仕上よ!仕上げ!
ネームドミノタウロスを倒した3日後、森の前の広場で、ヴィロフォルティは大剣を構えていた。
後ろにはニーイと親方が居る。腕組みをしたニーイが言った。
「まずは肩慣らしに、知ってる型をやってみな。」
彼は正眼に構えた剣を振り上げ、そして振り下ろす。
傭兵時代に仕込まれた型を繰り出しながら、ペースを上げてゆく。
3~4分ほどそれを続け、最後に再び正眼に戻し、残心。
「よし。次は本気でやりな。」
身体強化を唱え、振り上げる。そこで溜め。そして振り下ろす。
ただそれだけの動作のはずだったが、破裂音がし、一瞬で大剣は振り下ろされていた。
それからは破裂音の連続と、大剣が巻き起こす嵐が周りを揺るがす。
そのうち破裂音が止み、甲高い金属音が代わりに響いてくる。
大剣は黒い影となり、彼の姿は霞となる。そして剣の周りに雲が出来上がる。
「よし!」
言うなり、大地が抉れる音とともに、大剣の姿が現れた。その刃は大剣の3分の2が地中に埋まっている。
いや、大地を切り裂いたのだ。
「さすがに停めるのは無理かい?」
ニーイは言う。ヴィロフォルティは頷く。
「腕を持っていかれる。何か方法は無いか?」
「ない。体が出来上がるのを待ちな。」
「そうか。」
大剣を引きずり出し、布で丁寧に土を拭う。
親方は大剣を確かめている。
「ん。間違いねぇ。繋がりやがったな?ヴィー。」
再び頷く。
ニーイは腰を下ろし、親方もそれに習う。
大剣を横にヴィロフォルティも座る。
「声というか、こうした方が良い、こうするべきだって感じがする。その通りに腕を動かせば、あれが出来る。」
「普通は剣が持ち主に合わせるもんだが、そいつは我が強いんだな。それに合わせられるお前もお前だ。」
「あたしの仕込が良いからね。それくらい出来てもらわないと、あたしの名が廃るよ。」
二人は朗らかに言い合う。
ヴィロフォルティは身を正し、二人に頭を下げた。
「有難うございます。師匠、親方。これで本当に剣が使えるようになった。」
親方は鼻をさすり、ニーイはにこりと笑う。
「まあ、これであたしの膝くらいのとこには来たかね。」
「死合ってくれるのか?」
「止めとくよ。あんたが学べるとこは、もう死地しかないよ。」
そう言い、真面目な顔で彼に言う。
「あんたは死地でしか学べない男だ。修羅さね。その若さで不憫な事だが、これは変えられない。」
そして告げる。
「今、剣を捨てるか、修羅を進むか、選びな。剣を捨てれば人並みの暮らしも出来るだろうさ。修羅を選べば、お前さん死ぬより辛い地獄を見続ける事になるよ。」
ニーイと親方の目は真剣だった。
「ヴィー。なんならうちの子になれ。」
親方の声が暖かい。父さんもこうだったかな?忘れてしまった。
「お前は若すぎる。修羅の道には行かせたくない。」
師匠の言葉が温かい。母さんの顔も、声も、もう思い出せない。
ヴィロフォルティの胸の内はとうに決まっていた。呪われたあの日から。
「師匠、親方。僕は神様から呪われてる。死にたくても死ねない呪い。フィニスに会いに行ったのは、死にたかったから。でもフィニスのブレスでも、僕は死ねなかった。」
落ち着いた声で、素の声で彼は言う。剣を撫でながら、彼は言う。
「フィニスだけが僕達を救ってくれた。フィニスに貰ったこの剣だけが、僕を救ってくれた。師匠には悪いけど、この剣が無いと、もう生きていけないんだ。だから、僕は修羅の道を行くよ。」
その言葉に親方は天を仰ぎ、ニーイは眼を瞑り俯く。
「ありがとう、二人とも。こんな僕を気にかけてくれて、ありがとう。」
ニーイはその言葉に膝を打ち、顔を上げた。
「解った。ヴィロフォルティ。馬鹿弟子。お前は魔族を知ってるかい?」
「たしか、母さんが話してくれた事があるよ。」
「奴らは居る。現実に居る。奴らと死合いな。もっとお前を強くするはずさ。ただし、本物の地獄を見るよ。」
その眼に、彼は笑って答えた。いつもの笑顔じゃない、素の笑顔で答えた。
「わかった。師匠。ニーイ師匠。僕は行くよ。」
「辛気臭い話は終わりにしようや!今日は帰って飲み明かすぞ!」
親方はそう言い、立ち上がる。ニーイも目頭を拭いながら立ち上がった。
ヴィロフォルティは立ち上がり、大剣を背に負う。
そして三人の前に、執事服の麗人が現れた。そう、まさに何もない空間から現れた。
「お初にお目にかかります。ヴィロフォルティ様。ニーイ様。ダニス様。私めはアローズィと申します。」
腰を浅く曲げ、左手を前に、右手を後ろに回し、礼をする。
ニーイが、親方の前に出る。ヴィロフォルティは懐かしい匂いをかいだ。
「師匠。まって。」
そう言うとアローズィの前に立つ。
「はじめまして。フィニスの匂いがする。まだ一年たってないよ?」
アローズィは少し驚いた顔で、彼を見た。
「流石で御座います。ヴィロフォルティ様。私は御館様の命でまかり越しました。皆様に敵対する意思はございません。今はただの伝令に御座います。」
「あんた、ハイエルフだろ?何でそんな真似してんだい?」
ニーイは警戒を解かず、彼女に問う。
「御館様、命ですので。私の立場など、御館様の前では塵芥も同じ。私の全ては御館様の為にあるのです。」
尚も言い募ろうとするニーイをアローズィは手で制する。
「ニーイ様との語らいも楽しいもので御座いますが、今は、ヴィロフォルティ様を優先いたします。
ヴィロフォルティ様、今のお言葉、御館様も痛く感激されておられました。こうして実際にお目にかかりますと、確かに尊いお方だと感じます。」
「フィニスもそうだけど、尊いってなに?僕、ただの農民の子だよ?」
「・・・・・・これは尊い・・・・・・。いや、失礼致しました。御館様よりヴィロフォルティ様にお伝えしたい事が御座います。」
「何だろう?教えて?」
「尊・・・。何でも御座いません。ヴィロフォルティ様も仕上がったご様子ですので、御館様より試練のご提案がございます。褒章は妹様のお体、だそうに御座います。」
「やる。」
「まさに即答。このアローズィ、千余年を生きてまいりましたが、これほどの強い意志は、初めてで御座います。流石、御館様の見初められた方。出来ましたら、私めもお側に侍らせて頂きたく存じます。」
「・・・はべらせるって、なに?それよりフィニスは何て言ったの?」
「・・・・・・。これは・・・・・・。なるほど。御館様の熱の入れようが今、解りました。私が間違っていたようです。私もヴィー様とお呼びしても?・・・失礼致しました。御館様よりのお言葉は、[ドラゴンと死合いなさい]、との事で御座います。」
ニーイは激昂した。余りに無体すぎる。
「フザケた事抜かしてんじゃないよ!この葉っぱ女!!」
アローズィの耳がひくりと動いた。
「これは確定された事で御座います。石喰いには少々酷な言い回しでしたか?」
一触即発の雰囲気に、ヴィロフォルティは二人の間に入り、盾となる。
「止めてよ!師匠!アローズィさん、ごめんなさい!師匠は少しだけ気が短いけど、良い人なんだ!」
そう言って、アローズィに頭を下げる。
食って掛かろうとするニーイを親方が羽交い絞めにし、口を塞ぐ。
「あぁ・・・。この気持ちは久しぶりに御座います。ヴィー様。やはり、私もお側に侍りとう存じます。勿論、御館様の次に。」
「もう!訳わかんないよ!」
ついに叫んでしまうヴィロフォルティ。
アローズィはその言葉に居住まいを正し、再度、深く礼をする。
「申し訳御座いませんヴィー様。少々取り乱してしまいました。・・・・・・これより3の月が降りる朝、場所はここで。妹様の復活を、このアローズィもお祈り申し上げます。」
「判ったよアローズィさん。ありがとう。」
白い頬をほんのり赤く染め、微笑みながらアローズィは消えた。
「このダメ亭主!いっちまったじゃないか!」
拳で親方の顔を殴る。
「何しやがる糞女!」
溜め息をつき、振り返るヴィロフォルティ。そこには何故か笑顔がある。
「師匠?親方?子供が見てる前で、いがみ合うのはダメだよ?」
「これが今うちで出来る最高の防具だ。」
ありったけの材料と弟子達を駆使して、親方はヴィロフォルティの防具を一晩で作り上げた。
右手には爪付きの篭手。胸には大剣と同じアダマンタイトと龍鉄を使った胸鎧。左足には同じ素材の腿あてと脛あて。
兜はヴィロフォルティが拒否した。視界が悪くなるからだ。その他は出来るだけ軽く、簡素にというヴィロフォルティの希望だった。
ニーイといえば、防具一式を点検し、丁寧に磨き上げ、今はバトルアックスを研いでいる。
「親方・・・僕、死なないんだよ?防具なんて入るのかなぁ?」
広場での語らい以降、彼は素で二人に接していた。
「無いより有った方が良いんだよ!なあ!ニーイ!」
「当たり前さね!準備を怠った奴から死んじまうんだ!そこのお前!対ドラゴン用の小物はどこだい!?」
斧を丁寧にしまい、腰袋の中をあさるニーイ。
「師匠、闘うのは僕だよ?」
「やっと飛べるようになった雛がえらそうに!あたしもやるよ!」
途端、彼の表情から感情が消えうせた。ヴィロフォルティはニーイの前に立ち、肩を抑えた。
「ダメだよ師匠。僕の獲物だ。妹を生き返らせるんだ。」
その眼は彼が見せた事のない眼。
狂気に取り付かれた瞳。
「ヴィー・・・あんた一体・・・・・・。」
「妹が生き返るんだ。邪魔しないで。」
「あんた・・・正気じゃないよ・・・・・・。」
ヴィロフォルティは生まれて初めて、膝を折り他人に抱きついた。そうしないといけないと思った。
「師匠。妹が死んだときから、僕は狂ってるんだと思う。みんながそう言う。だから、邪魔しないで。」
優しく離れ、ニーイの両手を握り、懇願する。
「師匠?師匠はもしもの時の為に、皆を守って。親方を守って。僕は死なないけど、皆は死ぬんだよ。約束してよ。師匠。皆を死なせないって。自分も死なないって。」
顔を伏せ、ニーイの手を強く握る。
もう、親しい人の死を見るのは嫌だった。泣いている姿を見るのも嫌だった。
「判ったよヴィー。業腹だけど、その依頼、引き受けた。」
ニーイはそう言って、ヴィロフォルティの頭に軽く額を当てた。
読者の皆様神様仏様。
私です。
毎日投稿は、ひとまずお仕舞いにございます。
早めに投稿、または、もう一度すぐに投稿できるかと思います。
キャラの動きが遅いときも、かわらず彼らを見守ってくださいませ。




