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ブラック企業もマシかもしれない

作者: 朝倉神社

 気がつくと私はちょんまげを結った武士と江戸の街並みを歩いていた。武士に促されるまま呑み屋に入る。彼の常連のお店らしい。しかし、まだまだ空の高いこんな時間からお酒を飲んでいいのだろうかと不思議に思う。


「拙者の仕事はもう終わりでござる」

「まだ明るいのに」

「しかしのぉ日に1刻半くらいしか仕事がないのだ。それも三日働けば二日は休み」

「ほとんど休みじゃないですか。私なんて休みなんてほとんどないし、日が暮れる前に帰ったことなんて一度もないですよ。うらやましい」


 私の会社はブラック企業であった。朝は9時からだが帰りは午前様なんてのもよくある話。土曜日だって出勤が多い。労働基準法何それおいしいの?である。


「うらやましいのはこっちでござる。それだけ重宝されておるのなら禄も十分なのだろう」

 

 禄、ああ給料のことかと思い出す。変わった夢だ。何だって江戸時代の武士と労働環境を語らう夢を見るのやら。


「ぎりぎり生活できるくらいですよ」

「それがうらやましいというものよ。拙者のような下級武士では糊口をしのぐままならんよ」

「じゃあどうやって生活を」

「恥ずかしい話、内職よ。寺子屋で教えるほどの知恵もなければ武芸に秀でておるわけでもない。拙者にできるのはつまらん傘張りくらいのもんさ。今日もこれから傘を張らねばならんかと思うと情けなくてな。飲まずにはやっておれん」

 どうやら武士も大変なようだ。そういう意味じゃあ副業がなくても生活できるだけでもマシなのだろうか。



「おっと、それからこのことはここだけの話で頼むな」

「内職のことですか」

「ああ、上司に知れた日にゃ腹を切らされるわ」

「は?」


 内職がバレたら切腹? いやいや、日本も副業禁止の会社は多いけど、腹を切られる心配はない。まあ、クビを切られることはあるかもしれないが。


「拙者ら武士は商売は禁止だからのぉ。だからこっそり内職なのよ。禁止するくらいなら十分な禄をよこせというもんじゃ」


 給料が安いうえにまともなバイトもできないとかきつすぎるな。仕事はきついけど、衣食住は充実している。たまに美味い飯を食べに行く余裕もあるし、貯金だってできている。

 下級武士と飲みながら話していたのだが、いつの間にか駅のホームにいて電車が目の前に到着していた。うっかり寝ていたらしい。

 これ逃したらタクシーだと慌てて乗り込んだ。閉まった扉に背中を預けてふと思う。

 私は恵まれてるのかな。 

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