お花見かしら?
事の起こりは水の将殺害の後に起こった。
「御館様。ヴィー様は見事水の将を討ち取りました。」
「今回のヴィーは、いまひとつスマートさに欠けてたわね。かっこよかったけど。」
「対魔法戦は教え込んだつもりでしたが、私の力不足に御座いました。申し訳ありません。」
「と、言うより、経験不足よね。立ち回りと対応はそれなりに見えるわ。」
「ありがとう御座います。御館様。」
光魔術でのヴィロフォルティの姿を幾百回と眺める二人はそう言う。
「この蛇女に取り付いて、進む様なんて、何度見ても身震いするわぁ・・・。」
「それでなのですが、勇者側に予定外の動きが御座いました。」
「この首を引きちぎるところなんて、濡れてきちゃう。で、何が起こったの?」
「魔王が対勇者の戦力を弱め始めました。それを受けて勇者側が、慢心を始めた様に御座います。」
「これだからヒトは度し難いわ。まあ、ヴィロフォルティが強すぎるのよね。」
「黒の森で、あそこまで成長なさるとは思いませんでした。」
「そうねぇ。魔王側に中級の野良をあてがいなさい。数は4程。防衛に使うようなら、暴れさせるといいわ。」
「承知いたしました。」
「ねえアローズィ?あなたヴィーに色々教えてるわよね。」
「ヴィー様の戦闘への発想は、私の想像していない事柄が多く、私と致しましても勉強になります。」
「そうね。ヴィーの発想は面白いわよね。で、あなただけって言うのは、すこし、ずるくない?」
「と、申されますと?」
「勇者の成長も遅いようだし、時間が必要よね?」
「・・・・・・御館様も、ヴィー様を指導したいと?」
「そうよ!!あなただけずるいわ!!わたしもやりたい!!」
「・・・・・・承知いたしました。一度ヴィー様を屋敷にお戻しいた致します。」
「あたしも教えたいことは一杯あるんだから!覚悟してなさい!ヴィー!」
と、いうわけで、ヴィロフォルティの前には、体のラインが強調されすぎている服に身を包んだ、フィニスが凄い笑顔で仁王立ちしている。
「アローズィ?フィニスのあの格好は?」
顔を赤らめ、あさっての方向を向いているヴィロフォルティはアローズィに問う。
「御館様のたっての希望に御座います。実に眼福です。」
「そうなんだ・・・。」
「何してるの!こっちに来なさい!」
そう言われ、ヴィロフォルティは顔しか見ないことに決めた。フィニスのあの格好は扇情的過ぎる。
彼女の前まで行くと、ふんすと得意げに胸を張る。
「聞いたわよ?対魔導師用の装備を作ったんですってね。それもいいけど、とりあえずヴィーにはその体の使い方を教えるわ。」
ふんすふんすと得意げに言う。
「あなた一閃とブレスを使える様になったわね?」
「あれってそう言うんだ。使えるよ。」
「でもその後動けなくなるのはいただけないわ!今日はその対策よ!」
ヴィロフォルティが食いぎにみにフィニスに近寄る。
「それってどうやるの!?」
「まずは一閃とブレスをつかってみなさい。とりあえず空に向かって放てばいいでしょ。」
「わかった。」
彼は龍化し、あの時と同じように口の中に身体強化を集中させる。力を漲らせ、咆哮を一点に集中させるイメージで唸る。口が裂け、今にも弾けそうな力を顎で押さえつけ、臨界に達したとき、彼は全てを吐き出した。
再び光の線が雲に穴を穿ち、空に消える。
その後、彼は膝を突き地に手を着ける。
「溜めが遅すぎるわ。それに身体強化だけでそれをやってのけるのは凄いけど、そもそも撃った後そんなにへたるのは、やり方が間違ってるのよ。」
フィニスを見上げ、首をかしげる。
「とうt・・・・・・じゃないわ。つぎはブレスよ。同じようにやりなさい。」
彼は立ち上がり、同じように集中し、ブレスを放つ。そしてついに倒れこむ。
「ヴィー。ドラゴンや龍がブレスを吐いた後動かなくなる?」
その側に立ち、言葉を続けるフィニス。
「立ちなさい。」
彼はふらつきながらも、何とか立ち上がる。
「龍の一閃は情念を放つもの。龍のブレスは思いを吐き出すものよ。気力と体力のみでそれをするのは凄いけど、そうれだとそうなるの。今言った事を考えながら、もう一度よ。」
彼はしゃべる事すら出来ないが、他ならぬフィニスのいう事だ。再度試す。
「今日から、きちんとできるまで続けるわよ。泣いたり笑ったり、出来るものならやってみなさい。」
ヴィロフォルティの受難が始まった。
何度も一閃とブレスを使わされ、倒れこめば指摘をしながら叱責し、気絶すれば、数分の後に臓腑を抉る、容赦ないけりが入る。
出来ないとなれば要点を説明し、その体が吹き飛ぶほど殴る。
その指導は一昼夜にもおよび、彼はとうとう何をされても動かなくなる。
フィニスは動かなくなったヴィロフォルティを大事そうに抱え、寝室につれていく。
翌朝になり、彼を叩き起こすと普通の朝食を摂らせ、再び訓練という名の受難を与える。
その訓練は実に1週間にも及んだ。
その甲斐があってか、彼は一閃とブレスを何回か使用しても、倒れこむ事はなくなった。しかし、死なないはずの体はひどく消耗し、その顔色は青い。
「とりあえず勘は掴んだようね。じゃあ、次に龍気を学んでもらうわ。これを掴めば一閃とブレスの威力も上がるし、消耗も抑えられる。ヴィー。あなた魔法を打ち消す事が出来るわよね。」
ヴィロフォルティは頷く。「返事は!」
「・・・うん・・・左手と・・・右足は出来る・・・龍化したら・・・どちらも・・・出来る・・・・・・。」
「水の将と対戦したとき、剣を投げたら魔法陣が割れたわね?それは剣が龍気を纏っていたからよ。今度はそれを覚えなさい。」
そうして消耗しきった後には、必ず龍気の鍛錬が入るようになった。時に実演し、出来なければ指摘と容赦ない制裁が入る。
彼はそれに20日耐えた。
「ヴィー。今日はお休みよ。あたしに付き合いなさい。」
そう言うとアローズィに準備をさせ、2頭のドラゴンを引き連れピクニックに出かける。彼としては空腹な上、ただただ眠っていたかったが、フィニスの上機嫌な顔を見ると、付き合わざるを得なかった。
ヴィロフォルティの手を握り、鼻歌を歌いながら歩けば、大木が見えてくる。その大木は緑の葉ではなく、薄茶と薄桃色の葉を見事に茂らせ、そこに在った。木全体が、花のようだ。
アローズィに準備をさせている間、フィニスはその大樹の由来を話す。
その昔、フィニスが偶然異界に迷い込んだ時に見初めたものだそうだった。その時、苗を手に入れ、ここに植えた。名は”山桜”というのだそうだ。
アローズィが準備を済ませれば、見た事の無い料理が並び、果実酒ともワインとも違う、柔らかな香りが広がる。
「東方にある”米”という穀物から作る酒よ。異界の龍が好んで飲んでいたわ。」
「ワインとも違い、柔らかくするりと飲めてしまします。ヴィー様のために甘めのものをご用意いたしました。」
そう言うと手のひらに隠れる小さな陶器のコップを差し出す。彼はそれを両手で受け取る。アローズィはまずフィニスのコップに注ぎ、次にヴィロフォルティのコップに酒を注ぐ。そこから漂う香りは、今まで嗅いだ事がなく、不思議な感じがした。
飲めばその味は果実酒の様に甘く、花の香りが広がる。まるで水の様だと思えばその後に酔いが来る。
「どうかしら?悪くないでしょ?」
「うん。不思議な味だね。おいしい。」
その時、さぁと風が流れ、花びらが舞う。それはまるで小雨のように皆に降り注ぎ、2頭のドラゴンも首をもたげその光景に見入っているようだ。
三人もその花の小雨に見入り言葉が無い。一口、二口と酒が入る。
「・・・・・・ここにニーナも居れば、もっと楽しいのかな?喜ぶかな?妹は花が大好きだったから・・・。」
空腹に酒が入り、疲れも相まって船を漕ぎ出すヴィロフォルティに、フィニスは言う。
「皆でまた、この花を見ましょう。きっと楽しいはずよ?」
こくりこくりと舟をこぐヴィロフォルティに、フィニスは自分の膝を叩き、膝枕を促す。彼は素直に膝に頭を預ける。
フィニスは優しく彼の頭を撫で、ヴィロフォルティは自然と眼をつむる。
「フィニス?僕頑張るよ・・・。」
そう言うと、彼は寝息を立て始めた。
フィニスは顔を上げ、頭上の桜を見つめる。アローズィもまた、同じように桜を見上げ花びらの小雨を手に取る。
「御館様気になることが。」
「・・・・・・なにかしら?」
「御館様の血肉の侵食率が、想定よりやや早まっています。精神に若干の影響が出ているようです。」
「それがあの戦い方ね?」
「左様で。最近のヴィー様は以前より痛みを厭わない傾向がございます。あの呪いに関しましても、いつ取り上げられるかも分かりません。アローズィは不安に御座います。」
「・・・悩ましいところね。でもあいつらが自分の成した事を取り上げるのは、プライドが邪魔をして早々無いわ。」
優しく髪を撫でつけながら、フィニスは言う。
「この子が成れ果てても、あたしが何とでもするわ。あたしの血肉だもの。あたしの物だもの。」
「・・・・・・私は、ヴィー様のそのありようが、御館様のお心を掴んでいるものと思いましたが・・・。」
「勿論。だからこの子がどうなろうと、あたしの物よ。それに私の旦那様よ?猛々しいくらいが丁度いいわ。」
「無礼を承知で申し上げれば、今暫らく定着に時間を頂きたく思います。」
「当座の予定に変更は無いわ。それに妹がヴィーの錨よ。私はこの子を信じてる。あなたも信じなさい。」
「・・・御意に。」
「それにしても今年は花が綺麗ね。やっとこの世界に慣れたのかしら。」
「龍とドラゴンと花吹雪。私めも忘れる事が出来ない光景です。」
「そう。お前も連れてきて正解だったわ。」
花吹雪がまばらになり、フィニスはヴィロフォルティを膝に微笑む。アローズィはその言葉に顔を綻ばせた。
読者の皆様神様仏様。
私です。
桜はソメイヨシノも良いのですが
山桜の方が好きなのです。
春先の広葉樹の山に、ぽつんとある山桜は
そこにあるだけで絵になると思います。




