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人外統率機関元老院ー仕事は増えても減ることなしー  作者: 綾織 茅
不正は絶対許すまじ

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5

 それから一時間が経った。


 薬がきれたボリス少年は、少し前まで半狂乱状態に(おちい)っていた。当然ながら、答えてしまった問いの答えの数々が真っ黒なものであるという自覚があってこそである。


 代々仕えてきたからこそ知ってしまった情報だが、彼の幼い妹は何も知らないという。その妹を保護することを条件に、今回の協力を取り付けた。


 計画実行のため、離れたところから様子を伺っていると、反対側から誰かがボリスを大声で探している声が聞こえてきた。



「ボリス! ボリスはどこだ!?」

「ここです!」

「遅い! 遅いんだよ! 呼ばれたらすぐに来いと何度言ったら分かるっ!」



 ボリスと同じ年頃の少年が、駆け寄ってきたボリスの顔めがけて拳を振り上げた。ボリスは咄嗟(とっさ)に腕を交差させて顔をかばおうとするも、間に合わず、そのまま地面に尻餅をついた。



「も、申し訳ございません」



 ボリスの主人である少年はふんっと鼻息荒く鳴らし、そのままスタスタと先に歩きだす。ボリスは痛みをこらえながらも立ち上がり、痛む場所を押さえながらその背を追いかけた。


 仕える主を選ぶというが、それが本当の意味でできるのは実はごく僅か。大半が代々続く主従関係で強制的に縁を結んでいる。そして、その主がろくでもない者の時、下につく者は地獄を見る。


 こういうのを見ると、私はつくづく主というか主家に恵まれたものだと思う。あの方々は良くも悪くも自然体で……それが時に残酷に感じる時もあるけれど、関係はすこぶる良好である。


 それに、自分が選んだ道を後悔したり言い訳して逃げ出すような者も嫌いだが、こうやって自分の実力外のことであたかも自分が上位にあると誤認する者も嫌いだ。程度でいえば、後者の方がより一層。



「星鈴」

「……分かってます」



 苛立ちの原因である少年の後頭部に電撃を浴びせようとしたら、両脇からフェルナンド様とナルに取り押さえられた。


 ……嫌だな。ちょっとした冗談なのに。まぁ、つい手が滑ってしまって当たっても、姿消してるからバレやしないと思うんだけどなぁ。駄目、かな?


 しかし、無言で首を振ってくるところからして、さすがは直属の上司と部下。私の思考をよく読んでいた。



「あの、どちらへ?」

「いいから黙ってついてくればいいんだ」

「は、はい」



 二人が行き着いたのは、例の噴水だった。もちろん、あの箱は再び沈めてある。



「これをお使いに?」

「あぁ。あと……三十分後だな。元老院の奴が訓練場に視察に来るらしい。その時にアピールできれば、元老院入りは決まったも同然だ」

「そう、ですか」



 少年はボリスに水中から箱を取り出させ、その箱を開け、中に入っていた薬草を一握り掴み取った。そのままその薬草に火をつけ、(いぶ)りだす。



「……それにしても、なんだかね」

「え?」

「だって、アレ、なんの効果もない、言ってみればプラセボでしょ?」

「プラセボでもいいんですよ。大事なのは、本人があの薬草はそういうもので、絶対に効果があると知っている(・・・・・)ことですから」



 確かに、フェルナンド様の言う通り、あれは中身を偽薬(プラセボ)と入れ替えてある。その正体は、先程淹れた紅茶の茶葉を乾燥させたものだ。少々手を加え、見た目はまるっきり同じものになっている。


 あの茶葉を燃やしても柑橘系の匂いはしないけれど、そこはほれ、嗅覚をおかしくする薬を撒いておいた。幻覚ならぬ幻嗅というわけだ。


 もちろん、ボリスには事前に効かなくする薬を処方済だし、あらゆる薬に耐性をつくっている私達に嗅覚異常の薬は効かない。



「よし、これで大丈夫だ。……何してる。早く元の場所に戻せ」

「は、はいっ」



 本当に大丈夫なのか様子を伺っていたボリスは、慌てて水中に箱を戻した。


 おどおどしていてはバレるだろうがと思うが、普段からこんな感じのやり取りなのだろう。少年は大して気にも留めず、むしろご機嫌で訓練場へと向かおうとしている。



「俺が元老院入りしたら、お父様に言って、もっと優秀な従者をつけてもらうからな。お前と一緒にいて、俺の品格まで疑われてはかなわんっ」

「……申し訳、ございません」



 なにを言うか。品格を疑うもなにも、疑いの余地なく知れている。


 そもそも、何故もうすでに元老院入りする前提で話を進めようとする。まぁ、入れはするかもしれないが、それは元老院の職員としてではなく、元老院の第四課の牢獄に罪人として、だ。


 そうとも知らず、ボリスを罵倒(ばとう)し続ける姿はいっそ滑稽(こっけい)にすら映る。



「フェルナンド様、星鈴様」



 別行動をとっていた第六課の青年が、静かに姿を現した。彼らには既に指示を出してある。きっとその報告だろう。



「訓練場での準備、完了いたしました。教師陣にも許可はとってあります」

「ご苦労様。どれくらい集まりそうかな?」

「生徒の大半が見学あるいは参加するかと。第六課(うち)が見繕った者には、教師陣からそれとなく声をかけてもらえるように伝えてあります」

「そう。良かった。これで一石二鳥だね」



 すると、きょとんとしたナルが首を傾げた。



「ナル? どうしたんだい?」

「それをおっしゃるなら、一石三鳥ではないかと。確か、星鈴様がデータを欲しが……ふががっ」

「なんでもないです! えぇ、なんでも! あ、ほら、もう二人が見えなくなってしまいますよ? 私達も行きましょう!」



 ナルの口を手で塞いだまま、ずるずると引きずっていく。


 間一髪。せっかく目的達成の裏で真綿に包んで隠し通していたっていうのに、相も変わらず空気の読めないというか、思いついたことを駄々漏らすというか。


 口パクで、黙っててと伝えておく。すると、ナルはまだきょとんとしていたが、コクコクと頷いた。



「なんだか分からないけど、二人の仲が良くてなによりだよ」

「……ははっ」



 これが腹黒いレオン様なら言葉の裏を探るところだけれど、フェルナンド様の笑顔は純粋な白いもの。


 苦笑いで顔が引きつりそうになるのをなんとかこらえ、少し離れたところにある訓練場までの道を先に行く少年二人の後を追った。

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