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「で? その定められた額っていうのは?」
「こちらです」
「ほぅ」
シャルルが先程から手に持っていた巻物を皆に見えるように広げる。
達筆な字で書かれたその数字は、今までの全ての課の予算を合計したよりも僅かに少ない額。本来であればこれを六分して、と考えるのだけれど、今回はこれを制限なしの分捕り制。そう考えると、申し分ない額だ。
各課の課長達は一部を除き皆、自分のところに多く予算をと当然考えている。
副官も他の課に若干の後ろめたさを感じつつも、またしかり。
「カミーユ様。前回の聖堂のステンドガラスの修繕費の件ですが、あれの請求書がこちらです」
「……よし。あれの半分もあれば十分だろう」
「余所の妨害は必須でしょうが、私費で賄うのにも限界があります。ここは他の課には諦めていただいて」
緊急会議とあって、どこの課の副官も必要な費用を計上するための書類を持参していた。もし、本当に全ての項目を却下された場合に泣き落とし……ではなくて、担当に理解を求めるためだ。
こと予算に関しては、いくら課長クラスといえども会計担当の方が権限が強い。
早速、第三課のカミーユ様とコリンが声量を押さえて相談し始めた。
それにしても、諦めていただいて?
それは聞き捨てならないセリフだ。
「ちょっと待て(待った)」
どこの課も同じことを思ったらしい。
破天荒な上司とは違い、いつもは冷静沈着なコリンにしては珍しく失言だったと言えよう。
「そもそも、あれは自業自得だろう。自分がやらかしておいて、何故全体の予算から出そうとするのか。その神経の図太さにいっそ感心してやろうか」
「お前のところこそ、予算は必要ないんじゃないかい? ほとんど机に向かって書類仕事をしていればいいんだから」
「ちょっとちょっと。君達の喧嘩はどうでもいいけど、それで予算を持っていかれるつもりはないよ。聖堂の修繕費はもちろんもらうけど」
もともと犬猿の仲といえるカミーユ様とセレイル様の言い争い。それにレオン様まで加わる。
「「「だから貴様のところの予算をとっとと寄越せ」」」
口にこそ出さないけれど、第六課も同じ気持ちだし、第二課もそうだろう。
毎年あまり出費のない第一課を除き、ある意味この場にいる皆の気持ちが一つになった瞬間だった。
今にも実力行使を始めそうな元老院三大魔王の名を冠する三つの課を余所に、フェルナンド様が潮様と昴様の元へ膝立ちで近寄っていった。
その背を追いかけると、その三つの課でいつの間にか小さな円陣ができた。
「昴様、潮様。僕達は穏便にいきませんか?」
「そうだね。抜け駆け禁止でいこう」
「……昴。それ、本気で言ってる?」
「ん?」
「あー、ううん。なんでもない」
昴様、それ、今一番言っちゃいけないセリフだと思います。
そう言う者に限って最後の最後で裏切ることが多い。
今までの、うちはいらないんですオーラが、今の発言で一気に信用できなくなってしまう。
潮様の当然の疑問に、いつもの人好きの笑みを浮かべる昴様。
さすがは元老院の一つの課を預かる長、といったところか。
一筋縄でいくはずもなかった。




