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人外統率機関元老院ー仕事は増えても減ることなしー  作者: 綾織 茅
魔王よりも

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1






 爆音が初めに起きた第三課館舎付近の現場は騒然としていた。


 一緒にいた少年に第六課の治療班に薬を届けるように言って側を離れさせ、武器庫の影から辺りの様子を窺った。


 てっきり三課の訓練がまた度を超して今回の事態になったのかと思いきやそうではなかったらしい。



「これはどういうことだ?」

「あ、いいところに!!」



 第三課近衛部隊第一精鋭部隊長付き伝令役の烏天狗である鷹がこちらに気付いて飛んできた。


 彼の翼によって起こされる風に着ている白衣の裾がバタバタと音を立てて舞い上がる。


 すぐ横に降りてくると、鷹は短く刈り揃えられた髪を掻いた。



「アイツが任務終了後の帰還時に門を開けたままにしてやがったんだよ。おかげでそれを罠だと思わないバカな奴等が怒涛のように押し寄せてきて」

「……始末書もんだな。どうせ前のも書き終えてないくせによくもまぁ次から次へと」

「門の方は今、コリンが閉じに行ってるみてぇだ」



 第三課副官の名が挙がったので、とりあえずそっちは安心していいだろう。

 問題だらけの上司と違い、副官はとても真面目な好青年だ。まず間違いなく上司の尻拭いはしてくれるに違いない。



「なら直に数は減るな。と、いうことは……」



 次の瞬間、鷹が私を担ぎ、翼を一扇ぎさせて空中へ舞い戻った。


 その余波で砂埃が起き、背後まで迫っていた賊の目へ襲いかかっていく。



「があぁぁぁっ!!」

「鷹、下ろせ」

「あいよ」



 鷹は猛烈な勢いで目を掻いている賊の上を目がけて私を放り落した。


 ぐえぇっと蛙が潰れたような声を下で聞いた気がするが、きっと気のせいだろう。私はそんなに重くない。失礼な奴だ。



「ようこそ、人外統率機関元老院へ!! ……てめぇら五体満足でここから出られると思っちゃいねぇよなぁ?」

「……っ!!」



 地面に背をつけた賊の胸の辺りを踏むと、賊の顔の表情がみるみるうちに恐怖に歪んでいく。


 白衣にいれてある縄を取り出し、ピシィッと左右に引っ張った。


 それを見て、賊がアワアワと口を動かした。



 さぁ、おイタをした悪戯っ子には厳しく指導しなければいけないな。



「お、お前……その白衣、黒髪、黒眼……まさか、薬師のっ」

「あぁ、知られてるとは光栄だ。じゃあ、自分の結末も知ってるとは話が早い。ちょうど新薬の開発段階で検体が必要だったんだよ。……第四課の獄舎へ見繕いにいかなくても良くなったとは運がいい」



 賊が逃げないよう彼が持っていたと思しき剣で手足の腱をまず斬った。途端、言葉にならない悲鳴が辺りに響く。


 チラリと視界に入った鷹は完全に同情していた。もちろん、賊の男に。



「フーフフフフン」



 慣れた手つきで賊の縛り上げを行い、三分もかからずに一丁上がりだ。


 掌を上向け、そこに雷でできた蝶をいくつも創り出し、男の傍を舞わせた。


 賊が逃走しないようにというより、獲物を横取りされないためという方が正しい。



「さ、て。協力してくれる検体も見繕ったことだし? 後はお還りいただこうか」


「女がいるぞ」

「弱い女から狙え」



 賊共が次から次へと湧いてきた。一体どれだけの数が入り込んだのか。


 きっとどこぞの戦闘狂は自分がわざと招いたこの事態に狂喜乱舞して楽しんでいるに違いない。


 そう考えると、実に面白くない。そう、実に、だ。

 そして、この状況にも。



「元老院のことをあまり知らぬひよっこもいると見える」

「かかれぇ!!」



「馬鹿だなぁ」



 上空から鷹の声が聞こえたが、賊の耳には入ったかどうか分からない。


 一人目の爪を腕ごと剣で下から斬り上げ、そのままの勢いで真横に来た二人目を袈裟懸けに斬った。そしてそのまま腰を落とし、初めに真後ろに来ていた三人目の脚を払う。腰は落としたまま、一人目の首元をついた。一人目はこれで絶命したが、二人目はまだ息があり、三人目はまだ無傷に近い。



「知らないようだから教えてやろう。ここは男女の縛りなく、実力第一。力ある者が上に立ち、他はそれに従う。……お前達が言う弱い女ってのはここには存在しないんだよ」

「そ、そいつは元老院内部でも指折りの実力者だ!! てめぇらも知ってるだろ!? あの!! 薬師だよ!!」



 縛ってそこらに放っておいた男が仲間に向かって叫んだ。


 いやぁ、何千年もこの仕事してると有名になるもんだなぁ。



「あ、あの……血桜の」

「ん? 懐かしい呼び名だ。なぁ、鷹」

「うるせぇっ!!」



 その呼び名を呼ばれるきっかけとなった場に居合わせた鷹は途端に不機嫌になって顔を反らした。


 私が鷹を見上げているすきに賊達はなるだけ遠くに逃げようと足を賢明に動かしていた。



「まーちーなーよ」

「……な、なんだこれっ! 体が痺れっ!!」

「あぁ、やっと効いてきたんだ。まぁ、あんまり飛散しないように少量にしてたしね」

「ま、まさかっ!!」

「もちろん遅効性の毒さ。今回はね、人間界に生えている草をブレンドしてみたんだ。アイツにこっちの毒草は効かないってことが分かったからね。最近あちらの毒草を調査中だったんだ。……あれだな、飛んで火にいる夏の虫、だったっけな? 人間がこういう時に言い表すのは」

「く、くそっ!!」

「お、俺、まだ死にたくねぇっ!!」

「大丈夫だよ。一度死ねば二度は死なないから」

「うわ、相変わらず鬼畜ー」

「鷹、何か言った?」

「イッテマセーン」



 ジワジワと毒が全身に回り、いずれ命を落とす輩をいつまでも見守る趣味はない。



「あ、待てっ!」

「待ってくれ!!」



 踵を返し、自分の上司である第六課長の姿を探すことにした。



「お前を侮辱するような発言をしたヤツは毒でジワジワと苦しみながら屠り、そうでない奴は一瞬で。お前もなかなか一貫してんな」

「うるさいよ。……あぁ、そこで縛られて転がっているヤツ、後で第六課の館舎に運んどいて」

「りょーかい。……一番憐れなのはあの男か」

「え?」

「なーんでも!」



 鷹が空に舞い上がる時に散らした薬はそう長時間空中に舞うものではない。


 本来ならある程度隔離しておかなければいけないが、今回のはそれも必要ないだろう。


 この場を鷹に任せ、さらに奥へと足を進めた。




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