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まずは準備よ?

 彼が町に着いて、まず、思った事は、村の近くの町のことだった。

妹の命を奪い、彼を呪った神のいるあの町。

ヴィロフォルティはあの嫌な感覚が思い出されるかと身構えたが、それはなかった。

今までの経験と、妹の蘇生と言う希望が、彼の両足を支えていた。


 町には門番など居らず、彼はそのまま入っていけた。

そこには粗野な者達が溢れ、道端には手足を失いぼろを纏った者が、帽子を裏返し、小銭を待っている。

子供達は走り回り、ぼろを着ている子供は、忙しなく働いている。

あの町とは明確に違う。

なんとも粗野で、荒んではいるが、ここには活気があった。


 彼は立ち並ぶ家を通り、町の中央から少し離れた、豪華な屋敷を目指した。

それは遠目からも解る3階建ての建物で、不慣れな町でも、容易に辿る事が出来た。


途中の酒場の前で、酔っ払いに絡まれ、教会を見つけて苦々しく思い、ぼろを纏った子供達が明るく歩く姿を見た。

その建物には看板が無く、ただ大きな入り口だけがあり、大人達が大勢出入りしている。


 アローズィからは町で一番大きく、人の出入りが多い建物としか聞かされておらず、数瞬躊躇いはしたが、傭兵時代を思い出しながら、ずかずかと入っていった。


 中は広く、奥に広く細長いカウンターがあり、そこに店員が数名並び、ごった返す人々を捌いていた。

彼はその中で一番人の少ない場所を選び、並ぶ。並んでいるのはしっかりとした、しかし高価な衣装を纏う者達ばかりだ。

彼を奇異な眼で見るものは居らず、隣同士で話したり、店員に食って掛かるものも居た。


やがて彼の番になる。

カウンターは彼の背には高く、顔しか出せない。その姿は剣士を気取る子供にしか見えない。

だが、店員の応対は、大人と接するそれと同じだった。


「如何されましたか?剣士様。」


店員の問いに、彼は答えた。


「アローズィの使いだ。店主に会いたい。」


アローズィはそういえば店主に会えると言っていた。フィニスは店主に話を通すといっていた。


 瞬間、店の中は凍りついた。誰も動かず、声も出さない。

店員は表情こそ崩さないものの、一瞬にして大量の汗が噴き出した。


「剣士様。大変申し訳ありませんが、今暫らく、お時間を頂くお情けを頂戴致したく存じます。」


そう言いながら、ハンドサインを出す。


余りに難解な言い回しにヴィロフォルティは戸惑うが、言いたい事は判った。


「判った。そこで待つ。」


奥を親指で指し、背を向ける。


「お待ちください!剣士様!使いの者が参りますので、奥の部屋でお待ちください!」


悲鳴にも似た店員の言葉と共に、中堅らしき青年が彼の側に侍る。

青年は顔面を青くし、腰から頭を下げた。


「遅くなりまして大変申し訳ございません!直ちにご案内いたします!」


その仕草に尚も戸惑うが、落ち着いて言う。


「気にしていないし遅くも無い。案内してくれ。」


「こちらでございます!」


青年は姿勢はそのままに、ヴィロフォルティを先導する。人だかりは割れ、彼らだけの道が出来上がる。


 ヴィロフォルティ達が店の奥に消えると、店員は全身の力が抜け、店の中は沸きたった。

慌ただしく店を出る者。店員を問いただす者。見知っている者同士、話し合いを始める者。

そこは商人の戦場と化した。


 そんな喧騒を背に、ヴィロフォルティは青年に続く。

奥は質実剛健という作りながら、適度に高額そうな調度類が置かれ、絵画が架けられている。

廊下の床は、彼が一歩踏み出す度に、悲鳴を上げる。踏み抜かないよう注意しながら、彼は後に続いた。


その最奥に通され、青年は言う。


「お使いの剣士様。店主を連れて参りますので、今暫らく此処でお寛ぎ頂けますでしょうか?」


何が青年を萎縮させるのか、不思議に思いながらも、彼は言った。


「判った。だが剣を放す気は無い。」


「勿論でございます!では連れて参りますので、お寛ぎください!」


そう言うと、()()()優雅であろう身のこなしをさせながら、部屋を出た。


 さて、と。

彼は思う。高額そうな調度類。見た事のない豪華なソファーに椅子。これまた高価そうな絨毯。

実に居心地が悪い。

自分の装備と大剣ではソファーを痛めてしまうし、さりとて椅子は小さく華奢過ぎる。絨毯など、彼の足元だけ、踏み固められた様になっている。


どうしたものかと考えていると、どたどたと足音が聞こえ、ドアの手前で静かになる。

そして、店主らしき恰幅の良い中年が、青年を従え入ってきた。

その体格で慌てて走って来たであろうその赤い顔が、彼の立ち姿を見た途端、真っ青になる。


「大変!大変お待たせいたしました!申し訳ございません!」


青年と同じく、腰を90度に曲げ、いきなり詫びる店主。

後ろの青年は体を震わせると、いきなり土下座した。


「いや、待っていない。この装備では、家具を傷めてしまうから、立っていただけだ。」


「なんとも寛大なお言葉!深く深く感謝申し上げます!!」


「詫びは良い。後ろの彼も立ってくれ。怒ってなんかいない。話がしたいだけだ。」


店主は姿勢はそのままに手で青年を下がらせると、自分で扉を閉めた。


 腰を曲げ、彼の目線より下にいこうと努力する店主。


「アローズィ様のお使いとお伺い致しました。この度は、どのような御用命を頂けるのでしょうか?」


 なんともやりにくい事この上ない。

ヴィロフォルティは店主の目線で言った。


「俺はただの使いだ。アローズィに何か吹き込む事は無いと誓う。」


その言葉に、店主は膝が砕けた。


「本当にございますな?」


ヴィロフォルティを見上げる店主。


「この剣と、家族に誓う。」


盛大な溜め息と共に、店主は立ち上がった。

その顔には幾分の不安と、多分の安堵があった。


「感謝いたします。剣士様。まことに失礼ながら、こうしてお話させて頂きます。」


態度は変わらず、柔らかくなった雰囲気で、店主は言う。これで話易くなった。


 彼はアイテムボックスから蜜蝋で封のされた封筒を差し出す。


「使いの内容はこれだ。確認してくれ。」


「では改めさせて頂きます。」


柔和な雰囲気の中、両手で封筒を受け取り、蜜蝋を見た瞬間、店主は震えだした。


「・・・剣士様。」


「ヴィロフォルティだ。」


「ヴィロフォルティ様、座っても宜しいでしょうか?」


「構わない。落ち着いて確認してくれ。」


何とか言葉を繰り出し、震えながらソファーに座る。そうして机にあるペーパーナイフを取ると、蜜蝋を壊さぬよう苦労して丁寧にはがし、中の用紙を確認する。


「・・・!・・・・!・・・!・・・・・・ヴィロフォルティ様は一体・・・。ノビリフィーニア様の御印まで・・・・・・。」


知らぬ名前が出てくるが、フィニスの事だろうと当たりを付け、答えた。


「俺は魔族領に行きたい。その為にノビリフィーニア達が用意してくれた。」


「あなた様とノビリフィーニア様とは一体・・・いや、詮索は無用でした。謹んでその大役、お受けいたします。」


「ありがとう。」


「此処では込み入った話が出来ません。()()はどこにでもございます。わたくしめの書斎であれば、安心です。」


「・・・・・・それは何階にある?」


「?。二階にございます。」


「・・・・・・俺とこの剣は重いんだ。床が持つか?」


その言葉に、店主は力が抜け、ソファーに沈み込む。


「まこと、ヴィロフォルティ様は一体・・・。ご心配無用にございます。2階には大広間も設けておりますゆえ、そのお姿でも十二分に耐えられます。」


そう言い、立ち上がると、ヴィロフォルティと共に2階に上がっていった。




 店主は2階から人を払い、支度が出来るまでと、寛いだ様子で話しかけた。

ヴィロフォルティは丈夫そうな椅子を用意して貰い、大剣はすぐ近くに立てかけられた。


そうして店主は話上手で聞き上手だった。

ヴィロフォルティが始めて町に来たと知るや、町の配置、商人の動向、武器・鍛冶屋の場所、裏の社会など、さまざまに語って聞かせた。

釣られてヴィロフォルティも、言葉少なに受け答えする。


 しかしヴィロフォルティは警戒する。傭兵時代の師匠が言った。


「ヴィー、俺らの天敵は兵でも国でもねぇ。商売人だ。奴らの言葉は暗器と一緒だ。いつの間にか懐深く入ってきて、ぐさり、だ。特に聞き上手には気をつけろ。奴らは拷問官よりよっぽど上手に情報を引き出すぞ。」


そんなヴィロフォルティの雰囲気を察したのか、店主は真面目な顔で、彼に言った。


「ヴィロフォルティ様からは、剣士というより、傭兵の匂いがします。少なくともわたくしは、あなた様に敵対は致しません。」


その言葉と態度に。ヴィロフォルティは言う。


「俺は剣と家族に誓った。あんたはその言葉を誰に誓う?」


「私の店と、信用と、全財産に。」


「あんたの命は?」


「これがわたくしの命でございます。商人の命でございます。」


ヴィロフォルティは言う。


「俺はあんたを信用しない。しかし、あんたのその信条は信頼できる。アローズィと・・・ノビリフィーニアには宜しく伝えておく。」


そう言う彼の眼を見て、店主は頭を垂れた。


「・・・・・・。もったいないお言葉でございます・・・。」


 そこで扉が開き、老いた商人が入ってきた。手には大きめのスクロールと、羊皮紙の束があった。

しかし彼の目には、何かしらの膜がその男に掛かっている様に見えた。


気になることは、早めに解消しろ。


「ではヴィロフォルティ様、ご相談と参りましょう。」


「店主。その男は人か?」


老いた商人はピクリと眉を動かす。店主からは表情が消えた。


「ヴィロフォルティ様はどこまでお知りなのですか?」


「それこそ詮索無用だ。その男は魔族とか言う奴か?」


「彼はわたくしと同類です。魔族の商人なのですよ。」

読者の皆様神様仏様。

私です。

暫らく説明回です。

見捨てないで..·ヾ( ๑´д`๑)ツ

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