強くなって。もっと!もっと!
「・・・俺裸なんだけど・・・・・・。」
フィニスを見上げ、呟くヴィロフォルティ。
[どっかから取ってくれば?じゃ、いってらっしゃい。]
そもそも被服という概念がないフィニスはこともなげに言い放つ。
「裸じゃ、恥ずかしいよ!」
[・・・服なんてないし。]
「分かったよ・・・・・・。なんとかするよ・・・。」
[じゃあ、『転送』するわよ]
その言葉に彼は慌てた。そうだ!大事な妹を連れて行かないと!
「待って!ニーナを・・・!!」
[ダメよ。]
即座に否定するフィニス。ヴィロフォルティはその瞬間、激怒した。
「ふざけんな!ニーナを一人にするもんか!!」
ただ振れるだけの剣を正面に構え、フィニスを睨みつける。
当然、フィニスはそれを意に介さない。毒針を持っていようが、所詮、今の彼は虫けら以下なのだ。
[今のあんたで、妹を守れるわけ無いでしょ?]
正論を言われ、動きが止まるヴィロフォルティ。
剣は垂れ下がり、地に着く。
[ニーナはあたしが預かるわ。強くなったら『器』を用意してあげる。]
「わかんないけど・・・本当にニーナを大事にするんだよね?」
[あたしはする気の無い約束はしない主義なの。]
「・・・・・・わかった。ニーナ!待っててね!兄ちゃん、強くなってくるから!!」
振り返り、背嚢に声をかけるヴィロフォルティ。フィニスはただそれを見ている。
そしてフィニスに向かい合うと、真剣に言った。
「フィニス。大事な家族なんだ。ニーナを大切にしてよ?」
[あたしは?]
なんとなく、なんとなく意地悪を言ってみたかっただけなのだが・・・。
「・・・・・・。フィニスの家族になっていいの・・・?」
フィニスの心の中で、何かが破裂した。
[っきゃああああああ!!早く強くなって!今すぐ強くなって!早く!早く!]
「よく解んないけど、強くなるよ!行ってきます!!」
起き上がり、どたばたと足踏みするフィニスに驚いて、慌てて大剣を抱きかかえると、その声に魔方陣が反応したように姿が薄くなり、やがて消えた。
フィニスはその場所をしばらく眺めていたが、彼の置いていった背嚢を手元に引き寄せ、自身が知る一番強固な保護魔法をかけ、横たわる。
[ヴィロフォルティ。あたしの旦那様。早く帰ってきてね。]
そう呟いて、幾度目かの眠りに落ちた。
飛ばされた先は、血の海だった。
鎧兜を着込んだ肉塊が、あたり一面に転がっている。怒声と絶叫と泣き声と啜り泣きが響く戦場。
そんな只中にヴィロフォルティは全裸で放り出された。
余りの光景に呆然としていると、足首をつかまれた。その先には這い蹲りながらも、剣を構えた兵士がいた。
振り払おうとするが、体が動かない。
こわい。
そう思うまもなく、彼の腹を剣が貫く。
血を吐き、激痛が腹から体中に広がる。
『痛いなら、痛くならない方法を探しなさい。』
フィニスの言葉が思い返された。
痛い痛い痛い。なら、これをどうにかしないと。
彼は腹の剣を掴むと、無造作に引き抜く。そして、相手に大剣を叩きつけた。
大剣はその重量で、死に掛けの兵士に止めを刺す。切るなんて、今の彼にはまだできない。
鉄塊に押しつぶされ、ひしゃげた死体を、彼は漠然と見ていた。
その後ろから新手が来る。そして彼の首を狙う。
だがその剣は首半ばで止まる。彼はまたしても剣を掴み、引ったくり、大剣を叩きつける。
横から剣がわき腹に突き刺さる。大剣を振るう。
足を切り飛ばされた。
倒れこむ彼に兵士達が群がる。
とっさに左手を近くの兵士に突きつけた。その手は易々と顔面を貫通し、兵士は痙攣する。
倒れこんだ体に何本も何本も、剣が突き刺される。
痛い。痛くならない方法を探さないと。
彼はそれだけを考え、剣が刺さったままで、手近な兵士に踊りかかる。
突き刺し、引きちぎり、噛み付き、ねじ折る。なくなった足は再生され、傷もまた、無限に再生される。
痛みは止まらない。まだ剣の雨は止まらない。
痛い痛い痛い痛い痛い。痛くならない方法。
そのうち、ヴィロフォルティは何も考えなくなった。
気がつくと夜になっていた。不思議と今の彼は夜目が効いた。
そうして周りには誰もいなくなっていた。
彼の周りには、引き裂かれ、千切られ、折られた兵士の体が転がっていた。
見回せば、死体が道となり、あたりに続いている。
ふらふらと彼は道をたどる。剣を置いてきたのだ。
フィネスから貰った、大事な剣。
はたして大剣はそこにあった。
正確には、その大剣に幾人もの死体が群がっていた。
おそらく持ち帰ろうとしたところを、討ち取られたのだろう。その剣は大人が数人がかりでもっても、動かせない物だから。
彼は大剣を手にした。
後ろから切りつけられる。
振り返れば、下卑た顔をした男達が居た。
取り囲まれ、隙を伺っている。死体漁り達だった
彼は大剣を持ち上げた。男達の一人から声が上がり、一斉に群がる。
彼は剣を横なぎにした。何人かの男達が二つに分かれて死んだ。
また彼の体に、何本も剣が突き刺さる。
彼は吼えた。その声は龍に似て、聞く者を威圧した。
そうしたかった訳ではない。ただ、何かを吐き出すために、彼は吼えた。
そして駆け出す。今、目の前で動く物は、皆、敵だ。自分を傷つけ、痛みを与える。
痛いのは嫌だ。痛くない方法は、動く物を動かなくさせること。
フィニスの言っていた事は、この事かな?
彼は大剣を振るい、叩きつけ、相手を掴み、引きずり回し、引き千切った。
また何も考えずに居た。
そして誰もいなくなった。痛みは治まったのだ。
彼は呆然と周りを見やる。服を探さないと。裸は恥ずかしい。
大剣を引きずり、とぼとぼと歩き出す。着る物はどこにあるんだろう。
どれくらい歩いたか。死体を避け、躓き、歩いた先に、人影があった。
立ち止まり傍と影を見ていたが、その影が動いた時、彼は跳ねた。
動いた!痛いのは嫌だ!動きを止めないと、痛い思いをする!
影に向かって大剣を振り下ろす。
それはいとも容易く、剣をよけた。
「うおっ!?ゴブリンか!?グールか!?」
避けられた。相手は近い。
掴みかかるが、それも避けられた。今までとは違う。
「速すぎんだろ!?」
もっと速く、痛みを止めないと痛い思いをする。
顔を狙う。相手の剣が腹を裂く。痛い。止めないと。
夜目のおかげか、相手の剣が見える。剣がどう動くのか分かる。
振り下ろされようとする剣を、大剣で受け止める。
「何だよその剣は!?」
蹴り飛ばされる。大剣が動きの邪魔になって来た。まだ弱い。自分は弱い。
剣を離し、相手めがけて飛び掛る。右から、左から、正面から。
「ガキか?調子に乗んな!!」
相手の突きが喉元を狙うのが見えた。左手で防ぐ。火花が散り、軌道を変えた剣は彼の胸に突き刺さる。
チャンスだった。体に刺されば相手の剣はこっちの物だ。
しかし相手は刺さった剣を捻った。
それは今まで感じたことのない痛み。刺さるのみだった今までとは異質な痛み。
僅かに動きが止まる。
引き抜かれた剣は正確に彼の首を跳ね飛ばした。
「ガキのゾンビか?嫌に素早い動きだな。やばい奴か?」
声はまだ剣を構えて油断していない。
彼の体は、頭部を求め動き出す。
「首がないのに体が動く?別の化け物の類が出たか!?やべぇ!!」
とっさに体に向け剣を振るう。右腕がきり飛ばされ、左腕に当たると火花を散らせ、剣が跳ね返る。
「まって・・・。服が欲しいんだ・・・・・。」
頭だけで彼は言う。正気に戻ったようだ。
「化けもんがしゃべった・・・。」
呆然とする影。体は再生が始まっている。
その様に影はたじろぐ。ヤバイヤバイヤバイ。仲間を呼ぶか?
「人間だよ。ヴィロフォルティ。俺の名前。」
その子供もどきは言う。
「そんなこた聞いてねぇよ。何者んだよお前。その手足は何だよ、鎧か?」
「わかんない」
体が首に追いつくと、その首を持ち上げ、元居た場所に乗せる。途端、傷口の再生が始まる。
「そして首がくっつくなんて、ナイトウォーカーかよ!ツイてねぇ!!」
ナイトウォーカー。吸血鬼。入念な準備と数で押さなければ、死ぬより酷いことになる化け物。
「まってよ!ないとうぉーかーってなに?話を聞いてよ!!」
子供の声に嘘は感じられないように思えた。話だけは聞いてやろうという気になって来る。
「オーケー分かった。まずは剣から離れろ。俺から離れろ。後ろを向いて頭に手を組んで座れ。」
彼はおとなしく従った。この相手は痛みを与えるだけじゃなさそうだ。
「なにかしたらすぐまた、頭を切り飛ばすぞ。そして俺は逃げる。」
「逃げないでよ!色々聞きたいんだ。」
「それは俺の方だよ!」
これが彼ヴィロフォルティの剣の師匠との出会いだった。
なんたることか、拙作を見に来られる方々が!
有難うございます!
皆様の為に、何とか続けたいと思います!
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