閑話かしら?
魔王は困惑していた。
将を3体も殺す相手に。4匹のドラゴンを贈った相手に。何を目的としているのか、さっぱり見当がつかない。
勇者は進軍の調子の良さに慢心している。引き込んで叩く好機ではある。しかも与えられたドラゴンは4匹。中級とは言え十分に使える。
軍と勇者を切り離せれば、それだけ勝機が増える。残る将と2匹のドラゴンで勇者どもを引き付け、残る二匹で伸びきった補給線を叩けば終わりだ。
そのはずなのだ。簡単な事なのだ。
しかし、将を殺した相手の意図が見えない。動きが解らない。加えて、黒の森の攻勢に龍が出現したとの未確定情報もある。なんとも迂闊に動けないのだ。
加えて、有力者の勢力からの突き上げも、抑えるのに手間がかかる。いっそ、大攻勢でも仕掛けてくれればよい物を。
魔王の苦悩は、収まる気配は無い。
人の王も困惑していた。
敵将が3体も何者かに討たれ、兵も勇者も天の采配と浮かれている。一部の将は危機感を訴えているが、周りがそれを受け付けない。
落とし穴はこう言う時にこそ隠れているものだと、王は知っていた。
強権と動向を探らせるという目的で、兵や貴族達の不満を発散させてはいるが、いつまでも続くものではない。
特に勇者の動向が気がかりだ。王の眼から見ても慢心しているのではと思うほど、浮かれている。側近や、仲間達から苦言を呈するようにしてはいるが、これもどこまで彼に届いているやら。いっそ攻勢でも仕掛けてみるか。
人の王の苦悩は、収まる事がない。
勇者は不安に苛まれていた。
相次ぐ敵将の死に、浮かれて見せてはいるが、それを成したものと自分の実力は同程度なのか。自分はまだ、魔王を倒すに足る実力が、身についてはいないのではないか。
そんな不安が彼を道化にさせるのだ。
兵の進軍があれば、その先頭に立ち蛮勇を奮うが、それが実になっているとは思えない。かといって、焦ってみても、兵と仲間が混乱するくらいで、意味がない。
魔王は慎重で狡猾で、今もまた、策を練っているに違いない。
勇者の不安は鎮まる事がない。
そんな戦況の中で、人と魔の商会は着実に業績を伸ばしていた。
特に魔の商会、ゴートシープ商会はどの商会よりも素早く情報を仕入れ、商売敵を混乱させ、富を増やしていった。
メルキャトはそれを成したレウェルティを高く評価し、また、それが彼女の仕込ではないかと恐れた。自分に牙を向くといった意味でなく、彼女が成そうとしている事をうすうす察していたからだ。
彼女は商会の情報網だけでなく、独自の情報網を構築し、その手腕は商会内でも高く評価され、追従するものも増えている。
加えて、最近出合ったあの少年の事もある。彼の後ろ盾は人魔全ての商人が束になっても相手できるものではない。その後ろ盾との繋がりを得たのだ。護衛と偽って、彼に就かせたのは間違いではなかったか?
彼はそう思うようになっていた。
「レウィ。話がある。」
ある日彼はレウェルティにそう言うと、自分の執務室で彼女を待った。彼女は間を置かず、執務室のドアを叩く。
「入れ。」
そうして入ってきたレウィは、どんな場面でも失礼の無い装いで、彼の前に立つ。
ソファに座るメルキャトは、手で対面のソファを指し言った。
「まあ、座りなさい。呼び出したのは商売の話じゃない。」
「どうされたのですか?お父様。」
「最近のお前の頑張りについて、色々話したくてな?」
当たり障りの無い話から、気になっていることへの諸注意などを話し合う。中途に古くからの使用人が茶を持ってくる。彼は特別なハンドサインで人払いを指示。使用人は何事もなく、部屋を出た。
「さて、商売の話で言いたい事はあらかた言った。ここからは家族の話だ。」
「珍しいですね。お父様から、家族の話を切り出すなんて。」
「商売は金が全てだ。正し、足元がしっかりしていての話だ。足元が不安定なところに商売を持ち込んでも、博打と変わらん。俺は金が好きだ。だが、家族をないがしろにしてまで儲けようと思わん。」
「・・・・・・。」
「こんなの時、どういえば解らんから単刀直入に聞く。お前は何を成そうとしている?」
「腹の探り合いや、韜晦なんて必要ないですわね。」
しっかりとメルキャトを見て、彼女は言う。
「お父様。あたしは百数十年に渡り、アレと戦う準備をしてきました。あたしが生れたときからといって良いと思います。そしてアレの首に、今なら手が届きそうなんです。」
「・・・・・・お前を魔王様から預かってから、ずっと思ってた。いずれ牙を剥くときが来るのではと。」
「お父様は、どこまでお知りになっておいでですか?」
「裏を取らずに商売はしない。お前を預かる前から噂を聞いていた。『聖と魔の間に生れた子は、如何に成るか』と。」
彼は離し話しを続ける。
「その唯一の成功例が、レウィ。お前だという事。母体となった『聖女』は死んだという事。」
「お父様。”おかあさま”は死んでおりません。正確には自我が崩壊し、白痴になって、城の地下に幽閉されております。あとは言わずもがなです。」
彼は手で顔を拭う。娘の”耳”は自分より良く聞こえているようだ。やはり、余計な駆け引きは不要か。
「わたしは半聖半魔の化け物です。そんな私をここまで育て、教えを頂いた恩はわたしの宝物です。お父様と商会には返しきれないご恩があります。」
「レウィ。レウェルティ。家族に恩などという言葉は不要だ。お前は私の娘だ。おまえが成そうとしている事は、お前に必要か?別の道は模索したか?」
「・・・・・・あたしの中の『聖』は言うのです。復讐は我が身と家族を滅ぼすと。あたしの中の『魔』は囁くんです。自分を生んだ何もかもを壊せと。・・・・・・もう、その板ばさみに疲れてしまったのです。」
顔を伏せ、ドレスを握り締める。
「そして、アレに魔王に届く剣を見てしまった。繋がりを持ってしまった・・・。お父様、あたしはもう限界なのかもしれません。今こうして動いているのは、自分が弾けない様にする為なんです・・・。」
伏せる娘の顔から、無数のしずくが落ちるのを見て、彼は思う。どう言葉を変えるべきか。諭すべきか手伝うべきか。
彼には徹頭徹尾、商売の手管しか持っていない。今のレウィに諭す言葉を持ち合わせていない。なればそれを使うしかない。
「レウェルティ。勝算は?」
「今は4分。」
「レウェルティ。俺は家族を諭す事も出来ない、だめな男だ。娘を危険な道から引き離す事も出来ないだめな父親だ。だが、商売には家族が必要だ。金も、信用も、お前も不可欠だ。」
彼はレウィの側に座り、彼女を抱きしめる。
「こんな屑な父親が出来る事は一つだけだと思う。お前の話に一枚かませろ。お前に商会を残す事が、俺の唯一の出来ることだと思ってた。だが、おまえがやりたい事があるなら、それをさせてやろう。」
「それではお父様を危険にさらしてしまします!」
「俺を使えば勝算は幾らだ?商売人として考えろ。」
「・・・・・・7分・・・です・・・・・・。」
「では、ことを成した後の商機はどのくらいの規模になる?」
「・・・・・・事の運び方次第で、魔領の商売を仕切れます。」
「なら商機を逃す手は無い。」
「おとうさま!これは博打です!乗ってはいけません!」
顔を上げ、父を説得しようとする娘がそこにいた。
俺は幸せ者かもしれない。
彼はそう思う。心から自分を思ってくれるものがいるという事は、嬉しい。
「お前には教えていなかったが、商会の資本金は全部、俺が博打で稼いだ金だ。お前が7分といった勝算を全勝にして見せようか。」
娘を抱きしめ、その髪を梳いてやったのは、いつ振りか。本当にだめな父親だ。だが、娘のやりたい事があり、勝機があるなら、それを叶えてやろう。
「御館様。商会と人魔の姫がその気になったようです。」
「とうとう芽が吹いたわね。大事に育てなさい。」
「ヒトは如何しましょうか?」
「共に育てて、どんな実がなるか、楽しみにしましょ?」
「承知いたしました。ところでヴィー様は?」
「少し疲れているようだから、たっぷり休養を与えてるわ。今頃義姉さまの所でしょ。」
「御館様にも情けがあったのですね。」
「失礼ね。殺すわよ。」
「ヴィー様の呪いについて、一部進展が御座いました。」
「聞かせなさい。」
「神罰の術式化に目処がつきました。一部権限に干渉できそうです。」
「干渉はまだ止めておきなさい。十分に把握できてから、どうするか考えましょ。」
「承知いたしました。」
「アローズィ?褒美は何がいい?」
「私もヴィー様に膝枕がしてみたいです。」
「吹っ掛けてきたわね。考えておくわ。」
「では、解析を急ぎますので、席をはずします。」
「ダメよ。」
読者の皆様神様仏様。
私です。
なんとなくですが、少しばかりバックグラウンドの
掘り下げをやりたくなったので書きました。
嘘です。
閑話というものをやりたかったんです。




