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運命の出会い?出会い?

 とある山脈。

峰には雪が降り積もり、山頂は険しい岩肌が露出している。

黒々とした威容を誇るそこは、人を寄せ付けない。

ときおり無謀なる者達が、そこに()()を求めにやってくる。

個で来る者、仲間とともに来る者、大規模な群れをなし来る者。

その何れも、その山から戻ることはなかった。

故にそこは”還らずの山”と呼ばれ、幾久しく人影がそこに現れる事がなかった。

なかったのだが。


「もう少し・・・・・・。もう少し・・・・・・。」


 岩肌を小さな背嚢を負った少年が登っている。登れなくはないが、急すぎる斜面を一人登っている。

右手にナイフを持ち、毛皮で覆い寒さを凌ごうとしている。

左手は肘から先がなく、木の枝が括りつけられている。

足はその右側が太股より欠損しており、これもまた、粗末な木が括られている。

体中に小さな獣の皮を巻き、僅かでも寒さを凌ごうとする意思が見える。

しかし、そんな状態では、大人ですら山を登ることはできない。

出来ないはずだが、少年は這いずりながら、山頂を目指している。

耳は、鼻は、黒ずみ、壊死しかかっているのがはっきりと判るが、彼は気にしていない。

感覚はとうに失われているのだろうが、彼はそうとは思えないほどしっかりと動き、這い上がる。

風と寒さを受け、細く狭まれた目からは、子供とは思えない眼光を見ることが出来る。


狂気。


 そういえる光が、その眼にはあった。

少年は芋虫がごとく這いずり、山頂を目指す。

正確にはその近くにある、洞窟を目指して。




 そこには無数無限の屍が積み上がっていた。鎧を着込む者がほとんどだが、いくつかはローブを纏い、溶かされ、焼け焦げ、裂かれ、割られ、噛み砕かれ、凍り付いていた。

巨大な洞窟。

洞窟というには、綺麗に穿たれ、何者かの手による物と判る。

まるでそこを塞がんとするかの如く、氷柱は至る所に垂れ、壁となり、積み上がる屍の奥、洞窟の最奥にそれが居た。

それは動かず、否、僅かに、微かにその巨大な体躯を上下させていた。

その氷と屍の上を何かが音を立て、這いずっている。

その音を聞いたそれは、薄目を開けた。

這いずるものは氷と屍を乗り越え、それの前に近づこうとしていた。


[・・・・・・虫がおる・・・・・・。]


それは声を上げた。そうする必要はなかったが、気まぐれに声を上げた。


[はて、白い芋虫とは面妖な・・・。ここにそのような虫など住まぬのに・・・。]


その声に、何かは反応した。立ち上がろうとするが、何かが砕け、バランスを崩して倒れこむ。

そうしてまた、這い寄よろうとした。


[止まれ。不快なもの。]


その声は聞こえないのか、はたまたその意思が無いのか、尚も近づく。


[聞こえはせぬか?やはり虫の類か・・・・・・。屍など焼払うべきだったかのう。]


そう呟いたとき、這い寄る何かから声がした。


「・・・・・・て・・・。」


それは何も言わない。ただ見るだけ。


「・・・・・・ろして・・・。」


何かは声を上げていた。


「・・・・・・ころして・・・・・・!」


殺せ。何かはそう言っていた。


[芋虫が人の言葉を語りおる。長生きはしてみるものだの。]


そういうと、それはただ一息、何かに吹きかけた。

何かは吹き飛ばされ、氷柱にぶち当たり、動かなくなった。

それはしばらく何かを見つめていたが、やがて眼を閉じた。



 それが目を開けたとき、何かはその鼻先に居た。

白く雪と氷に塗れたそれは、歪ではあるものの、人、だった。


[ここまで近づかれたのは、何百年ぶりかのう]


「起きた・・・。俺を殺して・・・・・・。」


[何故我がそのような手間をかけねばならん。死にたいなら、谷に落ちればよい。]


「もう何度もやった・・・死ねないんだ・・・・・。」


[虫なら、虫らしく獣に喰われればよい。]


「やつらじゃ、俺を殺せなかった・・・。」


[なんじゃ。毒虫の類か。ここより去ね。不愉快じゃ。]


「俺を殺せるのは、もう、あんたしかいないんだ。」


[・・・・・・まこと不快な。殺すにも消し飛ばすにも、虫の望むままとは、なんとも業腹な。]


「聞いてくれ」


[失せよ]


 それは首をもたげ、前足で何かを打つ。

何かは払い飛ばされ、屍を巻き込み、洞窟より放り出された。

それは再び、眠りについた。


「お゛き゛て゛く゛れ゛。」


はっきりとした声に、それは目覚めた。薄目を開け、声の主を見やる。

そこにはいつかの芋虫が、否、少年が居た。

右手左足の木切れは無く、衣類は剥がれ落ち、体中黒ずんでいるが、生きていた。


[しつこい毒虫じゃ。これじゃから虫は好かぬ。]


「こ゛れ゛を゛み゛て゛く゛れ゛」


そう言い、投げ出されたのは珠だった。虹色に光るそれは、高価というより、高貴な印象を与える光を放っていた。


[宝珠を放り出すとは良い度胸じゃ。褒美に踏み潰してくれよう。]


起き上がり、ツララをまき落としながら、その前足を上げる。


「も゛う゛も゛の゛が゛も゛て゛な゛い゛ん゛た゛」


左手にあった木の枝は失せ、右手は指先が腐り落ちていた。

両手らしきものを前に差し出し、彼は言う。


「こ゛れ゛で゛お゛れ゛を゛こ゛ろ゛し゛て゛く゛れ゛」


[ああ!まこと不快な!声もまた聞き苦しい!!まこと忌々しい虫じゃ!!]


そう叫ぶや否や、彼の首に光が纏いつく。


「まって・・・・・・声が戻った・・・?」


[宝珠は神域の物じゃな?話だけは聞いてやらん事もない。]


「ありがとう。」


[虫と盗人の分際で、殊勝なことだ。]


「母さんが言ってた。何か受けたら日の言葉を使いなさいって。」


[・・・・・・人にしては良い事を言う。]


「宝珠は神殿から盗んだ。妹が死にそうだったからお金が入ったんだ。捕まって左手と右足は切り落とされた。」


[普通は右手じゃがな。]「左利きだったんだ。」[で、あろうな。]


「その時に神様から声がしたんだ。死にたくても死ねなくしてやろうって。」


[なるほどの。神罰か。]


「わかんない。でも、何されても死ねないんだ。妹も死んじゃったし、もう、生きたくない。」


子供とは思えぬ声で彼はそう答えた。


[親はどうした?先ほどの言でも判るが、良い親だったのだろう?]


「野盗に殺された。みんな死んだ。僕と妹は、父さんと母さんの体の影で、見つからなかったんだ。」


[運が良いのか悪いのか。まあ、不憫よの。]


欠片もそう思わせぬ声音で言う。

彼はそれに何の反応も示す事はなかった。


「それで、俺を殺してくれないか?」


[この宝珠は主神の物じゃな。形は小さいが、加護が宿っておる。対価としては、まあよかろう。]


「じゃあ」[そんな気はさらさら無い。]


それは気のない声でそう言うと、体を横たえた。


[そもそも欲しい者必要な者が居てこその取引というもの。我には不要じゃ。奥を見よ。]


そう言い、首を向けた先には、氷に閉ざされてはいるが、目も眩む宝石や巨大な珠が無数に乱雑にそこにあった。


[そう言う訳じゃ。とこぞで100年も風雨に曝されれば死ねるだろうよ。去ね]


そう言い捨てると、それはまぶたを瞑った。


「・・・・・・邪龍なら殺せるって聞いてきたんだ・・・。」


彼はそう言うと、洞窟の壁際まで這いずり、身を横たえる。


[・・・目障りじゃ。]


「・・・・・・体中凍って、もう動けない。」


そういって何とか守っていた背嚢を抱き、眼を瞑る。

そんな彼を、邪龍と呼ばれたそれはちらと見て、顔を背け眼を瞑る。

冷気は風を巻き、洞窟はしんしんと冷え込んでゆく。

時折雪が舞い込み、彼と邪龍に舞い落ちる。

それが目に見える形を成した頃、邪流は吼えた。


[ああもう!なんとも忌々しい虫じゃ!!目障りこの上ない!!]


そう言うなり口を開け、彼に白光の灼熱のブレスを与えた。

周りの氷は瞬時に蒸発し、それだけでなく、洞窟に横穴を穿ち、光は虚空に消えていった。


[ああ!なんとも忌々しい!虫の思惑に乗るなぞ腸が煮えくり返るわ!!]


「なあ。」


[なんじゃ!]


「やっぱり死ねないや」


そう言うのは背嚢を投げ出した手から再生を始めている少年の頭だった。

邪龍の目は見開かれ、彼らしき物をその指で器用に突く。


[なにこれ?]


「体のどこかさえあれば、生き返るんだ。左手と右足はダメだけど。」


すでに胴体の半分まで再生されてる彼を、龍は突きまわした。


「火櫓と油で燃やしてみたけど、体が焦げるばかりで、意味無かった。」


[これすごくない?]


突かれてころころ転がる彼の手足は、元の欠損以外は元に戻っていた。


「こんなだから、細切れとかでもダメなんだ。だから龍のブレスで消し去るしかないって、旅の騎士様が・・・」


[あれー、いや、これすごくない?これよくない?あたしのブレスで消しても、腕一本で全体再生って、あれー?これ良くない?]


なにやら一人の世界に浸る邪龍。少年は溜め息とともに、背嚢を胸に抱き、呟いた。


「もう少しでいけそうだったのになぁ・・・」


[何言ってんのよ。ちょっとあんた、あたしに協力なさい。]


突然雰囲気から言い方から何から豹変した邪龍に、彼は困惑するでもなく、その顔を見つめた。


それはただの反射反応だったが、邪龍は気にしない。


[あんた気に入ったから、あたしの物になりなさい。]


「それで俺を殺してくれるの?」


[そんな勿体無いことするわけないじゃない!!]


「・・・・・・意味わかんない・・・けど、もう行くところも当ても無くなったし、いいよ・・・」

投げやりでもなく、ただ淡々と話す少年に、邪龍は歓喜の声を上げた。


[よっしゃぁ!未来の旦那様候補ゲットー!!]


はしゃぐ邪龍。洞窟は落ちるツララの破片で埋め尽くされる。

その何本かが彼に刺さりながらも、かれは背嚢に言った。


「ニーナ。まだそっちに逝けないみたいだ・・・。」

みきりはっしゃでごー

不定期更新です。

物語はハッピーエンドがいちばんですよね

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