いよいよなのよ?
その日の夕刻に、ヴィロフォルティはセルベと共に、モルスレジナの馬車に乗り、城を出た。
暫らくしてレウィたちと合流すると、事の次第を話した。
「状況は把握したわ。確かに王城に入り込む事が最大のネックだったの。モルスレジナ様のお力添えがあれば、事が順調になるわ。」
レウィはそう言うと、ドライアドに訊ねた。
「勇者はどの位置にいるの?魔王城の状況は?」
「勇者は魔王上より3日の位置に。魔王城は臨戦にはいっています。」
「ここから馬車で2日。測ったような按配ね。誰が糸を引いてるのかしら。」
ドライアドは微笑を崩さず、何も言わない。
「セルベ様。この度はご無理を通して頂き、誠に有難うございます。商会は、いづれこのご恩に報いさせて頂きます。」
レウィはドライアドに溜め息をつき、セルベに向かうと謝辞を述べた。
「ヴィロフォルティ様より、相応以上の対価を頂いております。何よりヴィロフォルティ様のためならば、我が主も、私も尽力を惜しみません。して、城に入る方策は何かお有りですか?」
「あたしを餌に王城に入ります。追放同然の身ですが、勝算は高いかと。」
「なら僕も使いなよ。モルスレジナが僕を捕らえた事にすればいい。」
「ヴィロフォルティ様。それは稚拙にございます。貴方様が現れれば、良くて牢に入れられ、機会を逃してしまします。・・・ご主人様が、その大剣を献上する。というのは如何でしょう?ヴィロフォルティ様は、失礼ながら、私の従者という事で。」
レウィとヴィロフォルティが案を出し、セルベが意見する。
彼女は考える。勝算はぐっと上がるが、大剣とヴィロフォルティを如何に隠すかが分かれ目だ。
なんとも収まりのつかない思考の中で、ドライアドが言った。
「勇者が魔王城下に入る少し前に入城しては如何?少々綱渡り的ですが、時期を合わせる事は私を使えば可能です。」
その申し出にレウィの思考は形を成した。
「どうにも場当たり的で嫌なのだけれど、それが一番勝算が上がりそうね。その案、頂くわよ?」
「対価は求めません。全てヴィロフォルティ様の為。」
「では、私の眷属共に少々かき回させる事と致しましょう。」
ドライアドが冗談めかして言えば、セルベが一計を案じる。
「それで決めるわ。ヴィロフォルティはどう?」
「僕は大丈夫。みんなありがとう。」
ヴィロフォルティがそういえばドライアドは深く礼をし、セルベは頭を垂れ謝辞を述べる。
「もったいないお言葉です。つかの間ではございますが、精一杯、微力を尽くさせて頂きます。」
「竜車を城に置いたら、すぐに出るわよ。ドライアド、貴方が鍵よ。」
「お任せ下さいませ。」
魔王はその玉座で考えていた。
人の攻勢が始まり、前線に勇者の姿が無くなった。与えられたドラゴン達は勇者を引き付けはしたものの、破られ、風の将も討ち取られた。
人の攻勢は難なく防げるだろう。血気に逸る有力者を嗾けてある。
勇者だけが、問題だ。すでにこちらに向かっているはずだが、動向が掴めない。
ケットシーとドライアドが傘下に治められなかったのがここで響いている。
あの情報網さえあれば、勇者を手玉に取る事も出来ただろうに。
つれつれと考えていると、側にいる宰相に伝令が来た。
何事かを伝えると、下がり、宰相は魔王の前に進み、跪く。
「魔王様。聖魔の姫様が御戻りとのことでございます。なんでもモルスレジナの使いと共に、大剣をお持ちしたとの事。」
「・・・・・・瑣末な事だ。適当にいなし、放り出せ。」
「それが、その大剣は三将を討ち取った剣との事にございます。モルスレジナがその者を討ち取ったのだとか。代理で執事が事の顛末をお話したいと。」
「通せ。話くらいは聞いてやろう。」
そうして魔王は意識を勇者の事に向けた。
その直後、伝令の兵が駆け込む。
「魔王様!勇者共が城に現れました!その数4!正門を突破し、入城間近です!」
やはり来た。どのような隠蔽を使ったのか、はたまた内通者がいたのか、それを正す時間は無い。
「それこそ陽動かも知れん。主力をあて足止めし、斥候が出来るもので、城を警戒させろ。」
「レウェルティ様は如何なさいますか?」
「放り出せ。そのうち会うと伝えよ。」
玉座の横に立てかけてある大柄の剣を引き寄せ。待つ。ここが死に場所かとちらと考えるが、報告にある勇者の実力では、いまだ魔王に分があった。
勝てない相手ではない。勇者のあの剣が、魔王の命に届くことが問題なだけだ。
第二の伝令が来る。
「勇者は3層まで到達!指揮官達は討ち取られました!ここまで時間の問題です!!」
王城の兵は、皆それなりに優秀だ。手ごまを減らすのは惜しい。
勇者を退けた後のことがある。
「兵を引かせよ。ここに通せ。ここで余が討ち取る。」
「宰相。お前は逃げよ。国の建て直しには、相応の人材がいる。お前はその一人だ。」
「・・・・・・魔王様。私は悔しゅうございます。」
「余が勝てば済む話よ。その時には混乱の収拾に辣腕を期待している。」
そう言うと宰相の姿は掻き消えた。
直後に扉が蹴破られ、4人の勇者達が現れた。
その間に、レウィとヴィロフォルティは王の間に潜んでいた。セルベはすでに城に帰していた。彼がこれ以上付き合う道理はなく、安全のために返したのだ。
勇者と魔王は合い対し、剣を切り結んでいる。勇者の後ろには3人のパーティ。
スカウトとウィッチ、聖職者だ。皆巧みに魔王を牽制し、支援をおこなっている。
邪魔なのは3人。
ヴィロフォルティはまずスカウトと聖職者に狙いを定める。レウィにはウィッチを担当させる。
勇者と魔王の動きが激しくなったときを見計らい。彼らは動いた。
彼はスカウトの動きを暫らく観察したあと、彼の後ろに取り付いた。彼と同じ動きで間合いを取り、スカウトが魔王に投擲を行う時、彼の三本のニードルが龍気を纏い、その心臓を貫く。
レウィは軽戦士とは思えない身のこなしで静かにウィッチに近付き、その首をナイフ手切り裂く。魔道具を使わせない為、念のため指を全て切り落とす。
ヴィロフォルティは聖職者の前に立ち、大剣を構える。
そこまですれば、勇者も魔王も気付くが、お互いの状況がそれを許さない。
魔王にはそれは援軍に見え、勇者にはそれが伏兵だと思った。
一気呵成に剣を繰り出す魔王。それをいなすのに手一杯で、聖職者に手を貸す余裕は無い。
聖職者はヴィロフォルティを前にしてそれでもなお、聖句を唱える。
するとその頭上に4枚羽の天使らしき像があわられた。
「お前達には言いたいことがあるんだ。」
彼は剣を構えたまま、聖職者に言う。
聖句が完了しようとする時、彼の剣は聖職者の胸を突き刺し、返す刀で、その首を討ち取った。
「お前達のお蔭で、おれは強くなれた。ありがとう。」
首は二転三転しながら転がっていく。4枚羽の天使は尚もその姿を消さない。
ヴィロフォルティはアイテムボックスから、一枚の分厚いメダリオンを取り出し、床に投げた。
そこから薄いヴェールと喪服を纏ったフィニスと執事服姿のアローズィが現れる。
「随分と地味な戦いね。まあ、こんなものかしら?ヴィー。」
「見たところ、勇者も魔王も実力は均衡しているようで御座いますね。実に好都合です。」
ヴィロフォルティは二人の前に立ち、レウィは三人の後ろに下がる。
四枚羽の天使はフィニスの姿を確認するや、胸の辺りに光球を生み出し、なにやら力を込めている。
「ヴィー。解禁するわ。存分に死合いなさい。」
瞬間龍化し、短時間で一閃を放つ。それは向こうも同じで、光球から光が放たれた。
それはすぐにぶつかり合い、拮抗するが、一閃のほうがそれに勝った。
天使は頭から垂直に一閃で貫かれ、二つに割れると甲高い悲鳴を残して消え去る。
「今のは良かったわよ?ヴィー。その調子ね。」
勇者と魔王はお互い間合いを取り、その光景に唖然とする。
「君は敵なんだな!?」勇者は言う。
「余の配下で見たことの無い顔だな・・・。」
そして驚愕する。
「ノビリフィーニア!!貴様か!!」
「おひさしぶりね。魔の王。それと、私の名はフィニスよ。もう間違える事無いと思うけど、憶えておきなさい。」
勇者がヴィロフォルティに切りかる。魔王は勇者ごと魔法で消し去ろうとする。
彼は礫を魔王の魔法陣に投擲。勇者の剣を左手でいなし、大剣の腹で、その両足を折る。
魔法陣は砕け、魔王は驚愕した。
さらに魔法陣を展開するが、礫にかき消され、魔王自身には数本のニードルが投擲される。
それを確認せずに剣を手に這い寄る勇者の両腕を踏み折り、その剣を大剣にて両断した。
「お前は困難が降りかかるたび、試練だといい、乗り越えろといったな。」
今まで聞いた事の無い、ヴィロフォルティの冷たい、平坦な声。
「フィニスの走狗めが!!」
魔王が切りかかる。その手には魔法陣も展開されている。
彼はそれを見ると、龍の咆哮をあげ、魔王を吹き飛ばす。
「お前が龍か!?」
それには答えず、勇者に言う。
「何も持たない弱者の試練というものを、今、与えてやる。」
それは彼が妹の死に直面した後、彼女の遺骸を抱き、広場に来たときにそこに居た勇者の言った言葉だった。
これが試練?自分の手足を切り飛ばされ、死ねない呪いを受け、死ななくていい妹が病と飢えで死ぬこれが試練?
「お前は無力なまま、魔王が死ぬところを見続けるんだ。お前の価値はその程度だ。」
読者の皆様神様仏様。
私です。
勇者が蹂躙されるところも見て見たいのです。
ですが勇者が余り強くありません。
反省です。




