の服も替えましょ!」
「セルベ様が聞いたら、倒れてしまいそうですね。あの方にもいい事があると良いのですが。」
ニーナとモルスレジナはきゃっきゃと喜び、アローズィが従者の不幸が救われん事を祈る。
「本人達が良いのなら、それで構わないけど・・・。アー!ウーム!ニーナのお供をなさい!」
2頭のドラゴンは、フィニスの前にその首を地に着ける。
「場所はドラコールトスよ。お前達になじみのジジィが居るわ。そこに連れて行きなさい。」
2頭は咄嗟に首を持ち上げ、顔を見合うと同時に首を振った。
ニーナはその姿を見ると、不思議そうに2頭に近付き、言った。
「その場所は、嫌なところなのですか?」
ヒトなら汗を書いているであろう様子で、顔を見合し、これもまた首を振る。
『あのじじぃはにがて』『すきあらばりゅうぎょくをたべさせようとするのがきらい』
念話でニーナに伝える。
「お話するのはニーナです。二人は後ろで見ていてください。」
『『いや』』
「・・・・・・お前達?主人のいう事を聞くのも嫌なの?」
フィニスのその言葉に2頭は固まる。ふるふると震えてすら居る。
『『にーなはすき。ふぃにすさまそんけいしてる』』
「なら連れて行きなさい。4日で帰ってきなさい。命令よ。」
2頭のドラゴンは力なく頭を垂れ、ニーナはアーに近寄っていく。
「アーちゃん!お願いします。」
『つぎはぼくのばん』『あたしおねーちゃん』
「アーちゃんが元気良く飛んでください!ウーム君はあたしが落ちたら助けてください!」
『あたしがんばる』『にーなたすける。がんばる』
「ニーナ?早々荒事にはならないと思うけど、なったら、全力でやり返しなさい。」
「殺しちゃうんですか?」
「そう簡単にくたばりはしないわ。大丈夫よ。」
「分かりました。アーちゃん!いこ!」
彼女はドラゴンの首によじ登ると、定位置に着いた。
「じゃあ、行ってきます!」
「気をつけてねー。」
「あ、かばんの中におやつ入れといたから!ゆっくり食べるのよー!」
いつもの調子を崩さないフィニスに、やたら興奮しているモルスレジナが言う。
2頭の龍は、空へと舞いあがり、屋敷を一周すると、急加速。あっという間に屋敷を後にした。
「モルスレジナ、アローズィ、もしものときの準備は?」
「細工は流々よ。深層心理に細工してるから、エンシェントドラゴン相手に後れを取る事は在り得ないわ。」
「標識はつけて御座います。いざとなれば、私めが転移可能です。」
ドラゴン達の飛翔は、ニーナには遅く感じられた。
山々の頂上はすぐ上に見え、流れる景色は見たことがないほど早い。
しかし、逸る心はそれすらも、もどかしく感じていた。
『アーちゃん。ウーム君もっと早く飛べる?』
『とべるけどあぶないよ』『ここはくうきがこゆい もっとたかくあがらないといけない』
そう言いわれるが、いまいちピンと来ない。
『もっと高く上がって、危なくない方法はあるの?』
『あることはあるけど だいじょうぶかな?』『まくをつくって いきができなくなったら おりてくればいい』
『じゃあ、そうしようよ。』
即答だった。
2頭は一直線に並び、魔法で風の膜を作る。
そうして一気に高度を上げると、音を抜き去り飛翔した。
その勢いは逸る心を抑えるのに十分な速さで、ニーナは歓喜した。
『すごい!すごい!アーちゃんウーム君かっこいい!』
『でしょでしょ』『ぼくらはかっこいい こんなにはやくとぶのは ひさしぶり きもちいい』
眼下に見える景色は、見たこともないほど遠くまで見え、いつもは見上げるだけの雲まで、下に見える。
その雲さえ、嵐の後の川のようにものすごい勢いで、下方に流れる。
途中、2、3度の休憩を挟み、森があればその奥で眠り、2日目の朝に切り立った山の中に辿り着いた。
そこには白と青の花弁がある花が、広大に、無数に咲き誇っていた。
『ついた』『ドラコールトス ついた』
広がる花畑の奥には洞窟があり、その前に白いドラゴンが眠っている。
『じじぃねてる』『いまのうち はやくかえろう』
2頭のドラゴンは言う。
「だめです。そんな事をするのは、泥棒です。ちゃんと話をしてからじゃないとだめです。」
ニーナは花畑を迂回して、ドラゴンに近付こうとする。
2頭はニーナのフードを爪で引っ掛けて止める。
『じじぃ おきたらうるさい』『ねてるいまがこうき どろぼうじゃない ここはふぃにすさまのもの』
「でもお花を育ててるのは、あのドラゴンさんです。不義理はいけません!」
『こえおおきい じじぃおきちゃう』『じじぃ おきたらめんどうくさい はやくかえろう』
『誰がジジィで面倒じゃ、馬鹿ひ孫共めが』
いつの間にか白いドラゴンは首をもたげ、こちらを見ている。
『じじぃ おきた』『ああ めんどうくさい』
『久しぶりに顔を見れば、面倒だの何だの。可愛げのないひ孫共じゃ。』
「おじいさーん!あたしが見えますかー!」
『オマケに人間を連れてきよる。まっこと面倒ごとを持ってくる。』
ニーナは声に構わず、花畑を走って迂回し、白いドラゴンの前に立つ。
「こんにちはドラゴンのおじいさん。あたしはニーナです。」
白いドラゴンはニーナを睥睨し、答えない。
「お姉様のお願いで、りゅうぜつか?を貰いに来ました。一株分けてもらえませんか?」
ニーナがそう言えば、ドラゴンは洞窟を揺るがす勢いの咆哮を、ニーナに向ける。
花は横倒しに揺れ、ニーナはその咆哮で2歩ほど後ろにずれた。
「凄い大きなお声です。おじいさんは元気なんですね!」
まるで気にした風も無く、ドラゴンに近づくニーナ。
その姿に苛立ったのか、前足を一歩踏み出し、噛み殺さんとその口をニーナに向けた。
まさに彼女が食い殺されんとした時、ニーナが”吼えた”。
「だめっ!!」
その声はヴィロフォルティの龍の咆哮に似て、白いドラゴンを揺らし、右手がドラゴンの下あごを捉え、その顔を揺さぶった。
『あれきついよね』『ちかくであれをされると ほんとうにびっくりする』
2頭のドラゴンはしみじみと声をそろえる。
強烈な一発を食らった白いドラゴンは体を崩し、脳を揺さぶられでもしたのか、横倒しになる。
ニーナは慌てた。
そこまでのことをしたつもりはなく、ましてや老いたドラゴンともなればどうなるかと思い、その顔に駆け寄る。
「ごめんなさい!そこまでするつもりなかったの!大丈夫?おじいちゃん!?」
『そんなことでじじぃまいらない』『じじぃ げんきだけがとりえ しんぱいない』
2頭は言うが、動かないドラゴンの姿に、ニーナは心配げに鼻先をさする。
ドラゴンは動こうとしない。
『じじぃえんぎへた』『じじぃみえみえ にーなのやさしさに あまえてる』
その念話にドラゴンはぱちりと眼を開け、ニーナを見る。
『フィニス様の匂いがする。』
「フィニスお姉様のお使いできたの。ごめんね、痛くなかった?大丈夫?」
『フィニス様に似て、なんとも優しい子じゃ。それに比べて馬鹿ひ孫達のひね様ときたら。』
『じじぃすねてる?』『さいきんきてないから すねてる?』
『拗ねてなどないわい!』
身を起こし、首はそのままにニーナに話しかける。
『フィニス様が龍舌華をご所望となれば、渡さぬわけにはいかんな。好きなだけもって行くといい。お、竜玉は食うかの?』
『はじまった』『じじぃ にんげんは りゅうぎょくをたべれない』
『昔はアーもウームも喜んで食っておったと言うのに、悲しいのう。』
「じゃあ、三株ください。一株はあたしが育てたいの。竜玉は小さいの一つください。」
『じじぃにだまされちゃだめ』『じじぃ おとなげない』
『ニーナは優しいのう。小さいのを、一個あげよう。』
そう言うとそのつめ先に光が集まり、一つの珠を作る。
両手のひらに余る大きさだが、それはそれは大事そうにニーナは竜玉を受取った。
「白いけど虹色でぴかぴかです!おじいちゃんありがとう!」
『・・・おじいちゃんいっこちょうだい』『・・・ぼくもいっこちょうだい』
白い竜は大口を開けた。どうやら笑っているらしい。
『いつもそうだと可愛いのにのう。どれ、大玉を二つあげようかの。』
2頭はその口半分くらいの竜玉を咥え、ニーナを乗せ、家路に就いた。
「おじいちゃんまた来るねー!!」
『じじぃまたくる』『こんどは にーなもいっしょ』
『楽しみが増えたのう。10年くらいで早めに来いよー。』
山を越えると、再び音を置き去りにして、屋敷に向け、飛ぶ。
竜舌華は無事、モルスレジナの元に届けられた。
彼女は狂喜し、フィニスはなにやら苦い物でも見るように顔をしかめた。
「そいつは龍の代謝を阻害する働きがあるのよ。希釈すると胃薬になるんだけど、実際、苦いしね。」
何故あの花畑を作ったのかと問えば、さらりとこう言った。
「ただの嫌がらせよ。他の連中に、使えばやり返すぞってね。それにあのじーさんは花が好きなのよ。」
早速モルスレジナは竜舌華を霊薬として仕立て、フィニスに見せた。
彼女はそれを見るや顔をしかめるが、その品質には納得が言ったのか、ヴィロフォルティに使う事を許可した。
後は投薬するだけなのだが、ニーナはそれを見たがり、フィニス達はそれを止めた。
「気持ちは分かるけど、今のヴィーに会わせる訳には行かないの。彼は今、とても見せられた状態じゃないから。」
モルスレジナはそう言い、フィニスはただ一言「ダメよ。」とだけ告げた。
ニーナは尚も食い下がったが、フィニスはヴィロフォルティが彼女に残した言葉を伝えた。
「黙っていなくなったりしない。必ず帰る。」
それを聞いたニーナは、おとなしく引き下がるしかなく、2頭のドラゴン達と共に兄が癒えるのを待つしかなかった。
フィニス達は地下に降り、ニーナが居た部屋とは別の、地下牢然とした扉を開いた。
広大なそこにあったのは大量の骨の山と腐臭。そして自身の大剣により、石壁に縫いとめられたヴィロフォルティの姿があった。
剣はその長大な刃の中過ぎまで壁に刺さっており、彼は自力で動いたのか、大剣の柄まで前に出てはいるが、それを引き抜ける状態には無かった。
なぜなら、その左手は、元の彼の体以上に肥大化し、右足もまた、同じだった。
龍の鱗は異常なほど大きく、人である体を侵食し、その口は彼の頭蓋を変形させ、ワニ同然の形をしている。
しかし意識は彼の物であるらしく、苦悶に悶えている。
「ヴィー。助けに来たわ。」
彼の口からは獣やドラゴンの類の唸り声しか出せず、言葉を紡げない。
『フィニス・・・君を食べたい・・・・・・いや、だめだ・・・ああ、お腹が空いた・・・。ニーナは美味しいだろうな・・・。いや・・・なんてこを・・・・・・。』
左手は石床をがりがりと削り、右足は剣を抜かんと踏ん張るが、大剣はそれを許さない。
大剣は龍を屠らんと鍛えられた物。それにフィニスが封印を施していた。
「モルスレジナ?アローズィ?準備は良くて?」
二人は頷き、それぞれに魔法陣を展開する。一つはヴィロフォルティの足元に。一つは骨の山に。
フィニスは霊薬を手に、無造作に彼に近付く。
左手はフィニスを捕まえようと動くが、右手がその腕を左手に埋もれさせ、動きを止めている。
大顎は彼女を噛み砕かんと、がちりがちりと音を立てるが、彼女はその口元に近づき、片手で下あごを捕らえ、その喉元に霊薬を流し込んだ。
途端、手足は動きを止め、震え出す。
フィニスはヴィロフォルティの体から、それらを無造作に引きちぎり、骨の山に放り投げる。
最後に、その変形した顔を優しく撫で、手刀で切り落とし、それを同じく骨の山に投げると、アローズィに言う。
「踏ん張りなさい!龍ごろしのアローズィ!」
ヴィロフォルティの体は暫らく何も起きなかったが、やがて再生を始める。
モルスレジナに言う。
「最高の力を見せ付けて頂戴!親友!」
投げ捨てられた肉塊と頭はなにやら形を成そうとしている。
それを邪魔しているのはアローズィの魔法陣群だ。
再生を始めているヴィロフォルティの体は、モルスレジナの魔法陣に包まれ、すでに人の形を成している。
左手右足は、龍のそれだが肥大化せず、頭もまた、ヴィロフォルティのものだった。
アローズィが抑えている肉塊は骨を取り込み、龍の形を成そうともがいている。
幾つもの魔法陣が壊れては生成され、アローズィの額に汗がにじむ。
ヴィロフォルティの肉体は順調に再生を続け、ほぼ再生し終えていた。
フィニスはその体から大剣を引き抜き、横たえるとモルスレジナに問う。
「ヴィーは大丈夫?戻ってきそう?」
「静かに!・・・今、安定するところ。・・・・・・よし!分離できたわ。良いわよ!」
そう言うと魔法陣が掻き消える。
フィニスは彼の頭を抱きしめ、その口を噛み切り、血を流す。
「さあ、戻ってきて。あたしの旦那様。」
そう言うと、口付けし、自身の血を流す。ヴィロフォルティの喉はそれを飲み下し、そして眼を開けた。
「お帰りなさい。旦那様?」
「ただいま。フィニス。ありがとう。」
「アローズィ!いいわよ!」
そう言うと、アローズィは浅く頷き、上空に巨大な魔法陣を展開させる。
そして初めて、彼女は魔法の名を唱えた。
「龍滅魔法『太陽の核』」
魔法陣から白い光が円柱状に降り注ぐ。それは肉塊を焼き、骨を蒸発させ、十数秒続いた。
その後に残ったのは、ガラス化した石床と煮えたぎる肉塊だった。
「さすがフィニス様の血肉です。消滅まで至りませんでした。しかし、とても良い具合に焼く事が出来ましたよ?」
汗を滴らせながら、冗談めかしてアローズィが言う。
「・・・・・・良い趣味じゃないけど、ヴィー。お腹空いてない?」
ニーナはただ、ぼうと山桜を眺めていた。
花の時期は終わり、新緑を迎えているそれを、2頭のドラゴンと共に眺めていた。
ドラゴン達は伏せ、地に頭をつけ、ニーナはその前足にもたれかかっている。
『みどりがきれい』『うすもものはなもいいけど みどりもいいね』
「うん・・・・・・。」
『おにいちゃん しんぱい?』『おにいさん だいじょうぶ きっと』
「うん・・・だいじょうぶ・・・・・・。」
心ここにあらずで答えるニーナ。
四半時もそうしていると、2頭が何かに反応した。
『ふぃにすさま くる?』『ふぃにすさま ふたり? へん?』
その念話にニーナが振り返れば、少し遠くから4つの影がこちらに向かってくる。
『ニーナ』
今まで聴いたことの無い誰かの念話。だが、一番良く知っている人の声。
前足を飛び越え、一気にその影に駆け寄る。
「おにいちゃん!!」
「ニーナ!」
駆け寄った勢いのまま、ヴィロフォルティに飛びつくニーナ。
その勢いを一回転して方向を縦方向に変換。その勢いのまま、ニーナは宙に浮かび上がる。
「おにいちゃん!!」
落下してきたニーナをヴィロフォルティは力強く抱きしめた。
「ただいま!ニーナ。」
「おにいちゃんだー!!」
ぐりぐりとヴィロフォルティの胸に顔を押し付ける。
顔を上げれば涙やらなにやらでぐちゃぐちゃになっている。
うれしくてたまらないのか、しがみついたままあれこれと矢継ぎ早に話す。
困惑しつつもヴィロフォルティは妹に話しかけるのであった。
「ヴィーの適応率はどの程度?」
「精神のほうはあなたをねじ伏せたわ。まずもって順調。8割程度かしら。」
「体の方は詳しく見ないとなんともいえません。ですが、今の見立てでは問題はないかと。」
「こんな醜態をさらすことは?」
「あの子が貴方に飽きない限り、無いわ。」
「御館様の血肉とやりあった感触では、ヴィー様が再び侵食される恐れは2割ほどかと。」
「あとでしっかり診てやって頂戴?モルスレジナ。借りができたわね。」
「あれが借りなら、もう幾つもあるわ。そうね、社交界とやらに連れ出すのはもう止めて頂戴。」
「・・・考えとく。」
「それって、しないって意味じゃないわよね!?」
「あなたはもっと外に出てしかるべきよ?せっかく可愛いんだから。」
「そう言うことじゃないの!嫌なの!」
「今まで見たいにお仕置きに使うのは止めておくわ。」
「やっぱりするんじゃないの!」
「仲良き事は、善い事です。アローズィも、モルスレジナ様を飾る楽しみが無くならなくて、ほっとして御座います。」
「あんたまでなに言ってんの?」
二人は笑い、一人はむくれる。兄妹は楽しく話し、新緑の香りが皆を包んでいた。
読者の皆様神様仏様。
私です。
まずはブクマ、評価を頂き、誠にありがとうございます。
また、いつも読んでくださる方々にも、深くお礼申し上げます。
っていうか、このつたない語り部の私めに、お付き合いくださる読者の皆様の数が、空恐ろしくなります。
キャラ達の為にも、エタることなく続けられればと思います。
さて、ありのままに起こった事を話しますよ?
自分は本編を書いていたつもりが、実は閑話だった。
かかった日数も本編の倍以上、しかも文字数も本編の二倍の分量です。
妹様とアーちゃんとウーム君、アクティブすぎです。
ヴィー君が霞んでしまいます。
皆様も楽しんで頂けると、語り部冥利に尽きます。




