英霊契約1
僕らの教室はと言うと森の中の更に奥。中央部に存在した。そこには1軒の掘っ建て小屋があった。
「え……ここが僕らの教室?」「クケケケケここがアタイたちの根城?」「はぁはぁはぁ……」「ブツブツブツブツ……」「シュッピーン!ここはアカンわ。アカンよ!アカン!アカンてば!あははははは!」
まるで廃墟のような出で立ちのその建物に5人は口々に愚痴る。
「まぁまぁこんな所で止まっても仕方ありません。中へ入りましょう。」
エクサレムがそう促すと僕たちは中へと入っていった。
教室を開けてみると中には9つの区画に別れる様に線が引かれ枠の中には青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女と言う文字が書かれていた。
「さぁ。あなた達がここへ来たのは無能と言う烙印を押されたからであることは分かっているでしょう。ですが私は無能者を育てるつもりは毛頭ありません。しかし落胆することはありません。ここではあなた達に力を貸してくれる英霊達と契約する事が出来るのです。さぁあなた達の赴くままに選択してみるのです。」
「主様。我は朱雀がオススメですぞ!朱雀ならば我の力を存分に発揮出来ますぞ!」
──フェルムは朱雀がいいと推してきた。しかし僕にはこの文字達が文字に見えていなかった。
10cm程の短く青い蛇のような青龍。まん丸の毛玉の様な白虎。そして朱雀はと言うと真っ赤な手乗り文鳥でこちらをギリギリと睨んでいた。宝石を背中に生やした小亀の玄武。金剛力士のフィギュアっぽい勾陳。始皇帝の人形風の帝台。中国文官風な文王。阿修羅像の様な3面の顔を持つ三台。そして白銀の美しいケモ耳が特徴の玉女。
その9種9様な小さい玩具の様なマスコットが僕に向かって手招きしている。しかも念話で僕の頭に直接話しかけてくるのだ。
──我は青龍コダ。貴様は我に忠誠を誓え!──
──ねぇねぇねぇ。僕を選んでよ。僕は白虎のハク。フワッフワで気持ちいーよー?──
──ちっ!き、貴様が連れているのは……不死霊鳥か……。不敬なり!不敬なり!不敬なり!直ぐに捨てて俺様の子分になりやがれ!──
──アチシは玉女のタマヨ。タマちゃんって呼んでね?チュッ!──
玉女は僕に目配せするとウィンクして投げキッスを飛ばしてきた。
な、何がどうなっているのか……。そして他の4人にはこの声は聞こえているのか?僕は気になって卵の上に乗っている青髪の少年に声をかけた。この中で唯一まともそうな人物だったからだ。
「ねぇ。君はどの子にするか決めた?」
「はぁはぁはぁ……。ど、どの子?な、な、な、なんの事?ま、まぁ僕は安直だけど、こ、こ、こ、この青い髪から青龍って文字を選ぼうと、お、お、思ってるけど…。はぁはぁ……。」
はぁはぁと息切れと吃りが凄い。でもこの中だとまだまともそうな方なのだ。あとの人はブツブツ言ってたりちょっと飛んじゃってる感じなんだよな。
「じゃああなた。名前は?」
「クケケケケ……アタイはクアナだっちょ。」
「……クアナさんね。分かったわ。ではクアナ。ここを通ってあの中心部に入りなさい。代獣の卵は持ったままで結構よ。ただし絶対に他のところには足を踏み入れ無いように!」
手で卵をコロコロと転がしていたクアナは胸に卵を抱くと示された中心部へ向かった。彼女が中に立つと9種のマスコット達が彼女を見定めている様だった。そして8種類のマスコットはぷいっとそっぽを向いたが唯一文王が彼女から目を逸らさなかった。
「ふぅん……。意外ね。あなたはどの文字が気になったかしら?」
エクサレムがブツブツと感想を言ったあとクアナに更に問うた。
「んー白虎か文王だっちょ!」
ほぅほぅ。文王も満更では無い様子。しかし白虎は区画の隅に行く程の拒絶している。何か可哀想になるほどだ。
「……で?あなたが選ぶのはどっち?」
「んー…。んー…。白虎!!!」
文王があちゃーと言う顔をして僕を見やる。いやいや。僕を見られても。そして白虎はふるふると拒絶。あれでは契約出来ないだろうな。
「クアナさん残念ね。今回は契約ならずよ。」
「クケケケケ。まぁいいだっちょ!」
クアナ切り替えはえぇな。
「さ、次の人…。じゃあなたね。名前は?」
青髪の少年だ。
「セ、セ、セロイス。」
「はい。セロイス君ね。ではセロイス。中央へ進みなさい。」
エクサレムがセロイス君を中央へ誘う。しかし彼はエクサレムが示した通路以外の場所に足を踏み入れてしまう。
「あ!そこはダメよ!」
時すでに遅し。セロイスは朱雀の文字を踏んでしまった。
刹那──セロイスの足は弾け飛び血飛沫が上がる。
「ぎゃーーーーー!い、い、痛い!痛い!はぁはぁ……」
セロイスは足が弾け飛んだ拍子に9つの区画の中から吹っ飛んだ。辺りは血の海と化している。
「もぅ……。私の言うことを聞かないからそんな事になるのよ。ほら!足をこっちに向けなさい!行くわよ?ヒラレルスマータ!」
──うわっ!すっごい!吹き飛んだ足首から先がみるみる再生していく。でも……なんだか痛そうだな。
「い、いててててて!い、痛い!痛いって!」
「そりゃそうよ!足が弾け飛んだのを逆再生で治してるんだから痛みも逆再生するの!でも痛いからって暴れたら治せる物も直せなくなるから大人しくしてなさい!」
じたばた暴れていたセロイスだったが痛みに耐え歯を食いしばり涙を流していた。
そして爪の先まで治ったところでセロイスはバタンと意識を失った。
「はい。皆さん?私言いましたよね?ここ。この通路以外を通らない。話を聞いてないとこういう事になります。まだ朱雀が覚醒してないからまだ良かった物の…。もし覚醒後だったらセロイスの命は無かったわ。」
全員がエクサレムに注視し生唾をゴクリと飲み込んだ。
「じゃあ……次ね。君、名前は?」
「イースです!よろしくお願いします!」
「いい返事ね。じゃあこっちへいらっしゃい。」
──さぁ僕の番だ。