死合いよ?
商会を離れて歩いて、半日の距離。
その間、ヴィロフォルティはレウィに幕営と、四天王について聞いた。
近くの幕営はフロントライン侵攻の為の軍。数は5千。率いるは『地の将』。名前はどうでもよかった。
種族はミノタウロス・ロード、ミノタウロスの最上位種。身の丈は普通の家屋の屋根ほどの高さ。
武器はメイス。以前戦ったミノタウロスとは、別格であるようだ。
将と名の付く以上、その知性も、絶対に侮る事は出来ないだろう。
「あなたは何故、地の将に?」
レウィはヴィロフォルティに訊ねる。
「ヴィーでいいよ。様もさん付けもいらない。で、聞いてどうする?」
「場合によっては、ヴィーを置いて逃げる。」
彼女は、何の気負いもなくそう言う。
ヴィロフォルティは気を害した事もなく、頷き言った。
「是非そうしてくれ。道案内に死なれると、この先困る。」
「分かりの良い雇い主で幸運だわ。」
「そうか?」「そうよ。」
暫らく無言が続く。ヴィロフォルティに多くを語る気は無かった。
「ねえ。何で馬とか走竜とか使わないの?」
「歩きは苦手か?」
「そう言う訳じゃないけど。気になったの。」
「良いことだ。気になったことはすぐに解消しないと、手遅れになることが多い。俺が足を使わないのは、これのせいだ。」
そう言い、自分の足元を指す。
振り返り、その足跡を見れば、僅かに地面が足の形にへこんでいる。
「・・・・・・。斥候は無理ね。」
「荷馬車が欲しいところだな。」
「あなたでも冗談を言うのね。キグルイのヴィー。」
はて、今のは冗談であったか?
二人は無言で、幕営に向かう。
「どうやって四天王に会う気?」
森を抜け、平野へと来た所で、レウィは口を開いた。日は中天より幾分傾き、幕営はいまだ遠い。
「世間話か?」「そうよ。」
暫らく無言が続く。どう言うべきか、考えるヴィロフォルティ。
「言えないなら別に良いわ。どの道あたしは、外で待つから。」
「絶対に会える方法を持ってる。俺以外に使えない。」
「自分から振っておいて何だけど、聞かなきゃ良かった。」
途中、一刻ほど休憩をははさみ、幕営が見えてきたのは夜の帳が下りたころだった。
幕営には篝火が焚かれてはいるが、必要最小限しかなく、そのあたりは、種族の差を感じさせられた。
ヴィロフォルティは考える。
相手に挑み、夜陰にまぎれて逃げるか。はたまた押し通るか。
挑むのは楽だが、その後がいけない。そしてこちらには殺されてはまずい者もいる。
「言っておくけど、スカウトの真似事は無理よ?魔族に暗闇は関係ないし、臭いで気づかれるもの。」
果てさて、押し通るしかなしか。自分に数は関係ない。時間がかかるだけだ。
「レウィ。ここで待っていてくれないか?」
「・・・・・・左の高台で待ってる。手筈は打ち合わせどおりに。」
「承知した。」
彼は進み出し、レウィは身をかがめ、高台を目指す。
幕間手前では、流石に誰何された。
「混ざり者が何の用だ!」
兜鎧を着けたオークが、槍を構え、言う。
その姿には隙がない。もう一人も、いつでも、内外に動けるよう、身構えている。錬度は高い。
一悶着ありはしたが、相手を釣り出すことは出来そうだ
程なく幕営からもの凄い咆哮が上がる。地鳴りがし、何かがこちらに近付いてくる。
兵達は狼狽し、左右に逃げる。
ヴィロフォルティは変わらず、相手を待つ。
はたして天幕より頭一つ大きな影が、こちらに向かってくるのが見えた。
雄牛の頭に巨人の体、雄牛の足。ミノタウロス・ロードだった。
「ノビリフィーニア様の使いとはお前か?」
重厚な声があたりに響く。
手にはトップがヴィロフォルティの体ほどもある、いびつな洋ナシ形をしたメイスを握り、彼を見下ろす。
「そうだ。ヴィロフォルティという。あんた、見事な風格だな。」
「世辞はいい。何の冗談だ?」
「俺は使いだ。話の内容は分からない。だが、あんたと死合いたい。」
ヴィロフォルティの前にメイスが振り下ろされる。
土くれが飛び散り、彼を襲う。マントははためき、その速さと威力を見せ付ける。
「意外と短気なんだな。」
「何たる恥辱!ノビリフィーニア様の威令でなければ、このような雑魚、相手にもせぬわ!!」
彼は笑った。
「そうか。手紙の内容はそれか。話が早くて助かる。」
雄叫びと共に、再度、メイスが振り下ろされる。ヴィロフォルティは大剣を抜き、メイスを狙い体全体でそれを打ち弾く。
ミノタウロス・ロードは弾かれたそれの反動を利用して、袈裟懸けに再度、彼を狙う。
彼はそれをいなし、大地を打ち据えさせるや、その手元に鋭い風切り音と共に剣を振るう。。
重い金属同士がぶつかる音が響き、両者は離れ、お互い武器を構え直す。
「・・・ふむ。2合保つか・・・。」
「すごいなそれ。手が痺れるぜ。」
雄叫びを返し、メイスの突きが彼の足元を襲う。間合いを取らせるか、体を崩させるか。
彼はそれを大剣の上段からの振りで受け止める。
破裂音と共に大剣はメイスを打ち落とし、彼の体は相手の武器ごと後ろに下がる。
「見事!」
ミノタウロス・ロードはそう叫ぶや、メイスを下段に引く。その後を追いかけ、前に出るヴィロフォルティ。
「体格差はどうしようもないな!!」
嬉しそうに叫びながら、内に入りその足元を狙うが、想像以上の速さで、間合いを取る。
その速さに彼は、不利を承知で立ち止まった。
一度の跳躍でかなりの間を取るミノタウロス・ロード。
その間に身体強化を掛け、追撃しようと一瞬動くが鎧がそれを止め、剣を下段に半身を引いて、迎撃の構えを取る。
同時に、先ほどの速さでミノタウロスが浅く宙を舞い、メイスを上段から両手で降り殴る。
彼は、それに狙いを定め、破裂音と共に剣をかち上げる。
轟音と共にメイスは跳ね上げられ、大剣は足元に突き立てられる。
ミノタウロス・ロードは半歩身を引き、拳を振り下ろす。ヴィロフォルティは内に入ることでそれを避け、左手で手刀を作り手首に打ち当てる。
竜の腕は相手のその腕を容易く切り裂き、血を吹かせる。
メイスの追撃が横殴りに来る。
右手で大剣を頭に構え、体を小さく、前に出ながらやり過ごす。火花が散り右手は痺れ、体は軋む。
ミノタウロス・ロードは筋肉を締めることで流血を止め、再度跳躍し間合いを取る。
判りきった事だが、あのメイスは厄介だ。
着地したミノタウロス・ロードはその勢いをバネに、体を捻り、走りながらメイスを横殴りに振る。
それをあえて下がる事で避け、内に入ろうとする。ミノタウロス・ロードは三度跳躍し、間合いを取る。
そのまま内に走りこむ。メイスが襲う。
癖はつかめた。しかし、相手もうすうす感づいているだろう。どう狙う?
メイスの突きがやってくる。剣でいなす。
やがてそれは、メイスの突きの雨となる。
大剣を前にしたニーイはどう動いたか思い出せ。
突きの雨は、ヴィロフォルティの体を押し下げる。彼はひたすらメイスをいなす。
そうして前に出る。
いなしては進み、いなしては進む。
ニーイは言った。
猛攻を受けたドワーフに、後退はない。
なればそうしよう。師匠の教えは忠実に。確実に。
やがてメイスはその威力が弱ってくる。力を入れる最適位置がずれたのだ。
奴は飛ぶ。合わせろ。
しかしミノタウロス・ロードは半身をずらし、位置を調整する。
雨の威力が戻る。が、それは先ほどとは違い、荒くなっている。ヴィロフォルティを押しつぶさんとする意思が薄い。
デカ物相手は長期戦を誘え。
メイスを捌くのに躍起になっている。後退を嫌がっている。
いなし、進む。いなし、進む。いなされ、下がる。いなされ、下がる。
「この痴れ者が!」
とうとう声を上げるミノタウロス・ロード。
奴は土を蹴り上げる。その量はヴィロフォルティの姿を覆うほどだ。
メイスの雨が止まるその隙に、彼は大剣を上段振り下ろし、土砂を切り裂く。
そして前に。
メイスのトップが頭上に迫る。大剣を引きずり横に反れ、メイスの柄を振り切る。
破裂音と甲高い金属音と共に、メイスのトップが転がってゆく。
ミノタウロス・ロードが驚愕に吼える。
剣を軸に体を逆に入れ替え、柄を握る手を切り裂く。そのまま横殴りに片足を切り飛ばす。
残る片足で飛びずさり、メイスの柄を握りかえる。
その内にヴィロフォルティの影。
横殴りの初動を取ろうとすれば剣が言う。体を剣の下に入れ、伸び上がるように上段から足に向け振り切る。
そのまま、前に進めば後ろを鉄棒が通り過ぎる。
ミノタウロス・ロードの両足は取った。
後ろに気配。振り返りざま鉄棒を握る手を切り飛ばす。
横倒しになったミノタウロス・ロードの首に駆け込み、剣を付き立て、振り上げる。
血しぶきが上がり、ヴィロフォルティを濡らす。
剣を逆手に、その眼に大剣を突き立てる。そのまま押し込み。抉りまわす。
激しく痙攣する体から大剣を抜き取り、首まで下がれば、破裂音と共にそれを切り落とした。
辺りは静まり返り、ヴィロフォルティは血しぶきの上がる首の前を駆け抜け、前に出る。
やる事をやった後は、前に向け逃げるのみ。安全地帯は前にこそにある。
立ちすくむオークやトロルどもを切り捨て、前に駆ける。
ようやく忘我の時を過ぎ、魔物共が騒ぎ出す。幕営の端までもう少し。
ちらと人影が見えれば、そこは切り裂かれており、レウィの顔が見える。
近付けば油と火薬の臭い。
ヴィロフォルティは駆け去り、レウィは火薬に火をつける。それは火の蛇となり、天幕に走り、燃え上がる。
二人はとにかく前に駆ける。混乱している今しか、逃げ時はない。
幕営が小さく見えるまで、二人の足はとまらなかった。
幕営を後にし、二人は夜通し歩いた。幕営のある平原を駆け抜け、森を迂回して進む。
森に入らなかったのは、ドライアド達を避けていたからだ。今の魔族領では、精霊も加担していないとも限らない。
小さな小川を見つけ、二人は休憩とした。
「あたしは魔族だからわかるけど、あんたも大概底なしね。」
「何がだ?」
「体力とスタミナよ。あれだけのことしておいて、ここまで来れるって、信じられない。」
「ヴィー様は、鍛えておられますので。」
その声にレウィはぎょっとする。見れば、ヴィロフォルティの横に、執事服の麗人が膝を抱えて座っている。
指をちょこんと上げれば、ヴィロフォルティの頭上に魔法陣が描かれ、彼の汚れを浄化して行く。
「あなたは・・・ハイエルフ?」
「はい。お初にお目にかかります。私めはアローズィと申します。お見知りおきを。」
「・・・・・・。膝を抱えて座っているハイエルフなんて、初めて見るわ・・・。」
「お茶目な私も、アピールしておきたかったので。」
「誰によ・・・。」「ヴィー様にです。」
当のヴィロフォルティは浄化魔法を気持ちよさそうに受けている。
「・・・・・・尊い・・・・・・。」
頬を染め、ヴィロフォルティを見つめるアローズィ。それを呆れ顔で見ているレウィ。
なんとも間の抜けた光景が広がっている。
浄化が完了したのか、魔方陣は淡く消え、あれほど血生臭かった彼の体は、その痕跡すらなく綺麗になった。
「ありがとうアローズィ。あいつは殺ったよ。」
「ヴィー様の笑顔を拝見できて、私は幸せ者です。」
蕩ける笑みでそう言うアローズィ。それを見ていたレウィは呆れてものが言えない。
「四天王、地の将殺害を確認いたしました。中々の激戦に御館様は大変ご満足なされました。」
「どこか鍛冶屋はないかな?出来ればドワーフのいる鍛冶屋が良いんだけど。」
「それなら火の街に一人腕の良いのが居るわよ?」
「むう、先を越されてしましました。」
アローズィは立ち上がり、ヴィロフォルティに礼をする。
「それではヴィー様。次なるご活躍をお祈り申し上げます。」
そう言うと淡く、風に消えていった。
読者の皆様神様仏様。
私です。
今回よりヴィーいぢめの開始です。
ネタばれです。_(:3」∠)_




