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人外統率機関元老院ー仕事は増えても減ることなしー  作者: 綾織 茅
不正は絶対許すまじ

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 広大な元老院の敷地。

 その一角に、第二課の管轄下にある学園がある。


 この学園は、人外の子弟が教養や己の力を正しく身につけるために設けられたもので、一部例外は認められるものの、入学が基本的に義務付けられている。


 生徒数は年度によってまちまちだが、その生徒達のうち優秀者は卒業後に元老院を初めとする人外の機関の職につく。

 だからこそ、一般の教職員にも知らされぬまま内偵が行われることもある。ただでさえ人材不足の今、どこも優秀な者を喉から手が出るほど欲しているというわけだ。


 その優秀者だが、よその機関がどのような基準で採っているかまでは知らない。

 一方、元老院の判断基準はというと、各課の特色に合っているか否か、第二課の人事担当が判断し、採用している。例えば、医薬を司る第六課(うち)であれば、治癒の術式が使えるとか、薬草の知識に()けているとか。また、元老院唯一の戦闘部隊である第三課であれば、武に秀でているとか、戦術を考える知恵があるとか。


 そして、先日の予算会議終了後に潮様から依頼された健康診断の事前調査も、その採用や判断基準と密接な関わりがあった。



 普段着ている白衣を脱ぎ、私とフェルナンド様、ナルと数名の第六課の者が学園の正門前まで転移門を使って飛ぶ。


 正門といっても、ここから建物まで歩いて小一時間ほどかかる。まだまだ未熟な学生ゆえに、力の暴走が起きてしまった際、周囲にまで被害が及ぶのを防ぐためだ。

 また、門を通らずして直接中に入ることは禁じられているため、否が応でも門をくぐる必要がある。


 面倒ではあるが、一度転移門を閉じて正門を通り、再び転移門を開いて建物の前まで繋げる。


 決して歩くのが苦痛というわけではなく、この小一時間の間にも仕事が溜まっていくかと思うと、一分一秒でも無駄にはできないのだ。



「ここがその学園ですかー」



 転移門を通り抜けた先に広がる学園の建物に、ナルはそう感嘆の声を上げた。


 外壁が白い漆喰(しっくい)で塗装され、建物の入り口であるエントランスを中央にして半円状になっている。階数的には地上四階地下一階。外観としては、第五課の舎館である洋館や古城を思わせる。


 学園に入学していない、一部例外の者であった彼は、学園(ここ)を見るのは初めてだったらしく、きょろきょろと周囲を見渡し始めた。その姿はまるで、新しくこの学園に入学する子供のようである。


 僅かな間、それを生温かい目で見た後、フェルナンド様の方へ向き直った。



「では、フェルナンド様。私はここで」

「うん。後で学園長室に集合ね」

「はい」



 少しだけ頭を下げて(きびす)を返し、一緒に来ていた彼らとは別行動をとる。



 今回の事前調査だが、とある筋からの密告があってのものだ。


 潮様が言うには、なんでも、元老院の採用判断基準に満たない者がそれをかいくぐろうと不正を働いている、らしい。



 ……元老院の採用判断基準、か。



 今回は第三課を標的とした不正らしいが、第三課は実力主義中の実力主義。つまり、戦闘を行うのに優れていればどのような人材でも採る。それは他でもない第三課のトップが体現しているのだから、絶対に間違いはない。でなければ、あの戦闘狂が元老院入りできようはずがない。


 ただ、基本的に、戦闘時に使用する基礎能力は種族ごとに大体決まっていて、それに本人の努力と個の能力が加わってくる。その能力の合計値が、第三課が規定するものには足りず、毎年一定数泣く泣く諦める者もいると聞く。


 そんな者達がする不正。人間の世界ならば――それをドーピングと言う。


 しかし、薬を使って己の能力値を一時的に上げるとなると、確かに場合によっては利もあるが、害である副作用もある。すでに別件で押収された物からして、中毒性があることはもちろん、最悪の場合、急激な力の増幅に身体がついていけずに死に至る。


 それでもなお、その薬に手を出す輩がいるということは、実に嘆かわしい限り。


 政府の機関に属しているという肩書を何よりも欲し、承認欲求が高い者が手を出しやすい。そして、さらに質の悪いことに、そういった者は周りの者にも勧め、そこから円環上に瞬く間に広がっていく。早いところその元を見つけ、潰しておかねばさらに大変な事態になりかねない。



 ――それになにより。


 その薬は元々、戦闘などで力を根こそぎ奪われた重症患者に投与するための治療薬。それを不正に利用するなど、第六課の者として許せるはずもない。



「……見つけたら被検体。見つけたら被検体」



 ……んんっ。せっかく医療者らしい建て前(・・・)が頭をよぎったのに。

 ここに来るために徹夜で書類仕事をこなした弊害だ。睡眠不足で、口からつい本音が出てしまった。


 まぁ、今、そばには誰もいないし、誰にも聞かれていないなら言ったことにはならないだろう。結果オーライってやつだ。


 実際には見つけても第四課の裁断待ちになるが、それでも健常な身体に投与した時のデータを取ることができる。それで十分今回の調査に協力した甲斐があるというもの。おまけに優秀な者を見つけてスカウトできれば、なおさら御の字だ。


 唇をぺろりと一舐(ひとな)めし、生徒達の寮へと向かった。

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