表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/72

出発よ?

 屋敷では、最後の打ち合わせが行われた。出発は積荷の都合で明後日と決められた。


ヴィロフォルティは一旦屋敷に戻り、フィニスにおもちゃにされ、アローズィに身体強化と初歩の魔法を学んだ。

苦手であった身体強化を何とか克服し、火種や水なども、とりあえず出せるようになった。

フィニスにからかわれながらの鍛錬は、中々に厳しかったが。


 出発当日の夜。

ヴィロフォルティの姿は町にあった。荷馬車は町の外れにおり、その数は10に上った。

それぞれには幕が掛けられており、中に()()()()()()()のかは判らない。


「俺とヴィー様は前の馬車だ。」


彼は何も言わず、メルキャトの後を着いて行く。


その荷馬車だけは、荷があまり積まれておらず、ヴィロフォルティを乗せて調度良い按配になった。

おそらく、店主から彼が自分の重量を気にしているのを、聞かされていたからなのだろう。

彼としては、思ってもみないことだったが、まあ、ちょうど良かった。


 下弦の月が中天を目指す頃、商隊は出発した。

整備されてはいるが、わだちの目立つ街道を抜け、隠された獣道を見つけ出し、森へと入る。


 フードを深くかぶった、御者の隣にいるメルキャトは言った。


「ここには野盗の類はいないから、眠っていても大丈夫だ。この商隊を襲う馬鹿は、ヒトにも魔族にも居ない。それに到着は明け方になる。」


「俺は寝なくても平気なんだ。あんたこそ、寝といた方がいい。何なら場所・・・は代わるとまずいな。」


「いいさ。適当な場所で寝とくよ。じゃあ、お休み。」


そう言いながら、もそもそと荷台と御者台の間に入り込む。


 森は深く、夜空すら見えない。頼るのは御者席にいる魔族の眼だけだ。

ヴィロフォルティはそれを見届けた後、とりあえず眼を瞑った。アローズィの教えてくれた、魔力での気配探知を試しながら。



 夜は白み、日が射そうかという頃、メルキャトは起き出し、御者台に腰を据えた。


「もうそろそろ町が見えてくる頃だ。」


そう言い、手をかざし遠くを見る。そちらを見れば薄く射す日の他に、篝火の様な点が見えた。

あれが目指す町らしい。彼はそう当りをつけた。


 日が昇りきる頃、町の入り口に着いた。

ヴィロフォルティは、ヒトの町となんら違いのないその景色に、違和感すら感じた。


「驚いたろ?ヒトも魔も、そう変わらないんだ。」


メルキャトの言葉に素直に頷く。まさに見ると聞くとでは大違いという奴だった。


 商隊はそのまま町に入っていく。まるでフロントラインそのものだ。

番兵もおらず、鎧を着込んだ魔族と思しき者が町を歩いている。不思議と負傷者の姿が見えないのが、唯一の違いだ。

荷馬車は進み、その後ろを魔族の子供達が追いかける。

体のサイズが違うだけで、これもヒトと同じだ。


「もうそろそろ着く。すぐに俺の店に入ってくれ。」


 フロントラインにある”商会”と同じ建物が見えてきた。


「あそこの作りはフロントラインの”商会”と同じにしたんだ。使い勝手がよくてな。」


荷馬車は整然と、”商会”の裏手にある広場へと入っていく。そこだけは、フロントラインの商会と違い、広々としていた。

そうして、巨人種の荷役が檻や木箱を次々と降ろしてゆく。

さすが魔族。効率はヒトのそれとは大違いだった。あっという間に荷は降ろされ、荷馬車は別の場所に移動する。


「ヴィー様。あんたはこっちだ。」


 メルキャトは何語かで指示を出すと、彼をつれて”商会”の中に入っていった。

中も確かにあちらの”商会”と同じで、天井の高さと、ドアのサイズだけが違っていた。


「気にせずどこでも掛けてくれ。ここには重量級の客も多いんでな。」


()()は?」


「気にしてるのはヒトと、魔王軍部の連中だけだ。ヴィー様には悪いが、俺らは”食料”と”物資”を運んでいるだけなんだ。ご禁制の品なんてない。あるとすれば、あんたただ一人だ。」


彼は気安くソファーに沈み、ヴィロフォルティに問う。


「早く出立つしたいだろうが、俺が案内ができない。だから人を用意した。」


「俺がどこに行きたいか知ってるのか?」


「手紙にあった。ノビリフィーニア様は魔王城までの案内と、四天王の謁見とあった。ちょうどこの近くの幕営にそのお一人がいらっしゃる。」


ヴィロフォルティの顔に、歳相応の笑みが浮かぶ。


「ここだけの話、ノビリフィーニア様は人魔双方に巨大な名影響力がある。その名前だけで、全てが動く。ここではその名だけは出さないでくれ。」


恐れを持った声で、まさに懇願するメルキャト。


「ここでその名を出す事はないよ。約束する。誓うものも賭けるものもないが、それはない。後案内人は、自分で自分を守れる者が良い。そこはどうだ?」


「それは保障する、魔族だが姿かたちはヒトと同じだ。ただ混血になる。俺の専属護衛をしているが、腕は確かだ。俺もそいつのお蔭で命拾いしている。」


ヴィロフォルティは立ち上がり、言った。


「今、会わせてくれ。」


 しっかりとしたガーデニングが施された庭に、彼らは来た。庭先は狭く、大剣を振るには少しばかり分が悪い。


つれてこられたのは、女性だった。ヒトで言う冒険者然とした格好で、軽鎧を身につけ、左手には少し大きめのバックラーがその左手を僅かに隠している。

獲物はこれも少し厚めのレイピアで、突く以外に、切るに対応させたものとわかる。

温和そうな顔立ち。垂れ気味の細目。

銀色の短髪、褐色の肌。頭には黒く太い角が二本。その頭の形に添って生えている。


 雰囲気は普通の冒険者然としているが、さて技量の程は?


 目の前にいるのは、オーガだ。しかも特異種。左手に少し力を入れ、殺気を放つ。

メルキャトは身構え、腰の獲物に手を掛ける。庭から離れた場所にいる子鬼が何事かとこちらを見る。


 目の前の女性は構えもせず、顔色も変えず、ただにこやかにこちらを見ている。

ほんの少し、軸足をずらす。反応なし。

殺気はそのままに、力を抜く。瞬間、相手の体が僅かに動いた。だが、何もない。

ヴィロフォルティはそれを無視してメルキャトに半身を向ける。


「なかな肝が座っている方だな。」


メルキャトは何のことか判らない。


「試しているのか?」


冷や汗を垂れながら、彼は問う。


「そうだな。」


 次はドラゴンだ。以前死合ったあれとは別。格上。半身のまま、顔だけを女性に向け、柄に手を掛ける。

手加減無しの気を放つ。


瞬間、メルキャトは獲物を抜き、へたり込み、子鬼は一目散に逃げ出し、他の魔物は逃げ場を探している。

女性の立ち位置は僅かだが、ずれている。彼は右手を突き放つ。

一瞬で彼女は前に出て、バックラーで突きを受けレイピアに手をかけた。彼はそれを体で制する。


「信頼できる相手だ。」


彼はそう言い、気を収めた。


「敵の攻撃に、前にでるのがいい。個人的には突きは受け流すべきだ。相手次第で、貫き通される。」


「そうしなければ、頭突きかあたしの首に噛み付くでしょ?組み合いも得意な筈、キグルイのヴィーさん。」


間合いを開け、メルキャトを見る。


「一応、あんたの情報を渡した。」


「準備を整えて相手に挑む。すばらしい。」


メルキャトに手を貸しながら、ヴィロフォルティは言う。


「合格かしら?」


「合格不合格は関係ない。自分の身を守れるかどうか、知りたかった。」


「それくらいなら。」


「相手が敵対するオーガ4匹でもか?」


「あたしなら逃げる。」


「正解だ。メルキャト、いい人を選んでくれた。」


ヴィロフォルティはメルキャトの肩を叩き、「彼女と話を詰めたい。場所を貸してくれ。」


「レウェルティ。レウィと呼んで。ヴィロフォルティ」


 それから3人は応接室に入り、1刻ほど、お互いの立ち位置や役割分担、得手不得手などの情報を交換し、万が一の対応、はぐれた際の手順などを詰めた。

その後はレウィの準備に時間を掛け、ヴィロフォルティは苦手なマジックポーションなどを念のため購入し、準備を整えた。


 出立は夜。幸い彼女も夜目が効くほうだった。


「世話になった。ありがとうメルキャト。」


準備を終え、ヴィロフォルティはメルキャトに向かい合った。彼はポケットから、1枚のメダリオンを渡す。


「こいつを俺の商会に奴に見せれば、無条件で協力する。入用なものがあれば、好きに使ってくれ。」


ヴィロフォルティはゴートシープの意匠があるそれを受け取ると、店の名を聞いた。


「ゴートシープ。店の名だ。場所は彼女が知ってる。それで借りはチャラだ。そのメダリオンは、俺しか持たないし、似たものを持ってる奴は数名もいない。」


「解った。()()()()()良い商人だったと伝えておく。」


「是非頼む。」


ヴィロフォルティは右手を出す。


「血の契約とは行かないが、約束の証だ。」


「ここではただの握手だ。アレはあの町でしか効力がない。」


しっかりと、両手で握り、別れを交わす。


「後100年は若けりゃ、店放り出して付いて行くんだが・・・。レウェルティ。この方を頼む。」


「会頭。お世話になるのは私のほうです。この方はあたしの遥か上にいる。」


「買いかぶりすぎだ。俺はただ()()()()()()だよ。じゃあ、案内を頼む。」


 そう言い歩き出すヴィロフォルティ。

彼女その少し前に走り寄り、先導する。


 メルキャトは思う。

()()()()が気をかける人間が、ただ魔領を歩くわけがない。きっとなにか大きな流れが起きる。

吉と出ても凶となっても、商機は動く。

彼は、腹心達と話をすべく、屋敷に戻った。

読者の皆様神様仏様。

私です。

いよいよ出発にございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ