焼き払うのかしら?
レウィとドライアドのネイ、そしてエルフの代表は屋敷の広間で協議をした。
話はこうだ。
ドライアド達精霊とエルフは人魔紛争に関わる気は無い。しかし魔王は統治の為に例外を作る気は無い。いくつかの精霊とエルフの集落は魔王に従ったが、ここはそのつもりは無い。そうしているうちに他の集落のエルフも、森に逃げ込み、魔王と黒の森で、散発的な戦闘が続いているとのことだった。
「森を焼くという事は、魔領にある全ての草木を敵に回すこと。それは魔王とて弁えているようですが、近々、大規模な軍勢をここに派遣するようです。」
「エルフの総数は500余り。大規模な集団戦には不向きですし、森に誘い込んでも持久戦に持ち込まれるとこちらが不利です。」
ドライアドは現状を伝え、エルフの代表はその戦力を語った。さらにドライアドは続けた。
「魔王は森を切り開き、ここまでの道を作る気の様子。ギガント種を中心に、下ったエルフやダークエルフらも、この戦に加わるようです。私は封印されることになるでしょう。」
淡々とは語るが、どこか諦めが匂うその物言いに、代表は続けた。
「この森が落ちれば、われわれの一部は見せしめとなるようです。散る覚悟はありますが、見せしめにされるのはあんまりです。」
レウィは黙って聞いていた。正直、彼女に出来る事は無い。
「あたしが王女といっても、アレには何の効果も無いわよ?商会を動かすにしても、お父様の決済が必要だし、時間が無いわ。」
ドライアドは言う。
「今回の出撃は、魔王軍には痛手となっております。余剰物資をつぎ込んでの行軍ですので、2波はないと考えております。また、2人の将が堕ち、他の将を当たらせる事も難しいとの事でした。」
「ほんと、あなたとは懇意にしておきたいわ。まるで見聞きしてきたかのようね。」
「はい。見聞きしましたので。」
こともなげに答えるドライアドのようすは、少しばかり胸を張っているように見えた。
「じゃあ、あたし達の仕事は、その軍勢を潰す事なのね?」
「散らすだけで結構なのです。これを凌げば、膠着状態を構築できます。あとは時間が我々の味方です。」
代表はそう言い、レウィの言葉を待つ。
「・・・・・・腑に落ちないわね。アレにここを執拗に狙う意図が分からない。気に入らないわね。」
その問いにドライアドが答えた。
「今、魔領では食料の生産量が激減しております。無茶な生産と、魔力の消費がその原因ですが、私が生産量を調整しているのです。飢えない程度に育たなくするように。」
「恐ろしいわね、ホント。アレも無茶するわ。でもあたしに出来る事なんて無いわよ?」
レウィは腕を組み、打つ手無しと笑みを浮かべる。
ドライアドはエルフの代表を見ると、代表は頷き、エルフ達は部屋を出て行く。
「人払いなんて、物騒ね。」
「人魔の姫様。あなたの力とヴィロフォルティ様の武力が必要なのです。」
「あたしは商人の娘で、軽戦士よ?ヴィロフォルティのほうがよっぽど凄いわ。」
「あなたの戦略級魔術と聖女の力が必要です。」
レウィはドライアドを睨みつける。
「一手目に広域魔法で小物を討ち取って頂き、その後ヴィロフォルティ様にギガント種の討伐をお願いします。その間、黒の森に結界を施します。その為にあなたが必要なのです。」
「そんなのあたしが持たないわ。」
「魔力供給は私が。結界の作成もです。あなた様には聖女の力をお貸し願いたいのです。」
「あたしは商人の娘よ?対価もなしにそんな仕事請けられないわ。」
「苗木10本につき、世界のあらゆる情報をひとつ。あなた様のみで。」
「あたしとお父様と、あたしが認めた商会の者3人。」
「お二方と一人。」
「2人。」
「・・・・・・良いでしょう。ここは握手をすべきですか?」
レウィはにやりと笑う。
「精霊が約束をたがえることなんて、聞いたことが無いわ。」
3日間はなんとも慌ただしかった。
エルフ達は結界の準備をし、ドライアド達精霊は森を一部作り変えた。
進軍の情報はドライアド達から逐一入り、レウィはそれを分析し、エルフ達を采配した。情報では後5日程時間がある。
瞬時に手に入る情報に、彼女は狂喜し、また、その情報量の多さに振り回された。
4日目にヴィロフォルティは顔を出し、剣を振るい、アローズィより指導を受けていた。二人で森に入っては、なにやら大きな音がするが、ドライアドは溜め息をつくばかりだった。理由は聞いても教えてくれなかった。
そうして2日も立てばヴィロフォルティは完全に回復し、レウィも準備が整った。
レウィとしては暇になったヴィロフォルティが、先走らないか心配ではあったが、彼はアローズィの指導と森の中での狩りを続け、暴走する気配は無かった。
皆で作戦を詰め、上がってくる情報を精査し、変更を加え、敵陣到着一日前に、準備を全て終えることが出来た。
「ではヴィー様、レウィ様。私はここでお別れで御座います。」
アローズィはそう言い、ヴィロフォルティに言う。
「お教え致しました事は、しっかりと実践して頂けます様。今のヴィー様なら、それが可能です。身体強化の応用ですが、個人的にも興味深い試みです。ですが今以上の事は決してされません様。」
「分かったよアローズィ。色々ありがとう。」
「では御館様よりの封書で御座います。更なる活躍を、お祈りいたしております。」
そう言うと森に消えていった。
レウィは意地悪そうにヴィロフォルティに言う。
「いつもと口調が違ってたけど、どうしたの?」
「・・・あれが地なんだ。それにあの口調じゃないと、まともに話しを聞いて貰えないからね。」
「まあ、舐められたら、まともに会話なんて出来ないわよね。」
「それでレウィ。初手は僕に任せてくれないか?」
レウィの顔は険しくなる。
「ヴィロフォルティ。初手はあたしの広域魔法でしょ?あなたに何が出来るの?」
「手はあるんだ。うまくいけばレウィの負担が軽くなる。出来なくても、作戦に変更を加える必要は無いよ。」
「配置は換えないからね。・・・・・・じゃあ開始時間を前倒しして、あなたに使う時間を作るわ。」
「ありがとうレウィ。」
「で、その手って言う奴の成功率は?」
「3回に2回。」
「・・・・・・。期待しないでおくわ。」
レウィの号令の元、皆は森に入り配置についた。
翌朝には、森の外周に敵陣の姿があった。砂塵を上げ行軍する姿は、森一つを制圧するには仰々しかった。
エルフ達は森に潜み、奇襲戦に備える。ドライアドは森を動かし、凹形に森を整えた。
レウィは草冠をつけ、森の木の高い場所で全体が見回せるように陣取った。草冠はドライアド謹製で連絡用に特別に編まれた物だった。
森を抜けた平原にはヴィロフォルティが一人。
ギガント種の姿がはっきりとしてきたところで、足元の草が風も無いのにざわめき始める。
合図だ。
ヴィロフォルティはあのときの感覚を思い出す。夢の中で街を蹂躙していたときの感覚。そうすると内なる声が響いてくる。
鏖殺せよ。灰塵とせよ。
彼の内に得体の知れない何かが溢れ出す。同時に鱗が侵食を始め、右腕と左半身は鱗に覆われる。双眸は金に輝き、縦に割れた瞳孔は丸く広がる。
身体強化を発動。それを口元に集中させる。口元は裂け、並んだ牙が露になる。ヴィロフォルティがドラゴン戦で思いつき、アローズィに相談し、形にしたものだ。
彼は唸る。
最初は小さかったそれはだんだんと大きくなり、彼の体からは想像も出来ない咆哮えと変わる。敵陣はそれに動きを止め、混乱しているようだ。
咆哮は異常なほど長く続き、ついにヴィロフォルティの口に淡い光が集中する。
声は甲高い音となり、可聴音を超えた。光は球になり、その口元の景色が揺らめく。
内に溜まった何かが、彼の中で臨界に達したとき、彼はそれをありったけの力で吐き出した。
光の線が走り、敵陣を横殴りにする。ギガント種の上半身は消し飛び、一気にその数を減らす。
敵陣の足元は爆発し煙の帯がその戦列を止めた。
その光景をレウィは呆然と見ていた。
ヴィロフォルティの位置では戦列の前しか見えないだろうが、彼の吐き出した光は、そのほとんどを焼き払っていた。
敵は混乱し、散り散りに逃げ惑っている。
ギガント種は全滅。中小の小物は混乱し、使い物にならない。
草冠から声がする。
「今のうちに、私が。」
ドライアドの声に我に返ると、頷き、手を一閃する。
敵陣の中に無数の蔦が生え出し、敵に絡みつく。
再度、ヴィロフォルティの咆哮がする。今度は光の炎が敵を蹂躙する。
「レウィ。敵は撤退を始めました。」
ドライアドが大木の幹から、その姿を浮かび上がらせレウィに告げる。
「次はあたしの番ね。力は有り余ってるから、飛び切りのを作れるわよ。」
「お任せください。」
レウィはエルフ達に、動かぬヴィロフォルティの回収を命じ、木から降りると、森の奥に向かった。
そうして暫らくすると、黒の森は不可視の結界に包まれる事になった。
「アローズィ?あなた何を吹き込んだの?」
「ヴィー様からのご提案に御座います。火の将との一戦で、自分が叫んだ後、将兵が吹き飛んだと。もしかしたらドラゴンと同じことができるかもとのお話でした。」
「で?」
「さらにヴィー様は、身体強化を体の一部に集中させる事を思いつかれまして、私にご相談に参られました。理屈の上では可能でしたので、その方法をお教えしたのみです。」
「・・・・・・それが”龍の一閃”と”龍のブレス”って訳ね。」
「ヴィー様のお体では、大変消耗が激しいはずなのです。一閃まで使われるとは、アローズィも想定しておりませんでした。」
「ヴィーは大丈夫かしら?」
「極端な気力の消耗と、空腹だけのはずです。お顔に負担があるはずですが、それもヴィー様のお体なら、問題ないかと。」
「・・・アローズィ。褒美を取らすわ。寝所へ来なさい。」
読者の皆様神様仏様。
私です。
出来心なんです。一度やってみたかったんです。
一瞬でなぎ払われる軍勢。
素敵ですよね。




