英霊契約2
「じゃあこっちへきて。え!?ちょ…ちょっと!あなた達静かになさい!」
エクサレムは手の甲を払うようにシッシとする。それに促されるように通路として使われていた玉女が端の方へ移動した。
「ちぇ。チャンスと思ったのになー!ケチんぼー!年増ー!あばすれー!アンポンタン!貧乳!バーカ!バーカ!バーカ!」
玉女は頬を膨らましエクサレムに抗議する。しかしその様子はエクサレムに届いていないようで当の本人は気にしてない様子だった。
「じゃあイース君。ここから中に入ってちょうだい。」
「はい!わかりました!」
僕は先生に促されるままに玉女の横を通り中央へ向かった。
──ニシシシシ!えーい!
僕が玉女の脇を通り抜ける瞬間。体目掛けて玉女が飛び込んできた。
「わっ!びっくりしたー!」
「えっ!?イース君?も、もしかして……それ見えてるの?」
「えっ…。あっはい。見えてますよ?皆は見えてないんですか?」
「普通見えないから!あー。こりゃやっちゃったパターンかー。イース君。彼女……玉女と契約することになるけどいい?」
「「「「「「「「ダメ!」」」」」」」」
他の英霊全員でダメだししてきた。
どうやらダメらしい。なんでダメなんだろう?そしてそれぞれの文字が書いてある場所からはみ出し玉女の場所に集まってしまった。
「ちょちょちょ!こらこらこらこら~!英霊達?ちゃんと持ち場に戻りなさい!」
「やだね!」「やなこった!」「俺様に命令するな!」「いーだ!」「……(無視)」「拒否」「ふんっ!知らない!」「人間風情が生意気な!」
口々に文句を言う。矢張りエクサレムには声は届いてないみたいでただ混乱していた。
「エクサレム先生はこの子達見えてるんですよね?」
「へ?この子達?私が見えるのは色つきの煙のような物よ?えっと……も、もしかしてだけど……イース君は英霊達の姿が見えてるの?」
「はい。僕の足にガシッとつかまってカサカサ上がってきてる玉女も見えてます。」
玉女は気づかれてないと思っていたのかそう言うとビクッとなって止まった。
「も、もしかして…声も聞こえてるの?」
僕はこくりと頷いた。するとエクサレム先生は呆れたように溜息を吐きこう言った。
「そ、そうなの?……。じゃあちょっと英霊達に話してくれない?このままじゃ英霊契約出来ないの。中央の契約の場じゃないとね。ちゃんと元の場所へ戻ってってお願い出来る?」
「だそうなんですが……一旦戻って貰えますか?」
「君がそう言うなら……」「貴様の願いとあらば……」と口々に文句を言いながらも渋々元来の場所に戻って行った。
「玉女さんもね?」
「ちぇっ。仕方ないか……。」
これで全員元の位置に移動した。
「エクサレム先生。これでいいですか?」
「う、うん。戻ったのね?じゃあ中央へ。」
僕は円の中央に向かって歩く。先程までの様に玉女が飛びかかってくることはなかったが全員の注目が僕に注がれていることは確かだった。
「では始めましょう。イース君は英霊達が見えるのよね?それに……代獣も生まれている……と。なら話は早いわね。代獣はどの英霊を勧めてるの?」
「朱雀です。」
「じゃあ朱雀に決定でいいのかしら?」
「「「「「「「ちょっと待ったーーーー!」」」」」」」
また振り出しのようだ。英霊のマスコット達はまた僕の傍に寄ってきてざわつき始めた。
「もぅ!せっかく契約の儀を進めようと思ったのにぃ!!」エクサレムが金切り声で叫ぶ。
「では勝手に進めさせてもらうぞ?我からで良いか?」
青龍のコダがそう言うと間髪を入れず僕の背中へと飛び込んできた。
「う、うわぁ──!」背中に焼けるような衝撃が走った。しかしそれは一瞬の出来事で、次の瞬間にはその痛みすら忘れていた。
「じゃあ次は僕だねー!」
そう玄武が言うとまたまた背中に焼けるような衝撃が走った。それから先はもう覚えていない。ただ合計9回の痛みに耐えた。それだけが僕の記憶に刻まれた。
「なっ!何!?なんで?なんで……。」
エクサレムは頭を抱えパニクっていた。
「英霊の契約が複数行われてる?ありえない……ありえない!なんで?なんでなのよー!」
最後に飛び込んできた朱雀を最後に僕の制服はボワッと焼け上半身が裸になってしまった。
「きゃ!」っと僕は女子のような声を上げてしまう。
しかしそんな僕のボケに誰もツッコミを入れること無く周囲はざわつき始める。
この無能クラスでは魔力量や魔力器官に問題がある生徒が多い。それ故に英霊契約をもってそれを補うのだが、通常英霊と契約すると契約した英霊の守護文字が体のどこかに痣として刻まれる。その痣が出る場所は様々で大きさによってその英霊がどのくらいの力を貸してくれるかが分かるのだが……。
イースの痣は異常であった。
背中の中央から少し上。肩甲骨に沿って不死霊鳥フェルムの緋色の翼が大きく描かれ、その周りには太陽のプロミネンスを彷彿とさせる様に9つの文字の痣が放射状に描かれていたのだ。もし日本人がイースの背中を見たならば温泉に入れなくなるアレに酷似していた。
「イース君……何者なの?」
僕は無能クラスの全員から化物認定されてしまったのだった。