表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/72

ダンスは如何?

 二日後、アローズィは商会に使いを出した。

いつもは人を寄せ付けぬ屋敷も、今日だけは馬車の到着を許した。2頭のドラゴンは眠っており、馬車にも降りてきた二人にも無反応だ。


 やって来たのはレウィとメルキャトだった。メルキャトはいつもの自然体だが、レウィは幾分表情が硬い。


「レウィ。()()()()()()


メルキャトがそう言えば、レウィは苦笑いし、いつもの表情になった。

その二人を出迎えたのは、アローズィだった。


「良くお来しになりました、お二方。挨拶は無用です。中へ。」


そう言うと二人の返事を待たず、屋敷に歩き出し、扉を開けて待つ。二人は幾分不穏な何かを感じながら、屋敷へと入っていった。

 

 そのまま応接室に連れて行かれ、アローズィと向かい合って座った。メイドが茶を用意し、三人の前に用意する。

口を開いたのはアローズィだった。


「さて商会の会頭と人魔の、いえ、()()の姫様。お二人には依頼があります。」


「アローズィ様のご依頼ともなれば、当商会がお断りする事はございません。」


「アローズィ様。あたしは人魔である事を公言しておりますが、聖魔とは一体?」


アローズィはにこりと笑み、二人に言う。


「ゴートシープ商会の忠誠を、御館様はお知りになっております。ですが()()の姫様。韜晦は無用にございます。そうですね。聖魔であることを、何故、ドライアドは知っていたのでしょう?」


レウィは固まり、そして肩の力を抜くと1つ質問をした。


「あたしの出地はもうお知りになっておられるのですね。では、どこまで知っておられるのでしょう?」


「全て。」


そうして一口、メイドが入れた茶を飲む。


「聖魔の姫様?あなたの利害と御館様のお考えは、一致します。御館様はあなたの望みを叶える事が出来るお方です。ゴートシープ商会へは、魔領での更なる発展を約束しましょう。」


「それは大取引のようですが、でしたら相応の心構えが必要です。お話をお伺いしても?」


「会頭、詮索は無用です。時が来ればそうなるようにしてあります。そしてお二方。(はかりごと)はもっと微に入り細を穿ち、深く巡らしませんと。」


「・・・・・・私共は全て御館様の手の上という事なのですね。」


「そうともいえますが、御館様と私は種をまくだけ。芽吹かせ、実をつけさせたのは、貴方達。共に実りを味わおうという事に御座います。」


カップを置き、二人に向き直る。


「聖魔の姫様には、再びヴィロフォルティ様に付いて、魔領に向かって頂きます。会頭はその補佐をして頂きます。」


アローズィは二人のカップを右手で示し、促す。


「先ずはお茶でもいかがです?特別良い茶葉が手に入りましたので、自慢したいのです。依頼はその後で。」



 その時二人はワルツを踊っていた。

フィニスはロングドレスで、ヴィロフォルティは大剣といつもの装備で。

フィニスは舞い、ヴィロフォルティは剣を振る。その剣筋は今までの彼と違い、相手を切るのではなく、相手に添わす剣筋だった。


ドレスに当てるのではなく、その動きを追う。刃を立てるでなく、刃を置く様に、剣筋を動かす。

彼女は舞いながら、的確に急所を狙う。目、喉、脇、背中、舞いながら、ワルツの一部としてそれをこなした。


歌いながらリズムを刻み、彼に傷を刻む。

彼はそれを避け、いなし、無理とわかれば龍化し、それを躱すが、彼女はそれを許さない。

曲の終わりには、彼の目と喉は潰されていた。


「ダンスはここまでよ。随分と相手できるようになってきたわね。」


喉を潰され、再生中の彼は言葉を出せない。代わりに笑顔で答える。


「いい顔ね。眼を潰されてから、耳で探って気配を追ったのはいいけど、そこまでね。もっと動きの先を思い浮かべなさい。」


「あ゛り゛がとう。フィニスの歌う歌は、風の音のような感じがするね。」


「異界で聞いた曲よ。何故だか耳に残ってるの。」


「僕はその歌、好きだよ。フィニスが歌うと、風が吹く。優しくて好きだ。」


フィニスは真っ赤になって横を向いた。


「そう?色んな曲を聴くといいわ。曲の調子を掴めば、動きにも応用できる。数字も同じよ?」


「そうなの?」


「ええ。ヴィーもあたしの動きを捉えにくいでしょ?色々見聞きして、何でも応用しなさい。」


「使えるものは何でも使えだね。」


「関係ないようなことも、色々知っておくと便利に使えるわ。覚えておきなさい。」


ヴィロフォルティは頷くと大剣を負う。


「さあ、ヴィー。試練の時間よ。風の将と後二人残ってるわよ。」


 彼の瞳に狂気が宿る。


「ヴィーの今のその目が、私は好きよ。何事にも動かされる事の無い、その目が大好き。」


「早く妹を生き返らせないと。」


「その為の用意を、今、しているところよ。もうすぐだから、待ちなさい。」


彼は体と気持ちから力を抜く。腹の中では焦りと期待と恐怖と狂気が渦巻いている。


「貴方らしく、今までどおり戦いなさい。」


ゆっくりと力強くうなずく彼を、優しく抱擁する。


「今、商会の人間が来ているわ。準備なさい。」




 旅装を整え、応接室でメイドたちの出迎えを受けると、そこには見知った顔があった。

フィニスは「あたしの会う相手じゃないわ。」と寝室に戻っていった。


アローズィは上機嫌で、レウィとメルキャトは顔色が少し青く、疲れた顔をしている。


「ヴィー様。支度が出来たご様子ですね。」


アローズィはにこやかにそう言うと、席を立った。


「お二方。時間です。万事、手はず通りに。」


そう言うとヴィロフォルティの横に並ぶ。二人は立ち上がり、彼に礼をする。


「再度、ゴートシープ商会をご利用頂き、有難う御座います。ヴィロフォルティ様。貴方様のお力に添えるよう、微力を尽くす所存でございます。」


メルキャトは言い、頭を垂れる。レウィも同じく礼をする。

少し他人行儀なメルキャトとレウィに違和感がある。それを確かめようとしたとき、アローズィが彼の手を取る。


「ヴィー様。詳しい話は商会に戻る道すがらにお願いいたします。今の二人は”依頼”の重大さに困惑しているようで御座いませば。」


「お心使い、感謝いたします。アローズィ様。」


メルキャトが再度礼をする。


「では参りましょうヴィー様。お二方。」


 

 玄関を出れば、ドラゴンは首を挙げ、メイドが勢ぞろいし、一斉に礼をする。

言葉も無い二人に代わり、ヴィロフォルティはアローズィに問うた。


「どういう事なの?」


「お見送りにございます。ヴィー様の御勇姿を皆にも見せたいと思いまして。」


「大げさじゃないの?」


「ヴィー様がお戻りになられる時は、ヒトがいまだ成し遂げた事の無い偉業を成すときです。これでも控えめなのです。」


「よくわかんないけど、みんな有難う。」


そう言うと二人を促し、馬車へと向かう。彼が振り返ればアローズィから声がかかる。


「吉報をお待ち申し上げております。」


そう言い、頭を垂れた。

レウィが振り返ったとき、アローズィの後ろに、彼女よりも頭一つ背の高いドレス姿の女性が見えた気がしたが、メルキャトに促され、前を向くのだった。




 帰りの馬車の中。中央に剣は寝かされ、バランスを取っている。


車中ではだれも、何も口を開かなかった。

メルキャトは腕を組み、なにか考えている様子だ。レウィは俯き、指を噛んでいる。

ヴィロフォルティは流れる景色を見ながら、フィニスが歌っていた曲を口ずさんでいた。


「ヴィロフォルティ様、あんたは何も聞かされてないのか?」


メルキャトが口を開いた。


「何が?」


流れる景色から眼をそらさず、ヴィロフォルティは言う。


「風の将と勇者と魔王。コレだけの相手を、殺しきるのか?」


「アローズィは言ってたよ。やるかやらないかじゃなくて、するんだって。僕と、この剣があれば、できる。」


「そもそも貴方は、何者なんだ?あれだけ御館様とアローズィ様が気にかける、あんたは何なんだ?」


「親を野盗に殺された、ただの農民の子供だよ。死に掛けた妹を助けたくて、神殿の宝珠に手をかけたら、呪われた。それだけだよ。」


「それだけの子が、こんな大それた事をするわけが無い。」


ここで初めて、メルキャトに向き合った。何も気負う事もなく、淡々と告げる


「僕は弱い。だから誰も助けられなかった。家族や皆を助ける為には強くないといけないんだ。その三人を倒す事で強くなるなら、僕はやるよ。」


「それで十分じゃないのか?まだ先があるのか?」


「まだ足りない。僕は死なないだけで、実際には、何度も殺されている。これじゃ駄目なんだ。」


メルキャトは言葉を続ける事が出来ない。


「お父様。あたしはヴィロフォルティ様の言葉がわかる。どんなに強くなったつもりでも、届かないと思わせられる相手がいる。何をしてもどんな準備をしても、足りないの。」


「ヴィロフォルティ様。レウィ。圧倒的な力を求める先には、修羅しかないんだぞ。」


天を仰ぎ、紡いだ言葉はもう、それしかなかった。

レウィはただ頷き、ヴィロフォルティは答えた。


「師匠のお墨付きだよ。僕は修羅の道を選んだんだ。」


 馬車はフロントラインに着くと、商会に向かった。補給と、魔領に行く為の準備だ。

メルキャトと店主は話を詰める為に執務室にあがり、ヴィロフォルティとレウィは補給の監査をしていた。

次々に仕事をこなしていくレウィを、彼は眺めている。

ひと段落着いたのか、レウィがやってきて、彼と並ぶ。


「行き先は悪徳の街よ。風の将に目通りは叶ってる。時間はかからないわ。」


「悪徳の街ってどんなとこ?」


「ここから馬車で10日。合法非合法、なんでも有りよ。でも、力さえあれば、何でも押し通れるわ。」


「面倒くさそうだ。」


「だから商会の力を存分に使ったの。街であたし達に絡むものは誰もいないわ。」


「信頼してる。」


そこから会話が途切れる。作業は終わり、出発を待つのみとなった二人は、黙って馬車を見ていた。


「あたしはね。魔王を殺したい。その為にずっと準備してきた。」


「魔王は僕の獲物だよ。」


「殺せれば誰でもいいの。やっと手が届くの。でも、届いた先はどうなるのかしら。」


「・・・・・・必ず次があるよ。その次もやっぱり、同じなんだ。それが修羅なんだって、師匠は言ってた。」


「・・・・・・あたしは何か間違ったのかしら・・・?」


「さあ?でも傭兵時代の師匠は言ってたよ。迷ったら、やらなきゃいけない事を思い出せ。それ以外考えるなって。」




 屋敷の執務室で、フィニスは全裸で座っていた。


「アローズィ?ドレスで着飾る意味が、よく解らないのだけれど。」


「御館様。ヴィー様からずっと顔を顔を背けられたらいかがなさいます?顔をこちらに向けるのは、なしの方向で。」


「・・・・・・まあ、意味はあるのね。」


「左様にございます。」


「勇者達の仕上がりは?」


「ドラゴン3匹に辛勝。4匹目にかかっているところに御座います。」


「ちゃんと仕上がってる?」


「予定の7割ほどで御座います。」


「んー。風の将でも当てた方がいいのかしら?」


「一度は相手させた方が宜しいかとは思います。」


「勇者とヴィー達の位置は?」


「勇者側が先行中です。勇者が将に勝ち、休息を考えると、ヴィー様方が魔王城に到着するのが先かと。」


「4天王をヴィーが殺すのを見たかったけど、不甲斐ない勇者を当てるのも嫌だわ。ヴィー達にはモルスレジナを迎えにいってもらいましょう。」


「それは妙案ですね。義姉様(いもうとさま)がヴィー様の凱旋を迎える事が出来れば、さぞお喜びになることでしょう。」


「じゃあ、そうしましょうか。」


「承知いたしました。」


「モルスレジナの驚くところが見ものね。」


「御館様。悪いお顔をしておられますよ?」


読者の皆様神様仏様。

私です。

あれだけ大見得を切ったメルキャトですが

まんまと上を行かれてしまいました。

まあ、私が悪いんですけどね。

ごめんメルキャト。もっと商売を繁盛させてあげるからね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ