うれしいね。うれしいね。
緑の炎に包まれながら、ヴィロフォルティは頭から飛び降り、間合いを取ると正眼に剣を構える。
目の前の巨体は、痙攣を繰り返す肉塊にしか見えない。
しかしながら、言ってもドラゴン。
ここから再生を果たし、襲ってくるとも限らない。
彼はその首を落とそうと前に出ようとする。鎧から違和感がする。大剣は動こうとしない。
大剣を背に収める。違和感は無い。満足しているようだ。
全身から力を抜く。鎧の重さを感じない。違和感を感じない。
痙攣する巨体は、数分もしないうちに、肉塊へと変わっていた。
ヴィロフォルティはドラゴンに打ち勝った。
日は顔を出してはいるが、まだ上りきっていない。
彼はそれに違和感を感じた。まだ何かある。
大剣に手を掛ける、剣は答えない。
そのままの姿勢でいると、真横から何かの気配がした。
剣に力を込め、右足を真横に振るう。
反対側から、再度、人の気配。
「ヴィー様。アローズィに御座います。」
その声に、ヴィロフォルティの殺気は霧散した。と同時に、痛みがぶり返し、彼はへたり込んだ。
「そのお姿も御可愛らしい・・・。いえ。何でも御座いません。ヴィー様。ドラゴン初撃破、おめでとう御座います。」
「剣と鎧のお蔭だよ。じゃ無ければ、僕は奴の腹の中にいたよ。」
「ヴィー様はお気づきになっておられ無いかも知れませんが、ドラゴン相手に四半時も経たず撃破という事は、通常、有り得ません。御館様はそれはもう、痛く感動されておられました。」
ぽかんと口を開けるヴィロフォルティ。
彼の体感では、数刻は闘っていたのだ。日の光に感じた違和感は、これだった。
そして自分のしたことに気がついた。
「ごめんなさい。アローズィさん。女の人を蹴ろうとしちゃった・・・。」
「ヴィー様!ヴィー様!私めも尊死してしまいます!」
頬に手をあて体をくねらせるアローズィ。
その姿に少し引きながらも、アローズィを見上げる。
「フィニスは?」
くねらした腰はそのままに、頬に手を当て彼女は言った。
「御館様は大変ご満足され、今はお休みになっておられます。」
そうして身を正し、ヴィロフォルティに一礼する。
「改めて、おめでとう御座います。ヴィー様。貴方様は見事、試練に打ち勝ちました。妹様の御体は復活を果たされます。」
その言葉に、彼の眼から涙が溢れる。
「しかしながら、ご用意できるのは器のみ。御体のみに御座います。その魂は、私共では呼び戻す事、叶いません。」
「でも!でも何とかできるんでしょ!?方法があるんでしょ!?」
「勿論で御座います。御館様は、ご自身が定めた、如何なる約束も反故にする事が御座いません。」
ヴィロフォルティは身を乗り出した。
アローズィは表情を変えず、言った。
「ヴィー様にはまず、魔族領に向かっていただきます。次なる試練は、『勇者と魔王の撃破』に御座います。」
「まぞくりょう?」
「左様に御座います。妹様の魂を呼び戻す事が出来る方も、そこに居られます。」
遠くから足音が聞こえてくる。
アローズィはちらとそちらを見ると、三度、ヴィロフォルティに一礼する。
「仔細は後日、必要な時に私が参ります。それではヴィー様、今後のご活躍の程、お館様と共に、心よりお待ち申し上げます。」
そう言って、淡く消えた。
ヴィロフォルティはうずくまり、静かに泣いていた。
巨大な肉塊を見て、ニーイは声を失った。
鱗の色身からして、低級はまたは中級下位のドラゴンの様だが、その死に様が今まで見てきた中で、一際異質だった。
「あ、師匠。」
ヴィロフォルティは座り込んでおり、その体に可笑しなところは無さげに見えた。
「どうにも我慢できないから来て見れば、こりゃどういうこったい!?」
「どうって・・・。ドラゴンは倒したよ?」
きょとんと返事をするヴィロフォルティ。言葉の意図が分からない。
「あー!この倒し方だよ!なんで手足が切り飛ばされて、顔は丸焦げなんだい!?」
「手足の切り飛ばしは、対巨人相手では基本だよ?あと、頭は自分のブレスで燃えたんだ。」
「そこだよ!!自分のブレスで燃えるドラゴンなんて、聞いた事がない!!あんた!何したんだい!?」
どたどたと駆け寄り、彼の胸倉を掴み上げ前後にゆする。
あわあわするヴィロフォルティを他所に、問い詰めるニーイ。
「どんな間抜けなやつでも、自分の毒で自分が死ぬなんて無い!どうやったんだい!?教えておくれ!!」
「師匠!落ち着いてよ!そこに座って!」
ヴィロフォルティをはなし、すぐ側にどかりと腰を下ろす。
うまく説明できないヴィロフォルティは、最初から説明した。
身振り手振りを交え、説明は四半時を越えた。
その頃には街から街の兵士や冒険者、ギルド職員などが来て、大騒ぎとなった。
それらを他所に、師弟は座り込み、あれやこれやと話し込んでいる。そこだけ、人は避け、邪魔をしないようにしていた。
「つまりなにかい?奴らはブレスを撃つ時に自分に魔法をかけているって事かい?」
「そうなんだ。ブレスを撃つ前に、頭に淡い光が見えたんだ。その後、必ずブレスが来る。最初、逃げようとしたんだけど、剣がその光を切れって言った気がしたんだ。そうしたら、綺麗な音がして、何かが割れて、奴の頭が燃え上がった。」
ニーイは頬髯をいじりながら考える。
「淡い光ってのは、保護魔法か何かかねぇ・・・。確かに魔法が発動する前に光が見える時が有るこた有るが・・・。」
「師匠の身体強化の後も、光って見えたよ。」
「ほえー。お前は魔力が見えるんだねぇ・・・。うらやましいね・・・いや、見えりゃ良い訳だろ?なら方法はある!!」
ニーイは立ち上がり叫んだ。何事かと皆がこちらを見た。
「師匠?」
「ヴィロフォルティ!お手柄だよ!お前は対ドラゴンの切り札を見つけたんだ!!これでブレス対策が捗るよ!!」
「どうしたのさ?師匠」
「あたしは魔術ギルドに行くよ!!あんたはそこで休んどきな!!」
そう言うなり、身体強化をかけてまでして、走り去るニーイ。
ぽかんとしていた彼だが、体の痛みが引くと、立ち上がり街に戻る。
大戦の後は、道具の手入れが欠かせない。親方の元に急ごう。
彼は軽く走り出した。
今回のドラゴン襲撃は、ヴィロフォルティが警戒中に発見し、ニーイが打ち倒した事になった。
街の中央にある広場には、ドラゴンの首が置かれ、危機が去った事を印象付けた。
冒険者ギルドでは、何故かニーイがドラゴンの話を吹聴し、ギルドにA級が育つまでの間、この街にいることを宣言した。
魔術ギルドはドラゴンブレスに対応する術が発見されたと、中央王都より上級技官などが来て、大騒ぎとなった。
これもまた、話を持ち込んだニーイの手柄とされた。
全て、ヴィロフォルティを人の目から守るために、あえて行った。
最初に、ニーイは魔術ギルドで大暴れし、次に冒険者ギルドで大暴れした。
ヴィロフォルティの功績を前面に出し、機運を盛り上げようとギルド役員と領主が考えたからだ。
彼は勿論、表沙汰になることを極端に嫌った。その為に大剣を抜こうとさえした。
ニーイも騒ぎを嫌う方だが、事はそれを赦さなかった。
妥協案として、ニーイが表に出る事にしたのだ。
そうして街の日々は過ぎてゆく。
ある夜、親方の工房では5人が集い、酒宴が開かれていた。
ニーイ、親方、ヴィロフォルティは勿論だが、ヴィロフォルティの希望で、カジュとミィーノが呼ばれていた。
ニーイと親方はたらふく飲み、笑い、カジュとミィーノは二人を前に小さくなっていた。
「カジュ!お前辛気臭い顔してないで、もっと食べな!ミィーノ!お前は甘いモンばっか食うから胸がそんなになるんだよ!」
大いに笑いながら、二人をたきつけるニーイ。
「だって先生に招かれるなんて・・・何か怒られるのかなって・・・。」
「カジュ!声が小さい!いつもの態度のデカさはどこ行った!」
「胸の大きさなら、先生の方が大きいですぅ!甘いものと胸は関係ないですぅ!」
「あたしのは筋肉だよ!なあ、馬鹿旦那!!」
「そう言うことを言うんじゃねぇよ!!こっ恥ずかしい!!」
親方は火酒のジョッキを一気に呷り、ヴィロフォルティはエールのジョッキを少しずつ飲んでいる。
「あー!もう!知りませんからね!そこの子豚の丸焼き頂きます!!」
カジュは自棄になって丸焼きを鷲掴み、かぶりつく。
「あたし火酒は苦手です・・・。林檎酒は無いんですか?」
火酒をなめては苦い顔をするミィーノにニーイは怒鳴る。
「そんな菓子はここには無いよ!!」
「そんなぁ・・・・・・・。」
諦めて火酒をなめるミィーノ。
彼女はヴィロフォルティがエールを少しずつしか飲まない事を発見した。
「先生!ヴィーはどうなんですか!?エールばっかじゃないですか!ずるいです!」
「僕も苦いのは苦手なんだ・・・。」
両手でジョッキを持ち、俯き加減でヴィロフォルティは言った。
二人は固まる。
親方とニーイはニヤニヤしている。
「あれ?ヴィーがなんかかわいい・・・?」
「先生?なんかお酒の回りが早いです。ヴィーがかわいいです。」
丸焼きを手にカジュが立ち上った。
「おまえ食堂で「苦いものには栄養がある」なんて言ってたじゃん!」
あの時の彼の声音を真似するカジュ。
ますます小さくなるヴィロフォルティ。
「あれは、傭兵してた頃にそう言えって師匠が・・・。そうすれば美味しくなるって・・・。」
「ヴィーもあたしの仲間だったんれすね!」
ほんの少しふらつき、呂律が怪しいミィーノが仲間を見つけた。
「苦いものは苦いよね!美味しくないよね!」
「そうれすよ!」
親方とニーイは盛大に笑った。
「それに僕って・・・似合わねぇ!!いつもの「俺の獲物だ」って言ってみろよ!!」
カジュは骨になった子豚を放り投げ、火酒を呷り、はやし立てる。
「もう!止めてよカジュ!からかわないで!皆そうやってからかうからあの口調にしたんだよ!」
笑い声は3人に増える。
「ぶぃーしゃんがかわいいれすぅ!ギャップ萌えれす!!」
ジョッキを手に、形の良い胸をヴィロフォルティの腕に押し付けながらミィーノが抱きつく。
「ミィーノってばもう酔っ払ったの!?火酒がこぼれるよ!」
「あの巨乳に動じない!」
カジュが叫ぶ。
「がははは!男前だな!ヴィー!」
「そんな柔な男に、育てちゃいないよ!」
「ぶぃーしゃんちうー。」
「ミィーノ止めてよ!顔近づけないで!」
5人の喧騒は、翌朝まで続いた。その日の朝は、星が見えそうなほど蒼かった。
読者の皆様神様仏様。
私です。
なんだかヴィーが良く動きます。
あと残念な美人に、残念な美少女。
大好物です。




