お手伝いよ!
「おにいちゃんのぉ!ばかぁああああああ!」
その拳は風を切り、ヴィロフォルティの横顔にまともに当たった。
彼は数歩ほど殴り飛ばされ、転がって行った。
ニーナは尚もヴィロフォルティに走りより、その首にしがみついた。
「おにいちゃんの馬鹿!何でそんなに無茶したの!!」
「ニーナ!?」
「全部モルスレジナ様に聞いたよ!神様の罰をかぶったって!手は大丈夫なの!?足は!?」
「大丈夫だから落ち着いて!ほら!」
左手と右足を見せ、ニーナを落ち着かせる。
「これフィニス様の?」
「そうだよ。フィニスに貰ったんだ。」
途端、ばちりと頭を叩かれる。
「フィニス様でしょ!?おにいちゃん!!」
「いいのよ義姉さま。」
いつの間にかフィニスがすぐ側に来ていた。
ニーナは立ち上がり、ぺこりとお辞儀をする。
「おばかな兄がごめんなさい!呼び捨てにしちゃってごめんなさい!」
「フィニス!ニーナだ!ニーナが帰ってきた!!」
涙でぐちゃぐちゃな顔を喜びで溢れさせ、ヴィロフォルティがフィニスに言う。
「体の具合はどお?義姉さま?変なところは無い?」
「はい!フィニス様!なんだか凄く調子がいいです!」
フィニスは膝を突き、ニーナと同じ目線になる。
「義姉さま?義姉さまもあたしの事は、フィニスでいいのよ?」
「兄がお世話になっているのに、あたしまで生き返らせてくれた人を呼び捨てに出来ません!フィニス様!」
「・・・・・・ヴィー?・・・。」
「妹は言い出したら聞かないんだ。ニーナ、フィニスが困ってるから、ちゃんと呼んであげて。」
「・・・じゃあ!お姉様!」
「え?」
「恩人の人を呼び捨てには出来ません!だからお姉様!」
「・・・・・・じゃあ、それでいいわ。よろしくね?義姉さま?」
「あたしのことはニーナって呼んでください!お姉様!」
「じゃあ、ニーナ?これからよろしくね?」
なんとも不思議な会話をしている三人をアローズィとモルスレジナは呆れてみていた。
「なんだかものすごい高揚感を感じさせる方で御座いますね。」
「復活後暫らくは、ああなる場合が多いのよ。あの子は元々があんな感じだったんでしょうけど、そのうち落ち着くわ。」
ニーナは二人の手を引き、こちらに向かってきた。
「モルスレジナ様!おにいちゃんです!・・・えーと」
「アローズィに御座います。ニーナ様。どうか呼び捨てにして頂けますよう。」
ニーナと同じ目線で器用に礼をしながらアローズィは言う。
「それは駄目です!おにいちゃんがお世話になってる人を呼び捨てに出来ません!」
「私めの矜持と致しましても、それはお譲りできません。私めは御館様とヴィー様とニーナ様、お三方に仕える者です。」
「ニーナ!」
ヴィロフォルティがニーナの両頬を優しく包む。
「ニーナ。皆を困らせちゃ、駄目だ。うれしくても、困らせたらいけない。」
ニーナは暫らくヴィロフォルティの顔を見ていたが、やがて大粒の涙を流し始める。
「ごめんなさいおにいちゃんごめんなさい・・・・・・。」
「謝るのは、僕の方だよ、ニーナ。守れなくてごめん。苦しい思いをさせてごめん。死なせてしまって、本当にごめん。」
「おにいちゃんは悪くないよ・・・・・・。」
「ヴィー様、ニーナ様。積もるお話は、館にお戻りになられてからに致しましょう。今は、喜びの時です。」
応接室へと向かい、兄妹は並んで座り、今までのことやこれからのことを話していいる。
アローズィはあれやこれやと二人の世話を焼いている。彼女はヴィロフォルティの活躍を英雄譚じみて話し、ニーナはそれに一喜一憂している。
フィニスとモルスレジナはその三人を見ながら、つらつらと話し込んでいた。
「じゃあ、ニーナのあの高ぶりは、復活後の副作用みたいなものなのね。」
「そうね。それもあるけど、多分、あれがあの子の地なのよ。圧縮意識の中でもそうだったけど、快活で良い子だわ。」
「どこまで覚えてるの?」
「ヴィロフォルティが貴方に会うときまでに抑えておいたわ。それ以上は、知らなくてもいいことよね?」
「流石、ノーライフクィーンね。」
「あと、ヴィロフォルティの神罰も見せてもらったけど、あれエグイわね。魂の状態次第じゃ、来世にまで影響するわよ?」
「という事は、目処がついたのね?」
「ある程度はね。」
「手伝ってもらえる?」
「魂を扱うものとして、見過ごせるものじゃなかった。手伝うわよ。」
「あれは呪い?祝福?」
「そんないいものじゃないわ。ただの実験よ。だから余計に腹立たしいわ。」
「礼は何が良い?」
「ヴィロフォルティから頂いてるわ。それにニーナからも頼まれたの。」
「ありがとう。貴方はやっぱり親友よ。」
翌日はいつもと変わらぬ日常だった。
ヴィロフォルティはフィニスとダンスを踊り、それが終われば、アローズィと死合った。
ニーナはモルスレジナとそれを見ている。
「モルスレジナ様?あたしもなにか、役に立ちたいです。」
「そお?何がしたいの?」
ニーナは手加減無しのヴィロフォルティたちの姿を見ながら、思った。
あたしは何がしたい?おにいちゃんの役に立つ?どうやって?
「あたしは何が出来ますか?」
「・・・・・・今のニーナは何者にもなれるわ。焦らないで考えることね。そうね。ヴィロフォルティは魂までニーナの為に使ってるわ。貴方はヴィロフォルティを癒すといいわ。」
「・・・・・・どういうことですか?」
モルスレジナはニーナの髪をくしゃくしゃにして笑った。
「ニーナはそのままで良いって事よ?」
ニーナはアローズィに問うた。
「アローズィさん?あたしも何か役に立ちたいです。」
「・・・妥協してさん付けにしましたか・・・。どうにも座りが悪いですが、致し方ありません。そうですね・・・。今のニーナ様は甦ったばかりでございます。無理に何かしようとすれば、魂とお体の不調を招くのです。まずはヴィー様を癒して差し上げてください。ただお話をするだけでも良いのです。それはお二人を癒すことにもなります。」
「お話だけですか?」
「ヴィー様は随分と長い間、ニーナ様のことを気に病んでおいででした。ですので、それだけ。という事にはなりません。それがヴィー様を癒すのです。」
「じゃあ、おにいちゃんといっぱいお話をします。」
アローズィはしゃがみ、ニーナと目線を同じくする。
「時が来れば、ニーナ様にもいっぱいお願いする事がございます。そのときまでは、お体を大切にして頂けます様。」
「分かりました!アローズィさん!」
とは言うものの、何かをしてあげたい気持ちには変わりない。甦る前は、母の手助けや、掃除などもこなしていた。
ただ兄と話すだけというのは、どうにも居心地が悪かった。
後、相談できるのはフィニスだけだ。メイド達にも聞いて廻ったが、皆、恐れ慄き、首を振るばかりだった。
「お姉様?ニーナです。」
執務室の扉に声をかける。
「入って頂戴。」
重いドアを開け、そこに入れば全裸のフィニスが日を浴びて立っていた。
その姿にニーナは見惚れた。なんて綺麗なんだろう。
「ニーナ?どうしたの?」
「・・・お姉様すごくきれいです・・・・・・。」
「あら?そういえば服を着なきゃね。」
そう言うと腕を軽く振るう。するとハイネックのドレス姿に変わった。
「!お姉様!魔法ですか!?」
「いつもはきちんとした服を着るのだけれど、間に合わせで作ってみたの。似合うかしら?」
「はい!すごくきれいでおしゃれです!」
「ありがとうニーナ。あなたもお座りになって。」
ニーナがソファーにすわると、フィニスはその横に座る。
「お姉様はすごくきれいです。どうしたらそんなにきれいになれますか?」
「・・・・・んー。どうかしら。一杯運動して、よく食べて、自分が綺麗だって思うことかしら?」
昔、社交界とやらで聞きかじった話を思い出し、答える。
「それよりニーナ?皆に何かしたいって聞いて廻ってるそうね?」
「そうでした!お姉様、あたしもなにかお姉様たちの役に立ちたいです。おにいちゃんとお話するだけじゃ、なんだか悪いです。」
ころころと笑うフィニス。ニーナは不思議そうな顔で彼女を見ている。
何か可笑しな事言ったのかな?
「ニーナ。貴方は何ができる?」
「おうちではお母さんのお手伝いや、料理もしました。おうちとお庭の掃除も出来ます。畑でお父さん達のお手伝いもしてました。おにいちゃんはさぼってずるばかりしてたんです。」
「そうなの。じゃあ、ニーナは何になりたかった?」
途端に頬を赤く染め、ニーナはうつむいた。
「・・・さんです。」
「?」
「ニーナはお嫁さんになりたかったです。ノジアって男の子のお嫁さん・・・・・・。」
「そう・・・。あたしはヴィーのお嫁さんになるの。いっぱい子供を作るのが夢よ。」
「おにいちゃんはおばかでずるばかりします!お姉様に似合わないです!」
「そお?ヴィーは貴方の為に死んでも頑張っていたわ?ニーナのことになると、あたしと喧嘩もしたわ?あたしはヴィーが大好き。ニーナは?」
「・・・・・・おにいちゃんはおばかでずるばかりするけど、あたしもおにいちゃんが大好きです・・・。」
「なら、今一生懸命頑張ってるヴィーに、いっぱい話しかけて、遊んでやって頂戴?今のヴィーには貴方が必要なの。」
「・・・・・・。」
「他になりたいものや、やってみたい事は無かった?」
「あたしも魔法を使ってみたいです!お姉様のように、ぱあって、魔法が使いたいです!」
「じゃあ、モルスレジナと相談してみるわね。今のニーナは生き返ったばかりで、体の調子を良く見なきゃいけないの。調子が良くなったら、あたしやアローズィやモルスレジナが、一杯魔法を教えてあげる。覚悟なさい。」
「はい!お願いします!あたしもがんばります!」
「それじゃあ、ヴィーが疲れてるだろうから、見てあげて頂戴。」
フィニスはそう促すと、ニーナは立ち上がり、ぺこりとお辞儀をする。
「ありがとうございます、お姉様。いってきます。」
そういうと、重いドアを再度開き、扉を閉めヴィロフォルティの元に駆けて行った。
「アローズィ。モルスレジナ。」
声をかければアローズィはとなりの部屋から現れ、モルスレジナは宙に浮かび上がり、その姿を現した。
「どうかしら?あの子に魔法が使えるかしら?」
「貴方も大概面倒見が良いわね。使える使えないで言えば、使えるわ。貴方の血肉で出来た体ですもの。」
モルスレジナがそう答えれば、アローズィが続ける。
「資質は未知数です。もう少し時間を頂かないと、適正は分かりかねます。」
「そうね。完全に馴染むまでどのくらい必要かしら?」
「欲を言えば1年は欲しいわね。」
「御館様の血肉で使える魔術でしたら、あと2ヶ月ほど必要かと。」
「そうなの。・・・・・・焦らないでいきましょう。あの子が壊れたら元も子もないわ。」
「・・・・・・あなたわざと変な言い回ししてない?」
「御館様は家族を大切にするお方です。ちゃんとニーナ様のことを思いやって御座います。」
「あなたたち・・・ここぞとばかり、突っ込んでくるわね。」
フィニスは顔を赤くして、そっぽを向くのだった。
読者の皆様神様仏様。
私です。
第三章です。
妹ちゃん、元気良すぎでどうしたものか。
いっぱい活躍させたいのですが、どうなることやら。




