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早く育って!育って!

[あたしの旦那様になって!!]


フィニスは言った。勢いで言ってしまった。

旦那様育成プランはもう大筋出来上がっている。あとは本人の意思だ。

これは大事。

従わせるなんて、無意味。取引じみて嫌だけど、ここは絶好のチャンス!

もう、後戻りできない!正念場よ!あたし!


「旦那様って・・・。僕に仕えるって事?」


[・・・・・・え?]


「え?」


そこからかー。

フィニスに解るはずがなかった。なにせ龍だ。ヴィロフォルティがまだ何も知らない子供だなんて思っても見なかった。

とても、とても気落ちしながら、フィニスはヴィロフォルティに一から説明するのだった。




説明は長くに渡った。よもや結婚とは、子作りとは何ぞやから始めければならないとは、思わなかった。


「じゃあ、フィニスは結婚したいんだ。」


[・・・そうよ!悪い!?]


「そうじゃないけど。でもさ?」


[なによ!]


「結婚とか、子つくりとか、好きな人同士でするんじゃないの?」


・・・眩しい!ヴィロフォルティが眩しすぎる!尊い!!

強さのみを基準にしていた自分が、何か間違っている気がする!

フィニスは自分の中に何かが芽生えるのを感じた。それは多分、芽生えてはいけない類の物だった。


「フィニスは強い男が好きなんだね。」


[・・・はっ!?そうよ!あたしより強くないと!]


強くなければ意味がない。自分より格下の子などいらない。強者を打ち倒してこその龍。

それ以外、価値がない。


「どうして強い方がいいの?好きなら関係ないんじゃないの?」


対してヴィロフォルティは愛こそ要だと思っていた。好きでもない結婚は、いくらでも見てきた。

村ではそれが普通で、みんなどこか諦めた顔をしていた。


[強くなければ、家族を守れないでしょ?]


その言葉に、ヴィロフォルティに電撃が走った。

そう、弱いから何もかも無くした。妹も守れなかった。


「強くないといけないんだ・・・!」


[あたしより弱いなんてありえない。旦那様は強くなきゃでしょ。]


「え?」


[え?]


お互いの間には、どうにも埋まらない何かがあるらしい。


[まあいいわ。ヴィーには強くなって貰うからね]


「うん!強くなるよ!じゃないと何も守れない!俺、分かったよ。」


[いい心がけよ!ヴィー!]


「でも強くなるには何したらいいの?」


[戦いは己を強くするわ!戦うのよ!ヴィー!]


「俺、剣とか使ったこと無いよ。」


[あんたにはその死ねない体とあたしの血肉があるわ!その辺の雑魚なら、ワンパンよ!]


「わんぱん・・・?わかんないけど、強いって事?」


[そう!強いの!まあ、その程度じゃ、あたしの旦那様にはなれないわ。もっと鍛えなさい!]


ヴィロフォルティは旦那様のくだりを無視した。よく分からないし、触れるとフェニスは、心底分からないという声を出すからだ。


「俺!剣とか使ってみたい!」


[えー?男ならステゴロでしょ?拳一つで成り上がるのなんて素敵!]


「剣とかかっこいいよ・・・。フィニスは剣とか嫌いなの?」


フィニスは龍。ヴィロフォルティは人間。体の縮尺が違うので、どうしてもヴィロフォルティが上目遣いになる。

フィニスに電撃が走る。


[・・・・・・尊い・・・・・・!!]


やばいかもしれない。フィニスは心のどこかで、そう思う。

思っている以上に侵食が大きい。()()が深い。


「どうしたの?フィニス」


[・・・なんでもないわ。ヴィーは剣がいいのね。・・・そういえばここに来た()()が小柄な体に大剣は正義とか言ってたわね。]


「大剣!かっこいい!・・・でもフィニスは拳のほうがいいんだよね・・・?」


自分の好みより、相手の好みを優先しようとするヴィロフォルティに、フィニスは言い知れない好ましさを感じた。


[・・・・・・尊み・・・!!圧倒的、尊み・・・・・・!!]


もうだめかもしれない。この気持ちは、我慢できない。初めて感じる、この尊さ。

ヴィロフォルティは尊い。これに強さが備われば?最高の旦那様になるはず・・・!!

フィニスはとうとう拗らせてしまった。


「どうしたのフィニス?」


[いい・・・・・・!いや、なんでもないわ。そうね、ステゴロ最強だけど、いまのヴィーには得物が必要ね。待ってなさい。]


氷塊の周りに魔方陣が幾つも現れる。

氷を穿ち、砕き、凍りつき剣を持った得体の知れない()()を持ち上げてゆく。


[どれにしようかな・・・・。]


皆、剣を持ってはいるが、その姿は人の形をした()()だった。

その光景に怯えているヴィロフォルティを他所に、剣を品定めしていく。


[これを使いなさい。()()()()()()()()()にはやっぱ大剣よね!]


他の氷塊を放り出し、選ばれたのは分厚い鉄の塊を持った氷塊だった。

[こいつだわ。大剣は正義とか言ってた奴。この剣はちょっと痛かったから、今のヴィーが使うにはちょうど良いわね。]


「なにかくっついてるよ!」


[あん?邪魔ね。]


言うなり魔方陣は剣だけをこそぎ落とし、何かの氷塊はフィニスの大きく開けた口に放り込まれた。


「食べちゃうの!?」


[不味っ。まあ、こうやって相手の血肉を取り込んでやるのも供養の一つよ。光栄な事よ?あたしに喰われるんだから。]


「・・・そうなんだ・・・・・・。」


[何ドン引きしてるのよ!それより剣よ!剣!ヴィーが好きそうな奴!]


「おおきい・・・。持てるかな?」


[持てるわよ。あたしを()()()()()()んだから。]


大剣に恐る恐る近づくヴィロフォルティ。ごとりと置かれた大剣のグリップを握ると、体全体を使っても、ピクリともしない。

踏ん張り、震えるその様子にフィニスは、動くはずのない目じりが下がったような気がした。


「ぜんぜん動かないよ!あと右手がくっついて離れないよ!?」


[まだ()()使()()()()()()()()からね。それにずいぶん永い事、凍ってたからねー。死にゃしないわよ。]


左手はぱっと離れたのだが、素手の右手はグリップに癒着してしまった。


「・・・・・・手の皮剥げちゃった。」


かなり痛いはずだがヴィロフォルティはただぽつりとそう言い、血が凍りついた手を眺めている。

すると見る見るうちに皮膚が再生していく。その様子を溜め息とともに見つめるヴィロフォルティ。


[ヴィーにはその剣を振ってもらうわ。絶対振れるから、それができるようになったら、外に出してあげる。]


「できるかなぁ?」


[尊・・・・・・。出来る出来る。出来なきゃ出来るまでやりなさい。]




ヴィロフォルティは眠るとき以外は、ただ黙々と大剣を握り続けた。

その間、彼は何も口にすることはなかった。どうやっても死なない体の上、何故か空腹感は無く、やがて力は必要な時に必要なだけ、無尽蔵に湧いてくるような感覚があった。

それに、剣を振る事と、眠る事以外、何もする事がなかったせいだ。

フィニスはまるで冬眠をしているかのように、剣を与えて以来、眠り続けている。

それから2回ほど洞窟前の氷塊が僅かに溶けた頃、ヴィロフォルティはツララに向かって、大剣を振るまでに至った。

フィニスは目覚め、ヴィロフォルティを薄目で見やる。その様子に気がついたのか、剣を肩に担ぎ、急ぎ足でフィニスの元にやってくるヴィロフォルティ。


[おはよう。ずいぶん動ける様になってきたわね。]


そう言うと薄目のまま、軽く牙を見せる。笑ったのだ。


「おはよう!振れる様になったけど、これでいいの?剣の使い方とか、どうするの?」


[知らないわよ。使い方なんて、自分で考える物でしょ?]


自分の問いを素気無く答えるフィニスに、ヴィロフォルティは少しむっとした。

フィニスはフィニスで、人の武器なんて、扱い方が分かる訳がない。弱者の小道具など、気に留めたこともない。


「村ではお父さんや先生が剣の使い方教えてたよ?」


[そんな悠長な事で、上達するわけないじゃない。実践あるのみよ!]


死地で命を磨いてこそ。

フィニスはそう言う考えの持ち主で、そう実践してきた。その苛烈な性格と行動は、同族からも恐れられてきたのだ。

つまるところ、教えたくても『教える』という事そのものが解らない。解らない物は、語りようも無いのだ。


[と、いうわけでヴィーには戦ってもらうからね。]


「えっ?!」


体を持ち上あげ、辺りを探るように首を振るフィニス。

そうして一点を見据えると、ヴィロフォルティの周りに魔方陣が生成される。


[だいじょぶだいじょぶ。死ねないんだから、『練習』し放題よ!]


腕を振り、軽くは言うが、ヴィロフォルティはたまったものではない。


「それはそうだけど、痛いのは変わらないんだよ!?」


[痛みは自分を強くするわ!痛いなら、痛くならない方法を探しなさい。]


即座に言い返されて、ぐうの音も出ない。それにほかならぬフィニスが言うのだ。間違いは無いはず。


「わかった・・・。フィニスがそういうなら、頑張る・・・・・。」


担いだ剣を抱き換え、俯き加減でそう言うヴィロフォルティ。

フィネスは天を仰ぐ。鼻から何か垂れてきそうな気配がしたからだ。


[尊・・・尊・・・・・・。いい事?()()()()()()()()()()しっかり学んできなさい。]


「えっ?」


[戦いこそ自分を強くする近道よ!あたしはそうしてきた!そうして最強になったのよ!!]


「最強・・・!」


その言葉に、ヴィロフォルティの男の子心はざわめいた。なんだかすごくかっこいい!

フィネスはかっこいい!そして強い!


[そう!最強よ!ヴィーにはとりあえず人魔最強になってもらうわ!それであたしの旦那様に一歩近づくのよ!]


「じんま・・・。それって強いの?」


旦那様のくだりを無視して、彼は言う。

どういうことだか解らない。知らない単語を聞いて、彼は首をかしげる。


[中の下ね。少しましってとこよ。]


「最強って、すごいんだね!」


彼の眼は、ここに来て、初めて輝く。よくわからないけど、最強はすごい事だと認識したようだ。

それを見たフィネスは初めて、嬉しさと喜びを感じていた。彼の視線は真っ直ぐで、とても良い。

今までの生涯で、一番に輝く者の眼をしている。

その視線は心地がよく、フィネスはその生涯で何番目かの期待を覚えた。


[そうよ!!ものすごい事なのよ!!ヴィーにはそれを超えてもらうんだからね!しっかり学んできなさい!]

なんと!同日更新です!

二人の掛け合いはホント楽しく書けます。


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宜しくお願いいたします。

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