さあ、次よ!次!
ドラゴン撃破より1週間後、ヴィロフォルティは旅支度を整え終わった。
鎧はそのままに、マントと腰袋が追加された。
「その腰袋はアイテムボックスだ。そう入りはしないが、まあ、無いよりましだろ。餞別だよ。」
「良いの?師匠。これ高いでしょ?」
「なぁに。あたしのお古だよ。それにお前は小物装備に無頓着すぎる。事前の準備と、使えるものは何でも使う。基本だよ。」
「ありがとう師匠。」
「ブーツも新調しといたぞ。あのドラゴンの素材で作ったから、お前の右足でも、還らずの山に登っても、びくともせんわい。」
そこにカジュとミィーノの二人が背嚢を抱えてやってくる。
「ヴィー!食いモンは持ったか?」
「ポーションもです!甘いのは正義です!」
どっかと背嚢を押し付ける二人。
今日、ヴィロフォルティは街を出る。目指す場所は、魔族領。
今、人と魔族は紛争状態にあった。その中を行くと言う。皆は過剰なまでに、ヴィロフォルティを構いたがった。
「もう!そんなに持てないよ。それに旅支度は簡素が基本でしょ?カジュもミィーノもやりすぎだよ。」
それでもヴィロフォルティは笑顔だ。
こんなにも思ってもらえるなんて、初めてだ。どうすれば良いのか分からない。だが、とてもうれしい。
「奴らとやり合うんだろ?それに境界の町までは何も無いんだ。これくらいいるだろ?」
カジュが当たり前の様に言う。
「ヴィーさんは怪我に無頓着すぎます。そんなんじゃ、いつか病気になっちゃいます!」
ふんすふんすとミィーノが説教する。最近、何故か距離感が近い。
その言葉に、苦笑いしか出せないヴィロフォルティ。
死ねない体。飢えない体。それを二人は知らない。なんともやりにくい。
ニーイと親方を見れば、何故かニヤニヤしている。
「モテる男は辛いな?」
「そのくらい甲斐性がないと、育て甲斐が無いよ。」
傍で二人は彼らを見守る。
「で、ヴィー。いつ行くんだ?」
「お見送りくらいしたいです!させなきゃ泣きます!」
パンパンに膨れた背嚢の中を整理しながら、彼は言う。
「明後日には行くよ。早い方が良いかなって。」
「その肉はいるだろ!?なんで置いてくんだよ!」
「干し肉がこんなにあるんだよ?腐らせちゃうよ。」
「ばっか、男ならそのくらい食えるだろうが!」
「あっ!ヴィーが苦いポーションだけ置いてってる!」
「魔力ポーションは僕使わないし!」
姦しく騒ぐ3人と見守る2人。
ここに来た時のあの殺伐とした雰囲気は嘘のように、穏やかに時は流れる。
そして次の日の朝、日が夜を焼く頃、ヴィロフォルティは門の外にいた。
隣にはニーイがむくれている。
「こんなこったろうと思ったよ。」
旅装を整え、背嚢と大剣を背負うヴィロフォルティに説教をする。
「見送りなんて、苦手なんだよ・・・。」
「気持ちは分かるが、師匠のあたしを出し抜けるなんて思わないこったあね。」
得意げに胸を張り、ヴィロフォルティの腕を叩く。
軽く優しく、家族にするように。
「これが最後の説教だ。ヴィロフォルティ。お前は今から地獄に行く。でも忘れるんじゃないよ。お前の帰る場所は、ここにもあるんだ。傭兵のお前なら知ってるだろ?逃げて隠れて次を待て。ここはそう言うところさ。」
その言葉に、彼は現実感がなかった。
今まで怯えて隠れて、逃げ出して、常に死にたかった日々。世界中から呪われていた日常。
それに対して、この世界は暖かすぎる。
「・・・・・・なんだろ。言葉が出ないや・・・。」
ニーイはその小さな体で、少年を抱きしめる。
「だからお前は修羅なのさ。でもね。落ち着ける場所ってのは、そう言う奴にも要るんだよ。いつでも帰って来な。」
そう言い、拳をヴィロフォルティの胸に当てる。
「行って来い馬鹿息子。どこまでも突っ走れ!」
「・・・・・・ありがとうニーイ母さん。」
彼は背を向けると、歩き出した。背を向ける瞬間、ニーイの顔に光る物が見えた気がする。
しかして彼はもう振りかえらなった。
街道を歩き半日も経ったころ、ヴィロフォルティは空を見上げ、干し肉を齧っていた。
半分千切り道外れに投げている。
偶にすれ違う者からは二度見された。
まあ、少年の体にその背を覆い隠すような大剣。膨らんだ背嚢。
それを事もなく背負い、歩くその姿は奇異に見えるだろう。
そうしていると、投げた干し肉の辺りに動く気配がする。
素早く左手を繰り出し、何かを捕まえる。
狐だった。
身は痩せ、食べられる部位も少なそうだ。
暴れる狐を持ち上げ、干し肉を拾うと軽く咀嚼し、それを狐の口にねじ込んだ。
飲み込むのを確認して、放してやる。狐は茂みの中に逃げ込み、そのまま走り去る音がする。
遠くから、馬車の走る音が聞こえた。
彼は立ち上がると、なんとなく気になってその方向を見た。
遠くに黒い影がある。砂塵を上げ、その速度は速い。
彼は道を外れ、草むらに立つ。なんとなくだが、その影から目が放せない。
その影は姿を現した。
大剣が呼んでいる気がする。彼は柄に左手をかけた。構えろと剣は言う。
しかし、左手は動かない。
馬車は速度を落とし、彼の前に停車した。
4頭立ての巨大で豪奢な馬車。黒塗りの車体に金の装飾が施されている。
立ててあるペナントには黒に金の刺繍で龍が編まれていた。
馬は逞しく、彼が今まで見たことの無い種の馬だった。彼の眼に、馬を取巻く黒い膜が見え隠れする。
御者はフードを目深にかぶり、前が見えてるか心配になる。
突然横の扉が開かれ、誰かが飛び出して来た。
その者はあっという間に彼の前に立つと、彼が何の反応も出来ぬまま、あろう事か大剣と荷物ごと、彼を抱きかかえた。
ハイウエストスカートにたわわと言うにも、豊か過ぎる胸を収めるブラウスの谷間に、ヴィロフォルティの頭は埋もれた。
その細身の腕の、どこにそんな力があるのか、彼を掴んで放さない。
何も語らず、彼を抱きすくめる女性。彼は手足をばたつかせるが、その豪奢な体はびくともせず、やがて彼は足元に水溜りを作り、動かなくなった。
「あら?気絶しちゃった?」
その女性は事もなくそう言い、振り返る。
「アローズィ!気絶しちゃったわ!可愛い!!」
「御館様、私、羨ま死してしまいそうです。」
二人はそう言い、ヴィロフォルティを抱えたまま、馬車に消えていった。
次に彼が目覚めた時、目の前にあったのは2つの巨大な何かだった。それが目の前すぐにある。
頭は何かで固定されているようで、動かせない。
「この体の難点は、こういう時ヴィーの顔が見れないことよねー。」
聞き覚えの無い声。
「御館様。私も膝枕して頂いても、宜しいでしょうか。いや、ヴィロフォルティ様を膝枕する事も捨てがたく思いますね。」
こちらは覚えがある。アローズィだ。
「どっちもダメよ。ヴィーはあたしのものよ。」
腕は動く。彼はその巨大な何かを押しのけようとした。途端、彼の指はその何かに沈み込む。
「あんっ・・・。ヴィー、気付いたのね。」
彼を固定していたのは、彼女の腕だった。彼女は彼を起き上がらせ、横に座らせると彼の膝に手を置き、微笑む。
「この姿は初めてね。久しぶり!ヴィー!。」
「・・・フィニスなの?」
「そうよ!強くなったわね!ヴィー!」
膝に置かれた手を見て、自分の姿がどういうものか認識する。
そして、フィニスのその姿と、自分が何を触ったのかを自覚すると、体中が熱くなった。
飛び跳ねるように馬車の隅に行きうずくまる。
「ねえ!何で裸なの!?フィニスのその格好も、何!?」
きょとんと自分の姿を確認するフィニス。
「・・・アローズィ?このコーデで間違いないって言ったわよね。」
「はて、王都で噂の「どうていをころすふく」とやらは、間違い無いはずなのですが。」
やたらと胸と臀部を強調するその姿に、ヴィロフォルティは眼を瞑る。
「フィニスはいやらしすぎるよぉ!!」
途端二人の動きは固まる。
「アローズィ?ハンカチ」
「片手で失礼致します。御館様。」
二人はそろってヴィーを見つめ、鼻を押さえていた。
その後の、馬車の中は大騒ぎだった。
辛抱堪らんとフィニスが襲い掛かるが、アローズィがヴィロフォルティに3重の防御魔法をかけ、その貞操を守った。
服を着せるときは、ヴィロフォルティが自分で着るといって聞かず、なぜかとフィニスが問えば、腰を折り、顔を真っ赤にして俯いた。
その姿に思うところがあったのか、フィニスは鼻血を噴出し、気絶した。
服は無事に自分で着ることができた。ただし、皆に背を向け着替ている最中、アローズィの鼻息は荒かった。
この騒がしい面子を載せ、馬車は走る。
目的の場所は、人魔の最前線。地図にない町、その名はフロントライン。
読者の皆様神様仏様。
私です。
ヴィーの旅立ちはひとまずここで幕です。
ヴィーが強くなる過程を書けたのか、凄く心配な私ですが
読者の皆様神様仏様に少しばかりでも届いていたら
私の勝ちです(◍ ´꒳` ◍)b
あと、次の投稿は2月を予定しております。




