小休止かしら?
ヴィロフォルティは道すがらの小川で、レウィの許可が出るまで体と装備を洗った。
彼らが村に着いたのは、翌日の朝になった。
再びホビットに声を掛ければ、嬉しそうに工房まで案内した。
工房に着けば、老人とアローズィが仲良く日向ぼっこをしながら、ジョッキを呷っている。
「お帰りなさいませ。ヴィー様。水の将殺害を確認いたしました。」
「そのなりはなんじゃい?まるでスラムの住人じゃ。」
可可と笑う老ドワーフ。
ヴィロフォルティは不思議そうに二人に問う。レウィは呆れ顔で二人を見ていた。
「何でアローズィが?それに日向ぼっこは分かるけど、何でジョッキ?」
「なんでて。日向ぼっこには蜂蜜酒じゃろがい!」
「お茶が欲しいところでしたが、生憎とティーセットを忘れておりまして。」
可可と二人して笑う姿に、彼は何も言えず、ただ苦笑いした。
「親方には防具を見てもらいたいんだ。」
「年寄りの楽しみを邪魔すんなぃ!後で見てやるからお前も座れ!」
「私は若いですが、日向ぼっこは好きなのです。若いですが。」
ささとアローズィは自分の隣を叩き、ヴィロフォルティに座ることを促す。彼は苦笑しながらも大剣を降ろし、その隣に座る。
「レウィ様もお座りになられては?」
アローズィの言葉に彼女は首を振る。
「あたしはいいわ。ちょっと散歩してくる。」
そう言うと、皆に背を向け歩き出した。
アローズィはヴィロフォルティに蜂蜜酒を差し出し、言った。
「今回は苦戦なされましたご様子。対魔術戦を指南いたしました私と致しましては、些か不本意に御座います。」
「もう知ってるの?」
「御館様と私は、耳が早いので御座います。ただ、その戦いぶりは評価されておられました。」
「うん。あんなに相性が悪いなんて思わなかったよ。対策を考えないとね。」
「それにつきましては、親方様にご依頼させていただきました。ヴィー様にはそれに習熟して頂きます。」
「どんな事なの?」
「まずは日向ぼっこを楽しんでからじゃ!小僧!お前も飲め!お前に合わせて、今日は甘めの奴じゃ!」
日が随分と昇るまで、存分に日向ぼっこを楽しんだ老ドワーフは、ヴィロフォルティの防具を見ていた。
破れた部位を確かめ、ヴィロフォルティの龍化した体を見ては壊れた防具と突合せ、ようやく納得したようだ。
「さて小僧。お前の体と防具は、合うように出来とらん。今のその体に合わせて、手直ししてやる。」
ヴィロフォルティは慌てて老ドワーフに問うた。
「それってどれくらいでできるの?材料は大丈夫かな?」
「今ある防具を使って、仕立ててやるわい。ブーツの方は手直しより、作り変えじゃな。お前の体にブーツは合わん。こいつには追加で材料がいるが、手持ちでまかなえるじゃろう。で、5日はかかるぞい。」
「そうなんだ・・・。」
意気を落とすヴィロフォルティに老ドワーフは胸ベルトを放り投げる。
そのベルトには。十数本の針状のナイフが刺さっており。投擲用だとひと目で分かる。
「小僧にはそれの使い方を覚えてもらう。小僧なら、対魔導師戦で使えるじゃろうて。まずは礫で練習せい。」
そう言うとさっさと奥に引き込んでいく。
ヴィロフォルティの後ろに控えていたアローズィが言う。
「ヴィー様には5日間、休まず鍛錬して頂きます。その武具が使えるようになれば、手数の幅が広がるはずです。」
「練習は裏の森でやれぃ。工房じゃ狭過ぎるわい。」
奥から老ドワーフの声がした。二人は工房を後にし、森へと向かった。
森の開けた場所まで来ると、アローズィは腕を振る。すると100歩は離れた場所に人型の標的が出来上がる。
「この様な事もあろうかと用意しておきました。ヴィー様にはまず、礫をあの的に当てて頂きます。まずは100発100中になるまで頑張っていただきます。」
ヴィロフォルティの足元に魔法陣が描かれ、小石の山が出来上がる。
「おおよそ5千の礫で御座います。それを使い切ってくださいませ。」
「村ではよく的当てをしてたけど、できるかなぁ。」
「出来るかなではないので御座います。やるので御座います。」
結局、ヴィロフォルティが小石を使い切ったのは、夜も更けた頃だった。
いくら夜目が効くといっても、ヴィロフォルティにもきついものだった。まず肩と肘が痛む。指先は小石で擦り切れ、血がにじんでいる。まあ、すぐに再生するわけだが。
森は暗く、的も影にしか見えない。当たれば音がなるので分かるが、外れたとき、どう外れたのかが分からない。そこから修正が出来ないので、命中率はさらに落ちる。
「ヴィー様。この五日間は、これだけに集中していただきます。昼も夜も関係御座いません。」
飲まず、食わず、睡眠さえ必要としない。その体で行う鍛練は、彼をどう成長させるか。
それにアローズィが必要だといういのだ。ないがしろにして良い事ではない。
小石が的に当たる音は、夜が明けるまでで続けられた。
翌日、日が中天にさしかかる頃には、礫は全て、的に当たる様仕上がった。
「本来ならば、闇夜でそれが出来るのが最上。、次は、目隠しをして行って頂きます。的には僅かに気配を施しておりますので、それを感じる方法も模索しながら、行っていただけますよう。」
それからアローズィのスパルタ指導は、動く的での訓練に2日、目隠しをして動く的を狙うのに1日をかけ鍛錬を施した。
その頃には、ヴィロフォルティは一通りの投擲術を会得した。
5日目に仕上の試験が行われた。相手はアローズィ。彼女につぶてを10発当てられれば、合格。
彼女なら気配を消すことも容易いが、それをせず、ヴィロフォルティは目隠しをし、彼女の気配のみを追いかける。
結果は200発を使い、10発を当てた。
「まずまずと言ったところに御座いましょう。これで本番では5発中、3発は当たるはずです。また投擲術は一度に3本以上を使い、的に当てることが可能です。今回は短い時間での鍛錬でしたので、これからも精進なさいます様。」
老ドワーフはあきれ顔で言う。
「普通はそんなことしたら身につく前に、潰れっちまうわい。そして使いモンにならないオマケ付だ。良くやるよ小僧。」
「装備のニードルは実戦の中で、使える様、模索して頂けます様に。それから御館様が、一度屋敷に戻る様にとの事で御座います。」
そういうとアローズィの姿は風になり、消えた。
入れ替わりに、今まで姿を消していたレウィが工房に戻ってくる。
「あら追加装備ね。商会からは金は出さないわよ。」
「何と吝嗇な奴じゃ。小僧、友人は考えた方が良いぞ?」
「誰が守銭奴よ!それにあんたも同じ穴の狢じゃない。」
「おぬしは商会のため。儂は村の為じゃ。どちらに大儀があるか、勝負じゃな。」
「もう!あたしの負けでいいわよ!で、幾らかかったの!?」
老ドワーフはにぃ笑い、こともなげに言った。
「龍の防具を作るなど、剣を鍛えるより面白かったわい。使った材料代で銀貨80枚じゃ。」
「・・・・・・何か裏がありそうね。」
「そうじゃのう。色々試してみたいことを盛り込んだからの。暫らく小僧を借りるぞい。」
それからさらに二日、装備の習熟に時間を掛けた。昼は老ドワーフの説明と課題をこなし、夜は森で鍛錬を行った。ヴィロフォルティは合わせて一週間も、寝ずに鍛錬に明け暮れた。
その甲斐あってか、防具は身に馴染み、ニードルナイフはいっぱしに使えるようになった。
「どれ、使えるようになったからには働いて貰わんとな。森で獣の10匹でも捕まえて来い。備蓄は幾らあっても良いからの。」
村の備蓄を手伝わされはしたものの、レウィは馬を手に入れた。これで道中楽が出来る。ヴィロフォルティはといえば、走っていくという。
大剣はさらに研かれ、右手の篭手は指先が指貫になっており、前には着いていた拳のナックルガードが取り払われている。
両足のブーツはサンダル状となり、見た目は華奢に見るが、足の甲と足首を覆う金具はアダマンタイトと龍鉄からミスリルへと交換され、その網紐はブーツに使われていた竜の革で出来ている。
村を出発した彼らは、真っ直ぐに魔領の境界の町を目指した。
町などには寄らず、途中の村で馬を休め、境界の村まで戻ると、二人はゴートシープ商会に立ち寄る。
メルキャトは二人を歓待し、旅金の追加や決済などを済ませると、ヴィロフォルティに言った。
「あたしはここでお父様とドライアド、それからエルフの話を詰めるから、あんたは一人で戻って頂戴。フロントラインへは今夜商隊が出るから、それについていくよう手配したわ。」
「あんたのお蔭で、この国での商売が格段にやりやすくなる。無論、フロントラインの店主にも、恩恵があるはずだ。ヴィー様。改めて礼を言う。」
「俺も礼を言うよ。レウィのお蔭で、旅が随分と助かった。帰ったらあの二人には十分に言っておく。」
「それだけでも、十分だ。あのお方と顔つなぎが出来るなら、商会は安泰だ。」
その後、ヴィロフォルティは食事を希望し、レウィは盛大に慌て、メルキャトは何のことか判らず困惑したが、ヴィロフォルティがその健啖というには異常な程の食欲を見せるのを、呆気にとられて見守った。
夜になり、商隊に同席する形で出発し、彼はフロントラインに帰還した。
帰還した彼は商会の店主に礼をし、台地の屋敷に向かった。
そこで眼にしたものは、正門の左右に鎮座するドラゴン達と、屋敷まで立ち並ぶメイド達の姿だった。その先頭にはアローズィがおり、ヴィロフォルティを待ち構えていた。
「お帰りなさいませ。ヴィー様。私共一同、心よりご帰還をお喜び申し上げます。」
そう言うとメイドたちは一糸乱れぬ態度で、彼に礼をする。
彼はその姿に混乱するが、アローズィは続ける。
「メイド達が皆、ヴィー様の勇士をひと目みたいと希望いたしまして、このような形を採らせて頂きました。」
「・・・・・・凄いね。皆ありがとう。」
ヴィロフォルティがそう言うと、一糸乱れず、静かな雰囲気のメイドたちだが、何かが伺えるような気がした。
「さあ、お前達。持ち場に戻りなさい。これ以上御館様をお待たせするわけにはいきません。」
そう言うなり、いままでの姿は何だったのかというように、姦しく屋敷に戻っていく。
「・・・・・・凄いね。色んな意味で。」
「・・・お恥ずかしい限りで御座います。」
「いつも世話になってるんだから、このくらいは良いんじゃないかな。」
「尊い・・・・・・。いえ、御館様がお庭でお待ちに御座います、こちらへ。」
そう言うと、ヴィロフォルティが歩き出すのを待ち、先導する。
屋敷はいまさらながらだが広大で、庭と称される場所は、綺麗に手入れされた芝生の広場だった。
そこに居たのは男性用の狩猟服に、その胸部が悲鳴を上げているかのような格好をしたフィニスがいた。
「お帰りなさい!ヴィロフォルティ!!今日からあたしと特訓よ!!」
読者の皆様神様仏様。
私です。
男性用の狩猟服を女性用にアレンジすると
それはそれは良い物になるような気がしたのです。
童貞を殺す服的な。




