まだなの?まだなの?
親方と女ドワーフの声は、綺麗にハモった。
お互い顔を見やり、なんとなく気まずい顔をする。
「仲がいいんだな。」
ヴィロフォルティは言う。
「「どこが!?」」
再びハモる。そしてお互い胸倉を掴んだ。
「子供の前でいがみ合うのは、良くない。」
「誰が子供だよ!?」
「俺だ。」
「・・・・・・そういやそうだな・・・。まだガキだったな。」
二人は毒気を抜かれたようで、落ち着いた。
女ドワーフはナイフを親方に渡すと、親方も検分を始めた。
「・・・何切って来た?」
親方がヴィロフォルティを睨みつける。短い付き合いだが、その眼をした親方は怒っているのではなく、本当に原因を知りたいだけだと、彼は気付いていた。
「オーガだ。アレだけはナイフが必要だった。有難う。助かったよ。」
眼をむいて、さらに詳しくナイフを調べる親方を他所に、女ドワーフは興味を示した。
「よく死ななかったね。って、あんたは死なないのか。」
「10回はやられた。まだ俺は弱すぎる。」
「何匹?」
「覚えてない。15を過ぎた辺りから、面倒くさくなったんだ。」
「得物は?」
「それと、これだ。」
ナイフを指差し、左手を見せる。
それに呆れた女ドワーフは盛大に溜め息をついた。
「まったく、とんだ化け物だよ。手を抜いていたとは言え、殺す気のあたしを3合も凌いだんだ。納得だよ。」
「S級って言うのか?凄いな。全部後手に廻るしかなかった。手も足もでなかった。また死合ってくれ。」
そう言う彼の眼を見て、彼女は言った。
「死合うだけでいいのかい?」
ヴィロフォルティは眼を見開き、期待した声で言う。
「弟子にしてくれないか!?」
「あんたの得物はあの大剣とその手足だろ?あたしとはスタイルが違いすぎる。が、それでもいいなら、徹底的に仕込んでやるよ。」
「それでいい。ついでに死合ってくれ。後1年であんたを瞬殺できないと帰れないんだ。」
ぽかんと口を開け、何か言おうとする親方。
同じく口を開け、呆れた顔をしていた女ドワーフは暫らくすると盛大に笑い出した。
「さすが『キグルイのヴィー』だ!面白い!あたしを瞬殺出来るくらい、しごいてやるよ!!全うな生活が出来ると思うなよ!!」
「それでいい。今までと同じだ。全うな生活なんて、忘れた。」
「おい馬鹿旦那!!あの大剣と同じものを用意しな!!鈍らでもなんでもいい。同じモンだ!!」
「そりゃ鋼とアダマンタイトを使った試作があるが、それでもいいのか?」
「大きさと重さが同じなら、何でもいいのさ!!このキグルイを徹底的に仕込んでやる!!あの馬鹿弟子を超えさせる!!」
「ここまで盛大な啖呵切らせといて、答えなきゃ女が廃るわ!!キグルイ!!お前は旦那と一緒に暮らしな!!あたしは野暮用を片付けてくる!!3日で戻る!!」
そう言うなり、彼女はバトルアックスを引っつかみ、背負い、工房の入り口まで駆け出す。
そうして表に出た瞬間、彼女の体が光ったようにヴィロフォルティには見え、そして一瞬でその姿が消えた。
「いま、あの人の体光ってなかったか?」
「ああ、多分身体強化を使ったんだろ。完璧な身のこなしにあれだ。ニーイはそれでS級に上り詰めたんだ。」
「師匠の名前か?」
「そうだ。戦闘狂の部分が無ければ、本当にいい女なんだ・・・。」
その言葉は、本当に、本当に残念そうだった。
ヴィロフォルティは工房の隅に寝床を構えた。
最初、母屋の部屋を提示されたが、彼には必要が無かったのだ。荷物はないし、そもそもこの体は、さして睡眠を必要としていない。ただ習慣として眠っているだけなのだ。
そんな彼は今、夢の中で正座していた。
「まだなのぉ?」
「まだ一年たってないよ・・・。」
「まだなのぉ?」
「やっとS級冒険者に会えたんだよ?もう少し待って。」
「まだなのぉ?」
「・・・・・・。ごめんなさい・・・。」
「まだなのぉ?」
「フィニス?怒ってる?」
「・・・・・・尊い・・・・・・。」
「何が尊いの?」
「・・・・・・なんでもないのよ?なんでも。でもヴィーの右足を切りつけらるなんて、本物の様ね。」
「ごめんね・・・僕がまだ弱いから、傷をつけちゃった・・・。」
「っーーーーーーーーーーーー!!!もうヴィーったら、気にしなくていいのよ!!」
「怒ってるの?喜んでるの?」
「あ゛ー尊死しそう・・・・・・。そうね。喜んでるわ!あなたはちゃんと成長してるわ!」
「そうなのかな・・・。何回も死んじゃうし、僕って弱いままなんじゃないのかな!?」
「そうねぇ・・・人の子の事は良く判らないわねぇ・・・。でも、素手でオーガを倒す人の子は聞いた事は無いわ。さすがヴィーね!。」
「そうなのかな?」
「少なくとも、今のヴィーはオーガ風情は秒殺でしょ?」
「3匹くらいなら、何とか・・・・・・。」
「いま貴方は成長期なんだから、これからもっと強くなれるわ。それにS級ってのも師匠に出来たんでしょ?死ぬ気で頑張りなさい。」
「死ねないけどね。」
「・・・やっと硬さが取れてきたわね。ヴィーが冗談言うなんて、初めてよ?」
「だってフィニスは大恩人だし、失礼な事出来ないし、フィニスに喜んで欲しいし・・・・・・。」
「んもう!んもう!んもう!どこまで可愛いのこの子は!!」
「フィニス!?」
「いいのよ!ヴィー!あなたになら何されても赦すわ!ただし、もっと強くなりなさい!」
「うん!強くなって、帰ってくるよ!」
「愉しみにしてるわ!そろそろ起きなさい。あたしのヴィー。」
「うん。じゃあ、またね。」
「・・・・・・・。戻ったようね・・・。アローズィ、聞こえて?」
「・・・・・・。お久しぶりです。御館様。100年ぶりでしょうか?」
「暫らくしたら、そっちにいくわ。準備なさい。あと、ニーイとか言うS級冒険者と勇者の事も調べておきなさい。」
「かしこまりました御館様。ちなみに今回も本命ですか?」
「そうなの!凄くいい子なの!きっといい旦那様になるわ!」
「・・・・・・。そう言って何回不貞寝されましたか?アローズィは寂しいのです。」
「あたしにそっちの趣味は無いわ。それに今回は本物よ!!絶対よ!!」
「その言葉を聞くのは52回目です。いい加減、諦めましょう?私となら永遠に愛し合えますのに・・・。」
「嫌よ!!第一子作りできないじゃない!!」
「そっちですか・・・。いつでもお帰りください、御館様。一同お待ち申し上げております。」
「頼んだわよ。」
「承知いたしました。」
「一年なんて言ったけど、もう辛抱たまんないわ!会いに行くから待っててねヴィー!」
「・・・・・・。何か新しい趣味に目覚めたのですか?御館様。」
親方を手伝いながら、3日を待った。約束どおり、ニーイは帰ってきた。
「馬鹿亭主!剣はあるかい!?」
ずかずかと工房に入ってくるその顔はほんのり上気していた。
「開口一発がそれかよ!ちゃんと持たせてあるわい!!」
「ならキグルイ「ヴィロフォルティだ。」・・・面倒だね!ヴィー!、朝までその剣を振って慣れときな!あたしは寝るよ!」
得物を放り投げ、装備を解いてゆく。弟子達が大慌てでそれらを預かっていく。
ドワーフ特有の小柄な体に、不釣合いな胸が盛大に揺れる。汗でうっすら透けて見えるインナーに、一部の弟子達が視線をそらす。
「おい!どんな虐待だよ!」
「判った。振るだけでいいのか?」
親方は叫ぶが、ヴィロフォルティはさらりと言った。S級の指導だ。何か特別な事でもあるのだろう。
「どうせ剣の型なんて知らないだろ!好きにやりな!ダメ亭主!寝床はどこだい!?」
「あーもう!そう言う奴だよお前はよ!」
「あんたも一緒に寝るんだよ!」
「ばっか!?何言ってんだテメェ!?」
「亭主の務めを果たしな!!」
親方の耳を引っ張り、楽しげに母屋に向かうニーイ。
顔を真っ赤にして連れて行かれる親方はヴィロフォルティに言う。
「おい!?ひっぱんな!?ヴィー!剣を振るなら森に行け!ここで振るんじゃねぇ!!」
その声を最後に、二人は母屋に消えてゆく。呆気に取られる弟子達。
「・・・・・・。いつもああなのか?」
弟子達はそろって頷いた。そしていつも通り、作業を始めた。
ヴィロフォルティは剣を担ぐと、森に歩いていった。
四半時も歩けば、森のそこそこ深い場所までこれる。
そこで適当な大きさの木を見つけると、それに向かって大剣を振るった。
「御館様?御館様?そのお姿は一体?私、今にも襲い掛かりそうです。」
長い耳に白い肌、金色の瞳のハイエルフ。ポニーテイルに結んだ長髪で執事服の麗人は、その姿をひと目見て、息を荒げた。
「嫌よ!どお?これならどんなヒトのオスもイチコロよね!」
黒髪で長髪。肌は褐色だがその色艶は赤子のようだ。背丈は高く、ヒトの大人より少し大きい。
片手では持ちきれないほど豊かな胸。そのくせ極限まで絞り込まれた腰。男なら誰しもが情欲をぶつけたがる臀部。
無駄な脂肪や体毛など、一切無い黄金比。
細面で切れ長の目が、麗人に向かって得意げに微笑む。
「私のほうがイチコロでございます。ささ、あちらにベッドのご用意が。お前達、御館様のお姿に相応しいお召し物を。」
「服なんていいわ!出かけるときに着るから!それよりも頼んでいたものは?」
ほっそりとした腰に両手を当て、胸を得意げに突き出し問う。
麗人の後ろに控えていたメイド達を腕で下がるよう命じ、麗人の言葉を待つ。
「なんてつれない・・・そこが良いのですが・・・。では、執務室にお越しください。資料をご用意いたしております。そこで詳しく報告させて頂きます。」
「頼んだわよ。」
そう言うと、その見事な脚線美で歩き出す。その後ろを麗人が恭しくつき従う。
光溢れる永い廊下を歩き、二人は言葉を交わす。
「微に入り細に入り、隅々まで、ご報告させて頂きます。」
「変なことしたら殺すわよ?」
「・・・・・・重々、承知しております。」
「ホントかしら?まあいいわ!じっくり堪能なさい。」
「そう言う御館様だからこそ、愛しているのです。こちらへ。」
執務室の前まで来ると、その重厚な扉がひとりでに開き、二人はそこに入っていった。
読者の皆様神様仏様。
私です。
暫らく3~4日ほど毎日更新します。
よろしくお付き合いください。




