次の獲物よ?
黒の森の結界の中。ヴィロフォルティは1日寝込んだ。彼の仕出かした事は、不死の体と龍の体をして、かなりの消耗を強いるものだった様だ。
2日目には食事を欲しがり、自身から狩りに出て鹿とイノシシ、あわせて4頭を仕留め、それを平らげた。
そんな彼にエルフ達は平伏し、ヴィロフォルティを大いに困らせた。空腹のヴィロフォルティに生贄という事で、自分を差し出すものすら出てきた。
何とかそれを推し留め、食事と寝床の提供のみで納得させるのは、少々骨が折れた。備蓄を掻き出すと代表は言い、聞き分けの無い皆に、最後に咆哮を上げる嵌めにまでなった。
レウィはやつれてはいるものの、ホクホク顔で、ドライアド達と話し込んでいる。
この一戦で、ドライアド達の情報網とその伝達の速さが、すこぶる役に立つ事が証明されたからだ。
彼女は先の条件の他に、商会としてその情報を使いたがった。主に支店間の通信だ。
取引は荒れた山への植林事業と、各支店に大樹を育てる事が条件となった。
全てレウィの独断だったが、ゴートシープ商会は、これで魔領で最大の通信網を得たことになる。
それは商売敵には真似しようにも出来なく、すれば維持費だけで多額の金が消えるものだった。
そこでレウィは他の将の情報を収集し、軍の動きを全て把握し、次の目標を定めた。
「次は水の将ね。勇者との戦で大分消耗しているから、狙うなら今よ。」
「なんとなく気が乗らないね。相手が万全でないと、なんだかずるしてる気になる。」
「あんたのやってる事は喧嘩じゃないわ。武者修行でもね。あんたは今戦争をしてるのよ。しかもたった一人で。」
鹿の足一本を一人で齧りながら、ヴィロフォルティはいう。
「そんな気はなかったな。四天王を殺す事だけだし。」
「それが戦だって言ってんのよ。・・・・・・しかしどこにその量が消えてるわけ?」
ヴィロフォルティは次の足に取り掛かりながら言う。
「わかんない。とにかくお腹が減ってるんだ。ところで、途中で親方と連絡が取れないかな。」
「どういう事?」
「剣の調子が変なんだ。拗ねたような、迷っているような感覚がする。」
レウィはすこし考えると、早速ドライアド網を使い、情報を集める。
ある程度経つとレウィは通信を打ち切り、ヴィロフォルティに言った。
「進軍コースから迂回する形で村があるわ。そこにその手の武器を扱えるドワーフが居るみたい。そこに行って見ましょう。時間は1日半。急げば、1日よ。」
話は決まった。その日ヴィロフォルティは大いに食べ、そして眠った。
「じゃあ、離れるけど、元気でね。」
「レウィ様とヴィロフォルティ様には感謝しかございません。お近くを通られるときや、お休みの時には、是非お立ち寄りください。」
ドライアドが礼を言い、エルフ達は片膝をついて臣下の礼をする。
ヴィロフォルティは頬をかきながら、皆に礼を言った。
「皆ありがとう。僕はたまたまここを救う事が出来ただけで、これからは皆が守らなきゃいけないんだ。立って。家族を守る為にたたかって。」
そう言うやエルフ達は立ち上がり、抜刀して儀礼の構えをとる。
「じゃあレウィ。行こうか。」
「分かった。」
そう言うなりヴィロフォルティはレウィを抱きかかえ、走りだす。
「ちょっと!何の真似よ!」
「この方が早いんだ!今ならどこまでも走れるよ!」
「そういう事じゃないのー!」
馬よりも早く、二人の姿は影となり点となり、消えていった。
ヴィロフォルティ昼夜を問わず走り続け、昼前に出達したのに、その日の明け方に村へ到着した。
その村は寒村のわりには裕福そうで、ホビットを中心にぴクシーや不思議な事にゴブリンも働いている。
彼らは村に入ると、村長の家を聞き、案内された。
そこは鍛冶屋の工房になっており、若いドワーフ達が農機具を鍛えている。
「そんちょー。お客様ですよー。」
陽気なホビットの声がすれば、工房の奥から腰の曲がった老ドワーフがやってくる。
「剣か?宿か?」
ただ短く問う。
「両方よ?」
「うちに宿屋はねぇ。剣も打てねえ。帰れ。軒先なら貸してやる。」
その物言いにレウィは反論しようとするが、ヴィロフォルティが間に入る。
「親方。剣は入らない。ただ俺の剣が不満そうだから聞いて欲しいんだ。」
「・・・・・・。繋がって?」
「この剣を鍛えた人は繋がったって言ってた。」
「裏に来い。見せてみろ。」
そう言うと、背を向け工房に向かった。
裏につけば、弟子達が忙しなく動いている。その一角に老ドワーフは座り、催促する。
ヴィロフォルティは大剣を抜き、彼の前に立てる。
「こりゃ”龍ごろし”か。随分と長い間見らなんだが、まだ生きておったとはな。はて、ちいさな歪みがあるのう。ダニスのアホウは気づかなんだか?」
「親方を知ってるのか?」
「アレが親方?笑わせる。まあ、腕は良かったし、これも奴が手直ししたんじゃろ。奴の癖は変わらんわい。」
そうして玄翁で軽く大剣を叩いてゆき、気になる場所にチョークを引いた。
「さて、うちはとても貧しい村じゃ。日々の暮らしもままならん。」
ヴィロフォルティは小袋から白金貨を取り出す。
「そんなの持っておっても、使いどこが無いわい。小娘、金貨30枚でどうじゃ、寝床もつける。」
「吹っかけるわね。2年は豪遊できるじゃない。」
「何が何が。村全体を養うには、これでも不安じゃ。」
「ヴィロフォルティにツケとくわよ。」
金貨の小袋を渡し、老ドワーフは相貌を崩す。
「さて小僧。お前龍じゃな?この剣は龍を殺す為にわしらがこさえた。そのお前がこいつを振るなど因果な事じゃな。」
「声は従う。俺も声に従う。出来れば敵対したくないんだ。」
「それは無茶を言う。そもそも敵対するよう鍛えたんじゃ。本質は変わらん。」
「無理かな?」
「ちと細工はしてあるようじゃ。ダニスの奴、こうなるのを見越しておったな。だが未熟。直して仕上てやるから1日待て。あとは剣と話でも喧嘩でもして何とかするんじゃな。」
そう言うと、老人は大剣を軽々と持ち上げ、作業場にすえる。
「・・・・・・凄いな。」
「ふへへ。わしの子じゃ。わしが振れぬ道理があるか。さて邪魔じゃ。古い息子が帰ってきたんじゃ。宴会用に獣でも取って来い。」
老人の言葉通りその夜は村全体で酒宴が開かれ、ささやかながらも、二人の狩って来た獲物で村の皆の腹は満たされた。
皆が酔いつぶれ、レウィも舟をこぎ始めたので、母屋に行くよう言うと、千鳥足で歩いていった。
起きる者が二人しかいなくなると、老ドワーフは語りはじめた。
「さて小僧。あの剣はダニスの妹の為に鍛えた奴だが、その様子だとフィニスにやられた様じゃのう。」
「あんたが焚き付けたのか?」
「いんやいんや。あんな因業な大剣、鍛える気などさらさら無かったわい。ダニスのアホウは妹馬鹿でのう。終いにゃ自分の首にナイフを当ておって、脅されたんじゃ。で、仕方無しに龍を殺す大それたモンを鍛えたわけだ。」
火酒を呷り、老人は語る。ヴィロフォルティはそれを黙って聞いていた。
「鍛えている最中に、わしは思ってしもうた。どうせなら邪龍フィニスに届く剣を鍛えてしまえ。とな。奴の妹を殺したのはわしのようなモンじゃ。奴の妹が消息不明になった時、わしゃ、剣を鍛える気が失せてしもうた。」
「村長。親方の妹は龍に食われた。親方はそれを乗り越えたよ。」
「・・・ダニスのアホウも、少しは報われたかのう。」
「その剣はフィニスに傷をつけた。フィニスは姉弟子を喰った時、最大の供養だと言ってたよ。」
「ほほっ。ニーイに師事されたとは、おぬしも修羅じゃの。しかし、剣が届いたか。奴の妹にも少しは報いてやれたかのう。」
「多分、姉弟子は満足して死ねたと思う。適わぬまでも、自分の剣が届いたって。」
「そうじゃと良いのう・・・。さぁて、龍ごろしじゃが、少しは素直になったろうよ。ただし、定期的に大物を食わせてやらんとへそを曲げるぞい。」
「今のところ、地と火の将を食わせた。」
「んー。まあ妥当なところかの。本当はドラゴンか龍を食わせるのが一番なんじゃが。」
「そうか。考えておく。」
「まあ、龍を殺す剣が龍に使われるんじゃ。多少ギクシャクはするだろうよ。ただ、剣に傷みは無い。奴は奴で受け入れている証拠だろうて。今までどおり、あの剣を振るえ。」
「ありがとう、村長。」
「ダニスへの、わしなりの償いじゃ。礼と金は要らん。」
「その割には、吹っかけてたな。」
「泊まりは別じゃて。」
老人は可々と笑い、酒宴と夜は更けていった。
早朝に二人は村を引き払った。
目指すは水の将。聞けばその行軍は割りとゆっくりで、恐らく、幕営を立てる事だろう。
レウィはドライアドに軍の位置を訪ね、ドライアドはヴィロフォルティのためだと対価をとらなかった。
定期的に軍の位置を訪ね、最適位置をキープする。
ドライアドから連絡が入り、川沿いに幕営が設営されたということだった。
それから1日半の距離に、幕営を確認した。周りが見渡せる崖の上で二人は身を潜める。
ヴィロフォルティたちは作戦を詰め、逃走ルートを策定する。
「ヴィロフォルティ。ブレスはダメよ?あんた動けなくなるし。」
「アレは試してみただけだよ。普段からあんなの使えないよ。正面から、剣で行く。」
「じゃあ、あたしはここで待ってるから。出来れば軍馬の一頭くらい掠めてきて。」
「僕は乗れないよ?」
「あたし用よ。」
彼は苦笑いを残し、幕営に歩いていった。
読者の皆様神様仏様。
私です。
飄々として韜晦する職人のじじぃ。
いいですよねぇ。
私、大好きです( ๑ ╹ ◡ ╹ ๑ )




