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大好きかしら?

 季節は流れ夏となり、ヴィロフォルティの体も少年とは言えガッチリしてきた。

日々の鍛錬は一閃とブレス、龍気の鍛錬に費やされているが、一月前より解禁された食事のせいだろうか。


彼はよく食らい、食事の度にメイド達は大慌てで彼に料理を運んだ。

彼の背丈は伸び、アローズィの胸ほどの高さだったはずが、今は首元まで伸びた。しかしフィニスの背丈にはまだ及ばず、豊満すぎる胸での抱擁といういたずらをよくされている。


 一閃とブレスはフィニスの昼夜を問わない教育の賜物で、手数の一つとして使えるようになった。ただし、フィニスはそれを禁じ手とした。ヴィロフォルティが理由を問えば、「一瞬で終わったらつまらないでしょ?」の言葉で終わった。


龍気の方は難航した。そもそも龍気というのが解らない。殺気や怒気といった類のものでもないらしく、感覚がつかめずこれにはフィニスもどう教えたものかと悩んだ。

フィニス自身は、生れ持っている感覚である為、それが無いという事が想像できず、教えようが無いのだ。


 突破口はアローズィの一言だった。


「私は龍気というものを存じませんが、魔力と似た様なものでありましたら、部分強化のための魔力操作と同じかと。」


それを聞いたヴィロフォルティは考えた。

魔力操作は体内の魔力を知覚する事から始まる。これには随分と苦労したが、龍気も似たようなものかもしれない、と。


その頃フィニスの指導は口頭での説明と実演のみとなっていた。知覚し行使できないものを使えというのは、意味が無かったからだ。ヴィロフォルティは、それが終わった後、瞑想に近い形で()()()()()()()()()()()を知覚しようと努力した。

フィニスも、出来ないものは仕方ないと、実演が終わればヴィロフォルティを相手に剣での鍛錬を開始した。これにはヴィロフォルティは喜び、フィニスもいいダイエットになると乗り気で相手をしていた。


 龍気を知覚する作業を進めていれば、確かに魔力とは違う何かの引っ掛かりを覚える。彼はこれを昼夜を問わず、暇さえあれば向き合うようにした。

すべて死なず、飢えず、眠らなくてもよいこの体だからこそ出来る方法だった。

彼がそれを習得するまでには、ゆうに120日の時間を掛けた。


 部分強化の感覚で、左手にに龍気を流す。それ自体は眼に映るものではなく、いいとこ鱗の艶が出るくらいだ。

その状態で、2頭のドラゴンに”軽めの”ブレスをつかって貰う。

彼の左手は、2頭のドラゴンのブレスを弾いた。

それに感激したフィニスは、彼を二つの巨峰で挟みつけ、彼を振り回し狂気乱舞した。


それからの一閃とブレスはさらに使いやすいものとなり、身体強化で代用していた分の消耗が、極度に抑えられた。

剣術は、フィニスのトリッキーな動きや、時には達人顔負けの技や一発を繰り出し、彼は彼女に一度も勝てなかった。

その間は、彼女は素手であった。


 ここまでくればヴィロフォルティは無敵のように思えるが、フィニスに「何言ってるの?」と鼻で笑われ、アローズィには「熟達した魔導師であれば秒殺で御座います。」とダメ出しを食らい、2頭のドラゴンは、生暖かい目でヴィロフォルティを見るのだった。

何が悪いのかと問えば、二人は自分で掴めと言い、駄目元でドラゴン達に問うてみれば午睡で返された。

 

 そうなるともう、打つ手が無い。色々考えている間に、フィニスと鍛錬の時間が来た。


「さてヴィー?今の貴方は無敵だと思っているようだけど、その根性を切り崩してあげる。早く龍化なさい。」


いつもの狩猟服ではなく、ドレス姿とピンヒールで現れたフィニスはそう宣言した。

彼は自身で出来る最速で龍化を終え、大剣を構える。

大剣は言う。正眼。


「温いわね。始めるわよ。」


言葉の途中で大剣から、剣先を左後ろにと指示。爆音と共に彼の体が右にずらされる。

そのまま突きに転じれば、剣より退けとの気配。大剣を後ろに引いた反動を利用して下がる。


「剣に助けられたわね。」


フィニスの追撃がこない。ドレスの腰に手を当て、ヴィロフォルティを見下ろす。


「不甲斐ない。」


そう聞こえれば次には大剣の切先前に姿を現し、剣筋を止める。引けば切れるがその後は?


「情けない。」


大剣の指示があるが同時に剣を拳で打ち下ろされ、ヴィロフォルティは片膝を突く。


「みっともない。」


剣をヒールで蹴り飛ばされ、離さないようにと強く握れば、剣ごと体を持っていかれる。


「剣を離さなかったのだけは、褒めてあげるわ。でも、零点よ。」


顔を上げればすでに目の前にフィニスが立ち、彼を見下ろしている。


「これじゃダイエットにならないわ。そうね。今から、あたしのドレスに剣が届けば、あなたの勝ちにしましょう。」


そう言うとドレスのすそを両手でつまみ、膝を折って軽く腰を落とす。


「始めましょ?」


両手を女性の形のダンスに挙げ、リズムを取り、前に進む。

その姿の軸線を見出し、そこを突く。彼女は軽く回り回避、ドレスのスカートがふわりと持ち上がる。


 その後の彼は、フィニスになも出来なかった。彼は教えられ、思いついた全てを繰り出した。

剣技、格闘技、あまつさえニーイとの鬼ごっこで覚えた悪戯さえも、彼女のドレスに掠るどころか、繊維一本、髪一筋にすら、手が届かなかった。


剣を振るう。剣技と体術を交え振るう。手技足技を組み込んでみても、彼女のダンスを止める事も、乱すことも出来ない。

彼女は尚も技巧を凝らし、踊り、あまつさえヴィロフォルティの繰り出した手刀を手にし、踊りさえした。

一刻、二刻と続けるうち、フィニスは歌まで歌いだし、彼を翻弄する。

そのうち大剣は押し黙り、剣筋は乱れ始めた。

 

 しかし彼はあることに気付き始めた。

フィニスの動きは千変万化に見えるが、流れで見れば、一定のリズムがある。それすらもさまざまに変化するのだが、変化のタイミングに緩急があることを見出した。


そのヒントは彼女が歌う歌。そのリズムが彼の動きに合わせ、変化するのだ。

彼はフィニスの優しさに感激すると共に、一層、引く事が出来ないと改めて思う。

彼女の動きに合わせて、剣を振るう。否、振るうのではなく添わせる。剣を当て、切り裂くではなく引き斬る。

すれば彼女はリズムを変え、打点の内側に入り、彼に近付く。

体術の間合いに入ってくれば、彼は手刀と掴みを柔らかく動かし、ここぞというときに力を入れる。

優しく手を添え、いなされ、時には激しく打ち落とされる。それすらも彼女の鼻歌の一つのリズムだ。

 

 四半時はそうしていただろうか。鼻歌は激しいリズムに変わり、彼女は最後に、だんだん!と足を踏み鳴らし、二人で一つの形を作る。


「よく気付きました。素敵なダンスが踊れたわ。ご褒美を上げる。」


そう言い、ドレスの裾を大剣に当てる。


「ありがとうフィニス。やっぱりフィニスは優しい。大好きだ。」


その言に彼女は顔を赤くしたかと思うと、ヴィロフォルティを抱きしめる。


「あたしも大好き!!早くもっと強くなって!!あたしのヴィー!!」


「羨ましくはありません・・・羨ましくはありません・・・。羨ましくはありません・・・。」


いつの間にかすぐ側にアローズィが立ち、人差し指を齧り、二人を見ている。

ひとしきりヴィロフォルティを抱きしめたフィニスは、彼を離し、アローズィに向ける。


「次は魔法戦よ。あの子は事、戦闘になると手加減しないからそのつもりで。消滅させる事とヴィーに()()()()()以外、何をしても良いと言ってあるわ。感張りなさい。」


そう言うと一人屋敷に引き返す。その足取りは尚もステップを踏んでいた。


「ヴィー様?ヴィー様?私、羨ま死してしまいそうなので、手加減しません。」


「・・・・・・どうしたの?アローズィ?」


「御館様の抱擁なんて、私も滅多にして頂けないのに、ダンスまで・・・嫉妬でどうにかなりそうで御座います。」


「アローズィ!?なんだか怖いよ!?」


「大丈夫で御座います。一瞬で終わらせるなんて致しません。ヴィー様がしっかり学べるよう、丁寧に丹念に入念にいたぶり倒して差し上げます。」


「えっ?」


「ヴィー様?私はヴィー様のこともお慕い申し上げております。ですので、二重の意味で、嫉妬に狂いそうなのです。」


そう言うと無詠唱で、無数の魔法陣を展開する。それは彼らの周りを取り囲み、空さえ埋め尽くした。


「龍気で何とかなるとお考えになられませんよう。私の魔法陣はそのように柔ではありません。」


「えっ?」


「では、参ります。私とも、しっかりと踊って頂けますよう。」


二人を取り囲むように、一瞬で土と氷の壁が出来あがり、ヴィロフォルティは慌てて剣を構える。

その頃には大剣も機嫌を直したのか、彼の声に答えた。


 それから轟音と光は、フロントラインまで揺るがし、それは朝日が昇るまで続いた。



 荒れ果てた広大な庭の真ん中で、ヴィロフォルティは久々に気絶していた。


「よくもまあ、一晩中派手にやらかしたわね。」


「御館様、おはよう御座います。実に清々しい朝です。」


「何よ艶々した顔して。そんなに楽しかった?」


「久々に張り切ることが出来ました。実に爽快でございます。」


「あたしのヴィーを一晩中独占させたんだから、何か実はあるんでしょうね?」


「・・・・・・。勿論でございます。ヴィー様なら、魔法戦の手管とは何たるかを、存分に学ばれて御座います。」


「それって、ヴィーに対処が出来るように教えたの?」


「そのはずで御座います。」


「・・・・・・はしゃぎすぎでしょ・・・。まあ、お前が満足したならいいわ。偶にはいいでしょう。」


アローズィが腕を一振りすれば、巨大な魔法陣が庭を覆い、見る見るうちに元の綺麗な庭に戻る。

フィニスはヴィロフォルティを抱きかかえると、アローズィに言った。


「朝食がまだよ?早く準備なさい。お前も一緒に食べるのよ。」


「御館様・・・。アローズィ、胸が一杯で御座います。ハグしても?」


「それはいいわ。ヴィーを起こして綺麗にしなきゃね。」


「御館様。それはずるいです。」


読者の皆様神様仏様。

私です。

踊る様に戦う。とよく聞きますが

実際にその道の方の演舞を見ると

なんとなく、そう思えます。

型を止める所作が、とても好きです。

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