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ウィズダム到着

イースはロココ村から1人で出ることさえも初めて。村から出る時には必ず誰かが同伴していた。しかしここからは自分一人の力で旅をしなくてはならない。彼の顔には一抹の不安と期待とが入り交じった複雑な表情が浮かんでいた。


旅に出る前、アールスさん夫婦がくれた旅におあつらえ向きの黒い外套や少し長めのナイフ。そして魔法使いには必須となる魔力回復薬が5本。これを用意するのは結構高かったはず。また恩が出来てしまったな。必ず返すからね。そう心に決め歩を進める。


あれからどのくらいたっただろうか。僕が目指しているのは師匠が記した場所。羊皮紙に書かれた簡易な地図で凄く分かりにくい。アールスさん夫婦に聞いてもそれらしき場所に覚えは無いとの事だった。


「ここら辺かなぁ……。」


村から南下すること半日。10歳の子供の足では20キロ程だろうか。目的地には近づいているはずだ。


──!?


もしかしてあれ?あれなの?ちょっと……アウム様ふざけすぎじゃあ?


目の前に広がるふざけた光景。ふわふわと浮かんだ光る看板のような物に下矢印が点滅し【イース君ここだよ!】と文字が空に浮かび上がっていた。


これ……他の誰も気づかないんだろうか?そう思って僕は手紙の内容を思い出す。


──イースよ。儂は魔法学院へ行くことを勧める。同封したもう一通の手紙にはアピナ魔法学院の推薦状じゃ──なんて書いてあったが最後に……


追伸─ウィズダムへの入口はイースがわかりやすいようにしておいた。下矢印の下でピョンっとジャンプすればあっという間にウィズダムじゃ。頑張るのじゃよ。


うーん。思い出してはみたがよく分からない。僕以外には見えないように阻害魔法の類いがかけられているんだろうか?と言うか死んでもなお発動する時限式の魔法陣を使うなんて流石大賢者様と言った所だろう。


でもまぁ悩んでも仕方がない。行くか。


僕は矢印の元まで行くと空に向かってピョンっと飛んだ。


すると地面をそのままぬるりと突きぬけまるで落とし穴に落ちたような暗闇が続いた。体は横回転を始め僕は目が回り少し気持ち悪くなってきた。もう限界!と思ったその時だ。


周囲が明るくなったと思ったら僕は突然どこかの空間に投げ出された。


僕の下からは生暖かい風。いや、ふわふわと浮かぶ感じすらする──。


え?これってもしかして……空の上じゃ?そう思って僕は何気なく下を見た。


恐らく上空数千メートル。それが僕の現在地。


──ヤバい!!師匠!酷いよ!


そう思ったのも束の間。ふわりと浮いていた上昇気流にも似た風は突然無くなり糸を切ったかの様に急速に落下を始める。


ぎゃーーーーーーーーー!やばいやばいやばいやばい!風圧で顔が歪む程だ。


ぐんぐんぐんぐんと迫る地上。今どのくらいの速度が出ているんだろう。死ぬのかな?このまま落ちたら間違いなく死んじゃうよね……。ならやる事はひとつか……。人間窮地に立たされると意外と冷静なものなのである。


僕はアウムに習ったことを思い出した。


「君は耳が聞こえない。じゃがその分自然に愛されておるようじゃ。そなたがもし魔法を使える様になるとしたら……自然にいや……精霊に力を借りるしかないのじゃ。」


これは僕が初めて魔法が発動する前にアウム様が言った言葉。精霊に力を借りろ。自然の声を心で聞くのだと。


──このまま死ぬ訳にはいかない。だからお願いだ!風の精霊……シルフよ……僕に力を貸してくれ!


──僕の周りに障壁を!!


僕はアウムに師事する前から魔法の知識は人並みにあった。魔法の種類・効果・方法などでそれは両親の影響だ。しかし両親の教えでは魔法を使えるようにはならなかった。


しかし師匠に出会って僕は変わった。自由に発動することは出来ないけれど精霊に愛されたその一瞬だけは魔法が使えるようになったのだ。まぁ愛されなければ不発に終わるのだが。


刹那、僕の周りに円形の風の障壁が展開される。それに伴い落下速度が若干マシになる。だかそれでもこのまま落下すれば重症は避けられない。引力による落下速度の上昇と風の障壁による速度低下。


──くっ…。このままじゃまずい。


落下から既に数分経過。地上まであと凡そ100m。幸いなことに近くには建物や人影は無くただ広大な平野が広がるばかりだ。


や、やるしかないか……。一か八かだ……。


──お願い!炎の精霊イフリートよ!君も僕に力を貸して!このままじゃ死んじゃう!


炎の精霊イフリートと風の精霊シルフは仲が悪く相性も最悪。互いに干渉しあい時に相殺。時に核爆発並の爆発を起こす。抜群に比率が合わさった時のみ適度な爆発を得ることが出来る。そしてそれに伴う爆風。もはや今の状況を改善するにはこの方法しか思いつかなかった。


僕は地面に到達する数メートル手前まで怖いながらも必死に我慢し精霊達に爆発を命令した。


──精霊シルフ!イフリート!お願い!今だ!いっけーーー!爆発!!!


ふぇっ!?ま、ま、ま、ま、まじ!?これやばいやばい!死ぬぅーーーー!


精霊による魔法の発動は不発に終わり僕は死んだと思わざるを得なかった。


そして突然聞こえる懐かしい声。


「ふぉっふぉっふぉ。やっと着いたようじゃの。ようこそ!ここが魔法使いの国ウィズダムじゃ。」


その声と共に僕の体は地上スレスレで浮かび上がり数秒後ドサリと地面に突っ伏した。

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