地獄なの?
読者の皆様神様仏様。
私です。
今回は過分な残酷表現がございます。
苦手な方は、本文後半は読み飛ばしていただけますよう。
全部読んで欲しいですけどね。
ちょっとね。(*´・д・)
店主は言う。
男は魔族の商人で、その姿は人と変わらないと。
ただ瞳孔の形や髪のや皮膚の色など、それを誤魔化すのに、認識阻害の魔道具を使用しているとの事だった。
二人はヴィロフォルティの前に座り、説明する。
「このものはメルキャト。魔族です。説明を。」
「はじめましてヴィロフォルティ様、魔領で商人を生業としております。これよりヴィロフォルティ様の専属商人となります。」
彼はどうにも不思議だった。母に聞かされた魔族は、カリカチュアされているとは思うものの、その容姿は恐ろしいものとされていた。
「ヴィロフォルティ様。魔族といえど、ヒトに近いものも居るのです。また、混血も。」
「あんたは?」
「わたくしは純血にございます。故に、認識阻害が必要なのです。失礼ですが、ヴィロフォルティ様のその手足は?」
彼は通例の嘘を使うか戸惑う。
この商人達に生半可な嘘は使えない。ここはフィニス達を利用するか。
「手紙には俺の詮索をしろとあったか?」
二人は震えだした。威嚇したわけではない。彼らにはフィニス達の名が、神の如く恐ろしいのだろう。
「メルキャトさん。俺の瞳は何に見える?」
しかし、気になるものはしょうがない。彼はメルキャトに問う。
「ヴィロフォルティ様。私ごとき、呼び捨てで十分にございます。恐れながら、無礼を承知で申し上げるなら、龍。ドラゴンなどと違いあなた様の瞳は、龍種のそれを思い出させます。」
「メルキャトは龍に会ったのか?それから二人とも俺の事はヴィーと呼んでくれ。」
店主は言った。
「ヴィロフォルティ様、ヴィー様。それは何卒お許しください。わたくしには恐れ多く、親しくお呼びする事敵いません。」
無理強いする事もなかろう。
「判った。メルキャトは?」
メルキャトは震えながら言う。
「今後のお付き合いを鑑みましても、ヴィー様とお呼びすることを、お許しください。それから、龍種には一度だけお眼通りが適ったことがございました。その時に拝謁いたしたのでございます。」
彼らの様子は、龍種とは本当に特別なのだなと思わせられた。
「メルキャト。これからも話す機会があるだろう。その時にまた、教えてくれ。」
「御意にございます。」
「あともう少しフランクに。俺は本当にただの使いなんだ。」
「承知い・・・・・・。わかった。ただ名前だけは様付けを赦して欲しい。俺はあなたが恐ろしい。」
彼はヴィロフォルティの眼を見てそういった。
それからは、魔領に入るための段取りと、予備知識の教育を受けた。
ヴィロフォルティとしては、戦闘などのトラブルは極力避けて、4天王などに当たりたかった。
「それでは、裏の者と魔領に入るという事でよろしいか?」
メルキャトは言う。正規の方法などあるわけがない。
「それでいい。俺はメルキャトの護衛という事でいいんだな?雇い雇われで、口調はどうする?」
「既知の者といえば、詮索する奴は居ない。ヴィー様は、そのままでいればいい。言い方は悪いが、下手な嘘より、俺が合わせた方が怪しまれない。」
そういうと、大まかな段取りは決まった。
今まで静かだった店主が、口を開いた。
「ヴィロフォルティ様には、お願いがございます。」
「なんだ?」
「この町の裏は、生き地獄にございます。しかし、決して、決して義憤などに駆られない様、何卒、何卒お願い申し上げます。」
その物言いに、彼は考える。
メルキャトは言う。
「ヴィー様。俺達魔族はヒトと似ている。なのに手を取り合うことが出来ない。ヒトと俺らは決定的な違いがある。」
彼の眼を見ながら、メルキャトは真剣な顔で言った。
「ヴィー様。あなたは魔物をどう見る?敵か素材か?」
その言葉に彼は衝撃を受けた。そうだ。見方が変われば・・・。
「殺される覚悟で言うが、俺らはヒトを資産と食料としか見ていない。」
覚悟した瞳で、ヴィロフォルティを見るメルキャト。店主は何も言わず、ただ俯き、汗を拭いている。
「あんた達はそうして隣同士で座っている。それは?」
「利害の一致だ。彼とはもう何十年の付き合いだ。お互い情も湧く。俺らみたいなのは、本当に特殊なんだ。」
「判った。」
「俺らは口約束も約束と見る。これ関しては、誓ってくれ。俺は俺の命と信用に誓う。これがなきゃ、商売が出来ない。野垂れ死ぬだけだ。」
「じゃあ、おれはノビリフィーニアに誓おう。何があっても、戦闘以外、手を出さない。俺が手持ちの物に誓っても、軽いだろ?」
「・・・・・・。ホントにヴィー様は何者なんだ・・・。判った。取引成立だ。握手を。」
そこで店主が待ったをかけた。
「ヴィロフォルティ様。この町での握手は、血の契約と呼びます。破った場合には、三族の血が流れる、根絶やしにするという意味が込められます。お覚悟は宜しいですが?」
そのあまりの真剣な表情にヴィロフォルティは戸惑う。
「そいつは困った。俺には家族がいない。誓えるとすればノビリフィーニア達だけなんだ。」
彼らの呼吸が、浅く、速くなる。
「だが、約束は守るよ。俺の秘密を明かす。俺は神に呪われている。忌み子だ。死にたくても死ねない。それからあんた達はフィニスの名を知ってるか?」
彼らの呼吸が止まる。
「俺の手足と体は、フィニスのものだ。俺が約束を違う事は、フィニスの名を汚す事だ。これで対価となるか?」
店主は気絶し、メルキャトが介抱している。
「解った!あんたの覚悟は受け取った!」
メルキャトが叫ぶ。店主は眼を覚まし、わなわな震えている。
彼は声も出せないようだ。メルキャトはソファーに身を埋めて、天を仰ぐ。
「ヴィー様。あんた、魔王より恐ろしいぜ。対価どころかこっちが借りを作る羽目になっちまった。」
その日は、商会の1階の部屋をあてがわれ、剣や防具の整備をしながらすごした。
翌日も彼はその部屋で過ごし、店主が勧める食事も断り、身体強化について練習を繰り返した。
そうして約束の夜が来る。
彼は裏に通されメルキャトや店主と馬車に乗り、町外れの倉庫に向かう。
そこは幕営の側にあり、兵士と訳ありな風情の者たちが、共に荷を運んでいた。
その景色を懐かしく思いながら、ヴィロフォルティは2人の後ろを歩く。
2人は幕営と倉庫の裏に廻る。そこには幕が張られ、外から見る事は出来ない。
等間隔に兵とならず者が配置され、異常に警戒をしている。
彼らが幕をくぐると、ヴィロフォルティの目の前に、地獄があった。
ぼろを纏った者達が額に焼印を押されている。女子供も関係無しだ。
外にいるときは聞こえなかった、悲鳴、絶叫、嗚咽、慟哭が当たりに満ちていた。
メルキャトが言う。
「遮蔽魔法だ。」
2人は前しか見ずに、その奥にある天幕へと急ぐ。
檻に入れられた男達が手を伸ばす。その手を乱暴に木材で打ち据えるならず者。
女達は隅に固まり、震えている。子供達は小さな檻にすしずめにされ痛みに泣いている。
浮浪者はひとつ所に固められ、裸に剥かれ何やら検査を受けている。
朝に見かけた手足のない者達は、何か話し込み、兵士が首を振ると、別の天幕へと連れて行かれる。
そして絶叫が続き、何やら濡れた音が響く。
「ヴィー様。前だけを見るんだ。」
メルキャトの注意が飛ぶ。
躯や内臓を抜かれた体が、彼の前を通り過ぎていく。
「気にするな。アレはただの肉塊だ。」
遠目に長方形の氷が積み重ねられ、次々と来る何かを氷付けにしていた。
ヴィロフォルティは何か思うところはないか。メルキャトは一度だけ振り向き、彼を見た。
しかし、その顔は何も感じていないように見える。むしろ夜の散歩でもしている風だ。
確かに、彼は何にも感じていなかった。
戦場では見慣れた景色に近く、人が人を食うなど、兵量が尽きた敵陣で、何度も見てきた。
捕虜や投降した傭兵達も、似たような事をされていた。
阿鼻叫喚の中を進む。天幕の中に入ればそれは掻き消えた。
目の前には高官と思しき人間と、明らかに魔族と思える者達が、円卓に数名座っている。
「ヴィー様はここで待ってくれ。一応、出入りはもうないはずだ。誰か来たら引き止めて俺に言ってくれ。剣を使って構わんが殺しは止めてくれ。」
「判った。」
メルキャトはそう言い、店主と共に座席へと座る。ここでも魔法が使われているのか、声が聞こえない。
円卓ではなにやら揉めている様だが、彼は意識を天幕入り口に集中する。
形だけとは言え、護衛なのだ。請けた仕事は全うする。傭兵の基本を思い出しながら。
半時ほどもして、話し合いは終わったようだ。
高官たちがこちらに来る。天幕より出て、1歩引いて、彼らを見送る。
魔族もまた、通り過ぎる。そのうちの一人、竜人系の魔族が彼を見て、言った。
「混ざり物の臭いは堪えるぜ。」
彼は動じない。傭兵時代のただの挨拶のようなものだったからだ。
しかしてメルキャトは即座に反応した。
「御館様の客人だ。無理して護衛について貰った。豪胆なのは良いが、巻き込むな。」
途端、みなの動きが止まり、竜人が震えだす。
「ヴィー様。こいつらの裁量権はあなたにある。好きにしていい。」
「・・・・・・。貸し一つ。」
皆は早足で天幕を去る。
「申し訳ない。皆には言っておいたんだが・・・。」
二人して頭を下げる。
「いつもの挨拶に怒る奴は居ない。一つ得した。ありがとう。」
メルキャトは溜め息一つ。
「大きすぎる借りを作っちまった。」
「その分、期待してる。」
三人は天幕を出、地獄を通り過ぎ、屋敷へと帰っていった。




