6
訓練場に到着すると、中央アリーナを取り囲むようにして造られている観覧席は上の方まで既に埋まっていた。
「もう結構集まってるみたいだね」
「まぁ、元老院がこうして公の場で個々の実力を見ることは滅多にありませんからね」
今回、学園側には事情を伝え、元老院の職員対生徒の一対一形式の試合を組むことになった。もちろん、その職員というのが私。万が一の交代要員として、第六課でも比較的武に秀でている者にもついてもらっている。
着ていた上着をナルに預け、腕を交差して左右に身体を振り、腰を捻り、その場で軽くジャンプする。
これくらいで十分だろうと一息ついた時、六課の者と一人の青年が連れ立ってやってきた。
「フェルナンド様、星鈴様、お疲れ様です。こちら、今回審判をしていただく実技教師のヴァレンティ先生です」
「こんにちは」
「今回はご協力いただき、ありがとうございます」
「いえ。それより本当なのでしょうか。学園の生徒に薬物使用の疑いがあるというのは」
「残念ながら。でもご心配なく。本来貴方がたがやるべき教育的指導を彼女が施してくれるそうなので」
「……そう、ですか」
人間でいえば二十歳前後の青年であるヴァレンティは、苦虫を潰したような表情を浮かべている。フェルナンド様に言い返したいことがあるようだが、心の中に押しとどめたのだろう。にこやかにフェルナンド様が言うものだから、嫌みや皮肉の類を言われたのだと思ったのかもしれない。
誤解のなきよう付け加えるけれど、いつものごとくフェルナンド様に悪意はない。ただ、今回ばかりは全くないとは言えない。が、少なくとも想像されているような嫌みや皮肉の類でないことだけは確かだ。
一応フォローをしておこうと口を開きかけると、先にナルが恐る恐る手を上げ、口を開いた。
「あの、フェルナンド様。そのようにおっしゃると、まるで責めていらっしゃるかのようですよ?」
「え!? ごめんなさい! そんなつもりはなくって」
「私達も先生方の大変さは十分理解しているつもりです。ただでさえ難しい年頃の子供達を指導しなければなりませんからね。一人一人に目が行き届かなくても無理はありません。物事には限界というものがあるのです。大丈夫。ベッドや薬もこの間の予算会議で相当数確保できましたから」
にこりと笑うナル。フェルナンド様もそれに同調し、実にいい笑顔でコクリと頷いて見せた。
「――え?」
当然といえば当然、ヴァレンティの表情が一変した。さっと顔を私の方に向けてきて、すがるような目で見てくる。
今回、例の少年以外にも相手を申し出ている生徒が数多くいるらしい。そんな可愛い生徒達をもベッド送りにするつもりなのかと言いたいのだろう。どうか勘弁してくれと言い出しかねない口を片手で制し、首を横に振ってやった。
「何の罪もない者をベッド送りにしようものなら、私とてただじゃすまなくなりますから。ご安心を。そんなことにはなりませんよ」
「あ、そうですよね。いや、その通りですよね。あはは。すみません。いらぬ心配をしたようで」
「いえ。お気になさらず。むしろ、こちらの方こそすみません」
うちの天然無自覚コンビの口撃のせいで。
「あぁ、そうだ。対戦順はどのようにしましょうか」
ヴァレンティが一枚の紙を差し出してくる。その紙には数名の生徒の名が書かれていた。
「私は別にどのような順番でも構わないのですが、そうですね。……ここに名が挙がっている子の中で、一番実技が得意な子と、そうでない子。そして、彼。実技が得意な子を最初に、そして、彼を最後から二番目に、そうでない子を最後に。この三人以外はそちらで決めていただいて構いません」
「は、はぁ。分かりました。では、そのように」
近くで待機していた生徒達にヴァレンティが決めた順番が告げられ、対戦カードが確定する。その内容が拡声器によって場内の観客達にも発表されると、観客達の気分は一気に高揚していった。
ただ、挑戦者である生徒達の中には、決められた順番に異論がある者がちらほら見受けられた。しかし、これはこの状況において最良の結果を得るための順番。今更変更することもない。
審判を務めるヴァレンティと共にアリーナの中央に向かい、最初の挑戦者である生徒と対峙する。
「……では、始め!」
全力で来る相手に対して、手加減を加えることは礼を失している。
まだ生徒だからとか、大勢の前でとか。そんなことは端から考えのうちより除外し、全力で相手をした。
――全力で、相手をした。
その結果、第一試合の終了の合図が出たのは、開始の合図が出てからほんの数秒後のことであった。




