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フェルムと万能耳

代獣の卵はうっすら中身が透けた無色。周囲には赤や青など一般的な色が多い中それは異常だった。


「ギャハハハハ!なんだそれ?スケルトンよ!」


「え?なんなのそれ?変なのぉ~」


「無色とか聞いた事ないんですけどーウケるー」


同級生と思しき色つきの代獣の卵を持った者達に浴びせられる誹謗中傷。しかしイースは声が聞こえぬ為に混乱を極めた。


──色がつかない?何故?皆僕を見て笑ってる?じゃあ……もっと魔力を込めれば良いの?ぬぅぅぅーーー!


更にたまごの中身が透ける。卵の中には黒いシルエット。そのシルエットは少し縮こまっているのか中央の下側にしゃがんでいるようだった。


「何?この代獣ビビってんの?きゃはははは!」


「もはや透明じゃん?君、落第けってーい!あははははは!」


更に誹謗中傷が浴びせられる。読唇術で少しは会話が分かるとは言え皆から注目されるのは厳しい。


イースは更に困り、混乱する。その結果彼は自分の持てる全ての魔力を代獣の卵に注ぎ込んでしまった。


そして──イースは意識を失う。魔力枯渇状態による意識混濁である。



**************



──ん?ここは……どこ?


目を覚ますと仄かな暖色系の明かりが灯された部屋だった。


──あ。僕っ……意識を……卵!?僕の代獣の卵は!?どこ?どこ!?


「キュピーーーーー」


──へ?誰?って言うか……鳴き声?……お、音が普通に聞こえる。


「キュピキュピキュッピーーーー」


なんて言っているかは分からないけど……でも声が聞こえるって不思議だ。耳が治った?いやいや。そんなことはありえるはずは無い。先天性の聾唖なのだ。生まれてこの方音が聞こえてきたことは1度も無い。それなのに……何で?


僕が混乱していると不意に誰かが入ってきた。50代くらいの女性だろうか。白髪が混じった黒髪の女性。目元には少し皺が入り彼女がよく笑う人物だと言うことがうかがい知れる。


「あら。やっと目を覚ましたんだね。さぁ。君はこっちへおいで。」


キュピキュピ鳴いていた何かが僕の傍から離れると女性の胸元へとダイブした。


「おはようイース君。私はエクサレム。ここは医務室さ。」


そして彼女は続けた。


「ここに居るのは君の代獣だ。さぁ……寝起きで悪いんだが、名前をつけてやってくれないか?このままではちと都合が悪いのだ。」


少し困り顔をエクサレムを見て僕はベッドから飛び起きる。


──この子が僕の代獣…。身の丈は50cm程ではあるが体に似合わず雄大な緋色の翼。伝説の不死鳥みたいに綺麗な色だな。不死鳥フェニックス……それに負けない名前……フェニ……。フェニム…。うーん…


フェルムって言うのはどうだろう?いいんじゃないか?ダメかな?僕ってばネーミングセンスゼロなんだけどさ?名前なんて相手が気に入ってくれればいいのさ!この子に聞いてみよ!


「き、ぎみのなまえは…フェルム。フェルムだぉ?」


「キュピ!キュキュピーン!!」


エクサレムの胸に居たはずの緋色の翼の鳥は目を爛々と輝かせると横にくるりと回って僕の目の前に来た。そしてその綺麗な緋色の翼を広げてこう言ったのだ。


「主従契約感謝致しまする。我の名はフェルム。この不死霊鳥フェルム粉骨砕身主様の手足となりて仇なす者を滅する事を誓いましょうぞ!」


ん…?不死霊鳥?は?何それ?初耳何ですけど?しかも手足となって仇なす者を滅するって何か凄いおっかないこと言ってません?この子大丈夫かしら……。と少し不安になりながらも苦笑いで「うん。よろしくね。」と返した。


「では。代償を我が改変いたしましょうぞ。」


……?改変???えっと……身代わりになるんじゃなかったっけ?あれ?聞き間違い?


「主様はフィフスですか……。では古代語、精霊語、霊鳥語あとは……異世界日本語を聞き分け理解できる万能耳に改変致しますぞ。フェーーーーーーーイ!!あーい!おおおーぃ!」


!?!?な、なに!?その変な掛け声は!?


「あーーーぃ!あい!あああい!うぃーーー!ふぅん!ふん!ふん!ふん?」


いや。ちょい待ってフェルム!恥ずい!恥ずいから!見ててこっちが恥ずいよ!やめ!やめよ?


「あーーーーーーーーい!むぅん!ぬん!ぬぁーーーーーー!あぃ!ふぅ。これにて終わりましたぞ。」


うん。勝手にやり切ったね。このアホ鳥め!でもさ?特に何も変化が感じられないんだけど?だがエクサレムさんは信じられないといった顔で僕を見ていた。


僕は急ぎ医務室にある銀の板を磨いた鏡と呼ぶには粗悪な物ではあるがそれで確認してみると……いつも見慣れた耳とは違う文字がびっしりと書き込まれた緋色の翼によく似た耳がそこにはあった。


「な!なにごれぇーーーー!」


僕の悲痛な叫びは静寂に包まれる医務室に響き渡った。

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