撃破よ!撃破!
「ネームドミノタウロス、”アスペレオ”の討伐を許可します。」
その日のうちに、悪ガキ師弟はギルドに駆け込み、依頼を受けた。
今回の出来事を鑑みても、S級を動かすには煩雑な折衝が必要だった。
加えてヴィロフォルティは冒険者ではない。一応傭兵ギルド所属だが、一度もギルドに顔を出したことがないという。
苦肉の策として、臨時パーティーを組むという事で、規則の穴をついた。
リーダーはカジュ。ニーイはオブザーバーという形で、同行させる事となった。
「本当にニーイ様は対応されないのですか?」
露払いに先導されながら、パーティーは進む。
ミィーノはニーイに問いかけた。
「だから様付けはよしなって。あたしはヴィー以外のお守りだよ。それ以外する気はないね。」
「ニーイさ・・・さん。いくらヴィーが強いからって、大丈夫なの?」
カジュが問うが、ニーイは鼻でわらって答えた。
「あたしの動きに、あたしの技術。それを半年で飲み込んだんだ。あのキグルイ。ミノ公の群れ程度で潰れるほど、柔な鍛え方はしてないよ。」
笑いながら答える。
当のヴィロフォルティはいつもの表情で淡々と歩いている。何も感じていない。いつもの散歩とでもいう風だ。
それ以降は会話もなく、先行の露払いの声だけが響く。
そうして7層目まで来た時、露払いのリーダーはニーイに告げた。
「ここからはモンハウ状態になってると思われます。われわれでは、ここまでです。」
なんとも悔しそうな声だが、ニーイは取り合わない。
「ヴィー!木偶が一杯だとさ!やりたい放題出来るよ!」
「判った。師匠、先行する。10分程度で降りてきてくれ。場所を空けておく。」
「長い!5分で準備しな!」
「判った。やってみる。」
言うなりヴィロフォルティは最下層に飛び込んでゆく。
ニーイは取り残された冒険者達を一喝した。
「そんなに悔しけりゃ、もっと強くなりな!死ぬ気で鍛錬しな!今のお前達は、あたしに言わせりゃ腑抜けと同じさ!悔しけりゃ何でもやりな!何でも使いな!ギルドにはあたしから言っといてやる!何ならあたしが扱いてやる!今から死んでも強くなれ!!」
ダンジョンの空気を揺らすその声は、冒険者達に届いたか。彼らの眼に何かが宿る。
「カジュ、ミィーノ。支度しな。あんたらのやる事は、今から起こる事を全部覚えておく事だよ。あんたらは運がいい。特等席で本物の冒険が見られるんだからね。」
飛び込んだ先は大きい空洞で、その地は亡者地獄さながらだった。
強い者が弱い者を踏み殺し、さらに強者が強者をむさぼる。そうでもしないと立つ事さえままならない。
そんな地獄の先に、広い空間があり、そこに巨大な影があった。
ヴィロフォルティはまず、手近に居た5体を切り殺す。場所が空き、そこを拠点に大剣を振るう。
決死の防衛戦だ。
死なない体、死ねない彼は、戦場でいつもこの役だった。
殺されたミノタウロスは光の粒となり、消えてゆく。召喚されている故だろうが、実に好都合だ。死体の山を気にしなくて済む。
剣を振るえば、光の粒が生まれ、こちらが動かずとも、獲物は押し寄せてくる。
何より体がよく動く!剣が素直にいう事を聞く!
前に進めば獲物の中を駆け回る事が出来、うしろに飛びずざれば瞬く間に間合いが開く。
左を向けば獲物を同時に貫き。右を向けば光の粒子が舞っている。
これが奪う者の感覚。痛みを感じない感覚。
腕を、大剣を振るえば、痛みの元は消えてゆく。動くものは痛みを与えることなく消えてゆく。
彼は思い出した。動くものは皆、痛みを与える。止めなければ。動かなくしなければ。
彼と大剣は、猛火の如く、動くものを消し去っていった。
五分の時を以て、3人は最下層にいた。
そこで見たものは、ニーイでさえ、愕然とさせた。
大剣とそれにまとわりつく小さな影。それがミノタウロスの群れの中を駆け回り、瞬く間に消し去ってゆく。
すでに広場の3分の一が何もない空間になっている。
奥に鎮座するのはハルバードを持ったネームド。その影はいまだ動かない。
「ほー!壮観だねぇ!でも、そろそろ召喚するはずだよ。気を抜くな。」
ニーイが二人に注意を促す。
「ヴィー!次が来るよ!」
そう叫ぶと、ヴィロフォルティは身を翻し、3人の前に立つ。
「よしよし。わかってるね。我を忘れても、ちゃんと判る様になってるね。」
満足げに頷くニーイ。対して二人の顔は蒼白だ。
「俺の獲物だ。手を出せば殺す。」
「だ、そうだよ?よーく見ておきな。キグルイの闘い方を。」
彼は不完全だが、身体強化を唱える。
奥の影が吼えた。
ダンジョンを揺らし、新しいミノタウロスたちが召喚される。その数12。
3人の前に居た人影が掻き消える。探せば、召喚された10のうち4が消え去っており、ネームドに肉薄していた。
群れがヴィロフォルティを襲う。彼は大剣を振るい前に出る。
さらにネームドが吼えた。召喚された数は6。残る数は殺し損ねを含めて47。
そしてついにネームドが動き出す。
彼は狙いをネームド一本に絞る気だ。召喚された獲物に眼もくれず、大剣を突き出す。
ハルバードが振り下ろされ、激しい金属音が鳴り響く。その間に、彼の体には何本かの槍が刺さっていた。
すばやくネームドの横に回りこみ、さらに突く。
横殴りのハルバードが召喚した同族を消し去っていく。
剣が届ないと見るや、彼は少しだけ後ろに下がる。その前を鉄塊が通り過ぎた。
その隙に召喚ミノタウロスの群れの中に飛び込む。ネームドは追撃する。
彼の大剣とネームドのハルバードで瞬く間に数を減らす。
残り数匹になったところで、彼は動いた。大剣を上段に構え、一刀に伏す。
ネームドはハルバードで防ごうとするが、剣はそれを叩き切った。
瞬時に獲物を捨て、後ろに下がるネームド。それを追いかける小さな影と大剣。
前蹴りが影を襲う。パン!という破裂音とともに、足が切り飛ばされ、ネームドが悲鳴を上げた。
続いて同じ音が鳴り響き、もう片方の足が切り飛ばされ、体が落ちた。
三度破裂音がし、地面を抉る音と共に、ネームドの首が飛ぶ。
重い音が1度。何かが落ちた濡れた音が1度。
ネームド”アスペレオ”は血の海に沈んだ。
取り残しの召喚されたミノタウロスが消え、ネームドが居た台座に宝箱が現れる。
静かに残心をとったヴィロフォルティは、大剣を背に担ぐと、不思議そうにそれを見た。
「師匠?なんか出て来た。」
ニーイは呆然としていたが、その声を聞き、相貌を崩し笑い出す。
「ダンジョンクリアの褒美だよ!貰っときな!」
宝箱をけりながら、彼は言う。
「いらない。」
ニーイの笑い声は、さらに増すのだった。
ダンジョン最奥に、冒険者達と、ギルド職員が慌ただしく作業と検分をしている。
その隅で、ヴィロフォルティは正座をしていた。
「さて、ヴィー。なんで正座させられてるか、解るかい?」
腕組みをして、笑ってはいるものの威圧感丸出しでニーイが問う。
「4発食らったから・・・。」
「そうだよ!しかもあんな雑魚に三手も使いやがって!!あたしの顔を潰す気かい!?」
「・・・ごめんなさい、師匠。」
「まったく!遊びすぎだ!今日のは60点だ!死合いはお預けだよ!!」
その言葉に、カジュとミィーノ、冒険者達はぎょっとする。ヴィロフォルティは情けない顔でニーイを見上げている。
「ニーイさ・・・さん?・・・雑魚って・・・・・・。」
「遊び過ぎって・・・槍が刺さってたのに・・・・・・。」
二人の声にニーイは言う。
「ヴィー!説明!」
「師匠に言われた。上位種はあんなものじゃないって。だから雑魚。それから、2手以下で沈めろって。出来たら死合ってやるって・・・。それから遊びすぎって言うのは、あんなに体と剣が自由になったのは、初めてだったんだ。浮かれすぎた。」
「そういう事だよ。」
だが、カジュは食い下がった。
「あんた槍が刺さってたじゃん!なんでピンピンしてんのよ!?」
それをニーイが遮る。
「詮索は、ご法度。だよ。」
その言葉で、それ以上何も聴けなくなった。
「さあ!ひよっこ共!!さっさと終わらせちまいな!今日はヴィーの奢りで宴会だよ!!明日はあたしが扱いてやるから覚悟しな!!」
歓声半分、悲鳴半分の声が上がる。
笑顔のまま、ニーイはヴィロフォルティに問う。
「・・・・・・お前、『声』を聞いたな?」
「・・・多分。」
「判った。あさってまで休みだ。話はその後聞くよ。さあ、帰るよ!」
そう言って、ニーイは二人を引き連れ、最下層を後にした。
遅れて立ち上がったヴィロフォルティは、剣の柄をさすり、少しうれしげに笑って、後を追った。
「御館様。ヴィロフォルティ様の絵姿が出来ましたよ。」
「早く見せなさい!」
「こちらでございます。」
「っきゃあああああ!!尊い!!尊いわぁ!!この絵師は誰!!ここに呼びなさい!!褒美を取らせるわ!!」
「王都で燻っていた、名も無き絵師に御座います。すでに十分な額と地位を与えておりますので、呼び出しは不要です。」
「見なさい!この猛々しさ!!勇ましさ!!すばらしいわ!」
「・・・・・・私には、愛らしい少年と魔物との冒険譚のように見えます。」
「アローズィ、お前、ヴィーの尊さが解るまで拷問な。」
「出来ましたら、鞭打ちでお願いします。」
読者の皆様神様仏様。
私です。
ヴィーの活躍は如何でしょうか?
散文悪文の類で大変かとはおもいますが、楽しんで書きました。
それが伝われば、幸いです。




